いよいよ、オリ主が主人公に挑みます。
戦車の戦闘描写って難しい。
「んじゃ、役割決めてこうー。仙道ちゃん、どうするー?」
戦車に乗り込んだ私たちは先ずは役割分担をすることにした。
「セオリー通りにするなら、車長は通信手兼任、それで後は装填手、砲手、操縦手を決めれば良いでしょうね。今回は通信手いらないですけど……」
私は当たり障りのない意見を出した。まぁ、場合によっては装填手あたりが車長を兼任とかもあるかもしれないけど……。
「なるほどねー。仙道ちゃんは何が得意とかあるのかなー?」
会長はさらに質問する。うーん、ブランクあるから一概にわからないんだよなー。
「一応、中学3年時は隊長ってポジションも兼ねてましたので、車長を。しかし、それまでは色々やってましたので一通り出来ます。特に砲手は得意でした。今ならパワーもあるので装填もまぁまぁこなせそうです。操縦はセンスが無かったですね」
私は簡単に自分の中学時代の経験を話した。
まぁ、最初だし私は何をやってもいいんだけど。
「会長が当然車長だな」
河嶋先輩は当然という顔つきで頷いた。まー、会長なら状況判断とか得意そうだし良いと思う。
「えーっなんか面倒だなー。まっいいけどー」
前言撤回、この人、絶対にサボる。
「私は砲手というのをやってみたい。良いだろ?」
河嶋先輩は砲手が希望みたいだ。一抹の不安はあるが、口を出すと煩そうなので頷いておく。
「じゃあ、小山先輩。私が装填でもいいですか? 多分、私のほうが力は強いので……」
「うん、私は構わないよ。じゃあ、私が操縦手だね」
小山先輩が頷いて、役割分担が全部決まった。まぁ、最初から戦車の操縦はなかなか難しいと思うけど、先輩は頭も良いし直ぐに覚えるだろう。
――うん、私は見誤っていた。小山先輩の力を……。
「会長、快調に進んでおります」
「座布団1まーい」
「えっ、小山先輩、凄くない?」
私が少しだけ操作方法を教えただけで、スイスイ進む。辛そうな表情だけど、すでに戦車の操作はほとんど出来ている。
私がこれくらい運転出来るまで何時間かかったっけ?
そして、特にトラブルもなく私たちはスタート地点に到達した。
『みんな、スタート地点に着いたようね。ルールは簡単。全ての車両を動けなくするだけ。つまり、ガンガン撃って、バンバン倒せばいいってわけ』
「いやー、随分ざっくりっすねー」
会長が蝶野教官のセリフにツッコミを入れる。ブーメラン刺さってますよ、先輩。
それにしても、この短時間で全チームがスタート地点に着いたのか。
まさか、1年生たちのDチームも……。各チームの様子見をしてたとき、大野さんは「先ずは服を脱ぎます」とか言ってたんだぞ。
もしかして、戦車道履修者がハイスペックだらけって事は――。
いや、それはないか。だって河嶋先輩も居るし……。
「おい、玲香。お前、私の悪口を考えて無かったか?」
「まさか、ありえませんよ」
危ない、危ない。なんで、こんなセンサーだけ敏感なんだよ。
「そんなことよりさー、どーする。仙道ちゃんは何か作戦あんのー」
会長は楽しそうに私に声をかける。
「そうですね。とりあえず、軽戦車は軽戦車らしくこっそり様子を見ましょう。多分、B、Cチームあたりは先ほどの蝶野教官がみほのことをアピールしたこともあり、経験者の居るAチームを狙い撃つと思いますから」
Dチームはそこまで頭が回らなそうだけど、1番強そうな敵を結託して倒そうとするのは基本的な戦略だ。この展開予想はかなり自信があった。
「しかし、玲香。お前とて経験者だろう。洗車をした際に他の履修生もそれは知っているはず」
河嶋先輩が私の考えに口を出す。まぁ、当然の疑問だよね。
「ええ、しかし、蝶野教官があれだけ西住流を称賛したのです。ただの経験者と、西住流の家元の娘。力関係は傍から見ても一目瞭然でしょう」
肩をすくめながら私は説明した。
「ほう、理屈はわかった。しかし、影からコソコソして漁夫の利を得るような姑息な作戦で戦おうとするとは思わなかったぞ。先ほどの玲香の覇気はそんな感じじゃなかった」
「いいえ、勝つために全力を尽くす。これが私なりの礼儀ですよ。先輩たちだって、負けたくはないでしょう? 後輩たちに――」
河嶋先輩の言葉に対して私は自分の意見をはっきり宣言する。西住みほに対して無策で挑むなんて、失礼だ。なんせ、以前の私は策という策を尽くしてコテンパンにやられたんだから。
「無論だ。私だって勝つつもりだ」
「玲香と桃ちゃんがやる気なら、私も協力するよ。何でも言ってね」
「いやぁ、若いって素晴らしいねー」
「桃ちゃんって言うなー!」
先輩たちの一連のノリが聞けて私は緊張が解れる。なんだかんだ言って、生徒会の雰囲気が身にあってるんだよなー。
先輩たちはみんな信頼できる尊敬すべき人たちだから……。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか? どうやらDチームがコチラに近づいて来たみたいですし」
私は外に顔を出して履帯の音を聞き、M3リーの接近を感じ取る。
「どうする? 迎え撃つのか?」
河嶋先輩が緊張した声を出した。
「いや、放っておきます。戦闘を開始するのは撃たれた後でいいです。まぁ、両方の車両が動いている状態では当たりませんよ」
行進間射撃は超高等技術。ただでさえこっちは軽戦車だし、動きながら当てるなんて初心者にはまず不可能だ。
「ふーん、なるほどねー。小山ー、とりあえず橋のところを目指すよー」
「わかりましたー。会長、橋のところってどうしてですかー?」
「うん? なんとなくに決まってんじゃーん」
「あははっ、そうですかー」
会長はいつものようにおちゃらけて指示を出す。しかし、そのポイントは私が隠れて狙い撃ちしようと考えていた場所と一致していた。
偶然なわけ――ないですよね? 会長――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さてさて、目標地点にもうすぐ到達というところで私たちは恐ろしい光景を目にすることになる。
橋の上でⅣ号はバランスを崩していた。
そこを予想通りⅢ突と89式が手を組んで狙い撃ちをしようとしていたところだった。
「さすがに初心者だらけだと、みほでも、力を活かすことは出来なかったみたいですね。残念ですが……」
私はAチームの敗北を予感した。
――しかし……、奇跡が展開された。
「はぁ? なんだ? あの動きは……」
突如、絶妙な操作でバランスの崩れた橋の上で完璧な移動をこなすⅣ号。
ちょっと待て、あんな動き初心者じゃ絶対に無理だぞ! まさか、西住さんが操縦を?
そして、Ⅲ突の砲撃を避けて砲頭を回転させ、一撃……。停止射撃とはいえ、Ⅲ突をきっちりと一発で葬る。
『Cチーム、行動不能』
あの砲撃も初心者離れしてるな。
「河嶋先輩、小山先輩。最大のチャンスが回ってきます。Ⅳ号は間違いなく89式を倒します。その瞬間が無防備になるチャンスです。出来るだけ接近して一撃で決めましょう」
私は戦況を見極め指示を出す。とにかく操縦手はあっちがはるかに格上だ。
河嶋先輩の砲手の腕はわからないけど、多分砲手の実力もあっちには及ばないだろう。となると、今のⅣ号と38tだと圧倒的な戦力差があるといっても過言じゃない。
だから、Ⅳ号が89式を仕留める瞬間が最大にして唯一のチャンスなのだ。
Ⅳ号が89式に狙いを定める。ここだ、この瞬間だ。
『Bチーム、行動不能』
砲撃の音に紛れさせ急発進してⅣ号に肉薄させる。きっちりと停止してゆっくり狙おう。
「撃て!」
「ふっふっふ、ここがお前らの死に場所だ!」
ドンピシャ! 最高のタイミングだ。やったか!?
――否、やってなかった。というか、かすりもしてなかった。
「桃ちゃんここで外すー?」
「小山先輩! バックして、全速で!」
私は敬語も忘れて大声を上げた。
小山先輩はさすがの処理能力で指示に従う。
『ズドーン』という破裂音と共に大きな揺れを感じた。くっ、ちょっと、かすったか。0.5秒遅かったらやられてたな。
「さすが、みほだ。こっちへの反応速度が並みじゃない。てことは、考えたくないけど、操縦はみほとは別人だ……。秋山さんか、五十鈴さん、それとも武部さんか?」
あの反応と指示は熟練の車長のそれだ。まさに化物クラス。西住さんに間違いない。
「河嶋先輩、私と砲手を代わってください。勝つ可能性があるとすればそれしかありません」
今の一撃で解ってしまった。河嶋先輩には砲撃の才能はない。並以下だ。悪いけど……。
このままだと、車長も操縦手も砲手も相手以下になってしまう。
で、Aチームの3回の砲撃見たり、感じたりして分かったけど、向こうの砲手は動いている相手への対応はまだ出来ていないようだ。
まぁ、そんなもの初日に出来るもんじゃないんだけど……。
操縦手は明らかに初日の動きじゃない……、天才かな?
私が砲手になれば一応、砲撃の1点だけは向こうを上回れるってわけ。
操縦手だと、恥ずかしいけど互角以下だろうなー。多分、向こうの操縦手はニュータイプ。「いきまーす」とか言ってるやつ。
「なっ、何ぃ? 玲香、お前、私が足手まといとでも言うのか?」
案の定、河嶋先輩が食ってかかる。長い付き合いだから分かってたよ。
「先輩が足手まといなわけ無いですよ。でも、ちょっとくらい私にカッコつけさせてください。リハビリ応援してくれた先輩に恩返ししたいんです」
「なっ……玲香……。ふん! 勝手にしろっ! 馬鹿玲香! 負けたら承知せんぞ!」
「ええ、勝って先輩の威厳を守ってみせますよ」
「当たり前だ。さっさと変われ!」
「はいっ! ありがとうございます。小山先輩、出来るだけジグザグに動いてとりあえずⅣ号と距離を取ってください。いくら向こうの指示や操縦が優れていてもそうそう当たらないはずです」
こうして、私と河嶋先輩は席を交代した。
さて、西住さん。第二ラウンドを開始しよう!
やはり、あんこうチーム(Aチーム)は強かった。
しかし、展開は原作とは異なる方向に……。桃ちゃん砲手のままも考えたけど、1ミリも勝てる可能性がなくなるから……ごめん。