大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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毎日更新が途絶えてしまってすみません。
3回くらい書き直してようやく投稿できました。
今回の主役はまほです。
よろしくお願いします!


VSアメリカユースチーム その2

 アメリカユース代表との第二セット目が始まった。

 今回の部隊長はまほさんだ。

 

 相手はシャーマンニ両、チャーフィー一両、シャーマンファイアフライ一両、そして、ミレーユさんが乗るパーシング一両という編成だった。

 さっきよりは火力より機動力を優先させた編成か?

 

「まほさんの指揮で戦えるなんて嬉しいです。いや、みほに不満があるわけじゃないんですけど……」

 

「そうか、たまにはただのカレー好きではないところを見せなくてはならないな。君の期待に応えられるように全力を尽くそう」

 

 まほさんはニコリと微笑んでそんな言葉を返した。

 

「そっそんな。まほさんの力は何度も見せつけられて知ってますよ。ただのカレー好きだなんて……」

 

「あなた、ウチの隊長をバカにするのだけは許さないわよ」

 

 私がしどろもどろになっていると、エリカがジロっと睨んでくる。まほさんをバカにしてるはずないだろ……。

 

「アメリカユースっ……、借りは必ず返すわよっ」

 

「そう急くな、エリカ。お前が怒りにかまけて十全に力を振るえなければ、勝てる試合も勝てなくなるではないか」

 

「たっ隊長……。はい、全力で叩けるように冷静さは決して失いません」

 

 リベンジに燃えて熱くなっていた逸見さんを、まほさんはひと言だけで諌めた。チョロいなこの人……。

 

「私はみほさんとまた戦えて嬉しい……。大学生と戦ったときは不甲斐なかったけれど、今度は……」

 

 赤星さんも気合が入っているみたいだ。

 

 こうして黒森峰と大洗の連合軍となった、第二セットを戦う部隊は、全員が戦車に乗り込み、準備を完了させた。

 

 

 

『アメリカユースチーム対日本ユースチーム、第二セット、開始!』

 

 

「世界を相手に戦えるなんて夢みたいですねー」

 

「相変わらず、呑気な奴め」

 

「姉住ちゃんはどーいう指示を出すのか楽しみだねー」

 

「あまり無茶ぶりしないでほしいけど……」

 

 別に呑気じゃないし、それなりに緊張してるんだけどな。

 小山先輩は西住さんの指示に付いていけるんだから心配する必要はないと思う。

 

『玲香、君のチームに偵察に行ってもらいたい。決して深追いはせず、好機だと思っても極力戦闘は避けてくれ』

 

 まほさんはさっそく私たちに指示を出す。

 

 なるほど、偵察か。それにしても妙な指示だな……? まるで絶好のチャンスでも転がってくることを読んでるみたいだ。

 

 

 そんなことを思いながら偵察に出る。

 

「ミレーユさんって派手好きな感じだから、一斉に5両で出てきたりしそうだな」

 

「おいっ、それって見つかるとマズイじゃないか!」

 

「そんなヘマしませんって」

 

 河嶋先輩の叫び声を受け流しながら、私はキューポラから顔を出して、双眼鏡で遠くを眺める。  

 

 ふむ、前方からチャーフィーがこちらに向かってきてるな。

 おそらくあちらも偵察……。考えることは一緒ってことか……。

 

 えっ? なっなんだ?

 

「なんで、車両から次々と人が降りてるんだ……? 何かトラブルか? エンジンも切ってるみたいだが……」

 

 私は停止の指示を出して、チャーフィーの乗員の奇怪な行動を観察することにした。

 

 いや、履帯が壊れたとか、そんなのじゃなさそうだ。修理どころかどこかに行ってしまったし……。

 

「おいっ、玲香! 撃破のチャンスだ。もぬけの殻のチャーフィーを捨て置くわけにはいかんだろ!」

 

「5対5だからねぇ。一両消えるだけでもかなり有利だよー」

 

 河嶋先輩と会長が私にそんなことを言ってくる。

 しかし、まほさんが……。

 

「まほさん、チャーフィーの乗員が外に出てどこかに行ってしまいました。しかし、撃破はせずに一時そちらに戻ります……」

 

『乗員が外に……? はっ――玲香っ、全速力でこちらに戻るんだ……。そこは危険――』

 

 ――んっ、履帯の音……。まさかっ……。

 

「小山先輩、敵が近づいてます! いつものように、出来るだけ的を絞らせないようにして、逃げてください!」

 

 なんと、挟み撃ちをするような形で二両のシャーマンが岩陰から出てきて、私たちの車両に向かってきてたのである。

 

『チャーフィーの乗員はわざと目立つような形で降りて、隠れつつ辺りを散策していたのだろう。そして、もぬけの殻と見せかけて、操縦手は残し、迂闊に近づけば、待ち伏せの餌食にしようとした……』

 

 なるほど、まほさんの言葉どおりに動いて良かった。まぁ、それでも追いかけられてるんだけど……。

 

『救援を送った、それまで逃げられるか?』

 

「任せてくださいっ! これでも逃げに関しては大洗一ですからっ!」

 

「んなことで、無い胸を張るなバカ!」

 

 私がまほさんの指示に返事をしたら、河嶋先輩に傷を抉られた。

 

「今は胸の大きさは関係ないでしょ」

 

 私はつい河嶋先輩に反論してしまった。

 

『玲香、胸は無くとも大丈夫だ。君の力は信じてる』

 

「はぁ……。あっありがとうございます」

 

 これってフォローのつもりなのだろうか?

 よくわからない……。

 

「とにかく逃げましょう! 蛇行しながら、右にフェイントをしつつ左へ、さらに今度は素直に右です。そして、今度は右斜め方向の岩陰を背にできるようにして、まっすぐ――、そして、最後に左にフェイントをかけて大きく右に出て加速っ――」

 

 

 

「相変わらず、ムカつくくらいの逃げ足ね……。でも、良くやったわ」

 

 逸見さんのティーガーⅡと赤星さんのパンターが絶妙なタイミングでシャーマンの側面に突撃を仕掛ける――。

 

『アメリカユースチーム、シャーマン二両、行動不能』

 

 よしっいきなり二両撃破出来たのは大きいぞって……。

 

『日本ユースチーム、ティーガーⅡ、行動不能』

 

『日本ユースチーム、パンター、行動不能』

 

「――っ。小山先輩、大きく左っ」

 

 私が指示を出して、小山先輩がそれに従った瞬間――轟音とともに大きく車両が揺れた。

 

 そうか、追ってきてたのは二両じゃなく――五両すべてだったってわけか……。

 

 それにしても、シャーマン撃破のタイミングに合わせて同時にティーガーⅡとパンターを撃破するって、ミレーユさんのパーシングもそうだけど、ファイアフライの砲手も相当な腕だぞ……。

 

「すみません、さらに後方の伏兵に気付きませんでした。エリカや小梅さんに申し訳が立ちません」

 

『君が気付かないのなら、私も気づけまい。それにエリカも小梅も最大限に気は張っていたはずだ。敵がそれだけ強いというだけだ。私とみほもすぐにそちらと合流する。どうやら、短期決戦をお望みのようだからな』

 

 まほさんがこちらに向かってくれるとのことだ。

 しかし、相手もそれはわかっているはず。

 とりあえず、私はなんとしてでも撃破されるのだけは避けなくては……。

 

 

 

「ん? 砲撃が止んだ……。どうして?」

 

 先程まで煩いくらい響いていた砲撃がパタリと止んだのだ。

 

「ふぅ、逃げ切れたか……」

 

「待ち構えることにしたみたいだねー」

 

「わざわざ、三両を合流させてまでですか?」

 

 小山先輩の疑問ももっともだが、会長の言うとおり、待ち伏せをするって考えたって読むのが自然だ。意味はわからないが……。

 

 

 

「別に意味などなかろう。より派手に勝つことを考えての布陣……。三対三でも決して負けない自信を感じる」

 

 まほさんと西住さんと合流して、まほさんは相手の意図をこう読んだ。

 

「お姉ちゃん、誘いに乗るの?」

 

 西住さんは遠慮がちな表情でまほさんに質問する。おそらく、まほさんは乗ると言うだろう。

 

「もちろんだ。西住流に後退はない。――しかし、これは部隊長としてではなく、黒森峰の隊長としての我儘だ。誘いに乗るのは()()()にさせてもらえないか?」

 

「えっ、まほさん、それはどういう?」

 

 私は突然のまほさんの無茶な発言に困惑した。

 

「私は弱い……。黒森峰を二度も優勝に導くことが出来なかった。その上、その敗北を引きずってさらに弱くなっていた……。お母様にもそれを見抜かれるくらいにな……」

 

「そんなことない。お姉ちゃんは強い! 優勝だって私が……」

 

「私はあの敗戦をみほのせいだと思ったことは一度もない。それにみほは私などより強い。その証拠にみほは合宿から追い出されなかっただろ?」

 

 まほさんはそんなことをいう。

 確かに、家元はあんこうチームにだけは一度もダメ出しをしなかった。

 

 でも、それは単純に家元が西住さんに話しかけ辛かっただけなんじゃ……。

 

「しかし、私には最後にやらなくてはならないことがある。それは――優勝を体験させてやれなかったエリカや小梅、そして後輩たちに、私の強い姿を見せることだっ! こんな、弱い私を隊長だと慕って付いてきてくれた彼女らに、私は恩を返したいんだ!」

 

 まほさんが覚悟を固めた表情で心情を吐き出した。

 

「しかし、敵は――」

「うん、わかったよ。今はお姉ちゃんが部隊長だから……。私たちは見守ってるね」

 

 西住さんはまっすぐに姉を見つめて頷いた。

 彼女の姉への信頼感がそれだけで十分に伝わった。

 

「ありがとう、みほ」

 

「えへへ、お姉ちゃんが私に我儘を言うなんて初めてだね……」

 

「すまないな、玲香も初戦で暴れたかったと思うが……」

 

「いえ、楽が出来てラッキーですよ。勉強させてもらいます」

 

 そして、まほさんが単騎でアメリカユースの三両に向かって行ったのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

《まほ視点》

 

 西住流に捧げようと誓った日から戦車道の鍛錬を怠った日はなかった。

 

 敗北は許されない、そう教え込まれて勝つための戦いを続けていた。

 みほには自分の戦車道を見つけるように行っておきながら私はそうすることでこれが自分の生き方なのだと信じ込むことにしたのだ。

 

 高校戦車道での二度の敗北――思えば私にとって最初の挫折だったのかもしれない。

 しかも二度目は自分の元を去って行った妹の手によって負けたのだ。

 

 嬉しくもあり、情けなくもある苦い経験だった。

 

 敗戦以降、私はさらに鍛錬を積み負けないための戦いを身につけたつもりだった。

 しかし、お母様に指摘されたのは負けを恐れて勝ちへの姿勢がグラついているという評価だった。

 

 その通りだ。私は負けるのが堪らなく怖くなってしまった。

 こんな私を強いと思って慕ってくれるエリカや小梅、チームメイトたち――。

 私は強さを示すために負けてはならない。

 

 元々、慎重な性格も相まってそれを強く想うとどうしても消極的になってしまう。

 

『まほちゃんは最強になる覚悟ってあるの?』

 

 島田流の家元からのアドバイスは基本的にこれだけ。

 あとは島田愛里寿とひたすら一対一で戦った。

 

 最強になる覚悟――それは孤高の道。

 みほに敗北したあの日……、私は心の中で安堵していたのかもしれない。

 

 『負けない』では足りない。

 『必ず勝つ』でも足りない。

 

 『永久に勝ち続ける』、みほにも、島田愛里寿にも、そして……、世界中のどのような強者にも……。

 

 絶対的な強者の戦い――これをエリカたちに見せることが、私が黒森峰女学園の隊長として出来る最後の仕事だ。

 

 もう私は迷わない。覇道を突き進む……。灰になるまで……。

 

「5秒後に10度右に進路をずらせ……」

 

 シャーマンファイアフライの砲弾がティーガーの車体を掠り、車体が少しだけ揺れる――。

 

 しかし、これくらいなら問題ない。最短の時間でファイアフライを射程におさめて砲撃をする。

 

『アメリカユースチーム、ファイアフライ、行動不能』

 

 背後からチャーフィーか……。

 

「パーシングに射撃した後に、後進しつつ、チャーフィーの側面に回り込め。装填急げっ!」

 

『アメリカユースチーム、チャーフィー、行動不能』

 

 これでこちらチームは3両、アメリカユースチームは1両という状況になったか……。

 

 チームとしての勝利に拘るのなら、みほと玲香を呼ぶのが正解なのだろう。

 

「ふっ、是非も無い……。この距離を維持しつつ、絶えず砲撃を続ける――」

 

 最後のパーシングは噂通りの強さだな……。

 

 相手を自分のペースに巻き込み、劇的な勝利を演出する、か……。みほのスタイルに近い……。

 センスもあの子と同様の天性のものを感じる……。

 

 正直、やり難い相手だが――。

 

「左方向に動く際、僅かにブレる癖がある……、なるほど……」

 

 こうして何度も撃ち合うと、相手の癖が掴めることがある。

 パーシングの操縦手には左に移動する前に、一瞬だけ動きがぎこちなくなる癖があった。

 見落としても構わないくらいの小さな癖だが……。

 

「次は左にパーシングが動く前に仕掛ける。前進した後に、側面に回り込むぞ」

 

 私は指示を出して、そのときが来るのを待つ――。ブレた、左に動くぞ……。

 

 

「今だ、パンツァー・フォー」

 

 私は指示を出してティーガーとパーシングとの距離を詰めた。

 

 

 相手は左に動く――と見せかけて直進してきた。あの癖は意図的だったということか……。

 

 

 ここまでは想定どおりだ――。

 

 

「――やはり陽動! しかしっ! 回り込め!」

 

「無理に回り込むと履帯が切れますが……」

 

「構わない……、ここで決着をつける。決して止まるな! 衝突させるくらいの勢いで行くんだっ!」

 

 私はそう指示を出して、ティーガーは鋭角に回り込み、パーシングはそれに合わせて砲撃を放つ――。

 

 

 

 ――大きな音と共に車体が揺れる……。

 

 相手の砲撃で車体は中破した上に、パーシングの側面に衝突したからだ。

 

「しかし、これで終わりだ――」

 

『アメリカユースチーム、パーシング行動不能! よって第二セットは日本ユースチームの勝利!』

 

 誰にも見えないように小さくガッツポーズをする。

 どんなに孤独になろうとも如何なるときも最強で居続ける――それが私の戦車道――。

 

 

 

 

 試合後、相手チームの隊長のミレーユに話しかけられた。

 

「あなたの妹さんに聞いたわよ。あなたがあのティーガーⅠの車長ね?」

 

「ん? ああ、そうだが……」

 

「一つだけ教えて欲しい。あそこでこちらの砲塔を目の前にしてギリギリまで突っ込んで来たことに何か意味はあるの? あなたの技術なら余裕で躱せたはずよ」

 

 ミレーユは最後の場面で私が大破しないギリギリの角度で砲弾を受けて、突っ込んで行ったことを疑問に持ったようだ。

 

「いや、特にない」

 

「え?」

 

「敢えて言うなら意地だった……。あそこで引いて安全策に走る自分ではこの先に覇道はないと思った。それだけだ……」

 

 あそこで引けば負けると根拠はないが感じてしまった。それはこれまでの自分にない感覚だった。

 

「意地? ふふっ、じゃあ、あなたは大した意地っ張りよ。アメリカにはあなたほどの意地っ張りは居ないもの。今度、日本で映画の撮影があるから監督に教えてあげなきゃ、日本人は意地っ張りだって」

 

「そっそうか……」

 

「それと、日本の黒森峰女学園は強いってことを、覚えておくわね」

 

 ミレーユはそういうとニコリと微笑んで手を振って去って行った。

 

 

「たっ隊長! 最後の気迫に感動しました! やはり、私は隊長にどこまでも付いていきます!」

 

 エリカは目に涙をためて、興奮気味の口調でそう話しかけてきた。この子には自分の道を探せと常々言っているのだが……。

 

「ふっ、私はまだ強くなる。お前が来るまで待つつもりもないぞ。それでも良いなら、――追ってこい。エリカ……」

 

「――隊長……。はいっ! どこまでも追いかけます! ですから、隊長はどこまでも突き進んでください!」

 

 私は後輩にそう告げて、歩き出した。西住まほの戦車道はここから始まった。

 




書いてるうちにいつの間にか日本ユースが圧勝してしまいました。
どうしても、まほに活躍させたかったのです……。
次回もよろしくお願いします。
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