俺と友の信じる力   作:カムカム@もぐもぐ

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3話

玉座の間でのモモンガさんとの話し合いはすぐに終わった。

守護者の忠誠心が見れたので、ナザリックのNPCが牙を剥くと言うことが無いことが証明されたようなものだ。

もちろん演技の可能性もあるし、どこまで信用していいのか、ということもあるが俺とモモンガさんが愛して止まないアインズ・ウール・ゴウン、そしてナザリックのNPC達が裏切るのであれば俺たちの力不足であり、想いは伝わらなかったと言うことだろう。

 

「まぁでも、ガエリオさんがいれば最悪あの場で全員に襲い掛かられても逃げるくらいは簡単だったかもしれませんね」

「あまり過信されても困るけど」

 

しかしナザリックは広すぎて不安になる。ゲーム時代はそうは思わなかったが、この大墳墓が自宅になるのわけでこれからここで生活していくのだ。

現にこの玉座の間の天井もあり得ないほど高い。

墓とは到底思えない広々とした空間に居心地の悪さを覚える。

いくらなんでもこの広さはそうそう経験したことがない。

 

「いやいや、たっちさんとほとんど互角の強さなんですから守護者全員相手でも行けるんじゃないですか?」

 

まぁたしかに負け越してはいるがたっちさんとほぼ互角だと言う自負がある。

それだけの経験をユグドラシルの間に積んだのだ。

だがモモンガさんよ、忘れてないか?

 

「この軍服はいい装備ですけど、本来の力が出せるほどじゃないですよ」

「……あー、たしかに」

「そもそも俺は、出来るなら守護者やナザリックの者とは戦いたくない。……去っていった彼らのことを考えると、ね」

 

モモンガさんは考えるように顎に手を当て、俯く。

きっと、最後のあの瞬間まで残った彼は俺と同じ気持ちのはずなのだ。

 

「その通りです、ガエリオさん。ナザリックの者達は皆去っていったメンバーの子供たちも同然。それを傷付けるなんて、できませんよ」

「……あぁ」

 

もし彼らが俺達を殺そうとしていたら、どうしたのだろうか。

たらればにはなるが、きっと俺はモモンガさんの首根っこ捕まえて逃げていただろう。

傷付けることはできない。でも、殺されてやるなんてごめん被る。

モモンガさんも、友なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玉座の間には再び守護者が集められていた。

守護者は膝を着き、主であるモモンガさんの言葉を待っている。

俺はモモンガさんが座る玉座の横に立ち、守護者同様モモンガさんの言葉を待っている。

アインズ・ウール・ゴウンのギルド長はモモンガさんだ。

最古参であり、彼らが真に忠義を捧げるべきは俺ではなくモモンガさんであるべきだと俺は思う。

 

今回は本来であれば玉座の横に立つであろうアルベドは、他の守護者同様に下にいる。

アルベドは統括の立場にあるが、今回は忠誠の儀と同様のスタンスで行こうとモモンガさんと話したのだ。

まぁ、もっと気楽でもいいがナザリックは一つの塊となって行かねばならない。

主であるモモンガさんを頭に据えたピラミッドのようなものと言うと分かりやすいだろうか。

 

「面を上げよ」

「はっ!」

 

モモンガさんの言葉に守護者達は顔を上げ、こちらに視線を向ける。

モモンガさんはスイッチが入ったのか支配者としての姿が堂に入っている。

 

「今回お前たちを集めたのには理由がある。だが、前回の忠誠の儀から1日として経たずに集めてしまったのは私の失態だ。許せ」

「いえ、そんな!モモンガ様が謝ることなどございません!」

「そうか。ならば早速本題に入ろう。……入ってこい」

 

モモンガさんが声を掛けると扉が開き、そこから一人の男がこちらへ歩いてくる。

そいつは玉座の段差の前に立ち、モモンガさんの言葉を待っている。

 

「モモンガ様、その男は……?」

「あぁ、前回の忠誠の儀の時に居なかったマクギリスだ」

「……っ!」

 

名前を聞くとアルベドを除く守護者が殺気が溢れだし、波のような殺意が玉座の間に充満する。

そうか、アルベドは一度会っているんだったな。

……守護者からすれば、至高の存在の言葉を無視したわけだからこうなることは事前の話し合いで予想していた。

 

「やめなさい!至高の御方の前ですよ!……失礼致しました、モモンガ様、ガエリオ様」

「構わん。私たちのことを思って怒ってくれたのであろう。マクギリス、自己紹介をしろ」

「はい。私の名前はマクギリス・ファリド。創造主はガエリオ・ボードウィン様だ。よろしく頼む」

 

マクギリスに役職を与えるとすれば、『第九階層 ロイヤルスイート』の領域守護者だろうか。

短めの金髪に長身、鋭くも優しげな風貌は美男子を体現した出で立ちである。

そして俺の着ている軍服と同様の物を着用させている。

正確な役職は無いが、あえて言うならば俺の友であり、一級品の戦力だ。

 

「モモンガ様、発言をよろしいでしょうか」

「ほう、申してみよアルベド」

「ありがとうございます。先の忠誠の儀の際マクギリスは至高の御方に呼ばれ、第六階層に来る予定だったはず。それを無視し、来なかったことは明確なナザリック、牽いてはアインズ・ウール・ゴウンへの反逆行為かと思います」

「ふむ」

「しかもマクギリス不在はモモンガ様とガエリオ様すらその理由を知らなかったご様子。これは許されざる行為。是非ともマクギリスに罰をお与えください」

 

確かにアルベドの言うとおりだ。

彼女は何一つ間違ってはいない。俺も人の上に立っていた人間だった。信賞必罰は世の常。

マクギリスは理由も告げずにすっぽかしたのだ。

守護者達の忠誠心を考えれば死罪すら生温いほど怒りが渦巻いているはず。

 

「その事に付いてだが、俺からいいか?」

「ガエリオ様……」

「マクギリスが来なかったのは俺のミスだ。……お前たちが創造主によって在り方を与えられているようにマクギリスにも俺から在り方を与えていた。しかしその事をすっかり失念し、あのような事態になってしまった。済まない」

「……それはどのような在り方なのか、お聞きしてもよろしいでしょうか。」

 

マクギリスが第六階層に来なかったのは完全に俺のミスだ。

マクギリスは俺の作った設定を遵守していたから第六階層には来れなかった。

だから設定を遵守して来なかったことに対し、彼が怒られ罰せられるのは道理が通らない。

俺のミスを子供とも言えるNPCに押し付けるなど親として、上司としてクズだ。

しかも部下である守護者が俺達をこれだけ立ててくれているのだから、半端な覚悟ではこの先どれだけミスを繰り返すかわからない。

だからそこ、これはケジメとでも言うべき罰を俺に与える。

それにアルベドの質問ももっともだ。創造主である俺がマクギリスを庇っているように見えても何ら不思議ではない。

 

「マクギリスは俺と同じ種族である鎧の悪魔(アーマーデビル)だ。そして、マクギリスには俺の鎧と同等の鎧を与えている。……その鎧は、替えの効かない真の一点物であり、その守護を最優先に据えていた。当然、俺の指示よりも優先度は上だ」

「……しかし失礼ながらガエリオ様。あの場はそれよりも優先順位を上げ、至高の御方の言葉通りに行動すべきだったのではないでしょうか」

「アルベド。この事に関しては私とガエリオさんで話をし、ガエリオさん、そしてマクギリスに罰を与えることで落ち着いている。……それともアルベド、お前は私が下した判断に口を挟み、なおかつガエリオさんに罰を与えられるほどの立場に居ると思っているのか?」

「!申し訳ございません!至高の御方に罰を強要するかのような発言、更にはモモンガ様が既にこの事柄に対し判断を行っていることを察することのできない無能な私をどうかお許し下さい」

 

モモンガさんの威圧感が増し、アルベドの言葉を遮る。

しかしながら悪いのはどう考えても俺。

モモンガさんが俺を庇って言ってくれたのは分かるが、俺も申し訳なさが増すばかりだ。

 

「アルベド、それから守護者の皆。今回の件は完全に俺のミスだ。小さなミスだが、今後こういった小さなミスがナザリックを危険に巻き込まないとも限らない。だから、俺はモモンガさんからの罰を遂行し、反省し、二度と同じミスを繰り返さないことを誓う。だから、どうか許してもらえないだろうか」

 

俺の本心を口にし、頭を下げる。

俺が頭を下げたことによる動揺だろうか。

困惑したような空気が漂う。

 

「モモンガ様」

「構わん。ガエリオさんは、お前たちに判断を委ねた。許さないと言うのであればそう言って構わない。許すのであれば、言葉を掛けてやってくれ」

「……わ、私は許すでありんす!」

「シャルティア」

「そもそも至高の御方に、罰を与えること自体に反対でありんす。私は至高の御方が私たちの上に、支配者として居てくれればそれだけで幸せでありんす」

「私も同じ意見です!間違ってしまったことを謝ってくださった事が、それだけで嬉しいです!」

「ぼ、僕もシャルティアさんと、えっと、お姉ちゃんと同じ意見です」

「私ハ、至高ノ御方ノ一振リノ刃。元ヨリ御方ノ存在自体ガ嬉シクアリマス」

「私も彼らと同意見です。至高の御方に対しどうこうしようなどと言うシモベはおりません。当然先程のアルベドの発言は、信賞必罰を口にしただけのことでしょう。本心ではないはずです」

「……先程は申し訳ありませんでした、ガエリオ様。本来であれば首を差し出してなお罰としては生温いと理解しておりますが、今はガエリオ様に対するお気持ちを伝えさせていただきます。私はガエリオ様はモモンガ様同様、最後までナザリックに残ってくださった至高の御方として忠義を捧げさせていただきたく思っております」

 

……あまりの感動で涙が出そうだ。

モモンガさんと話した罰とは、守護者にその判断を委ねると言うものだった。

さすがに死罪を言い出した場合は止めると言っていたが、命を差し出す覚悟をしている部下の上司なのだから多少の無理は聞き入れるつもりだった。

そもそもミスが小さすぎる。

たった一度、どこかでマクギリスの設定を確認すればそれだけでよかったのだ。

それを怠った俺には、十分な罰が必要だろう。

今回は守護者が言ってるように許してもらえたが、これがナザリックに危機を招き入れたりしたら命で償うしかないだろう。

 

「ありがとう。同じミスを繰り返さないことがこの恩に報いることになるだろう」

「……では、今回の件はこれで終わりだ。是非ともガエリオさんのようなミスをしないようにしないとな」

 

はっはっはっ!と笑う骸骨。

俺も守護者も笑えないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモンガとガエリオが去ったあと守護者達は話し合いをしていた。

議題は先程のガエリオの謝罪についてだ。

 

「しかし、至高の御方でもミスをするなんて思わなかったなぁ」

「お、お姉ちゃん。し、失礼だよ」

 

守護者にとって至高の41人は絶対の存在。まさか小さいとはいえミスを犯すとは思わなかったのだろう。

 

「いや、それは違うよ。アウラ、マーレ」

「デミウルゴス?」

「ふむ。やはり理解していたのは私とアルベド位ですか」

「ドウイウコトカ詳シク話シテクレ、デミウルゴス」

 

ふむ……それでは、と眼鏡を直すと守護者を見回し言葉を紡ぐ。

 

「簡単な話さ。ガエリオ様の話は徹頭徹尾ミスを犯さないこと、それの危険性についてだったね。あとはそうだ」

「マクギリスの紹介ね」

「おっとアルベド。ここの説明は私に譲ってもらうよ。まず第一におかしいと思わないかい?」

「ナニガダ?」

「マクギリスをお作りなられたのはガエリオ様自身だ。そしてガエリオ様自身もマクギリスと同じ種族。鎧の重要性を理解していないわけがないだろう?」

鎧の悪魔(アーマーデビル)でありんすか?」

「そう。洗礼された特別な鎧を纏うことで力を発揮する種族だね。同様の種族であるガエリオ様が本当に鎧の守護をしていたというマクギリスの在り方を忘れていたと思うかい?」

 

あっ!とアルベドとデミウルゴス以外の守護者は驚きの声を上げる。

どうやらここまでの話は理解できたようだ。

 

「で、でも、でもですよ。なんでガエリオ様が謝るんですか?」

「マーレ、我々にミスを犯させないためさ」

「え?」

「……私も至高の御方の智謀には遠く及ばないので全てを理解することは叶わないが、好意的な考え方をするのであればこれから行う何か、それは重要なコトだからどれだけミスだろうが致命的になる。だからこそ、モモンガ様とガエリオ様は一芝居打たれたのではないかな」

「そうなってくると、繋がってくるでしょう?マクギリスが第六階層に来なかったのと、その理由をモモンガ様とガエリオ様が知らなかったことが」

 

うーん。とシャルティア、アウラ、マーレは首を捻るがどうやらコキュートスは理解したようだ。

シュコーと冷気を噴き出しながら興奮したように話し出す。

 

「マクギリスハ初メカラ、モモンガ様トガエリオ様ノ命令デ来ナイ手筈ダッタト言ウコトカ」

「その通りさコキュートス。順番に整理しようか。まず第一にマクギリスが第六階層に来なかったのは、モモンガ様とガエリオ様の命令。これは先程のガエリオ様の謝罪が我々にミスを犯さないことの重要性を理解させるための布石。至高の御方であるガエリオ様が謝罪をしたとなれば、ミスをしないことの重要度とただ口頭で伝えられるよりもはっきりと伝わる」

「そして謝罪自体もそのあとのモモンガ様の発言からするに、私たち守護者が至高の御方に何を求めるかの確認。つまりは真の忠誠心を見ようとしたわけね」

「そうするとまっすぐ繋がっただろう?」

「ほ、本当だ!す、凄いです!」

 

マーレは大はしゃぎだが、アウラは釈然のしない様子だ。未だに首を傾げている。

 

「でもさ、至高の御方の考えが……うーん、私たちより頭が良いとはいえデミウルゴスとかアルベドに見抜ける程度のことなのかな」

「確かにそう思ったよ。でもね、アウラ。これだけのヒントが散らばっていれば流石に間違いないよ。そしてそのヒントの数々はモモンガ様とガエリオ様の優しさだろうね。至らない私たちの守護者の程度に合わせたヒントを的確に、分かりやすく散りばめてくださったのだから。それにだ、もしもこのヒントで真の忠誠心を計った際に忠誠心が見れなければ……」

「ど、どうなってたでありんすか!?」

「我々は至高の御方から全ての信用を失っていただろうね。ヒントから何も導き出せず、優しさから泥を被り頭まで下げられた至高の御方に罰を与えるような発言をしたのだから当然の報いさ」

 

その情景を想像したのか守護者は全員顔を青くしている。アルベドとデミウルゴスは途中で意図に気づいていたが、至高の存在であり、その智謀は計ることのできない御方の考えにヒントがなければ、辿り着けずミスを犯していたかもしれない。

もしもそうなってしまい、信用を失えば、もう生きている価値を失ったも同然だ。

特に先程勢いで真っ先に喋ってしまったシャルティアと気が弱いマーレは顔が真っ青だ。

 

「とにかく、今回のことは至高の御方の優しさのおかげで色々なことが学べた。さすがはモモンガ様とガエリオ様だ」

「本当にその通りだわ。マクギリスが登場して少し頭に血が上ってしまったけれど、途中で冷静になれてよかったわ」

「……全くでありんす」

「トニカク、コレカラハ至高ノ御方ノ言葉ヲ待ツダケデハナク理解シナケレバナラナイ」

「そうだね、コキュートス。至高の御方の信頼を築かなければ、我々守護者に価値などないのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マクギリス、お前に与えた在り方について確認しようと思う。いいか?」

「あぁ、ガエリオ」

 

マクギリスに与えた設定は幾つかあるが、この中でも特に重要なのが友だというのとだ。

色んな考え方があるだろうが、俺の考える友には敬語など不要だろう。

守護者の在り方とは少し違うがその辺の分別を付けられるだけの能力をマクギリスには与えているので、先程の集会では敬語を使ってくれた。

要らないトラブルは避けるべきだろう。

もちろん今後どこかで公表する必要があるが、今じゃなくていい。

 

「モモンガさんの好意もあって、お前には階層守護者と同等の立場が与えられた。セバスやパンドラズ・アクター同様にな」

「なるほど。確かに今後鎧の守護以外の任務が与えられたなら必要なことだろう。だが、守護者の中での地位は今のところ低いと見たがどうだろうか」

 

うん。設定が性格などに反映されているからか頭がいい。

馬鹿なマクギリスなんて見たくはないしこれでいいんだけど。

 

「あぁ、あくまでも同等の地位とは言ったが実際は領域守護者より上階層守護者よりは下くらいだな。有事の際は基本的に階層守護者の命令にしたがってくれ。だが、その判断が間違っているならば正せる位置にお前はいる。その意味が分からないお前ではないだろう」

「もちろんだとも」

 

マクギリスには『宝物殿』の領域守護者にしてアインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガさんの作ったNPC『パンドラズ・アクター』同様に階層守護者と同等の地位を与えた。

階層守護者はもちろん優れたNPCであり、俺やモモンガさんを第一に考えている。

 

それは良いことなのだが、この先何がどうなるか分からない未知の世界なのであれば予防線を張るための立場にマクギリスとパンドラズ・アクターを配置した。

パンドラズ・アクターの話をした時モモンガさんはめちゃくちゃ嫌がっていたが、NPCが動き出した以上避けては通れないことを薄々分かっていたのか最後は納得してくれた。

軍服はかっこいいのに。

 

そしてこれは何かあった際、当然俺やモモンガさんの命令が最重要だがその次にアルベド、そして次が階層守護者。

しかし例えばアルベドに意見できるのは階層守護者、及び俺かモモンガさんしかいない。

俺やモモンガさんを遥かに上回る知能を持つアルベドとデミウルゴスに意見するのは非常に難しい。

だが、パンドラズ・アクターとマクギリスにはアルベドとデミウルゴスに及ぶ聡明さを持っているとされている。という設定があるのだ。

設定とはもう人格や能力そのものだから、アルベドとデミウルゴスにミスがあった際それに切り込むのがマクギリスとパンドラズ・アクターの役目だ。

 

「とりあえずは何かあるまでこのまま鎧の守護を頼むぞ」

「もちろんだとも。(バエル)は何よりも優先しなければならないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も更けたナザリック内、デミウルゴスは自身の守護階層を見回りつつ内心での喜びを隠しきれずにいた。

 

「なるほど、さすがはモモンガ様とガエリオ様。確かに先程のモモンガ様のお言葉通りであれば些細なミスすら許されないだろう」

 

軽やかな足回りですたすたと見渡しながら歩き回る。

溶岩地帯を一切の苦もなく歩き回る姿は一見すると人間に見えるその姿からは想像もできないギャップを醸し出している。

 

「世界征服……ふふふ、たしかに至高の御方に相応しい所業にして当然の行い。そしてその難易度をすでに予感し、御身自らシモベに謝罪をするという辱しめを持ってしてその重要性を伝えるという寛大さ!その叡智!」

 

笑みを深め、気がついたらぐるりと一周し自身の居住である『赤熱神殿』に戻ってきていた。

 

「このことは一旦アルベドに伝え、その後に至高の御方二人の考えを広めるべきですね。万が一にも私やアルベドの話に納得せず、ガエリオ様が本当にミスを犯したなどという考えを持つなどという愚行を犯す愚か者がいるともしれません。……その様な不出来なシモベはすぐさま処刑しなければなりませんしね」

 

忙しくなります。と一人を口にし、両手を大きく広げながら神殿に入っていく後ろ姿は異形の要素が少ないその姿で悪魔であることをありありと感じさせる。

彼にとっては何に変えても至高の御方こそが至上の存在であり、これからの仕事に夢想しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セバス」

「なんでございましょう、ガエリオ様」

「モモンガさんは何を遊んでいるんだ?」

「失礼ながらガエリオ様。モモンガ様は遊んでいるのではなく、実験をしているのでございましょう」

「ん。……あぁどこかで見たことがあるような気がしたら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)か」

「はい。どうやらユグドラシルとは勝手が違うようで大変困難を極めております」

「……なるほど」

「聞こえてますよ、ガエリオさん」

 

骸骨が空中に浮かぶ鏡に向かって両手をバタつかせているのは大変ユニークな姿だ。

しかしよくそんなもの持ってた、モモンガさん。

 

「にしてもモモンガさん。よくそんなゴミアイテム持ってましたね」

「ゴミ……いや、たしかにゴミか……。せっかくですから大抵のアイテムは一つ以上は保管してあるんですよ」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)はまぁ、残念アイテムだ。

そもそも探知系のアイテムならもっと良いのがあるし、遠見のアイテムなら逆探知や、相手に気付かれずに見るアイテムや魔法もある。

探知に対してのカウンターにも弱いというユグドラシルではよくある下級アイテムだ。

しかしさすがのアイテムコレクターモモンガと言ったところか。

魔法も数百種類覚えているし普通に凄い。

 

「ん?お、おぉ!」

「おぉ!映った!」

「おめでとうございます。モモンガ様、ガエリオ様」

 

腕を動かし、画面を移動させると村が映りこむ。

元貴族としては民は無くてはならない存在だからな。

ナザリックのことを考えると戦闘民族みたいなのは嫌だが、のどかな風景を想像し顔が緩む。

 

「ガエリオ様。どうかなさいましたか?」

「ん?あぁ、俺は人を導く立場に居たからな。そして、民とは俺を支えてくれた存在だ。ならば、統治者は違えど平穏な暮らしを嬉しく思うのは当然のことだろう?」

「……大変お優しいのでございますね」

「馬鹿。俺やモモンガさんにとってのお前たちシモベみたいなものだよ。当然セバス、お前もな」

「ありがとうございます。他のシモベが聞いても大変喜びますでしょう」

「これは……祭か?」

 

どれ、と鏡を覗くと鎧に身を包んだ騎士のような姿の者達に無抵抗の村人が殺されていた。

 

「……ちっ!気分が悪い。……!?」

 

俺は手を振り払い、鏡から映像を消そうとするモモンガさんの腕を反射的に掴んでいた。

俺の心を支配したのは、怒り。

 

「ガエリオさん?って、痛い!痛いです!」

「……ふざけるな」

「え?」

 

ギリギリと怒りで腕に力が入るのを止められない。

あの格好からするとそれなりの地位にある者からの指示だろう。

あの虐殺にどんな意味があるのか、考えもつかない。

もしかしたら国同士のいざこざかもしれないし、見せしめの意味があるのかもしれない。

だが、それがなんだ。

国は、人だろうが。

人が居なければ、上に立つものは成り立たないんだぞ。

 

「モモンガさん。俺があそこに行く。……ふざけやがって、皆殺しだ」

「いや、駄目ですよ!ガエリオさん!相手の強さも分からないのに」

「俺は!死にゆく民を見殺しにするような男には成りたくない!」

「いや、しかしですね……!」

 

モモンガさんの言ってることも理解はできるが、怒りで頭が真っ白な俺には届いてこない。

腕にさらに力が入る。

 

「ガエリオ様。失礼ながら腕をお離しください」

「……悪い、モモンガさん」

「いえ、それはいいですが、やはり出るのは認められません」

「なら、俺のヴィダールを出す」

「え!?」

「それにアルベドを完全武装で寄越してくれ。この戦力でどうにもならない相手ならどのみちいつかナザリックは滅ぶだけだろ」

「……わかりました。俺も行きます。たっちさんと同レベルの戦士に防御特化の守護者、それに一応レベル100の魔法詠唱者(マジックキャスター)のパーティーです。ナザリック内ではこれ以上の戦力を捻出するとなると戦争になります。それにもしもナザリックに攻められることまで考えるとナザリックにも戦力を残す必要があります」

「……!俺は先に行く」

 

画面の中では少女二人が騎士に追われている。

見るからに普通の少女だ。

俺はアイテムボックスに手を突っ込み<転移門(ゲート)>が込められたスクロールを引っ張りだし使用する。

 

「ガエリオさん!えぇい、仕方がないセバス!アルベドに完全武装しすぐここに来るように伝えろ。ガエリオさん!無茶だけはしないでください!すぐ行きますから!」

 

俺はその言葉とセバスの了解の言葉を聞くと、<転移門(ゲート)>の効果である転移の扉に飛び込む。

困っていたら、助けるのは当たり前ですよね。

たっちさん。




次回 カルネ村

あと今回の投稿から通常投稿に移しました。
チラシの裏でやっていたことに特に意味はありませんが、ある程度の話数と文字数を書いたので通常投稿に移しました。

オーバーロードは好きな作品ですので、妄想が中々止まらないです。


それではまた次回。

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