それではよろしくお願いします!
イタリアユースとの準決勝は市街地でやる事となった。
「うわー、凄いですよ! セレラ・サハリアノ快速中戦車です! 超レア戦車が生で見られるなんて!」
イタリアユースチームの車両が立ち並ぶ様子を見て、秋山さんが目を輝かせた。
1回戦のギリシャユース戦の映像を見たときから不思議に思ってたけど、あれって、レアどころか試作品の一両しかないんじゃ……。いや、75mm砲を搭載しているから、試作車両とも違うってことか。だったら、ポルシェティーガーどころの話じゃないぞ。
オークションに出したらどれくらいの金額になるだろう?
「あー、れいれい、お金の計算してるときの顔してるー」
「玲香さん、さすがに他の国の戦車を値踏みするのはどうかと思いますが……」
武部さんと五十鈴さんに心の中を読まれてしまった。
お金の計算してる顔ってどんな顔なんだ? そんなに顔に出るんだったら、河嶋先輩に心情がダダ漏れになっているのは仕方ないのかもしれない。
主力は中戦車のM14とM15、そしてアンツィオの秘密兵器だったP40重戦車みたいだ。
そして、噂のサハリアノには、隊長であるビアンカ=スフォルツァが乗っている。
「ウズウズするねー。どっちが上手いか」
「ウズウズしますわー」
ツチヤさんとローズヒップさんはもちろん対抗心を燃やしている。
そしてもう一人……。
「…………」
「どうしたの? 麻子、ずっとれいれいが皮算用してた戦車を見てるけど」
冷泉さんはビアンカさんの車両をずっと眺めていた。彼女も操縦手としては間違いなく日本の高校戦車道としてはトップをいく存在。
普段、クールな彼女も時には対抗心を燃やすこともあるのかもしれない。
「ふわぁ、今日は一段と眠い……。ボーッとしてた……」
と、私が勝手に想像していると、冷泉さんは大きな欠伸をして、武部さんに手を引かれて控室に向かって行った。
まぁ、あの冷泉さんはそんなタイプじゃないか……。
「玲香さん、第一セットはよろしく頼む……」
第一セットの部隊長である愛里寿は私の側に来てそう言った。
愛里寿さんは第一セットの車両に私たちのヘッツァーを選んだ。
そして、大学選抜チームでチームメイトだったアズミさん、ルミさん、メグミさんの三両のパーシングを加えた五両が第一セットのオーダーだ。
「隊長! 一緒に戦えて嬉しいです!」
「イタリアユースに目にもの見せてやりましょう!」
「ついでに西住の奴にも島田流の強さを示してやって下さい!」
アズミさんたちは嬉々として愛里寿と共に戦える喜びを口にしていた。
さて、隊長のビアンカは出てこないが、イタリアユースチームは全試合ストレート勝ちをしていて第一セットを落としていない。
つまり、今大会では未だに無敗なのだ。
それゆえ、1回戦のロシアユース戦に劣らずに激戦が予想出来る。
「相手がどんなに強くても関係ない。私は……、いや私たちは勝つ。そうでしょ? 玲香さん」
「ああ、もちろんだ。愛里寿、私も出来るだけフォローに回る。君は君の力が発揮できるように自由に動いてくれ」
私は愛里寿の両肩を抱いて、まっすぐに彼女を見つめてそう言った。
「うっ、うん……。わかった……」
愛里寿さんは小さな声で返事をして目を逸しながら、顔を赤くする。
「こら、玲香! 隊長から離れろ!」
「はいはい〜。君は隊長には毒物なんだから、これ以上近付いたらダメだよー」
「君はもう少し自覚をしろって彼女から言われてなかったかなー?」
バミューダ三姉妹は私の体を掴んで愛里寿さんから引き剥がす。だから、何でいつも愛里寿に近付くとこんなリアクションを取られるんだ?
そして――準決勝の第一セットが始まった――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第一セットのイタリアユースのオーダーはP40が二両、M15が二両、そしてM14が一両という編成だった。
「メグミ、ルミ、アズミは後方から援護。玲香さんは私が敵車両のスキを作るから、その瞬間を見逃さないで撃破に努めてくれ」
愛里寿さんはメグミさんたちと私に指示を出した。
珍しいな。圧倒的な個で力を示していた愛里寿さんが私にこういう指示を出すなんて。
愛里寿さんの下で戦うのは初めてではない。実際、校内の模擬戦で彼女の下について戦ったこともある。
しかし、基本的に愛里寿さんは単独行動を好んだ。理由は圧倒的に個人プレーが上手いからだ。
まるで、バミューダ三姉妹の連携を一人でこなすような超人クラスの個人技。それが島田流の真髄なのである。
だから、愛里寿さんが私にスキを突いて攻撃などという指示を出したことに、驚いたのだ。
「玲香さん、右から二両、左から一両くる。バラバラだとやりにくいから、私が三両全てを引きつける。玲香さんは少しだけ距離を置いて、タイミングを窺ってくれ」
愛里寿さんはそう言うと、単独行動と見られてもおかしくないくらい突出した。まるで三両に囲まれたいとでも言っているように……。
「アヒルさんチームもよくやるよなぁ。特に操縦手の河西さんには相当な無茶ぶりをしてるだろうに……」
「いや、玲香も結構無茶言ってるよ……」
大きな交差点でM15とM14の三両に囲まれながらも器用に砲撃を躱している愛里寿さんのパーシングの様子を見ながら、私はそう呟いたら、小山先輩にツッコミを入れられる。
「そんなことより、援護に向かわなくてもいいのか? 愛里寿のやつ、スキを作るとか言っていたが……」
河嶋先輩は私にそう尋ねる。
先輩は珍しく人の指示をキチンと聞いていた様子だ。
「もう少し様子を見ます。おそらくどこかに誘導してるのですが、それももう少しで分かるでしょう」
『こちら、アヒルさんチーム。ks245地点に誘導してます。タイミングはお任せしますので、撃破をお願いしまーす』
私の答えとともに近藤さんから通信が入る。タイミングはお任せって、まぁ信頼されてると思っていいのかな?
私たちは機を待った。待っている間にバミューダ三姉妹のパーシングは二両のP40と交戦を開始したという通信を受けた。
まぁ、彼女らは島田流に鍛え上げられた強者だし、心配はないか……。
「小山先輩、今です! 左から大回りして、ks245地点に近付きましょう」
愛里寿さんがks245地点――小学校のグラウンドの中に三両を誘導しており、それが成功しそうな瞬間にたどり着くように、私は小山先輩に指示を出した。
ヘッツァーはks245地点のすぐ側までたどり着く。しかし、当然イタリアユースだって、待ち伏せくらいは警戒してるはず。
愛里寿さんはどうするんだろう?
私たちの心配は杞憂だった。校門付近にたどり着いたパーシングはいきなり旋回して、バックで校門の中に入りながら砲弾を乱れ撃ちし始めたのだ。
イタリアユースの三両は呆気にとられ隊列を乱した。
「今です! 会長!」
「これなら外さないよ!」
私の指示で会長は口角を釣り上げて、高い精度の砲撃を放つ。
そしてその砲撃はM14の急所を確実に射抜いた。
『イタリアユースチーム、M14行動不能!』
私たちはイタリアユースチームの一両を撃破することに成功した。
よし、もう一両くらいは何とかこのスキに――。
私がそう思った瞬間である。
『イタリアユースチーム、M15、二両行動不能!』
「へっ? 愛里寿ぅ――?」
「相変わらず、見た目からは考えらんないくらいの豪胆さだよね〜」
私からは変な声が出て、会長からは称賛の声が出た。
ヘッツァーがM14を撃破した瞬間に、愛里寿さんのパーシングは全速力でM15に突撃して一両撃破。
そして、背後から至近距離で砲撃を放ったもう一両のM15にも、咄嗟に車両の角度を変えてギリギリ中破されるにとどめて、そのままバックで側部まで動き、至近距離からの砲撃でこれを仕留めたのである。
『玲香、援護してくれてありがとう……』
「いや、これって私たち必要だったのかな〜。ははっ……」
愛里寿さんのあまりの神業に私は自然と笑い声が出てしまった。
その後、バミューダ三姉妹がP40を一両撃破したタイミングで私たちは彼女らと合流。
5対1となった私たちは当然……。
『イタリアユースチーム、残存車両0、日本ユースチーム、残存車両5、よって第一セットは日本ユースチームの勝利!』
イタリアユースチームとの第一セットを勝利で飾った私たちは、目標だった決勝戦進出に王手をかけることに成功した。
さて、第二セットは西住さんたちが出るけど、相手には
彼女の車両のドライビングテクニックははっきり言って異常だ。戦車の動きじゃない。
カーアクション映画みたいな動きには私たちもビデオを見て驚いたものである。
私たちは控室に戻り、第二セットを見守ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第二セットはビアンカさんを警戒した部隊編成にした。
あんこうチームを部隊長とし、ローズヒップさんのクルセイダー、レオポンさんチーム、ミカさんのBT-42、そしてアンチョビさんのP40の部隊編成だ。
イタリアユースチームはほとんど第一セットと同じだが、M14ではなくサハリアノが入っている。
さて、試合はというと、ワンサイドゲームで進んでいた。
やはりどんな部隊編成でも、あんこうチームは強く、開始早々にP40とM15の二両を撃破する。
さらに、ミカさんとアンチョビさんが見事な連携を見せてもう一両のP40を撃破してみせたのだ。
「あと、二両。あと二両で我が校は安泰。いや、これは勝ったも同然では?」
めっちゃフラグにしか聞こえないセリフを河嶋先輩が吐いた瞬間に、最高速度のクルセイダーがドリフトして側面に肉薄したサハリアノに撃破された。
あの動き……、どう考えても履帯がオシャカになりそうなんだけど……。
そして、ポルシェティーガーも切り札のEPSを使ってサハリアノに近付くも、軽く躱された上にゼロ距離から側面に砲撃を受けて撃破されてしまう。
「おっおい、玲香! あれはなんだ? あいつらだけ戦車じゃないのに乗ってるんじゃないか?」
河嶋先輩は私の肩をガタガタ揺らしてそんなことを訴えていたが、知らんとしか言えないので黙ってた。
「別にミホーシャたちが負けたって問題ないわよ。次はカチューシャが出るんだから」
「そうね。カチューシャもわたくしも、そしてまほさんもケイさんも残っています。心配は無用ですが……、それ以前に……」
「みほが負けるわけあるまい」
「そうそう、みほったら、いつの間にかスーパーガールになっちゃってるから、きっと今回もウィンするわ!」
各校の隊長たちはビアンカさんの超人的な技を見ても平然としていた。
やっぱり貫禄あるなぁ。私と一つしか年齢は変わらないのに……。
そんなことを言っているウチに今度はサハリアノがあんこうチームに襲いかかっていた。
あのテクニックはいくら麻子さんでも翻弄されてしまうだろう。何とか西住さんが冷静に立ち回って一瞬のスキを作ることが出来れば……。
私がそう思っていると、サハリアノが大きな交差点に出た瞬間に、全速力でⅣ号と距離をとったかと思うと、今度はバックしながらドリフトしてⅣ号に迫っていた。
あんな動き読めるはずがない――。
「みほ……、君はあの動きも……」
私は自分の目を疑った。
あんこうチームはサハリアノが回り込んでくる地点を予め知っていたかのように、車体を急旋回して砲塔を近付いてきたサハリアノの側面に向けた。
しかも、その動きのキレ味は以前までの冷泉さんよりも遥かに増していた。どうやら、ビアンカさんの車両の動きを間近で見るだけで、彼女は成長してしまったらしい。
天才っているんだよなー。
二人の天才が乗っている、Ⅳ号はその力を準決勝でもアピールする結果となる。
そう、サハリアノを撃破したあんこうチームはさらに残ったM15も撃破して、この試合で4両の撃破に成功したのだ。
世界が彼女らに注目し始めた瞬間でもあった。
『イタリアユースチーム、残存車両0、日本ユースチーム、残存車両3! よって、準決勝第一試合は日本ユースチームの勝利!』
アナウンスが私たちの戦車道世界ユース大会の決勝戦進出を宣言した。
これで辻さんとの約束は果たした。大洗女子学園は当分安泰だな。
でも、ここまで来たらやっぱり――優勝したい!
ここにいる誰もがそう思っているだろう……。
さて、決勝戦の相手はイギリスユースか、それともドイツユースなのか……?
私たちは次の試合の観戦へと向かった――。
サハリアノの75mm砲搭載って計画しかなかったみたいですけど、出しちゃいました。
これで残すは決勝戦のみとなりました!
世界ユース大会編で一旦完結になる予定です。
決勝戦は盛り上がる展開に出来るように頑張ります!