今回は一気に予選終了までです。
それではよろしくお願いします!
「Aブロックの第二試合のポーランドとギリシャの試合は、ポーランドが勝ったんだ……」
「ええ、ですがギリシャの不戦敗でした。一応、私と逸見殿で偵察に行ったのですが、どうも試合開始日を間違って覚えていたらしく……」
「不戦敗? そりゃあ何というか……」
秋山さんの報告によると、ギリシャがポーランドに不戦敗を喫したらしい。
ルールによると不戦敗は二セット連取されて負けた扱いになる。
これで日本とポーランドが1勝、アメリカとギリシャが1敗となった。
そして、私たちは次のポーランド戦に挑んだ。
一セット目をメカトラブルが絡むという不運で落とすも、二セット目はダージリンさんとカチューシャさん、そしてケイさんが奮闘して圧勝した。
そして、最後の三セット目は西住さんとまほさんのコンビネーションがトドメとなり勝利を掴むことが出来た。
つまり、我々は予選リーグで連勝したのである。
しかし、意外なことも起こった。アメリカユースがギリシャに完敗したのである。
試合内容はとても私たちを苦しめたアメリカには見えない感じだった。
ジェシカさんの砲撃の精度は恐ろしいほど悪くなり、ミレーユさんの指揮も上手く機能していなかったからだ。
それだけにギリシャの勝利が不気味に見えた。
とにかく、この結果、日本だけが2勝で、ポーランドとギリシャが1勝でそれに続くという状況になった。
さらに予選最終戦を控えた私たちの前で行われたアメリカとポーランドの試合――。
なんとこの試合もアメリカは落としてしまっていた。不調が続いているようで、ポーランドにも手も足も出ずに負けてしまっていた。
つまりポーランドが2勝したので、今日、私たちがギリシャに負けるようなことがあると、落としたセット数の差で予選に敗退してしまうという現象が起こるのだ。
「ふぅ、連勝したから今日は負けても大丈夫だと思ってたのになー」
「レイーチカはバカーチカなの? 負けて良い戦いなんて一つだってないんだから」
カチューシャさんにチクリと注意をされる。
「玲香さん、こんな言葉を知ってるかしら? “出る前に負けること考えるバカがいるかよ”」
「アントニオ猪木ですね」
「知りませんよっ!」
もはや、ダージリンさんの格言はどの方向に進んでいるのかわからなかった。
でも、負けなんてイメージしたらダメなのは確かだよなー。
私は不適切な発言を反省した。
とにかく、勝てば予選リーグ首位突破は確実なんだ。よしっ頑張るぞ!
【戦車道世界ユース大会予選Aブロック最終戦】
日本ユースチームVSギリシャユースチーム
「ギリシャチームは主にイギリス産の車両が多いみたいだな! よーやく
今回、初出陣のアンチョビさんはテンションが高かった。
ちなみに、一セット目のオーダーはこんな感じだ。
――日本ユースチーム一セット目――
P40(アンチョビ)、BT-42(ミカ)、クルセイダー(ローズヒップ)、ポルシェティーガー(レオポンさんチーム)、チャーチル(ダージリン)
イギリス車両に詳しいダージリンさんをブレーンにして、チャーチルの弱点を補うために残りを機動力重視のメンバーで固めた。
相手チームはこんな感じだった。
――ギリシャユースチーム一セット目――
マチルダ二両、チャーチル一両、クルセイダー一両、カヴェナンター一両
バランスは取れている感じなのかな?
なんか、向こうの隊長って人、白いローブみたいな衣装と魔法使いの杖みたいなのを持っているけど……。
「玲香殿、潜入から戻ってきました。あの杖を見てはいけません! あれはどうやら、強制的にイップスのようなことを起こす作用のある光が発射されるみたいです! 早く第一セットを戦う人に知らせないとっ!」
控室に戻ってきた秋山さんが大声をあげた。
「そっそれって反則じゃない? なんて、言ってられないな! みんなっ!」
私が走って駆けつけたとき、既に時は遅かったみたいで、アンチョビさんが変な光を見たと言っていた。
体に不調はないみたいだ。ふむ、最悪このセットは落としても残りのみんなが無事だから二セット連取すれば……。
そう思って、変なことを言うと意識してしまうのもアレだったので特に何も言わずに私は控室に戻った。
「で、優花里に聞きたいんだけど、イップスみたいな症状ってどんな感じになるんだ?」
「不安に押し潰されて、上手くパフォーマンスができなくなるみたいですね。ジェシカさんがあれだけ的を外すくらいですから――」
「なるほど、いよいよ厄介だな。どう考えても卑怯だけど……」
ルールブックに載ってないから抗議できないという理不尽を噛み締めながら私はそう言った。
そもそもあれは、選手の神通力みたいなものらしい。隊長は選手たちからゼウスとか呼ばれてた。
かくして試合は始まった――。大丈夫かなぁ……。
「本当に不安に押し潰されているのかな? みんないい動きだけど……。ダージリンさんなんか、浴びるくらい紅茶飲んでるし……」
「本当ですね。あれはデマだったのでしょうか?」
「ううん、そうじゃないよ。みんなは不安っていう概念を持ってないんじゃないかな?」
西住さんがそんなことを言ってきた。
たっ確かに、よく見たらやたらポジティブというかマイペースなメンバーで固められてるような……。
「なるほど、不安って気持ちが一ミリも無ければイップスが起こりようがないですからねー。さすが西住殿」
「そんな人っているかー? と思わなくもないけど、レオポンさんチーム以外はそんな感じもあるかも」
「多分、ナカジマ先輩たちは車両の整備に最後まで夢中だったから、光を見てないんだよ」
「あー、なるほど」
そんな言葉に納得というか、どちらでも良いんだけど、とにかく一セット目は圧巻だった。
アンチョビさんがノリと勢いで二両撃破して、ミカさんとローズヒップさん、そしてレオポンさんチームもきっちり一両撃破、ダージリンさんは終始紅茶を飲んでいるだけで試合は終わった。
つまり、五両残って完全勝利したのである。
そして、さらに第二セット目も、私たちは全員光のことは知っていたので、ひっかかるはずもなく、奪取することに成功する。
こうして、我々はギリシャユースチームを下してAブロックを一位で突破することが出来たのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやー、なんとか決勝トーナメントまで残ったねー」
会長は2袋目の干しいもを取り出しながらそう言った。
「ええ、私たちの目標は準優勝……、つまり後2回勝たなくてはならないってことですよね?」
「勝てるかなぁ? 次の対戦相手はどこだっけ」
「Bブロックを2位で通過したチームですよ。今大会、最強の火力と言われている……ロシアユースです」
ロシアユースチームは2位で通過だったが、負けた相手はドイツユースチームで、その戦いもわざと日本と当たった方が楽だから負けたという判断だという噂も立っている。
それだけ他の二試合が圧倒的な強さだったからだ。
「いい、レイーチカ、次の試合は必ずカチューシャを出すのよ!」
私にそんな権限は無いのだが、カチューシャさんはそんなことを言ってきた。
「カチューシャは卒業後にロシアへの留学を考えられてます。次の試合は絶好のアピールの機会になるのです」
ノンナさんがカチューシャさんの意図を補足する。
ああ、なるほど……。確かにロシアユースを相手に良い戦いをするほどアピールになることはないな。
「わかりました。私からもみほに一言伝えておきますよ。でも、カチューシャさんってロシア語は――」
私はカチューシャさんを試合に出すように西住さんに伝えておくことを約束した。
「うっうるさいわね! これから勉強するわよ!」
「私が教えて差し上げようとしてもお昼寝ばかりしていますけどね」
「のっノンナぁ、余計なこと言わないでっ!」
ということで、カチューシャさんには出てもらうとして、ロシアユースはどのような感じでチームを組むか、私たちは車長を集めて話し合いをすることになった。
【戦車道世界ユース大会決勝トーナメント一回戦】
日本ユースチームVSロシアユースチーム
決勝トーナメントの初戦の相手はロシアユースとなりました。
いよいよユース世界一を決めるトーナメントが始まります!
次回もよろしくお願いします!