また、かなり時間が空いてしまって申し訳ありません。
ついに始まりました。世界ユース大会の決勝戦です。
それでは、よろしくお願いします!
「遅い! 隊長、副隊長が何をやっている!?」
集合場所に遅れて到着した私と西住さんに河嶋先輩が怒鳴り声を上げる。
いや、ナニをやっていると言われても言えないんだけど……。
「仙道ちゃん、気持ちは分かるんだけどさー、程々にね……」
「玲香さん、頼むから顔に出さないでよー」
どんな表情をしていたのか分からないが、会長には察したという顔をされ、西住さんには顔に出ていると忠告される。
「みほ、来てすぐで悪いが全員世界大会の決勝ということで表情が固い。意志統一も兼ねて隊長からひと言もらえないか?」
まほさんがこちらにやって来て西住さんに隊長として意志統一の演説をするように促してきた。
「ええ〜! そういうのはお姉ちゃんのほうが……」
しかし、西住さんは首を振ってまほさんの方が向いていると主張する。
「何を言っている。隊長はお前だ。それに――ここにいる誰もが既にお前のことを隊長だと認めている。無論、私もな。大学選抜のときとは違い……、お前の下で戦えることを楽しくさえ思っているよ」
そんな西住さんにまほさんは自分の思いの丈を伝える。そう、西住さんは気付いていないかもしれないが、既に大洗メンバーだけではなく、日本ユース全体が彼女の実力を……、そして、隊長としての器を認めているのだ。
「お姉ちゃん……。――うん、やってみる!」
まほさんの言葉から何かを感じ取った彼女は力強く頷いて、演説をすることを了承した。
「まほさん、ありがとうございます。私もみほからひと言欲しいと思ってました」
「君がこういったことのフォローをやっていたことは知っている。少しばかり出しゃばり過ぎたかもしれん」
私がまほさんにお礼を言うと彼女は出しゃばったと謝罪した。そんな、畏れ多いですって。
「いえ、まほさんのお姉ちゃんらしいところが見れたので、それだけでも僥倖ですよ」
私は笑いながらまほさんの妹を想う気持ちが聞けて良かったと答えた。
「まったく、君は相変わらずだな。期待してるぞ。みほを助けてやってくれ」
「はい!」
彼女は私の肩を叩き、そして自分のチームへと戻って行った。
そして、西住さんは皆の前に立って声を出す。
彼女の声は決して大きくないけれど、聞くと勇気とやる気が湧いてくるそんな力がある。
「ここまで皆さんの力が1つになったから、勝ち進めたのだと思います。きっと、私たちの強さの根源は絆の強さなんです」
西住さんは最初にまず、みんなの団結力こそが強さだと言った。
確かに合宿以降の士気は高かった。学校の垣根を超えて日本ユースという1つのチームが出来上がっていた。
「――勝つことだけが、すべてじゃない。これは自分の戦車道を見つけようとしたときに気が付いたことです。みんなで一緒に練習したり、作戦を考えたり、関係ないことで盛り上がったり……。全部大切な想い出になっています。それだけでもこの大会には意味があったと心から思います」
彼女の戦車道は勝利至上主義の西住流とは違う。
仲間と共に歩んでいく戦車道こそ西住みほらしい戦車道だ。
「――でも、上手く言えませんが、私、どうしてもこの試合に勝ちたいんです! どうか、私のワガママに力を貸してください! あっ、すみません。途中から訳のわからないことを言ってしまいました――。ごめんなさい」
そんな西住さんが勝ちたいと言った。
勝たなきゃならない戦いでは、必ず勝とうとしてくれたが、今回はそれとはまるで違う。
仮に負けても何もしがらみはないのだ。
勝ちたいと思う気持ちをワガママというのが、彼女らしいが、あるいは本気でそう思ってるのかもしれない。
「バッカじゃないの!? 勝ちたいじゃないの! カチューシャたちは勝つの! あなたには頼れる同志がこんなにいるんだから!」
開口一番にカチューシャさんが声を出した。頼れる同志か……。言い当て妙だな。
「カチューシャ……、さん……」
西住さんはカチューシャさんの顔を見てハッとした表情をした。
「みほさん、この中には勝たなくていいなんて思っている方は誰もいませんことよ」
「ダージリンって、格言言わなくても喋れるのね……。アメージングだわ! でも、グッドよ! ウィナーになりたくない人なんていないもの!」
ダージリンさんの言葉にケイさんはわざとらしく驚いた顔をしていた。
確かに驚いたけど、ダージリンさんが自分の言葉を出すくらい燃えてるってことだよな。
紅茶もいつもの3倍速くらいで飲んでるし……。
「無論、私も勝つことしか考えていない。しかし、みほ、自分の戦車道を貫くことを忘れるな。おそらく我々の勝機はそこにある」
まほさんは姉らしいアドバイスを西住さんに送っていた。
日本ユースチームの士気が上がっていたころ、ようやくドイツユースチームの全車両が揃ったみたいだ。
ラウラさんとヒルデガルドさんも姿を現し、西住さんの友人である中須賀エミさんはこちらに向かって走ってきた。
「みほ! 約束通り決勝戦まで来てくれてありがとう! あなたがすごく強くなってたから、驚いちゃったわ! でも、負けないわよ!」
「うん! エミちゃんと戦えて嬉しいよ。私も勝てるように頑張るから!」
中須賀さんの言葉を正面から受ける西住さん。少し前とは比べ物にならないくらい落ち着きというか、貫禄が出てると思う。
「へぇ……、みほ……。あなた、強くなっただけじゃないね。なんでまほさんを差し置いて隊長なのか、わかった気がするわ。だからこそ、今のあなたを倒したい」
中須賀さんも小学生のときの彼女の印象と違うからなのか、西住さんの成長は技術的な面だけではないことを察したようだ。
「そうはいかないよ。割り込んですまないが……。みほを倒すという言葉は聞き捨てならない」
しかし、私も隣で西住さんを倒すと言われて黙ってはいられない。
「あなたは確か仙道さんだっけ? もしかしてみほ専用の
「うん。みほは私が守るよ。誰にもやらせない……」
私ははっきりと彼女にそう宣言をした。昔からの約束があるのはわかってるが、私にも譲れないことがある。
「玲香さん……」
西住さんは二人きりでいるときみたいな表情で私を見ていた。
「そう。ならいいわ。あなたごと倒させてもらうから」
中須賀さんは静かに殺気を漲らせて、私に強力なプレッシャーを与えてきた。
この人、本当に強いんだよなー。ティーガーⅠに乗ってるし、戦力としてはまほさんクラスを想定しとかないと……。
「エミ! 敵と馴れ合うなとあれほど言ったはずだ。もう試合開始だぞ! 持ち場に戻れ!(ドイツ語です)」
ヒルデガルドさんがこちらにいる中須賀さんに怒声を浴びせる。うーん。厳しそうな人だ。
「あはは、ヒルダ隊長にまた怒られちゃった。じゃあ、あとは戦車で語り合いましょう」
「うん。そうだね」
中須賀さんは怒鳴られてバツの悪そうな顔をして頭を掻きながら、西住さんにひとこと言い残して去っていった。
『それでは、これより、戦車道世界ユース大会決勝戦を開始します』
「イギリスとの戦いで事実上の決勝戦は終わっているのだが……。ここで、貴様らを圧倒してドイツ戦車道こそ世界一だと言うことをアピールするのも悪くない」
隊長同士が挨拶する際、流暢な日本語でヒルデガルドさんは話しかけてきた。
えっと、世界クラスの隊長って当然のごとくバイリンガルなの?
「ははっ、圧倒ですか……。楽しみですよ。そんなに強いドイツユースに勝って優勝することが。ね、みほ」
「えっ? あっ、はい」
私がヒルデガルドさんを煽り返して、西住さんにパスを出したら、彼女は頷いてくれた。
しかし、そのあとすぐにしまったという表情をした。
「日本人とは謙虚で慎ましい民族だと聞いていたが……。ユーモアのセンスと身の丈を知らぬ尊大な態度が目立つみたいだな。よろしい。すぐに力の差を見せつけてやろう」
ヒルデガルドさんは見事に煽りに対して反応した。
この辺にして、後は黙っておこう。前にカチューシャさんを煽り過ぎて思わぬピンチを招いたこともあるし。
「お姉ちゃん……。油断しないほうがいい。日本ユースは強いよ(ドイツ語です)」
「ルーデル家の者がそんな弱気でどうする! 貴様は誰よりも才能があるクセに、その弱気なところが駄目なのだ。圧倒的に勝つことだけを考えておけ!(ドイツ語です)」
ラウラさんが何やら困った顔で姉であるヒルデガルドさんに話しかけると、彼女は怒りの表情を作って彼女を責め立てた。何と言っていたのだろう?
「それでは! 一同、礼!」
「「よろしくお願いします!」」
「「
ついに決勝戦が始まった。この戦いで世界一のユースチームが決定する。
しかし、私などの戦車道がプロもいるようなドイツユースに通用するのだろうか……。西住さんを本当に守れるのだろうか……。
ここに来て急に込み上げる不安をなるべく考えないようにしながら、私はヘッツァーに乗り込んだ。
「こんなに早くこの場所でもう一回戦うことになるなんてねー」
黒森峰との決勝戦を思い出しながら、会長はそう呟く。
「あの日は生きた心地はしませんでした……」
「桃ちゃん泣いちゃったもんねー」
河嶋先輩の返答に反応して小山先輩は楽しそうな声で彼女を弄る、
「桃ちゃん言うな! というか、柚子だって泣いただろうが!」
河嶋先輩はいつもどおり怒りながら小山先輩にツッコミを入れた。
「あの日よりは精神的に楽でしょう。だからって、気を緩めないでくださいね。河嶋先輩」
「うっうるさいな! なぜ、私にだけ言う!」
私もその流れで河嶋先輩に話しかける。
「そりゃあ、河嶋先輩がこの車両の要ですから。大丈夫です。練習の時より上手くやればいいだけですから」
「そこは、普通は練習どおりと言うところじゃないのか!?」
私の言葉に対して河嶋先輩は愕然とした表情を浮かべる。
「ええ、会長と小山先輩にはそう言うつもりです」
「むぅ、私だけ……、力不足と言いたげじゃないか!」
彼女は頬を膨らませながら拗ねたような口調になった。そういうことじゃないんだけどな。
「いいえ、私もこのままじゃ置いていかれますから。一番の力不足は私です……」
そう、一番強くならなきゃいけないのは車長である、私だ。日本ユースチームの副隊長という肩書に見合わない実力……。
離される一方の西住さんとの差。それは才能の差と言ってもいい。
「馬鹿者!」
「えっ?」
私が力不足を嘆いていると、河嶋先輩が大声で私に向かって怒鳴った。
「卑屈さなんて、お前には似合わん! お前の武器はどんな相手にも引かないふてぶてしさじゃないか!」
「河嶋先輩……」
河嶋先輩は私がウジウジしていることは似合わないと言った。私には私の武器があるとも……。
「仙道ちゃんには助けられてるよ。私や河嶋に正面から文句を言える後輩なんて仙道ちゃんしか居ないんだからね〜」
「西住隊長だって、それは出来ないもんね」
確かに会長たちの傍若無人さに苦言を呈することができる後輩は私くらいだけど、それが今のこの状況と何の関係があるのだろうか。
「それは、戦車道には関係ないのでは?」
「そうとも限らないよ〜? 仙道ちゃんにしか出来ないことがあるってことは、この試合にだってきっとある。肝心なのは機会を見逃さないことだよ。でも仙道ちゃんなら大丈夫。見つけられる」
私の疑問に会長は答えてくれた。私には私にしか出来ない役割があると。
でも、それが出来るタイミングをキチンと見つけないと意味がない。私にはそれが出来るとも言ってくれた。
「会長……。ありがとうございます……。会長に教えてもらったことも、含めて全部ぶつけてみせます!」
なんだろう……。会長からの言葉はいつも私の力になっていた。
私が大好きな戦車道を再開出来たのも会長のおかげだ……。
そんな会長が私のことをここまで信頼してくれてるんだ――。
気付けば胸の不安は四散して、頭の中はスッキリと冷静になっていた。
今までになくコンディションは良い……。
よし、今日はぶつけるぞ。ありったけの私だけの戦車道を――。
最後の生徒会の会話を書いていると、やっぱり彼女を生徒会に入れて物語を進めて良かったと感じます。
次回もよろしくお願いします!