石上優は(もっと)見舞いたい   作:瑞穂国

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おまけです。


【おまけ】

ミコが風邪を引いてから一週間後―――

 

 

 

「手伝うよ」

 

夕焼け染まる、授業終わりの廊下。風紀委員関連の書類と活動日誌を運んでいたミコは、後ろからの声に振り向く。立っていたのは優だ。

 

「助かる。ありがと」

「どうも」

 

優は上半分から少し多い書類をひょいと取り上げ、ミコの隣に並んだ。見た目の線が細いから忘れがちだが、こういうところは男子なのだなと改めて実感する。筋力の差とか、体格の差とか、ちゃんと優を見れば見るほど、はっきりしてくる。横に並んだ彼の顔は、ミコから頭一つ分見上げる位置だ。

 

―――キスするとき、ちょっと大変だったな。

 

的外れな自分の思考を、ミコは頭を振って霧散させた。

 

「風紀委員室に持っていくのか?」

「日誌はね。でも先に、書類を職員室に出してくる」

「了解」

 

そんな受け答えをしながら歩く間、優はずっとミコに歩調を合わせてくれていた。

 

二人分の足音が、廊下に木霊する。放課後の時間に、学園内の人影はまばらだ。運動部はグラウンドや体育館で活動をしているし、文化部にもそれぞれの活動場所がある。校舎内は橙色の静寂に満たされて、世界にはミコと優の二人だけ。

ふとした笑みが漏れるのも、無理からぬことだ。

 

職員室に書類を提出し、残すは風紀委員室に置く日誌だけだ。定例会のない今日は、部屋の中に誰もいない。

優を招き入れ、持っていた日誌を机の上に置いてもらう。

 

「これでいいのか?」

「うん。明日の朝、委員長がチェックするから」

 

これでミコの仕事は終わりだ。今日は生徒会の活動もない。あとは帰宅するだけである。

 

ただ、その前に少し。

部屋から出ようとした優を手招く。窓際に立つミコのもとに、彼は怪訝な表情で近づいてきた。長い前髪で半分隠れた顔に、差し込む夕陽が反射する。

 

「何?」

 

尋ねた優には答えず、ミコは素早く動いた。

制服の襟に手を伸ばす。首のホックを開けて着用している優の学ランは、難なく掴むことができた。そのまま優を引き寄せる。生徒会マッスル選手権最下位の筋力でも、不意をつけばこれくらいは余裕であった。

 

あの時と同じように、優は驚いた顔をしていた。

 

狙い違わず、ミコの唇が優の唇に重なる。触れるだけでは済まさない。引き寄せた勢いそのままに、押し付けるようなキス。それでも優の背は高くて、ミコはなんとか精一杯、背伸びをしている状態だ。

十秒、二十秒。息の続く限り唇を合わせ、ゆっくりと互いの熱を交換する。優はじたばたしているが、それでもミコを押し退けたりはしない。まるで壊れ物を扱うように、その力加減は優しかった。

 

唇を離した瞬間、優は大きく息を吸い込んで、二歩三歩と後退った。その顔はこれまで見たことがないほど赤くて、ゆえにミコはほくそ笑む。

 

「おまっ、な、なに、すんっ」

 

言葉になっていない抗議に、ミコはそっぽを向いた。

理由なんてない。うまく説明できない。ただ単純に、優にキスがしたかった。それだけだ。そう思った途端、自制が利かなくなっただけだ。

そんな内心をごまかすべく、ミコは明後日の方を向いたまま、優に答える。

 

「さ、帰ろ」

「・・・人の唇を突然奪っておいて、随分清々しい態度だな」

 

優の不満げな声には答えず、ミコは風紀委員室を出た。鞄を取りに、教室に戻らなければ。

数歩遅れて部屋を出た優も、ミコに並んで教室へと向かう。

 

誰もいない教室の、それぞれの机から鞄を取る。太陽はさっきよりもさらに傾いて、ほとんど真横から教室を照らしている。カーテンを通しているから、部屋はかなり薄暗かった。

 

「ミコ、忘れ物してるぞ」

 

教室を出ようとしたミコは、優に言われて振り向く。何か置きっぱなしだっただろうか。

 

次の瞬間、何かが―――優の腕が、ミコの腰を強く引き付けた。突然すぎる出来事に反応が遅れたミコ。そもそも、力では優に敵わない。ミコはされるがまま、優に抱きかかえられる。

足に体重が乗らない。踵が浮いている。そこまで気づいた時には、もう手遅れだった。

 

優の唇が、ミコの口を塞ぐ。今更のように出そうになった抗議の言葉は完全に遮られ、ミコは抵抗の手段を失う。全身の力が吸い取られるような感覚。どこの筋肉にも力が入らない。ミコを支えているのは、腰に回った優の腕だけだ。

苦しい。息ができない。でも心地よくて、幸せ。酸素が薄くなったせいか、ミコの思考はどんどんぼんやりとしていく。

 

やがて、優がミコを解放した。肺一杯に空気を吸い込んだミコは、何とか机に手をついて、自分のバランスを保った。

 

「な、何すんの、石上っ」

「仕返しだよ。―――あと、二人きりの時は、名前で呼ぶんじゃなかったか?」

 

してやったりとばかりに笑う優。その顔に頬を膨らませつつ、通学鞄でべしべし優を叩く。けれども、決して悪い気はしていない、ミコであった。




以上、色々拗らせた結果生まれた小説でした。

いやほんと、これからの展開から目が離せませんね・・・
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