大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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今回は第二セットの結末までです。
それでは、よろしくお願いします!


VSロシアユース その2

双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)をですか? しかし、あれは私とみほの……」

 

『わかってます。しかし、玲香さんの空間把握能力は群を抜いてますから、共に合宿を生き抜いた仲間となら誰とでも合わせられるはずです。私はあなたを信じます』

 

 ノンナさんは私が誰とでも合わせられるから、双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)で、追ってくる四両の間をすり抜けようと提案してきた。

 

『それに、敵車両の真ん中に飛び込むことは、そちらの得意技ではないですか……』

 

 ドンドン近くに着弾して、車両を揺らすKV-2の砲弾に気を付けながら、私は決断を迫られていた。

 

 このまま行くと、あのKV-2に確実に蹂躙されてしまう。

 

「是非も無いか……」

 

「およっ、仙道ちゃん、攻める気だね〜。潔く突撃して散るのも悪くないよー」

 

「散りません! 河嶋先輩の装填速度にかかってます。合宿の成果を見せてください!」

 

 ロシアユースと戦火を交えるにあたって、威嚇するにもこちらの装填スピードが遅いとみなされると、脅しにすらならない。

 

「任せておけ! この腕が折れようとも最速最短で、装填してみせる!」

 

 ひと昔前なら河嶋先輩のこの一言は虚勢に聞こえていただろうが今は違う。この先輩はやる時はやってくれる人だ。

 

「小山先輩、それではUターンしてください! 会長、Uターンした瞬間、右側のT-34の履帯を狙って!」

 

 ヘッツァーとノンナさんのIS-2は同時にUターンした。

 

 ぶっつけ本番でやるぞ! 

 ノンナさんの動きに合わせることで成立する、私たちの双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)

 

 

 的を絞らせないように、並走しつつ、ヘッツァーとIS-2は蛇行して走る。

 ロシアユースのT-34とIS-2はいきなりUターンしながら、奇妙な連携をしつつ砲撃を開始した我々に対して面食らったのか、硬直して、隊列を乱した。

 

 ここまでは上手く行っている。しかし……。

 

「さすがに戦車道大国のロシア……。代表レベルに奇襲だけでは乗り越えられないか」 

 

 そんなことを考えつつ、私はノンナさんが狙うであろうポイントをノーサインで見抜き砲撃を指示する。

 

「会長! 今ですっ!」

 

「あいよっ!」

 

 ノンナさんが一番左側を走行しているT-34を狙い撃ちして履帯を破壊し停車させ、会長はそれと同時に止まった車両を撃破する。

 行進間でも、会長は止まっている的ならかなりの精度で命中させることが出来るようになっていた。ニシズミスーツを着た修行の成果が出てきたみたいだ。

 

 

『ロシアユースチーム、T-34行動不能!』

 

 よしっ! これで何とか……。

 

 T-34の撃破された隙を付いて、私たちはロシアユースの死線をすり抜けた。

 

 しかし――すり抜けた後の方が大変だろう。なんせ、今度は背中を見せて逃亡しなくてはならない。

 せめて、ヘッツァーの砲塔が回転すればなぁ……。

 

 まぁ、こっちに向かって来てるカチューシャさんたちともう少しで合流できるが……。

 

 

 予想通り、ロシアユースのIS-2とT-34からの砲撃は苛烈を極めた。

 確かに一両は撃破したが、それが逆に相手を刺激したみたいだ……。

 

 

 

『玲香さん、確かに厳しい状況ですが、あと1分ほど持ちこたえてに再びUターンしましょう』

 

「えっ? しかし、カチューシャさんたちと合流するにはもう少しかかるんじゃ……」

 

『だからこそです。カチューシャの戦術を信じてください』

 

 カチューシャさんの戦術と言っても、彼女からの指示はこっちに向かってるから合流しろっていうものだけだった。

 いや、待てよ……、合流ってことは――なるほどっ!

 

 

「小山先輩、あと30秒後にもう一度、Uターンして、敵車両の間に突っ込みます」

 

「ホントにやるのー? そんな危険をわざわざしなくても……」

 

「小山ー、面白いじゃん。行ってみよー」

 

 小山先輩の不安な声は陽気な会長の声に消された。

 

『レイーチカ、ノンナから作戦は聞いたわよね。失敗したら、ツンドラで強制労働30ルーブルだから!』

 

 ああ、カチューシャさんに釘を刺された。失敗が許されないな。何とか成功させなければ……。

 

 相手だってもう一回Uターンしてくるとは予想してないだろうけど……。リスクが高いことには変わりない。

 

「行きますよ、ノンナさん!」

 

『ええ、絶好のタイミングです』

 

 私とノンナさんの車両は同時に再びUターンして、双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)で追ってくるロシアユースの車両に突撃した。

 

「おいっ! 今、危なかったぞ! ちょっとでもスピードを下げてたら、当たってたじゃないか!」

 

 河嶋先輩が悲鳴のような声を上げる。

 

「河嶋先輩、黙って装填してください! 小山先輩、左右に一回ずつフェイントをかけて左に! 会長、合図と共にT-34に砲撃を!」

 

 三両の戦車からの砲撃をギリギリで躱しながら、ノンナさんのIS-2と今度は完全に左右対称の動きで、外側から内側に回り込むような形で正面突破を目指す。

 

 残念ながら、撃破はならなかったが、再び敵陣の中央を突破することに成功した。

 

「でもって、もう一回、突っ込みますよ。小山先輩!」

 

「アホかっ! せっかくの思いで切り抜けたんだぞ!」

 

 私が小山先輩に指示を出すと、河嶋先輩が大声で文句を言う。

 

「いや、河嶋ー。ここは勝負しなきゃ、カチューシャちゃんの作戦が台無しになる。ここが正念場なんだよねー」

 

 会長は作戦の本質を見抜いてるみたいだ。そう、これからがカチューシャさんの作戦の本番だ。

 

「はい、この戦いのすべてを決めるかもしれません。――ノンナさん、準備は良いですか?」

 

『行けます。今回は私は援護に徹しますので、玲香さんは生き残ることを最優先にしてください』

 

 私とノンナさんは三度のUターンをして突撃をする。

 

 当然だが、ロシアユースチームにこんな無謀が通用するはずがない。

 すでにこちらの行動パターンは読まれており、行進間であっても砲弾は車体のギリギリを掠るようになり、いつ撃破されてもおかしくない状況に追い込まれた。

 

『玲香さん、あなたはこの戦いでカチューシャを勝利に導くために絶対に必要な人です。あとは頼みます』

 

 ノンナさんのIS-2がロシアユースのIS-2のうちの一両に向かって真っ直ぐに突撃する。

 

 ノンナさんは相手のIS-2に砲撃を何度も加えて釘付けにし、さらにヘッツァーの盾になるようにポジショニングをとる。

 

「ノンナさん! 出すぎです!」

 

 私は明らかに暴走しているノンナさんに声をかける。ダメだ……。このままだと……。

 

『カチューシャ、日本ユースの危機を救ってください』

 

『任せなさい。カチューシャがあなたに世界で一番高い景色を見せてあげるわ』

 

 ノンナさんはロシアユースの三両に囲まれて、撃破されてしまった。

 

『日本ユースチーム、IS-2、行動不能!』

 

「玲香、まずいぞ! これで、一対三だ!」

 

 河嶋先輩が悲鳴に近い声を上げる。

 

「いいえ、河嶋先輩……。四対三ですよ――」

 

 私が河嶋先輩にそう声をかけたとき、次々と砲弾がロシアユースの車両近くに着弾した。

 

『待たせたわね! レイーチカ! 今からロシアユースをボッコボコにしてやるわよ!』

 

 カチューシャさんから、勇ましい声の通信が届く。

 そう、カチューシャさんが率いる日本ユースの残りの三両がこちらに追いついたのだ。

 しかも、ロシアユースの三両が私たちに気を取られている内に近付き背後をとって……。

 

 これは大チャンスである。私たちはまさにロシアユースを挟撃出来る布陣にあるからだ。

 

「河嶋さん、装填をさらにスピードを上げて! 会長、ガンガン撃ってください!」

 

 私はロシアユースの陣形を乱すために、断続的な攻撃を指示した。

 

 

 ――そこで私たちの鼓膜を揺らしたのは、152mm砲弾の織りなす砲弾の音であった。

 

 ニーナさんのKV-2のチーム最強火力が火を吹き、ロシアユースのIS-2の内の一両を吹き飛ばしながら撃破した。

 

『ロシアユース、IS-2、行動不能!』

 

 よし、これで4対3だっ! これなら……。

 

 KV-2がこじ開けた空間から、日本ユースの三両が通り抜けて、私たちのヘッツァーと合流する。

 

『オクーシャってやつの、KV-2を狩るわよ! ダージリン! 二両の相手になるけど、足止め出来る!?』

 

『愚問ですわね。お行きなさい、この場はわたくし一人に任せてもらってよろしくてよ』

 

 ダージリンさんのチャーチルはロシアユースのIS-2とT-34の二両を足止めすると宣言した。

 確かにダージリンさんも紅茶を早く飲めるだけじゃなくて、強くもなってるけど……。

 

『レイーチカ! ボヤッとする暇はないわ! ノンナに報いるためにも、あなたが敵の動きを見切って連携の要を担うの!』

 

 カチューシャさんの言葉に押されて、私は再び、オクーシャさんのKV-2を目指して車両を走らせるように指示を出した。

 

 

 

 

「まだ、相手の射程外だというのにすごいプレッシャーだ……。さっき一戦交えたからなのか、体が震えてきた……」

 

 被弾こそしなかったが、連射される152mm砲の異次元の火力は、私の体に大きな恐怖与えていた。

 

『臆しちゃ駄目よ。何としてでも、強力な一撃をぶつけてやるの』

 

 カチューシャさんは私たちに檄を飛ばし、ロシアユースのKV-2に向かって行った。

 

 ここからがカチューシャさんのすごいところだった。

 KV-2との距離を詰めたかと思うと、砲撃のタイミングを完璧に読んで、これを躱す。この作業を何度も繰り返しやってのけたのだ。

 

 自らの車両からも砲撃を指示しながら。

 

 カチューシャさんが合宿で身につけたのは、島田流を彷彿とさせる個人技だ。

 愛里寿さんの頭脳にも勝るとも劣らない、ある種の天才であるカチューシャさんは驚くべき速度で忍者戦法をマスターしていった。

 

 今の強さのカチューシャさんともし準決勝であたっていたら危なかったと思う。

 

 オクーシャのKV-2を華麗に翻弄するカチューシャさん。しかし、ある一定の距離以上は差が縮まらない。

 

 だから、私のヘッツァーとニーナさんのKV-2はもちろん、カチューシャさんの援護に回れるように、勇気を振り絞ってオクーシャのKV-2に近付いた。

 

 

 

 

 ――決着のタイミングは一瞬だった。

 カチューシャさんのT-34はゆっくりとした動きのニーナさんのKV-2を引き連れて、オクーシャのKV-2に肉薄していった。

 

 さらに私たちのヘッツァーもT-34と並走して、相手の動きを伺った。

 双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)の要領でカチューシャさんの動きをノーサインで読んでオクーシャに的を絞らせないようにさせる。

 

『今よ! ニーナ、やっちゃって!』

 

 オクーシャの砲撃をかろうじて躱したカチューシャさんはニーナさんに砲撃の指示を出す。

 

 

『日本ユースチーム、T-34、行動不能!』

 

 カチューシャさんのT-34は行動不能になってしまう。なぜなら、ニーナが狙ったのはカチューシャさんのT-34だからだ……。

 そう、空砲により超加速したT-34はオクーシャさんの装填スピードをも上回るスピードでロシアユースのKV-2に急接近したのだ――。

 

『ロシアユースチーム、KV-2、行動不能!』

 

 ついに、私たちはロシアユースチームの誇る、世界一の火力をもつ戦車を撃破した――。

 

 

 

 そして、そのまま私たちが優勢で試合は進み……。

 

 

『第二セット、日本ユースチーム、残存車両3、ロシアユースチーム、残存車両0――よって日本ユースチームの勝利!』

 

 負けたら敗退という、大きなプレッシャーがかかっていたこの試合……。

 カチューシャさん率いる私たちの部隊は見事に勝利をもぎ取ることが出来た。

 

 こうして、日本ユースチームとロシアユースチームの戦いの決着は最終セットまで持ち越されたのである――。

 




カチューシャの活躍で何とか世界一の火力をもつオクーシャのKV-2を撃破して、日本ユースチームは何とか次へ繋げることが出来ました。
次回もよろしくお願いします!

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