「…白状しますと、名前を出した女(ひと)は私の昔の人です。ですので、少しばかり昔語りに付き合ってもらえませんか。」
二人が一勝負交えた後、そう切り出した楓は、事の発端となった女性と自らの関係を語った。
楓が芸能界に入ったのは高校時代、地元和歌山でモデルとしてスカウトされて上京したときであったという。
そのモデル事務所の先輩であり、おのぼりさんであった楓の教育係が件の女性というのが楓の弁解だ。
「美しく聡明で、何より気丈な人でした。何処の誰とも知らない、引っ込み思案で臆病者の私に、根気よく丁寧に仕事や芸能界のイロハを教えてくれました。」
その心地好い関係性が変わったのは楓が二十歳になった日のこと、社長が相手先への枕営業を指示してきたという。楓の性格と美貌に目を付けたものの、二十歳になるまではと枕営業をやらせないでいた、感謝しろというのが社長の言い分だったそうだ。
「結局代わりに彼女が枕には行って、週刊紙にすっぱ抜かれて会社は倒産。私と彼女は別の会社にモデルとして広われましたが、半年後に妊娠が発覚した彼女は逃げる様に芸能界を去りました。私が彼女と寝たのは、彼女が枕に行く前日…それが最初で最後でした。」
初恋の女性であり姉の様でもあった彼女を失った悲しみと失意の底にあった楓の生活は、みるみるうちに堕落したものとなった。
仕事中でも構わず彼女の好きだった銘柄の酒や煙草を浴びる様に摂取しては思い出に浸り、夜は失くした温もりを探すかのように手当たり次第に女を抱いた。
幸か不幸か、この容姿である。相手に困る事は一度として無かった。私の取り合いから不仲を起こし、私が居なくなったと共に空中分解した会社や現場は両手の数では足りませんね等と宣う楓を、奏は労る様に撫で抱えた。
「自虐も大概にしないと、その綺麗な口に蓋をするわよ?」
「あら、ではお願いして…」
長く濃厚な口付けを存分に堪能すると、再び楓は語る。
「そうして暫く経った頃、彼女から連絡がありました。時間があるなら合えないかと。
私が待ち合わせ場所に行くと、そこには少し窶れた、でも目だけはあの頃のまま気丈に振る舞う彼女の姿がありました。」
無事出産した彼女は育児を進めながらモデル時代の人脈を生かし、新しい仕事に試行錯誤していた。
そして彼女の目はこうも言っていたという。「貴女はそのままでいいのか、って」
「教育係をしてもらっていた頃に一度だけ怒らせてしまいましてね、あの時と同じ目をしていました。」
あの後は心を入れかえて、少なくとも仕事中は真面目にやるようにし、元々得意でもなかった煙草もすっぱりとやめた。酒と女遊びは本来の性だったのか、生活の一部として定着していたが、それでも限度は弁えていた。
「それで、この会社のモデル部門に雇用されて…色々あってアイドルに転向しました。」
「待って。やっぱりそこがおかしい。
色々って何なの。今まで何度も聞いた事務所入ってからの話、毎回色々って言って誤魔化すわよね?」
奏は楓の言葉を見破らんとして楓を睨むが、楓にはそれが甘えがる様に見えて仕方がなかった。
「まったく、次は私が語る番って訳ね。」
楓の揶揄う様な表情に、これは手の内を明かさないと話を進めめない気だと悟った奏は、致し方ないと一息呼吸置くと話し始めた。
「以前言ったと思うけど、私がこの業界に入ったのは貴女が切っ掛けよ、楓。
貴女のモデルとしての姿に憧れて、いつかその隣に立ちたいと思ったのが最初の一歩。ここでアイドルになったのだって、全くの偶然。漠然とここで社会的知名度を手に入れて、貴女のいる何処かの会社に移る気で居たもの。」
だからこの事務所に貴女が居ると知った時は驚いたし、
「では、もっと驚いてもらいますね。
…私がアイドルになった理由が奏ちゃんだったとしたら?」
「………貴女、駄洒落よりもマシなジョークを持ってたのね。」
あっ信じてませんね?と笑う楓の顔を直視出来ない。話を反らして稼いだ僅かな時間では、現実逃避から復帰することは出来なかった。
「奏ちゃんを初めて見たとき、
気高く振る舞いながらも繊細で臆病な奏ちゃんは、彼女よりも寧ろ私に近い人間なんだって。理想だけを求めて、理想に追い付くことに必死な奏ちゃんと同じような目を、私はしていた時期がありましたから。」
「楓…」
奏の口から零れた様に楓の名が呟かれる。それが合図だったかの如く、二人は無言で抱き合った。
「もしも奏ちゃんの目標がなくなってしまったら、貴女まで私の様になってしまう…そう考えると、過去の自分を見ている様に思えました。
だから、貴女を支える何かの様に、或いはその何かと一緒になって、貴女を支えてあげたい…そう思ったんです。」
まさか自分がそう思われているとは露知らず、滑稽な一人相撲でしたと自らを嘲笑う楓を抱き締めながら、奏は楓の胸に顔を埋めた。
「それなら私もそう違ってはいないわ。貴女の心中を知らずに一喜一憂してた私の愚かさは、貴女への無理解から来るものだったね。」
「やっぱり私たち、似た者同士みたいですね。ふふっ。」
二人は笑い合い、泣き合い、抱き合い、そして愛し合った。
一方その頃、ありすはと言えば、身を清め気持ちを入れ替えたつもりでいたが、同時に今までの言動を振り返り肝を冷やしていた。
お酒を浴びて匂いにやられたとはいえ、お二人に対して失礼な言動であったのは明白であるし、その…卑猥な言葉を何度も口にした覚えもある。一先ず自室で着替える前に、客間の様子を見よう。
流石に自室をじゃあ遠慮なくと使う程ふざけた人達ではないが(レイジーレイジーのお二人じゃあるまいし)、客間に居なかったらまた考えよう。
自らの不注意で酒瓶の中身を浴びたことといい、今日のありすは尽く災難であった。
ありすの本日最後の災難の切っ掛けは、自宅であり油断しきっていたということだ。普段ならやらない、タオルを巻いただけの状態で歩き、ましてやその姿で楓と奏が愛を重ねているとは夢にも思わずに客間に入ってしまったのである。
「あっ」
「「あっ」」
ありすが未だ幼いとはいえ、芸能界の一員である。ありすは最低限の性教育を事務所の先輩アイドルから施されているが、多くの大人アイドルが参加する【自主練室】でのハニートラップ対策自主レッスンは参加年齢に到達していない。
余談になるが、ありすはハニートラップ対策自主レッスン等という言い訳めいた名目の下で性行為に及んでいるであろうことを大方推測しているし、事実【自主練室】はそういう目的の部屋である。
つまり、そういう状態の二人がどういう存在なのか、伝聞でしか知らなかった。この二人が一人の獲物を共同で狙った時、逃げられた者は一人として居ないという事実を。
楓が雰囲気で圧倒し、奏がキスで物理的に封殺する。そうして心身の与奪を掌握した二人は、獲物となったありすで散々に遊び、屈服したところでとどめを刺すように貪り尽くすのだ。
本人も言う様にこの二人、似た者同士であり、組んだ時の相性が良すぎた。その上、お互いの意図を読んだ上で相手を責める為に対処も困難と来ている。
お蔭で【自主練室】では多人数レッスンでこの二人が組むのを原則禁止、二人が体を重ねている時にちょっかいは厳禁と取り決められる程だ。
つまり、自分から二対一の構図を作ってしまった時点で、ありすの貞操は失われたも同然であったと言える。
その後、彼女たち三人のけだものは丸一日、調理と食事と買い物以外では常に愛を絡める爛れた時間を満喫する事となった。
当然ながら、ありすの処女はいとも容易く失われた。
数日後、プロデューサーからの業務連絡にて。
『楓さん、奏ちゃん。
事務所内の風紀遵守の為の規則第4条9項13号『中学生以下の所属職員に対する性的接触に関する規則』の接触で最大半年の減給ね。
減額度合いは専務と、ありすちゃんの親御さんと話し合って決めるから覚悟しておいて。』
【自主練室】でのレッスン中であった事も忘れて項垂れる二人のけだもの。
けだものを制御し管理するのは、いつだって人間の役目であった。
(完)
一先ず完成。書けば書く程場面が思い浮かび、それを逐一盛り込んでいったらこんな重い話に。
前編の冒頭で楓さんが名前出した人、最初は女性プロデューサーの予定だったんですが、脳内楓さんが唐突に自分語りを始めて気付けばオリキャラが生えてました。
二人の話はこれで完結ですが、まだまだ書きたいカップリングがあるので小説は続きます。次はまた別のアイドルに焦点を当てて書く予定です。というかもう書いてます。
需要があれば活動報告でカップリング語りしたり、話を1つに統合した方がいいかとか聞こうと思います。
これから書く小説の案いくつか、票が多いものから書く予定
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