戦車乗りとしての玲香を頑張って書いたつもりですが、いかがだったでしょうか?
《みほサイド》
ふぅ、危なかったなぁ。
89式を砲撃するタイミングを突いて、38tがいきなり近くに出てきて攻撃するなんて――絶対に玲香さんの指示。
それにしても、絶好のチャンスで敢えてかすりもさせないなんて、何か意味はあるのかな?
「きっと玲香殿の挑戦状です! スキを突いて勝っても面白くないって考えているんですよー」
「あー、わかるー。玲香って結構プライド高そうだからそういうところありそうだよねー」
「正々堂々、タイマンで決着。実に素晴らしいじゃありませんかー」
「ただ、砲手が下手なだけじゃないのか? まぁ、あれだけ近距離で外すのは余程のノーコンだろうが」
「もう、麻子ったら!」
挑戦状かぁ。玲香さんはカッコいいなー。私だったらそんな怖いことできないよー。
玲香さんからの挑戦状。うん、これはちゃんと受けなきゃ駄目だよね。本気で戦わなきゃ、前にエリカさんに怒られた時みたいになっちゃう。
玲香さんと本気で戦うのは気が引けるけど――軽蔑されるのは、もっと嫌だ!
私、全力で戦うよ? 玲香さん――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――ゾクッ、今、なんか凄いプレッシャーを感じたんだけど……。
「とにかく、逃げますよ。逃げて、逃げて、逃げまくりながら、私が仕留めます!」
行進間射撃――ブランクのある私にはキツイけど――1 発くらいは決めてみせる!
小山先輩はぎこちないがジグザグに動き森の中を突っ走る。案の定、Ⅳ号は追いかけてきた。
速いなおいっ! 完全に追いつかれるまで5分、いや4分30秒ってところか。それまでに勝負を決めないとな。
砲塔を回転させ、相手との距離とスピード差を測り、追いつかれるまで時間を概算した私は照準を定める。
「先ず一発目!」
砲手に代わってからの最初の一撃を繰り出す。
破裂音とともに繰り出された砲弾はⅣ号の履帯を掠る。ちっ、やはり簡単に当たってくれないか。
「河嶋先輩、ドンドン行きますよ。装填お願いします!」
「言われるまでもない!」
相手の砲撃はさすがに動きながらだと全然こちらに当たらなかった。まぁ、普通に初心者だとそうなるよね。
私はちょっとずつ調整しながら砲撃を続けた。嬉しい誤算は河嶋先輩の装填が上手かったことだ。
えっ? これはイケるじゃん。どんな人にも特技ってあるんだなー。
「お前! 今後に及んで私を――」
「違いますって、河嶋先輩、間違いなく装填の才能ありますよ。すごく撃ちやすいです」
「えっ、あっ玲香? そうか、ふーん、別にお前になんかに褒められたって嬉しくないんだからなっ!」
ん? ツンデレ? まぁいいや。なんか、小山先輩から禍々しいオーラを感じるから黙ってⅣ号倒そうっと。
射撃の精度を高めるには先ずは集中力だ。
いい砲手ってクールな性格の人が多いけど、それって何事にも動じない鋼のメンタルの影響なんだよねー。
高校生最強の砲手って言われるサンダースのナオミさんや、プラウダのノンナさんって、やっぱキャラ的にクールキャラだもん。
残念ながら私はそんなキャラじゃない。だから精度にはムラがあった。燃えてるか燃えてないかで――ふふ、西住さんと追いかけっこしてて、今、私は最高に燃えてるよ。
――ズドンという音から手応えを感じる。よしっ、やっと車体に一撃入れることが出来た。白旗判定は出てないけど、少しはあちらさんの顔色を変えることが出来ただろう。
ニヤリと口角を上げたのは尚早だった。一撃与えたことがきっかけでⅣ号の動きが不規則なジグザグを描くように変わったのだ。
くそっ、なんだよアレ? 西住さん、初心者に無茶ぶりするなよ。そして、操縦手それに応えないで下さいます? チートじゃんあんなの……。
あと、1分くらいか? それならもう一発くらいは――。
「きゃっ、何これ? ぬかるみ?」
小山先輩が悲鳴を上げたのと同時に戦車の動きが止まる。
くそっ、こんな時にぬかるみに嵌まるなんて「ツイてない」!
ん? 「ツイてない」だって? 待てよ、こっちって確か、Aチームのスタート地点付近……。
まさか西住さんは、逃げてるつもりの私たちをここに誘導した? 全然当たってない砲撃はコチラを狙ったのではなく、この場所に誘い出すものだったのか……。
鳥肌がブワッと立った。そして見えてしまった、車長として、いや、戦略家としての私と西住みほとの次元が違う大きな差を……。
Ⅳ号はもう目の前、くそっ、万事休すか……。
「諦めるな、腑抜けがっ! さっさと撃たんか!」
河嶋先輩の声で私はハッとする。なんと、先輩はバランスを崩した車内で装填をやってのけていたのだ。嘘だろ。河嶋先輩をすごいって初めて思ったよ。
「お前――こんな時に――」
「いや、素直に凄いです。愛してますよ、河嶋先輩」
「なっ! 早く撃て馬鹿者」
――そして、Ⅳ号と38tは同時に砲撃した……。それは――永遠に近い時間に感じられた……。
『Eチーム行動不能! よって、Aチームの勝利!』
はぁ、及ばなかったか。あと20cm中央に寄せなきゃ駄目だったなー。まぁ、ぬかるみに追い詰められた時点で完敗だけど。
「そういえば、Dチームってどうしたんですか?」
「およっ、仙道ちゃん、集中しすぎて全然聞いてなかったんだねー。Dチームはとっくに行動不能になってたよー」
「へぇ、いつの間に……」
私はそう言葉をもらした瞬間、グワッと負けたっていう実感が体を襲ってきた。
「玲香、お前……。泣いているのか?」
河嶋先輩に指摘されて私は涙を流していることに気が付いた。えっ、恥ずかしっ! 練習で泣いたことなんてないのに……。
「余程悔しかったんだね、玲香……」
小山先輩が優しく声をかける。
「えっ、いや、そうじゃないんです。何というかその、これは嬉し泣きというか……」
「はっ? 負けて嬉しいのか? お前は……」
私の発言に河嶋先輩と小山先輩が不思議そうな顔をする。
「にしし、よっぽど戦車道が出来て嬉しかったんだねー、仙道ちゃんは」
会長は即座に私の心境を見抜いた。
「ええ、負けた実感をしたとき、同時にハッとしたんですよ。私、あれだけやりたかった戦車道が出来てるって。そして、もう1つ、やはり凄かった西住みほと一緒に戦車道が出来るということに感激したんです」
私は自らの心情を素直に話した。
「会長、みほは凄い人です。この大洗女子戦車道チームは最高の選手を手に入れることが出来ました。私は彼女のライバルには成り得ませんが、サポートは出来ます。だから――」
ひと呼吸おいて、会長に進言した。
「西住みほを我々の隊長にして下さい。私が副隊長をやります……」
「なっ、玲香! 調子に乗るな! 隊長は我々3年生が――」
「ん? いいよー、元よりそのつもりだしー」
「かっ会長ー?」
河嶋先輩の抗議を軽くかわして、会長はあっさりと許可を出す。
「会長、玲香も西住も2年ですよ! 我々の威厳が!」
「河嶋ー、威厳じゃ勝てないんだよねー。2人の実力は抜きん出てる。考えてもみなー、一昨年前の中学戦車道の優勝、準優勝の隊長同士がタッグを組むんだよー。なんか面白いじゃーん」
最後は会長らしい面白いからって理由だったけど、彼女がプライドなんて投げ捨ててでも優勝したいという心は伝わった。
これが私の高校戦車道の第一歩目だ。こんなに嬉しい敗北は初めてだった――。
「みんな、グジョブ・ベリーナァイス! 初めてでこれだけ乗れるなんて素晴らしいわー」
いや、全くもってその通り。
「特にAチーム――と、Eチーム。あれだけの戦いが練習で出来るならきっと強くなるわよ! すっごく興奮しちゃった!」
蝶野教官は満面の笑みで私たちを称えてくれた。まぁ、私なんて途中から練習ってこと忘れてたからなー。
戦車に乗ってハイになってたし、思わず「ヒャッハー、最高だぜぇ!」って叫びそうになってたよ。
蝶野教官の連絡先とちゃっかりサインを手に入れてルンルン気分で今日の練習を終える。
ボロボロに汚れてしまったので、西住さんたちとお風呂に入ることになった。
その道中というか、ずいぶん前に気づいていたんだけど、なぜ冷泉麻子さんがAチームに居るのか。
学年主席、冷泉麻子。いつも眠そうな顔をして学校にいる小柄な彼女は私のクラスメートだ。話したことほとんどないけど。
そして、重度の遅刻魔である。低血圧が原因らしいが――医者に行ったほうがいいんじゃない?
なんと、彼女がⅣ号の操縦を後半ずっとやってたらしい。なんでも五十鈴さんが砲撃のショックで失神したからだそうだ。
あれだけのドライブテクニック、もしかしたら経験者かと思っていたら、なんでも未経験らしい。マニュアル読んだだけなんだって。なんだそりゃ、やっぱニュータイプだろ。
「さすが学年主席」とか言ってるけど、いや、そんなの理由にならないから。その理屈だと東大生が戦車道最強になっちゃうから。
とまぁ、冷泉さんが運転していたのはわかったが、彼女は戦車道を履修していない。別の科目のはずだ。
欲しい。副隊長として彼女は絶対に欲しい。明らかに天才だ。常軌を逸した存在である。
そんなこんなで私の中では冷泉麻子獲得したい願望が最高潮に上がっており、勧誘の機会を虎視眈々と狙っていながら、お風呂まで歩いていたのである。
本当はお風呂からの麻子加入まで入れたかったけど、多くなりすぎるのでここまで。
グロリアーナ戦を書くのが怖い。一応、流れは考えてるけど、伝わるように書けるかどうか。
もっと言えば、この模擬戦も伝わってるかどうか怖いです。