時逃れ   作:最強好き

2 / 6
夕暮れ

私は夕暮れの中を歩いた。

車のタイヤに弾き飛ばされる小石、どこからか飛ばされてきたであろう隣町のスーパーのレシート。

その全てが私を彩るピースだった。

学生の笑い声、香るコンビニのホットスナック、甘酸っぱいカップルの赤く染まる空気。

死に物狂いで生きている私は、それを羨ましく思う。

 

戦火で埋め尽くされた焦土の上に私は立っている。幾人もの思いを刻んだこの地では、夕焼けが美しいのだ。

コインランドリーに行き交う主婦の会話は、常に生き続ける人間の原動力の元となる。

ヴァイオリンの音に視線が行き交う裏通り。

建物の隙間から見える空の陰り。

蹲る子供の、なんと悲しき姿か。電車が行き交う路線図を薄目に、流れゆくサラリーマン、風俗嬢、ピエロ。

 

私は、いや私のようなちっぽけなゴミが暮らすここ島国では、心と心の通いがあるのだろうか。

他人を憎み、誹謗中傷し、横目に流す。あげつらう言の葉を並べた、寂しきマリオネットは、誰だ。誰だ。誰だ。誰だ。誰だ。誰だ。誰だ。誰だ。誰だ。

すべて消えてしまえ、全て消えてしまえ、総て消えてしまえ。sUbeteきetEsImaェ。

心の陰りは、空の陰りとは違って消えてくれない。いつも横にあり、気を抜けば襲ってくる。上辺だけを並べて、心を偽る者のなんと愚かなことか。

 

藍染のシャツにしみ込んだ夕暮れの雨が、静かに冷やすアスファルト。

仮初めの仲に走る信濃川。あなたがそばにいてくれたから。

 

あなたは?

 

わたしは?

 

 

 

 

ここには気狂いしかいない。日々を諦め、自分が自分であることを認めようとせず、思考放棄異常論理記憶喪失自傷行為。

ソプラノの声に耳を傾けたのは、他の誰でもない。私だ。

 

歌を歌おう。世界に聞こえるように、歌を歌おう。

例え言葉が通じなくても、例え音程が外れようとも。

歌は規律を想起する。

歌こそ自由であるべきだ、なんて、戯言のような言葉だって、私は信じる。だってそれしかできないのだから。何故って?その理由を見つけるのが生きるってことだから。

 

ハープの音が聞こえてくるこの地では、嘆き悲しみ震える夜もある。

力の無さ、不甲斐ない、そう思う現代の大人は多い。

あなたには力がある、なんて簡単には言えないけれど、ないとも言えない。

決めつけたって意味がない。それは我々が人間だからである。

小さいことで感情は変わるし、揺れ動く。

しかし、明日を信じて私は、私たち人間は歩み続ける。

空に浮かぶあの夕日に、夜空に浮かぶあの星に。

思い、祈り、願い。

 

私は夕暮れの中を歩いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。