それではよろしくお願いします!
「先日の練習試合では、一セット目にカラミティ・ジェシカが出たわ。二セット目はミレーユ=ロドリゲスのチーム。オーダーに変更はないと予測して考えて良いと思う」
車長会議でエリカは練習試合の相手の布陣を説明した。
「一セット目はジェシカの砲撃の独壇場になりそうだな……」
アンチョビさんがそう呟く。
「こっちにだって優秀な砲手はいるわよ、ねぇ? ノンナ、日本一の砲手の実力を見せてあげなさい」
「わかりました。カチューシャ……」
カチューシャさんの一言に、ノンナさんは静かに答えた。
確かにノンナさんならあるいは……。
「ウェイトよ、カチューシャ。日本一の砲手なら、ここにいるわ。ナオミ、あなたも戦いたいんでしょ?」
「ええ、雪辱は果たすわ……」
ケイさんはナオミさんを推薦する。
「では、ノンナさんとナオミさんが第一試合にということで……」
日本の高校生のなかでこの二人が間違いなく最強の砲手だからな……。何とかしてくれそうな予感はする。
あと、三両はどうするか……。
「相手が最強の砲手なら、簡単に捉えられる訳にはいきませんわね……。ローズヒップ、あなたの力が必要です」
「はいっ! ダージリン様ぁぁっ! ダージリン様のご命令ならっ! なんでもござれですわー」
三両目はローズヒップさんっと……。
「最強の砲手というのに興味がある……。私も出たい……」
そして、愛里寿さんが立候補した。うん、アヒルさんチームなら砲撃も操縦も群を抜いてるし、適任だな。
あと、一両……。そうだ、あの動きなら……。
「ミカさん、どうですか? 勘も良いですし……」
「勘が良ければ、いいってもんじゃないよ。ポロローン」
ミカさんは目を閉じながら、ポロローンってした。いや、ポロローンじゃないから……。
「ええーっと、一セット目には出たくないのですか?」
「出ればいいってもんじゃないからね。――でも、出よう」
すっごく面倒だったけど、ミカさんが五両目になった。
こんな感じで車両を決めていき、第二試合と第三試合のメンバーも決まった。
――第一セット――
ノンナ、ナオミ、ローズヒップ、島田愛里寿、ミカ
――第二セット――
西住まほ、西住みほ、逸見エリカ、赤星小梅、仙道玲香
――第三セット――
ダージリン、カチューシャ、ケイ、アンチョビ、メグミ
私は二セット目に出場する。黒森峰組はアメリカユースにリベンジしたいのだそうだ。
こうしてアメリカユース戦のオーダーが決まり、世界ユース大会が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
世界ユース大会の予選リーグの会場はルーレットによって決まる。
日本とアメリカの第一試合の会場は岩場の多い荒野のステージに決まった。
戦いの様子は観客席だけでなく巨大スクリーンにも映し出されて全国で生放送される。
スポンサーも多く付いていて、西住さんなんか、CMのオファーも来てる始末だ。
うん、全部、会長のところで止まってるんだけど。
世界大会の前哨戦と言われる今大会は大人の事情が大きく絡んでいるというのがよく分かった。
どうやら世界大会の参加国は更に倍に増えて規模も大きくなるので経済効果が天文学的な数字になるらしい。
そりゃ、辻さんも学園艦の廃校どころじゃないくらいの義務感を持つわけだ。
そして、選手入場――日本ユース代表のパンツァージャケットに身を包んだ私たちが開会式の会場からそのまま第一試合の会場へ向かう。
戦車はすでに第一試合の会場に運搬されていた。
私たちが整列を終えてもまだアメリカチームはやってきてない。
「まさか、不戦勝だったりして」
「そんなのあり得ませんよ。第一試合ですよ」
武部さんのつぶやきにツッコミを入れる秋山さん。
「遅いっ! 何を考えてるんだっ!」
「巌流島みたいだねー」
苛つく河嶋先輩を尻目にマイペースに干しいもを食べてる会長。緊張しないなー、いつも思うけど……。
「ん? 音楽が聞こえる?」
「この音楽は……、ミッ○ョンイン○ッシブル?」
大音響で流れるミッ○ョンイン○ッシブルのBGM。
そして、その音楽と共に私たちの目の前で数カ所で爆発が起き白煙が舞い上がる。
白煙の中にシルエットが見える。
そして、BGMのラストの『バラーン♪』のところで爆風によって白煙が消え去り、アメリカユースチームが登場した。
なんて派手な登場なんだ……。
そして、会長はなんでちょっと悔しそうなんだ……。
とにかく、両チームが揃ったところで国家斉唱である。
そして、隊長同士の挨拶だ。私は一応、西住さんからの指名で副隊長になっているので彼女と一緒に挨拶に向かう。
金髪ロングヘアーの引き締まったスレンダーな美女、ハリウッドスターのミレーユが笑顔を向けて私たちに手を差し出した。
「今日はよろしく、可愛らしい隊長さん」
「あ、えっ、そのよろしくお願いします。日本語がお上手ですね」
いきなり流暢な日本語でミレーユが話してきたので西住さんは驚いていた。
「今度、日本を舞台にした映画に出るから喋れるようになっただけよ」
いや、その理屈はおかしい。やはり、この人もハイスペックなのか……。
「ジャパンで試合するのは二回目だけど、今度は感動的な試合をしたいと願っているわ。あなたたちはクロモリミネっていう弱小チームよりは楽しませてくれるって信じてる」
「えっ?」
「グッバーイ」
ミレーユさんは笑顔で手を振って去って行った。
なんか、さり気なく毒を吐いていったような。エリカが居なくて良かった。
あれ? 西住さん?
「あの、みほ?」
「――ん? なぁに? 玲香さん……」
今、西住さんから殺意に近い気迫みたいなのを感じたのは気のせいか?
異様な西住さんのオーラが気になるところだが、私たちは二セット目だから、控え室で観戦だな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、Aブロック第一試合の一セット目が開始された。
ちなみに敵の車両はシャーマンファイアフライ2両にパーシング3両というかなり強力な布陣だ。
この第一セットの部隊は愛里寿さんが部隊長となって指揮を取ることになっている。
愛里寿さんは指揮官としても優れているから文句を出す人はいなかった。
ファイアフライの砲撃に注意するために出来るだけ、岩陰に隠れながら動いている日本ユース。
うん、これなら迂闊に手は出せないはずだ……。
そう思っていた時期があった。岩場は安全だと……。
ジェシカさんのファイアフライには常識が通じなかった。
なんと、岩場に向けて砲撃を始めたのだ。しかも執拗に岩の同じ場所を狙って。
あの岩に隠れているのはノンナさんのIS-2だ。
集中的に同じ箇所を砲撃された岩はガラガラと音を立てて崩れ去り、たまらずノンナさんは別の場所に隠れるために岩場から出た。
『日本ユースチーム、IS-2行動不能』
試合開始5分でノンナさんが何もできずに撃破されてしまった。ジェシカは岩場から出る瞬間を知っていたかのように先回りして砲撃し、当てたのである。
「何よっノンナ、情けないわねー」
「いや、あれは誰にもどうにもできないでしょう」
私はノンナさんを擁護した。やっぱり噂以上にとんでもない人だな。
「こういうときこそ、ウチのローズヒップはやる子ですわ」
いきなりピンチな日本ユースだったが、ローズヒップさんのクルセイダーは恐ろしいスピードで駆け回って相手を翻弄していた。
ジェシカさんは、ローズヒップさんを相手にしてないようだ。その証拠に一発も彼女を狙わない。
そして、ローズヒップさんは指示どおりなのか、暴走なのか、三両のパーシングが固まっているところまで移動する。
明らかに出すぎのような……。
と、思っていたら、パーシングの砲身がクルセイダーに向いた絶妙のタイミングで、いつの間にか岩場から出ていたミカさんのBT-42が強襲を開始する。
『トゥータっ』とか言ってそうな砲撃は一両のパーシングの側面を貫き、撃破に成功した。
『アメリカユースチーム、パーシング走行不能』
しかし、それをタダで見逃すジェシカさんじゃない、ミカさんの車両が停止した瞬間にきっちりと砲撃をお見舞いして、履帯と片方の車輪が壊れてしまう。
ここで撃破判定が出ればそこまでだが、BT-42はしぶとい。
片輪で器用に走行して、呆気に取られたパーシングをもう一両撃破したのだ。同時にBT-42も力尽きたみたいだが……。
『アメリカユースチーム、パーシング行動不能』
『日本ユースチーム、BT-42行動不能』
これで、もう3対3……。恐ろしく展開が早い。
ここで愛里寿さんが動く。キューポラから半身を出して、細かく指示を出してるみたいだ。
ジェシカさんは今度は愛里寿さんを狙うが、ことごとく砲撃の逆方向に愛里寿さんは動く。
「なんか、急にジェシカさんの精度が落ちな……」
「いや、ジェシカは恐ろしい先読みと高精度は維持してる。更に愛里寿がその読みの上を言って逆を突いているんだ」
まほさんは愛里寿さんが砲撃を躱すカラクリを話した。
「相手が優秀だからこそ、天才の愛里寿さんはそれが読めるということですね」
五十鈴さんは砲手としての血が騒ぐのかジェシカさんのプレーを食い入るように見ていた。
そして、愛里寿さんのパーシングが前線に出て相手チームの最後のパーシングを撃破する。
『アメリカユースチーム、パーシング行動不能』
しかし、この状況でもジェシカさんは強かった。
もう一両のファイアフライを陽動に使って逃げられる位置を限定しだしたのだ。
これによって、クルセイダーは見事にジェシカさんの誘いに乗ってしまって撃破されてしまう。
『日本ユースチーム、クルセイダー、行動不能』
残りはお互いに二両か……。
そう思っていたら、ずっと隠れていたナオミさんのファイアフライが飛び出してきた。
ナオミさんのファイアフライとジェシカさんのファイアフライは不規則な動きで円を書くように動いた。
お互いに砲身をとんでもないスピードで動かしている。
多分、高度な読み合いをしているのだろう。
そして……。
砲身がお互いに同時に向かい合った――二両から砲弾が発射される――。
『アメリカユースチーム、ファイアフライ行動不能』
『日本ユースチーム、ファイアフライ行動不能』
ナオミさんが、ジェシカさんと相討ちになった。
これでアヒルさんチームとアメリカユースのもう一両のファイアフライの一騎討ちとなった。
「個人技の戦いなら愛里寿さんに勝てる人って世界にもなかなか居ないだろうな……」
私がそうつぶやいて数十秒後……。
『アメリカユースチーム、ファイアフライ、行動不能。――よって、一回戦、第一セット……、日本ユースの勝利!』
愛里寿さんがきっちりと仕事をして、アメリカユースから一セットをもぎ取った。
私たちは勝利に沸いていた。しかし、この勝利は犠牲から成るものだったのだ……。
なんと、ナオミさんは人差し指を骨折したのだそうだ……。読み合いに若干負けたナオミさんは指を無理に動かして骨が折れてしまったらしい。
彼女はそれでも満足そうな笑みを浮かべて医務室へと治療に向かった。
ナオミさんがそこまでして執念の勝利をもぎ取ったんだ。私たちも負けないぞ……。
「お姉ちゃん、今日はお姉ちゃんが部隊長をやって」
「みほ、それは構わないが、それでいいのか?」
「うん、この戦いはお姉ちゃんの指揮で戦いたい。戦わなきゃいけないと思う」
西住さんは、黒森峰女学園の隊長である、まほさんに部隊長をしてほしいと頼んだ。
なるほど、そういうことか……。黒森峰をバカにした、ミレーユが許せないんだな……。
こうして、私たちはアメリカユースチームとの二セット目に挑むことになった。、
試合はこういう風に玲香視点のダイジェストと、大事な試合は心理描写のついた詳細の描写に分けて描く予定です。
次回は玲香の試合ですので詳しく描写します。