大洗のボーイッシュな書記会計   作:ルピーの指輪

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今回は決勝戦に出す15両の話と作戦会議の様子をお送りします。
それではよろしくお願いします!


世界ユース大会決勝前夜

 世界ユース大会の決勝戦は、全国高校戦車道大会の決勝戦と同様に東富士演習場で行われることになった。

 

 黒森峰との決勝前に研究し尽くした場所だ。この点は私たちにとって有利だった。

 

 しかし、戦力も練度も明らかにドイツユースチームが上。

 地の利を活かせるかどうかが、勝利の鍵になりそうだ。

 

 そして、15両の戦車をどれにするかどうか……。当然、この点が大事になってくる。

 

 

「ケイさん、ナオミさんはやはり難しそうですか……?」

 

「さすがにこの期間で治すのはインポッシブルそうねー。あの子も悔しがってたわ」

 

 ジェシカさんとの戦いで骨折をしてしまったナオミさんは決勝までに回復は間に合わなそうだ。

 ナオミさんはノンナさんと同様に行進間での射撃精度がずば抜けているので、抜けられるのはキツかった。

 

 さらに――。

 

「ええっ!? ツチヤさんが風邪でダウンですか!?」

 

 レオポンさんチームがまさかの離脱である。

 

「ごめんねー。さすがに薬飲んで戦車を操縦はさせられないからさー」

 

 ナカジマさんは申し訳なさそうな顔をして謝った。

 いや、自動車部にはとんでもなく助けられてるから文句は言えない。

 

 ということで、18両から15両を選ぶことになったのだが……。ここで何やら大人の事情が絡むことになった。

 

 

「オーバーエイジ枠の三人を出さないでくれって……。どういうことですか? ルール上は問題ないはずですよね」

 

 私は日本戦車道連盟の理事長からの打診に食ってかかった。

 

「いやー、それを言われると何も言い返せないんだけどね。ドイツユースチームは全員高校生で組んでるみたいなんだよ。だからさ、その、大学生を使ってまで勝ってもイメージが悪いし……、言いにくいけど負けるともっと、ね」

 

 理事長はきっともっと上の人間から言われて仕方無しに言いに来てるのだと思う。

人の良い彼から申し訳なさが全面に出ていた。

 

「みほはどう思う?」

 

 共に呼ばれた隊長の西住さんに話を振った。

 

「そうですね。メグミさんたちの戦力が抜けるのは私たちにとって大きな損失です。しかし、理事長さんには廃校の危機を救うために力を貸して頂きました。不利な条件は今まで幾度もありましたし、それでドイツユースチームと同じ条件になるのであれば受けて立ちます」

 

 西住さんは凛々しく力の籠った声で理事長の出した条件を呑んだ。

 

 というわけで、自動的に参加する15車両は決まってしまった。

 

 大洗からはあんこうチーム、アヒルさんチーム、そして私たちカメさんチームの3両。

 

 黒森峰からはまほさんのティーガーⅠ、逸見さんのティーガーⅡ、赤星さんのパンターG型の3両。

 

 プラウダからはカチューシャさんのT-34とノンナさんのIS-2、そしてアリーナさんのKV-2の3両。

 

 グロリアーナからはダージリンさんのチャーチル、ローズヒップさんのクルセイダー、ルクリリさんのマチルダの3両。

 

 サンダースはケイさんのシャーマン、アンツィオはアンチョビさんのP40、そして継続からはミカさんのBT-42が出ることとなる。

 

 全部で15両の高校生のみで構成されたチームである。

 

 私たちは早速車長会議を開くこととなった。

 

 

 

「東富士演習場は少し前に大洗と黒森峰が決勝戦を行った場所です。今回は殲滅戦ですが、6両の車両はそこで戦った経験がありますので地の利はあると思ってます」

 

 西住さんははっきりとこちらの強みを話した。

 

「しかし、みほ。悔しいが敵の戦力はこちらよりも上だと見ていい。正攻法ではこちらの不利は否めないだろう」

 

「何よ、随分と自信なさげじゃない。ドイツユースだろうが、なんだろうが真正面から、けちょんけちょんにして、ボルシチの具にしてやれば良いのよ」

 

 まほさんは真っ当に慎重論を出すが、カチューシャさんは煽るようなことを言う。

 今は口論してる暇はないんだけどなー。

 

「まぁまぁ、カチューシャさん。まほさんは飽くまでも確実に勝つための助言を出してるだけですし。あと、まほさんもそんなに怖い顔をしてはダメですよ。ほら、カチューシャさんが半泣きになってるじゃないですか」

 

 私は二人の仲裁に奔走する。これは西住さんの苦手分野だから私が助けなくては……。

 

「で、考えはあるんだろ? みほ」

 

 二人が落ち着いたところで私は西住さんにパスを回す。

 

「そうですね。臨機応変にチームワークで戦えることが私たちの強みだと思っています。ですから三つの小隊に分けて、各隊の連携を密に取り合い、さらに隊内でもチームワークを意識して戦えるように組み合わせを考えましょう」

 

 西住さんは15両を5両ずつの小隊に分けて戦おうと提案した。なるほど、そういうことか。

 

「確かにわたくしたちは、5両の編成での戦いに慣らされていますし、決勝もその延長上だと捉えた方がいいかもしれませんね」

 

 ダージリンさんは納得したような口調でそう言った。

 

「オッケー、みほ。それでどんな組み合わせにしちゃうわけ?」

 

 ケイさんが西住さんに肝心の小隊編成について質問した。それは私も気になる。

 

「それについては今から説明します。先ずは小隊長ですが――」

 

 西住さんは小隊長を自分に加えてまほさんとダージリンさんを指名した。

 

 そして、小隊編成は以下の通りになった。

 

 西住みほ小隊(ミツバチ小隊)

 

 あんこうチーム(小隊長)、カメさんチーム、アヒルさんチーム、KV-2チーム、パンターG型チーム

 

 西住まほ小隊(コオロギ小隊)

 

 ティーガーⅠチーム(小隊長)、ティーガーⅡチーム、P40チーム、シャーマンチーム、BT-42チーム

 

 ダージリン小隊(カマキリ小隊)

 

 チャーチルチーム(小隊長)、クルセイダーチーム、マチルダチーム、T-34チーム、IS-2チーム

 

 この三つの小隊は常に固まって動き、必要があれば臨機応変に他の小隊と連携を取りながら戦うことになる。

 

 それにしても面白い小隊編成だ。

 

 まず意外だったのは、西住さんが自分の小隊に愛里寿さんを入れたことだ。

 私はてっきり彼女を小隊長にするのかと思っていた。しかし、西住さんの意図は把握できた。

 自分がやられてしまったときの代わりを愛里寿さんに託そうという狙いがあるのだろう。

 副隊長は私だけど、実力的には愛里寿さんがこの日本ユースチームのナンバー2なのだから。

 

 そして残る私たちは自分で言うのもアレだが大人しいタイプのメンバーで、勝手な行動はしないタイプ。

 おそらく西住さんが動かしやすいと思った人間を集めたのだと思う。

 

 逆に頭でっかちで個性派揃いはコオロギ小隊だ。

 なんせまほさんを含めて各校の隊長が4人いる。

 だからこそ西住さんは圧倒的な統率力と冷静な判断力のある、まほさんに彼女たちを任せたのだろう。

 逸見さんが仲良くやれるか心配だ。

 

 最後にカマキリ小隊。安定感抜群のグロリアーナとプラウダの連合部隊だ。

 扱いにくい、いや、ちょっとアクの強いカチューシャさんも付き合いの長いダージリンさんなら扱えるだろうし、二人とも西住さんに勝るとも劣らない策士だ。

 きっと、劣勢に陥ったとしてもあふれる知性で返り討ちにするだろう。

 

 小隊編成も決まり、その後は作戦を決めてこの場はお開きとなった。

 

 明日、高校生世界最強のチームが決まる。

 

 とてもプレッシャーがかかる試合のはずなのに、私は胸がワクワクして楽しみで仕方がなかった。

 自分より強い人たちと戦うってなんて幸せなんだろう。

 

 ――私はこの試合で一つ上のステージに上がってみせる。

 憧れてる西住みほの隣にまだ立っていたいから……。

 このままだと、絶対に彼女に置いていかれる。だから、明日の試合はチャンスなんだ。自分を高める絶好の機会なんだ――。

 

 

「私は付いていくよ。みほ、君の戦車道に……」

 

 私の部屋で西住さんと最後の打ち合わせをしているとき、ふと私はそう呟いた。

 

「ふぇっ? どうしたの? 玲香さん」

 

 西住さんは、少し驚いた顔をして私を見ていた。思ったことが口に出てしまって少し恥ずかしい。

 

「いや、このまま差をつけられたら、きっとみほは届かないくらい遠くに行く――。そう思っただけさ」  

 

 最初に戦ったときから、敵わないと思ってしまってた。大洗で模擬戦で戦ってそれは確信に変わった。 

 だからこそ、私は彼女を支える土台になろうとした。西住さんの力を十全に発揮できるように隣で戦える、そんな戦車乗りを目指してきた。

 

「そんなことないよ。玲香さんはずっとここに居てくれる。私は手を離さないから」

 

 彼女は私の手を握って、真っ直ぐに力強い視線を私に送った。

 

「ありがとう。でもね、やっぱり私は君の前で少しは格好をつけたいんだ。だから、強くなりたい」

 

「――玲香さんはいつも格好いいんだけどな。いい加減に自覚して欲しいかもって思ってるよ」

 

 西住さんは私の目を見たかと思うと、頬を紅潮させて目をそらした。多分、格好いいの意味が違うと思う。それは……。

 

「最近、駄目なんだよね。みほがそういう顔をしてると……」

 

「えっ、それって、どういう――んっ」

 

 西住さんが私の声に反応してこちらを見たタイミングで、私は彼女の唇を奪う。

 

「――っ、我慢できなくなる。君を独り占めしたくなるんだ……」

 

「…………ズルいよ、玲香さん。私だって我慢してたのに」

 

 もう一度見つめ合って、そして唇を重ねて、そしてそのままベッドに倒れ込む。

 お互いにすべてを奪い合いたい――。そんな気持ちになっていた――。

 

 

 

 しまった、決勝戦前にナニをやってしまったんだろうか私たちは――。

 

 思いっきり同じベッドで時間ギリギリに目を覚ました私たちは急いでシャワーを浴びて準備を開始した。

 

「玲香さん、今日もよろしくね」

 

「ははっ、みほはやっぱり凄いなぁ。こんな状況でも落ち着いてる」

 

 今日の西住さんは何だかいつもよりも覇気で満ち溢れていた。

 昨夜のアレのせいではないと思いたい……。いや、びっくりしたな……、まさか西住さんがあんな……。

 

「――玲香さん、ボーッとしてるけど、何考えてたの?」

 

「ごめん、えっと、寝る前のときのことを思い出してた」

 

「――ううっ、試合中は絶対に思い出さないでね。あと、今日の夜も……」

 

 私が余計なことを言ってしまったが為に、西住さんの覇気がみるみる小さくなって、顔が茹でダコみたいに真っ赤になる。

 てか、今日の夜って……。

 

「とっとにかく、勝とう。負けてしがらみが無い戦いとか、私たちには逆に新鮮だけど、今日負けたら、なんかヤダ」

 

「そっそうだね。負けたら、私もきっと色んなことを後悔すると思う。あんなことしたせいで負けたとか思いたくないもん」

 

 私と西住さんはお互いに必勝を誓い合い、決勝戦の舞台である東富士演習場へ向かった。

 

 ドイツユースとの決勝戦がついに幕を開ける!




決勝戦の舞台はアニメ原作の決勝戦と同じにしました。イメージしやすいと思いますし、黒森峰もドイツユースも似たような車両を使うので何となくです。
15両にサンダースが少ないのは申し訳ないです。ちょっと収まりきりませんでした。
小隊編成は単純な戦力よりも相性を優先して考えました。
カチューシャとか、まほにも食ってかかりそう、とか考えてダージリンと組ませたり。みほの小隊には三年生を入れなかったり。そんな感じです。
次回から決勝戦です。ラストバトルを盛り上げられるように頑張ります。

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