キリがいいところ探していたらめちゃ長くなりました。
「黙秘権を使わせてもらおう」
「えー!ずるいっす!気になるっす!」
――もしも妃にするなら、プレアデスの中ならだれっすか?
なんて爆弾を投下したルプスレギナ。
権力者がメイドにセクハラするにも程があるぞ。
これでもしも適当な事を言って更にはこの事がナザリックに広まったら終わりだ。
『ガエリオさん……さすがにそれは……』
『守護者統括として見過ごすわけにはいきません』
『うわぁ、さすがにないですよ……』
『ぼ、僕もないと、思います!』
『アリエナイ所業故失望シマシタ』
『ふむ。これは支配者として相応しくないですね』
『ガエリオ様との婚約、無かったことにするでありんす!ペロロンチーノ様だって間違いを犯すことくらいありんしょう』
終わりだわ。
「お前らのことは、大切な子供みたいなものだからな。もしもお前らが俺のことが本当に大好きで、大好きで、大好きで……一生を添い遂げたいと思ったら考えるさ。だから」
机に手を着き乗り出してこちらに顔を近付けるルプスレギナのおでこにコツンと優しく指を当てる。
そして微笑んでおく。
笑顔は無敵だ。
「支配者としての俺だけじゃなく、個人としての俺を好きになってどうしようもなくなったら言いに来い。いいな?」
「あ、う。……はいっす」
「ということでこの話は終わり。なんかバタバタしてしまったな」
俺は立ち上がると、首を一度ボキリと鳴らす。
「指示があるまでは休みにしておく。何かあればアルベドかセバスから連絡が来るようにしておくからゆっくり休め。お茶旨かったぞ。ありがとう」
「はっ!しっかりと休ませていただきます!」
固いが、今はそれでいいか。
俺は手をヒラヒラと振り、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移した。
睡眠から目を覚ますと心なしかナザリックの中がバタバタしているような気配がある。
俺に何も言ってこないということは敵襲ではないだろうが、どうしたというのだろうか。
「起きたか、ガエリオ」
「マクギリス」
「睡眠を好んでとるとは悪魔にしては珍しい習慣だな。……時折ナザリックから居なくなったのはそのためか?」
「まぁな。体力を温存するにはいい手段だろう」
マクギリス達シモベにはユグドラシル時代の記憶がある。
リアルのことを話すわけにはいかないが、人間だったときの習慣で飲食ができるのは悪魔で幸運だった。
モモンガさんはアンデッド、しかもオーバーロードという骸骨なので睡眠も飲食もとれないから可哀想だ。
「それで、バタバタしているようだがどうかしたのか?」
「あぁ、アインズ様が少しな」
「ん?」
「恐らく守護者が玉座に集まっているだろうから向かうといい。俺はこれからバエルを磨く」
「わかった」
俺は着替えると即座にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動し、玉座に転移する。
そこには守護者達がなにやら話し合いをしているので、声をかけようとするがあちらの方が先に気づいたようだ。
「これはガエリオ様。おはようございます」
「おはよう。だが、もう昼だな」
挨拶を軽く交わし、直ぐ様本題に入る。
そういえばモモンガさんがいないな。
「なにやらナザリック内がバタバタしているようだが、何かあったのか?モモンガさんもいないようだし」
守護者は顔を見合わせると困ったように言葉を詰まらせている。
なんだなんだ。
「どうした?話してみろ。いや、こういう方が今はいいか?……話せ」
俺のリアルで培った上位者のオーラを使う。
ちなみにこれはスキルではない。
ただのそれっぽい雰囲気だ。
「っ!失礼致しました。では、私が代表してお話させていただきます」
「アルベド……許す。話せ」
守護者は跪くと、アルベドが顔を上げ話し出す。
「アインズ様が王国領内にあるエ・ランテルという都市で冒険者をし、情報を集めると仰ってナーベラルを連れ出掛けられました」
「冒険者、か。ナーベラルを連れて行ったのは?」
「はい。アインズ様は魔法で鎧を纏われ、戦士として活動するおつもりのようでしたので、それでは大変危険と感じたので是非とも私を、と進言したのですが……」
「なるほど。だが、守護者統括であるアルベドを連れて行ってはナザリックの運営に関わるからと断られたか」
「仰る通りでございます。なので、下等生物……失礼しました。人間に近い見た目をもつシモベで私が選ばせていただきました」
モモンガさんは冒険者とか好きそうだな、たしかに。
しかし、俺も出たいのにこれでは出にくいではないか。
……いや、そういう思惑か?
俺をナザリックに縛り付けておく理由があるとは思えないが。
いや、なんでもいいか。モモンガさんが冒険者をやって俺がやってはいけない道理などない。
「ならば、俺も冒険者というのをやってみたいのだがどう思う?」
「そんな!アインズ様に引き続きガエリオ様まで!もしもの事があったのならば我々はどうしたらいいか……!」
うんうんと頷く守護者一同。
心配性……ともいえないか。軍の指揮官が一人で何がいるかわからないところへうろうろするようなものだしな。
「モモンガさんが信頼するお前達を、俺も信用している。それに、俺が出ることにはちゃんと意味がある。……アルベド、デミウルゴスお前達ならわかるな」
「!なるほど、さすがはガエリオ様。そうしますと、お供のシモベは誰にいたしましょう」
まだ内容を話してないが、アルベドとデミウルゴスは理解したようだ。
俺自身が見て、聞いて、理解した方が誤差がないと思ったのだが……。
わかったならいいんだけどさ。
「わ、私が行きたいでありんす!愛するガエリオ様のために粉骨砕身、朝も昼も夜もお側でお相手する覚悟がありんす!」
「シャルティアか」
俺とシャルティアのペアはまぁ、悪くはない。
守護者最強の存在であるシャルティアなら現ナザリック最強を自称しても問題ない戦力の俺なら万が一はないだろう。
だが、問題が多すぎる。
「保留だな」
「えぇ、シャルティアは悪くはないですが候補としては下位でしょう」
「えっと、あの、その、ガエリオ様は、誰が相応しいと思うんですか?」
「俺か?そうだな」
顎に手を当て、思考する。
まず、正直なところ守護者は連れていく気はあまりない。
階層守護者の名の通り階層を守護者する仕事も少なくはない。
連れ出してしまえば、中々戻るのが大変だ。
その点<
「ナザリックの運用に関して損になりにくい人物が好ましいな。損得なしで考えるのであればシャルティア、デミウルゴスなどはかなり嬉しい人材だ」
おぉ!と目を輝かせるシャルティアとデミウルゴス。
「だが、その程度のことはモモンガさんも分かっていたはず。当然アルベド、デミウルゴスもな」
「仰る通りでございます!私などを評価していただいたのは光栄の極み、しかし優しきアインズ様は……」
デミウルゴスに振り分けられてる仕事量を考えると連れ回すのは無理だ。
俺が気付かなかったり知恵が足りないところをサポートできるデミウルゴスはかなり嬉しい人材だからな。
「そしたら私!私が行くでありんす!」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、候補を出していくのが先だ。そうだな、モモンガさんと同じくプレアデスだと手が空きそうなのはユリかルプスレギナか」
王国戦士長というその辺では最強?の人物がレベル30越えだった。
さらにモモンガさんから武技なる技で一時的に強くなったという話もある。
つまりレベル40台くらいでは不安が残る。
シズはそもそも外に出すことを基本的に禁止しているのでユリ、ルプスレギナ、ソリュシャン、エントマだが、エントマは少なくとも人には見えないので今回は外す。
そしてソリュシャンはセバスと任務が与えられているので除外。
となるとこの二人というわけだ。
「アルベド、どっちが適任だと思う?」
「その二人であれば私はユリを推します。ユリは人間に対する嫌悪感は持っていないと思います。さらにはプレアデスの副リーダーとしてガエリオ様に不快な思いをさせることもないかと」
「ふむ。ならばユリにするか」
「そ、そんな……ガエリオ様ぁ」
くっ!愛故の視線が重い!
どうすればいい。
左手で頭を抱え、考える。
「シャルティア!ガエリオ様困ってるじゃんか!いい加減にしなよ!」
「そうよ!私だってアインズ様と一緒に冒険者をやりたかったのを我慢してるんだから貴女も我慢しなさい!」
「デミウルゴス!お前はどう思う」
「……シャルティアならば<転移門>を使い自由に移動ができますので、シャルティアを供にしシャルティアに割り振られた仕事の際はユリを供にするというのは如何でしょう」
「わかった。デミウルゴス、素晴らしい案だ。俺には思い付いてもお前の後押しがなければ実行には移せなかっただろう。シャルティア、それでいいな」
「!はいでありんす!性欲処理などなんでも頼ってください!」
二人とも、というのは無駄が多いからやりたくないがデミウルゴスの後押しがあるならいいだろう。
細かい調整も必要だろうが、今はこれがベストか。
「シャルティア。今回はお前の気持ちを酌んでこのような采配を取ったが、アルベドやアウラの言うとおりだ。お前の気持ちは嬉しいが、今はまだ誰かを特別視するつもりはない。デミウルゴスに感謝して与えられた仕事に励むことを忘れるな。……いいな?」
「……わかりんした」
支配者としては甘いとは思うが、どうも好意を向けられると弱い。
「アルベド。一時間後にユリにここに来るように伝えてくれ。冒険者として行動を共にする旨も忘れるな。用事があるならば遅らせるから無理せず俺に伝えることもな」
「畏まりました」
「シャルティアも用事がなければ一時間後だ。……幻術で目と肌の色、あと牙は変えておくんだぞ。そのままじゃ吸血鬼だと丸わかりだからな。わかったな」
「了解しんした」
「それでは解散だ。俺も準備をする」
俺は特に準備もないのでマクギリスに一言声をかけると玉座に戻ってきていた。
マクギリスもソリュシャンの兄としてセバスと同行することが決まっているのでゆっくりもしていられないだろうが、時間までバエルを磨いておくと言っていたので好きにさせておいた。
俺はいつも通りの軍服で、ヴィダールの仮面を被ろうかと思っている。
顔を隠すのは有事の際、リスクを減らすためだとアルベドやデミウルゴスからも進言があったからだ。
玉座にはすでにシャルティアがいて、シャルティアはボーッと立ち尽くしている。
「シャルティア」
「あ、ガエリオ様!」
「ずいぶん早いな。まだ時間まで30分以上あるぞ」
シャルティアは幻術をかけたあとなのか赤茶色の瞳に人間らしく血の通った肌をしている。
服装はいつもの通りのボールガウンで、冒険者として行動するとは思えない格好だが、シャルティアが冒険者らしい服など持ってはいないだろう。
向こうでそれっぽいのがあれば買って渡すか。
今のシャルティアは吸血鬼の要素は無く普通の可愛い女の子だ。
えへへとはにかむと恥ずかしそうに口を開く。
「せっかくの共同作業ですので、早めに来たらガエリオ様とお話しできるかと思いんした」
「ん。……そうか。じゃあ少し話でもして時間を潰すか」
「はい!」
嬉しそうにするシャルティアになんだか照れ臭くなり、アイテムボックスから椅子を二つ取り出し座る。
俺とシャルティアはお互いの知らないことを教えあったり、紅茶の種類について語り合ったりして時間を潰した。
……たった30分だが、とても楽しい時間だった。
「ユリ、シャルティア。これから俺たちは冒険者として人間の世界に溶け込まなくてはならない。……つまりどういうことかわかるな?」
「はい!わかっているでありんす!しっかりと護衛の任を果たし、ガエリオ様に無礼を働く人間は皆殺しにするでありんす!」
うん、わかってないね!
ユリはナーベラルが冒険者として着ていったものの似たやつを着てきたらしく、白シャツに茶色のズボン更には茶色のローブと地味なものだ。
「シャルティア。確かに時には暴力も必要だろう。しかし全てを暴力で解決したら最後はナザリックしか残らないぞ」
「それではダメでありんすか?」
これは難しいところだがナザリック至上主義の彼女らにはあまり実感がわかないかもしれない。
……モモンガさんも今頃苦労しているのかな。
「あぁ、駄目だ。真の上位者は弱者に優しくなければただの暴君だ。モモンガさんは慈悲を与えたりして優しいだろ?」
「たしかにその通りでありんす」
「今ここで全てを理解しろとは言わないから追々わかっていけばいい。ユリは大丈夫だな」
「はい」
俺は地図を広げると『リ・エスティーゼ王国』の首都である『王都リ・エスティーゼ』に指を当てる。
「エ・ランテルにはモモンガさんがいるから俺たちはこっちだ。同じ国の中だが、距離もあるしどっちかがどっちかの邪魔になることはない。シャルティア<転移門>を頼む。そうだな、見られるとさすがに厄介だから……」
俺は王都から少しだけ離れた場所に指を動かし指定する。
「この辺ならどこでもいい。……見られたらさすがに消すしかないが、行ったことのない場所に向かうからには少しはリスクを背負うしかない」
「わかりんした」
シャルティアが<転移門>を開くと、その中に入る。
王都の城壁が見えるので、上手いこと近くに転移したらしい。
周りに人影もいないのでいい位置だ。
続いてシャルティアとユリが出てくると<転移門>は消える。
俺はヴィダールの仮面を被りユリとシャルティアに視線を移す。
「これから俺のことはヴィダールと呼べ。ユリは……ユリでいいな。シャルティアもシャルティアで大丈夫か」
仮に敵勢力のプレイヤーが居たとしてもプレアデスであるユリはそもそも顔が割れているとは考えづらい。
シャルティアは有名だが、今は変装しているのでパッと見ではわからないだろう。
俺の仮面は趣味で作ったものなので知られていない。
俺はキマリスヴィダールが代名詞というかキマリスヴィダールのイメージでwikiに書かれている。
いや、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーとして晒されていると言うべきか。
とにかく、顔さえ隠せば大丈夫だろう。
「わかりんした」
「畏まりました」
「じゃあ中で冒険者登録をするとしよう。俺たちは旅の途中で立ち寄った……そうだな、俺の友人の娘二人でいいか」
「恋人!もしくは妻でありんす!」
「えぇい!この手の話は長くなるから無しだ!聞かれたら友人の娘で通すぞ!俺とペロロンチーノさんとやまいこさんは友人だった。何も間違っていない。……いいな?」
「……はい」
落ち込むシャルティアにさすがのユリも苦笑いしている。
可哀想な気もするがこの手の話は始まると中々収拾がつかないのでとっとと切り上げるに限る。
「とにかく、行くぞ」
道中多くの視線を集めつつなんとか冒険者組合に着いた訳だが、登録するにも文字が読めないので一苦労だ。
現にここまでの道筋も人に聞きながら辿り着いたのだ。
シャルティアの対人能力という面での課題も見えてきた。
分かってはいたが人間を見下していることにプラスして俺のことを第一に考えていることで、検問ではとんでもないことになりかけた。
『持ち物を検査したいのだが、魔法を掛けさせて貰っても?』
『あ?この人間風情が―』
『すまないが遠慮させてもらえないだろうか。私達はこれから冒険者として登録し、活動しようと思っている』
『……?それと魔法での検査を拒むことにどんな関係がある?』
『つまり、こういうことだ』
『私の目を見ろ!』
最後は魅了によるゴリ押しだ。
すぐにユリに目配せしてシャルティアを下げさせたが言動一つとっても人間社会に溶け込めるか不安だ。
検査の結果何もなかったことにしたわけだが、まさか魔法をかけるくらいでシャルティアがあそこまで激昂しそうになるとは。
後で強く言っておく必要があるな。
王国内は思ったより活気がなく、俺としては残念で仕方ない。
貴族の統治が悪いのか、王族が悪いのかわからないがこれだけの土地があるにしてはどこか人々から暗い印象を受ける。
むしろ冒険者のような格好の人物が数多くうろついていて、騎士や兵士があまり見られないのが国力の低さを物語っているだろう。
なんやかんやありつつも組合の中の壁に貼られた依頼用紙も当然読めないので眺めていると、更に視線が集まってくる。
……もしかしたら登録してすぐの<
「鬱陶しい視線でありんすね……殺してしまうのがはやいでありんす」
「シャルティア様。ガエ……失礼しました。ヴィダール様はその様なことは望んでいませんかと」
「……確かにそうでありんすね」
護衛兼相方が物騒すぎる。
ユリがまともでよかった。
これがナーベラルあたりなら間違いなく
『殺してしまうのがはやいでありんす』
『蛆虫共が……至高の御方とシャルティア様にその様な視線を向けるとは、虫らしく潰すのが相応しいかと』
『確かにそうでありんすね。ぷちぷち潰すでありんす』
想像に固くなさすぎて違和感を覚えなさすぎる。
「……?」
「どうしたシャルティア」
「あ、いえ、今……本当に一瞬だけ吸血鬼の気配を感じたような気がしんした」
「なに?」
周りを見渡すがむさっ苦しいおっさん冒険者ばかりだ。
気配も特に感じない弱者の物で異形種の気配を感じない。
同族であるシャルティアが感じたのなら間違いないと思うが、それでも一瞬だけ。
かなりしっかり隠していて、恐らくは近くを通ったくらいの物だと思う。
声を潜めてシャルティアとユリに耳打ちする。
「シャルティア、もし見つけても俺に知らせるだけでいい」
「わかりんした」
「ユリも何かに気が付いたらすぐ俺に知らせてくれ。もし俺に通じなければシャルティア。シャルティアにも通じないならモモンガさんだ」
「わかりました」
「後で二人には多めにスクロールを渡しておく。……警戒はしすぎなくらいが丁度いいからな」
しかし、これからどうするか。
いや、モモンガさんに一旦会いに行くというのも有りか。
どのみちどこかでこの話はしなければならないし、文字が読めないこの現状は向こうも同じはず。
どう対処したのか教えてもらおうか。
「仕事を探す前にモモンガさんのもとへ行こう」
「アインズ様に会いに行くんでありんすか?」
「あぁ。シャルティア、エ・ランテルまで<転移門>を開いてくれ」
「了解しんした」
冒険者組合を出て横の建物の陰で<転移門>を開く。
こういう時シャルティアは本当に色々できて優秀だ。
潜ると、今度は王都とは別の町並みに出る。
王都と比べるとむしろこちらの方が活気を感じるほどだ。
王都が悪いのかこちらの統治が上手いのか。
同じリ・エスティーゼ王国領内なのにおかしなことだ。
周りを見渡すと武装した人間が多く、恐らくはあれがエ・ランテルの冒険者なのだろう。
「シャルティア、ユリ。とりあえず組合に行ってみよう。そこならすぐにわかるはずだ」
「鎧の戦士と魔法詠唱者の二人組ですか?確かに本日登録をさせていただきました」
大変目立っていましたので。と続ける受付嬢に共感する。
「えぇ、私の友人なのですがどちらに行ったかはわかりますか?」
「宿屋ではないでしょうか。この時間から依頼を受けると言うことはあまりないので」
「なるほど。宿屋の場所は聞いても?」
「わかりました。大通りを右に行っていただければ冒険者御用達の宿がありますので恐らくはそこではないかと思います」
受付嬢に礼を言うとシャルティア達を連れて外に出る。
「本当に鬱陶しい視線でありんした」
「我慢しろ。冒険者としてその格好は相応しくはないからな。そのうち服買ってやるから」
「!?プレゼントでありんすか!?」
「仕事着だけどな。プレゼントとも言えなくないか」
「おめでとうございます、シャルティア様」
喜ぶシャルティアを尻目に宿へと足を運ぶと、さすが冒険者御用達の宿屋と言うだけあって組合からそこまで離れておらずすぐに辿り着いた。
中へ入ると再びこちらに視線が集中する。
確かに歩けば歩くだけ視線が集まってくるのでかなり鬱陶しい。
俺の抑制が無くなればシャルティアは直ぐ様皆殺しにするだろう。
シャルティアは可愛らしい顔を嫌そうに歪めるが、俺の視線に気が付くとにっこりと笑い掛けてくる。
可愛い。
ユリは平常心を保てているようで助かる。
さすがはプレアデスの副リーダーだ。
「すまないが、聞きたいことがある」
「共同部屋なら大分安いぞ」
「いや、そうではなくてな。ここに鎧の戦士とローブの二人組の冒険者が来なかったか?」
「……あぁ、さっき上に行ったよ」
「そうか。用があるんだが、金は必要か?」
「馬鹿言え。用事くらいさっさと済ませてこい」
シャルティア、そんなに宿屋のおじさんを睨むな。
「わかった。すまないが失礼する」
すると階段前の机を使っている冒険者の男が足を出してくる。
所謂一つの冒険者としての洗礼というやつか。
銅のプレートを掲げている俺たちは向こうから見れば弱者に見えるから不自然ではないが……。
俺は特に気にせず跨ぐが男は足を上げ、俺は躓きそうになる。
「痛いじゃないか。何か用事があるならば口で説明してくれないか」
「痛いのはこっちだぜ!やってくれたなぁ、兄ちゃんよぉ!」
「そうだぜ!こいつにはアダマンタイト級冒険者になるって夢があるんだ!それを見ろ!」
「いてぇ!いてぇよぉ!」
「折れてやがる!これじゃあ夢は途絶えたも同然!どう責任をとるつも―」
「ふん!」
仲間ぐるみで慰謝料を請求しようという、バレバレかつ旧時代の遺物のような連中の言葉は後ろで話を聞いていたシャルティアが二人の襟を掴むと入り口扉へ向けてぶん投げてしまった。
二人は扉をぶち破り外へと放り出され意識を失っているようだ。
「シャルティア」
「殺さなかっただけ褒めて欲しいでありんす」
「いや、ナイスだ」
シャルティアはその見た目から侮られることもあるだろうから、今みたいに殺さない程度に力を示すのはそこそこ有効だ。
後で撫でてやろう。
「親父」
「構わねぇよ。そいつらの宿泊代から取っておく。全く、別のやつが投げられてたのに学ばねぇ馬鹿共だ」
話がわかるやつは好きだぞ。
「だそうだ。シャルティア、ちゃんとお礼を言っておけ」
「……むぅ」
「シャルティア」
「……感謝するでありんすえ」
仕方なくといった様子だがこれも人間の社会で冒険者をやるというのには必要なことだ。
宿屋の親父も仕方のない娘を見るような目でおう。と一言返してくれた。
俺はシャルティアの頭を軽くぽんぽんと撫でておく。
「ガエリオ様!?」
「ヴィダールだ。今撫でたのは、一つ成長を褒めたんだ」
「……ガエリオ様」
いや、いいけどね。
ぽわぽわしてるシャルティアの手を引き階段を上がると扉の前に立つ。
中からナーベラルの気配がするので間違いなくここだろう。
俺がノックをしようと手を出そうとすると横からユリが前に出てくる。
「ぜひここはメイドである私に」
「わかった」
確かにユリはプレアデスの副リーダーであり、護衛でもあるがメイドだ。
上位者らしくその辺のことは任せた方がいいか。
ユリは少し頬を緩めると、扉の横に立ち俺と扉の間を遮らないようにノックする。
「……誰だ?」
中からモモンガさんの声が聞こえる。
間違いなく中に居ることがわかったので、こちらも小声ながら声を出す。
「ガエリオだ。開けてもらえるか?」
「……!?ナーベ」
「畏まりました。モモンさーん」
ガチャリと扉を開け出てきたのはナーベラルだ。
俺を視認すると膝を着こうとするが手をかざし止める。
「そのままで構わない。誰かに見られたら厄介だ。……入っても?」
「えぇ。どうぞ、狭いですが」
モモンガさんに声をかけると、モモンガさんは驚きながらも中へ通してくれる。
俺はシャルティアの手を引き中へ入るとユリが続き、扉を閉めてくれる。
安宿に5人はかなり狭いが仕方ない。
「その娘は……シャルティア?」
「あぁ。幻術で吸血鬼の要素を排除して護衛として連れてきた」
シャルティアは膝をつき頭を下げるがすぐにモモンガさんが止める。
モモンガさんが普段の調子で話すにはシャルティア達が少し邪魔のようだ。
たしかにこのままだとアインズ・ウール・ゴウンとしてではなくモモンガとして込み入った話が出来そうにないな。
「シャルティア、ユリ、ナーベラル。悪いが少し出てくれ」
「しかし、護衛が―」
「モモンガさんは俺が守る。それにそこまで離れなくてもいい。俺達の話を聞かれたくないだけだ」
ユリは頭を下げるとナーベラルに視線を向け、退出しようとする。
シャルティアは困ったように俺に視線を向けるがここは心を鬼にするしかない。
ナザリックという組織においてある程度の我儘は、聞こうと思うが空気を読むようなことは必要な能力だ。
甘やかすわけにはいかない。
「シャルティア。俺やモモンガさんが強く言わなければわからないか?」
「っ!申し訳ありません。出すぎた真似をしました」
「構わない。シャルティアよ、何かあった際には頼りにしている」
「有り難きお言葉。では、外で待機しております」
モモンガさんのラスボスっぽい口調で守護者としてのシャルティアに戻って出ていく。
モモンガさんや俺がリアルでの口調で話すのは正直上位者っぽくはないので聞かれたくない。
「……ふぅ。それでガエリオさん。どうしてここに?」
「言わなくちゃわかりませんか?」
あー、えー、いやー。と口ごもる鎧の大男。
「朝起きてみたら冒険者になるって言って出てったって言われるし、俺だって冒険してみたいんですよ!」
「すいません!……でも、よくアルベド達が許しましたね。俺の時でも大騒ぎだったんですよ。至高の御方って呼ばれる俺達二人が同時に冒険者だなんて絶対許さないとか言い出すと思ったんですが」
確かに近いことは言われたが、そこまで強くは止められなかったな。
「止められはしましたけど、守護者を連れてくことを候補に入れたらすんなりといきましたよ」
「……やっぱり守護者達からするとプレアデスじゃ力不足ってことですか」
「そうでしょうね。ユグドラシルじゃレベル10差がつけば勝つのは不可能。守護者は全員レベル100ですからね。プレアデスで一番レベルの高いナーベラルですら40近い差がありますし守護者は不安がりますよ」
シャルティアがゴリゴリアピールしてきたので連れてきたが、シャルティアを連れてこなかった場合もう少しあの場で揉めた可能性は否めない。
頭の弱さ、と言うと可哀想だが賢さはともかくシャルティアのその強さは守護者全員が認めざるを得ないのだ。
だから複数の魔法が使えてなおかつ護衛を任せることにデミウルゴスも賛同したわけだ。
「……ガエリオさん」
「はい?」
モモンガさんの思い詰めたような言葉に俺の声にも緊張が走る。
言いにくそうに視線をあちこちに向けているのはなにかあるのだろうか。
「どうかしましたか?」
「いえ、あの、ええい!ガエリオさん!」
「はい」
「ガエリオさんは、リアル、元の世界に戻りたいですか!?」
プレアデスでは不安よな
シャルティア動きます
そんな話でした。
久しぶりに連続投稿して、新規小説としては初めて低評価が付きました。
ある種慣れたものですが、やはり中々効きますね(笑)
大勢の方に見ていただけているようですが中々感想がないのでどういう評価を頂いているのか気になります。
気楽に感想頂ければ幸いです。