シンデレラガールズ 習作短編集   作:らいぶん

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二人を取り巻くエトセトラ(前編)

「いい加減にしてっ!」

 

悲鳴に限りなく近い怒声が、穏やかな午後の談話室の体感温度を氷点下まで引き下げた。

 

 

 

怒声から遅れること数秒、談話室から【自主練室】につながる通路から現れたのは、普段着としては最低限の身なりを慌てて整えたような速水奏であった。

普段の彼女からして想像も出来ない程の早足で談話室を抜け、そのまま事務所につながる通路へと姿を消した。あの怒声から鑑みるに、相当ご立腹であることだろう。

談話室の住人と化していたアイドルが数人程野次馬根性で、或いは彼女心配してか後を追ったが、怒りを纏う奏に邪険に扱われて帰ってくるであろうことは想像に難くない。

 

それから遅れること数十秒、這い出るように【自主練室】から出たのは、談話室の住人の凡そ半数の予想通り高垣楓だった。

こちらは酷く気落ちした様子で、着る物すら碌に付けていない。

談話室の住人たちの反応は大別して2つ、困惑と心配を浮かべるのはこの状況に慣れないアイドルが多く、対処に困り周囲を伺った。対して楓の起こす度々の騒動に慣れてしまったアイドルたちは、「オチが読めた」とばかりに我関せずを決め込んだ。

そんな中、心配したように自分の上着を脱ぎ、楓に掛ける情に篤い者もいた。尤も、彼女は大別すれば後者に類されるアイドルであり、声色こそ心配していたが視線は呆れの感情を多分に含んでいたが。

 

「奏ちゃんいつになく機嫌が良くなかったけど…楓ちゃん、今度は何やったの?」

あからさまに関わりあいたくない案件に勇敢にも踏み込む川島瑞樹の英雄的行為に、談話室の住人は俄に彼女の評価を上げた。

 

「それが…シてるときに別の女の名前を出してたみたいで…」

瞬間、楓に刺さる視線がかたちを変える。彼女の女性遍歴を知らぬアイドルたちは驚愕と侮蔑の色へと変え、それを知る、或いは彼女に手を出された経験のあるアイドルたちは「そんなことだろうと思った」とばかりに呆れの色を一層強めた。

 

「あー…やっちゃったわねぇ。この業界で人付き合い長くなるとたまにやっちゃうわよね…わかるわ」

いつもなら彼女を咎める瑞樹が、頭を抱えながらも同意を示す。数秒を置き、神妙な表情を作ると

 

「とりあえず一つだけ確認させて頂戴ね、ヤってる最中に出した名前って…私じゃないでしょうね?」

「違います」

「……はぁー、良かった。今度奏ちゃんと一緒のお仕事なのに、雰囲気悪くなっちゃったら大変だったわ」

 

まさかの自己保身であったが、情事の縺れを仕事に持ち込まないプロ意識と気付いた談話室の住人たちは、瑞樹の下げかけた評価を元値以上に釣り上げた。

「それで、どうするのよ楓ちゃん。奏ちゃんとのお仕事、確か明後日でしょ?」

 

 

 

今後の関係に悩む二人の会話を聞きながら、談話室の住人の一人と化していた八神マキノは静かにメールアプリを開き、たった今入手した情報を送った。宛先は、古澤頼子。

 

『ミステリアスアイズの痴話喧嘩を聞いたありすちゃんが恐らくそちらに向かう。彼女は詳細を確認しなかったし、裏の顔も知らないと見える。上手いこと導いてあげなさいな。』

『何故、私だと思うんですか?』

 

先んじて送った情報から予測を立ててあったのだろう、流石に返信が早い。そして、理由はただ一つ。

『彼女から憧れを一身に浴びる我等が最年長様が、そういう事柄に聡いと思って?』

 

マキノと頼子、そしてもう一人。読書の秋PRキャンペーンからすっかり定着したそのユニット名をオータムブックメイトという。そしてそのもう一人、鷺沢文香こそがマキノの目下の悩みの種なのだ。

 

彼女が思いを寄せるユニット最年長の顔を思い浮かべているのだろうか、返信が遅い。事実、彼女たちの仲に進展がみられない要因の半分は、文香の致命的な鈍感さに由来するのだ。そしてもう半分は…

 

『…プロデューサーさんに確認を取って欲しいことがあるんですが…出来れば事前許可も』

そのままプロデューサーも交えて事前打ち合わせを行いながら、マキノはふと思い起こす事があった。

 

マキノは以前、頼子が演じた怪盗こそが彼女の本質であると考えていた時期があったが、今にして思えばとんだ読み違いあった。

マキノが見出だした古澤頼子の本質、それは謀略家。一を聞いて十に膨らませ、百の策を作り千を動かす。

故に一を聞かせる立場であるマキノとは馬が合うし、こうして良きビジネスパートナー足り得ているのだ。

しかし、それ故に目に余る物もあるというもの。いつのまにか思考が擦れ、入力していた文字にまで影響を及ぼす。

『どうしてそのアタマを使って文香を落とそうと出来ないんだ、ヘタレめ』

マキノは思わず打ち込んでいた頼子への文句を全て消し、ありきたりな礼文を送り付けてメールでの会話を打ち切った。

 

 

 

誰に知られる事もないやり取りから時を進めること凡そ10分、古澤頼子と橘ありすは人通りの少ない通路で予定通り落ち合った。

酷く焦った様子のありすが考えている事など、マキノからの事前情報がなくても手に取る様に見えた。

 

「それで、楓さんと奏さんの仲をどうにか取り持ちたいと」

「と、取り持つというのは少し大袈裟ではないでしょうか?お二人とも私にとっては大人の女性として尊敬していますし、仲が良くないことは、誰にとっても良くないことです!」

実際には仲が悪いどころではなく、それの和解を口実に夜の友好を更に深める為のスパイスでしかないと知る頼子であったが、彼女はそれをおくびにも出さず努めて穏やかな表情を作ってありすを宥めた。

 

「ありすちゃんは優しいですね」

そう言いながら頭を撫でると嬉し気な表情を浮かべるが、慌てて(少なくとも本人としては)それを消し、咳払いで仕切り直した。

「もう、頼子さんまで子供扱いしないでください!」

「ごめんなさい、それで、何故私なんです?他に頼りになりそうな人ならこの事務所には幾らでも…」

 

するとありすは少しばかり言い辛そうに言葉を濁すと

「最初は文香さんにとも思ったんですけど、文香さんは恋愛に関してはあまり興味を持たれないと先日知ったので、頭が良くて文香さんと親しいという部分で信頼出来る頼子さんならと…」

 

直言家と言うべき普段の彼女からは想像も出来ない程、ありすは慎重に慎重を重ねて言葉を選んでいた。

文香と親交が深い頼子が不快にならない様に、何よりここに居ない文香に極力失礼にならない様に言葉の取捨選択をしながらその上で頼子の反応に怯えるとなれば、自らの思い人から清流のようと称された彼女の言が淀むのも頷ける事だった。

 

「…文香さんには内緒にしておきますね。さて、少しお時間を」

言うなりありすに背を向けて電話をする頼子。直ぐに終わらせると再び向き直る。

 

「マキノさんにお二人のスケジュールを確認してもらいました。今日はもう予定がなく、明日は丸1日オフの様です。

1日を険悪なままで過ごすのはお二人にとっても辛いでしょうし、ここは一つ、プロデューサーさんにこういった提案をしてみては如何でしょうか」

 

これから提案をされる当のプロデューサーとも協力の元、綿密に立てられた計画をさも今思いついたと言わんばかりの表情で披露する。まるで小さな劇の様だ。

ありすは予測された通りの反応をしながら勇んでプロデューサーに電話をかけている。彼女はありすの言う提案に驚くも、最終的にはその案に賛同し協力を約束した。

尤も、事前の打ち合わせの時点でプロデューサーは計画を知っているし、支援を惜しまないことを確認済みなのだが。

直前にマキノの名前を出しながら彼女に連絡を取っていたのも、全ては致命的に間が悪いプロデューサーがやらかすリスクを極力抑える為であった。

 

「二人には私からお願いしておくから、上手くやるんですよ。ああそうそう、それから頼子ちゃんとマキノにも宜しく伝えておいてください。あっ」

やはりやらかした。大方、切る直前で此方との関わりを内密にする手筈だった事を思い出したのだろう。

ご丁寧にマキノの名前まで出してくれた。お蔭で余計な仕事が一つ増えた。

 

「との事です。頼子さんは勿論ですけどマキノさんの事まで…」

「…全てお見通しという訳でしたね。流石は私たちのプロデューサーさんです。」

幸い、想定されていたやらかしの中では最も誤魔化しやすい部類だったので事なきを得た。

「やっぱりプロデューサーさんは凄いですね!勿論頼子さんやマキノさんもですけど…すいません、一つ質問いいですか?」

 

穏やかな笑みでありすの質問を許可する頼子の余裕は、ここで遂に崩れる事となる。

「………こんなに頭が良いのに、なんで文香さんに告白しないんですか?もしかして…ヘタレなのでは」

「うっ」

 

純粋無垢とは単に誘導しやすいばかりの相手ではないことを、思わぬ反撃を受けた頼子は身を以て知ることとなった。

 

 

 

(続く)




推しカップリングの創作が中々増えないので書くっきゃねぇとなりました。出来るだけ続けたいこのものつくり精神。
さらっと自分の推しカップリングが捩じ込むかもしれませんのでご容赦を。
設定とか用語に関しては追々

あと奏さん誕生日おめでとう、メインの出番後編だけど
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