1986年12月25日のクリスマス。イラン軍はイラクのバスラ県に総攻撃を仕掛けた。
イラントップの国家元首とマジュリス議会の議長は1987年の3月には戦争を終結させると宣言。本作戦を決戦と位置づけ、8万人の兵士を使い一気に形勢を傾けようとした。
イラン側に雇われている傭兵組織"影”も当然参加することとなり、影のボスであるカールは約60人のメンバーをひきつれて戦場へと向かった。
ボスのカールとその双子の子供、クリスとアリスを含め影の主要な構成メンバーはこの作戦に参加している。
アジトに残ったのは、イタチとマリオを入れて20人程だ。
イタチも含めイラン側の兵士は、この決戦はかなり長引くことになりそうだと考えていた。
しかしその予想は裏切られることになる。
8万人の兵で突撃したこの超大規模作戦はなんとイラン側に3万人以上の死傷者を出し、驚くべきことにたったの2日で終了してしまった。
イラン側の大敗北である。
イラク側の縦深防御作戦が成功し、最前線にいた影の面々の生死すら分からない状態だった。
普通に考えれば生存確率は0%に等しいが、チャクラを利用できるマダックス親子に関しては生きている可能性もある。
僅かな望みにかけて、1987年1月8日に実施される次の大型作戦に残りの影のメンバー全員が参加することになった。
当然イタチも最前線での参戦である。
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1987年1月4日
イラン軍との合流ポイントに向かっていた影のメンバーは、途中の小さな村で先の作戦で生き残った影のメンバー1人を見つけた。
作戦の途中で利き腕を撃たれ朦朧とした意識のまま逃げていたら、たまたまこの村の住民に助けられたらしい。
体中が傷だらけで、影のアジトに帰ろうにも身動きが取れなかったとのことである。
彼が寝かされている村の住人の家に影のメンバーが集まり、年末の作戦の詳しい内容をきくことになった。
男が悪夢の作戦を語ろうとした時、イタチが部屋に入ってきた。男はイタチを見るとしばらくかたまり、1度深呼吸するとイタチを睨み付け怒りに満ちた顔で捲し立てる。
「イタチ!テメーこのクズが・・・!よく俺の前に出てこれたなこの野郎!!」
男のあまりの剣幕に影の面々はおおいに驚いた。なぜアジトにいたはずのイタチにここまで怒っているのかも、戦場で何があったのかも分かっていないのだ。
なんとか男を落ち着かせ、当日に何があったのかを聞く。皆真剣な表情である。
男はやがて重い口を開いた。
イタチを指差しこう告げる。
「イタチだ・・・。作戦開始と同時にこいつがカール達をぶちのめしてイラク側に引き渡しやがったんだ!!」
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1986年12月25日
シャッタルアラブ川、バスラの対岸に当たる位置に、カール、クリス、アリスを含めた影のメンバーが集結していた。カールの顔色はあまり良くない。
カールが影を作った目的は、この戦争の痛みになり、憎しみの対象である自分達を殺してもらうことだ。
この戦争で確かに影の名はそれなりに知られるものとなったが、憎しみを一手に引き受ける存在になれたかと言うとはっきりいってそんなことはない。敵からしたら警戒に値する組織になれたというのが精々の評価だった。
そんな状況で、この戦争の決戦に挑むことになってしまった。
厳しい戦いになるとは思うが、バスラ県を落とすことができれば恐らくこの戦争の勝利は確定するだろう。
現状に文句を言っていても仕方がない。この作戦で影の名を恐怖の代名詞にしてやる。と思ったところで、一斉攻撃の合図が響く。
「よし!全力で行くぞ!!」
カールの檄に影のメンバーは鬨の声を上げる。少数の組織とはいえ、実力者揃いの影の咆哮である。半端な人間ではその勢いに後ずさってしまうだろう。
気合いを入れて船に乗り込もうとした先頭の男は、船に足をかけた瞬間、船の内側から誰かに吹き飛ばされて岸に落ちてしまった。
「誰だ!!」
船を睨み付けカールが叫ぶ。船の中から顔を出したのはなんとうちはイタチだった。
「・・・」
無言で影の面々を見下ろすイタチ。
見知った人間の登場に、カールは落ち着きを取り戻しイタチに語りかける。
「なんでアジトにいるはずのお前がここに来てるんだ?何か緊急の用があるのか?」
イタチがその質問に答えることは無かった。
影のメンバーを一瞥すると、静かな声で彼らに口を開いた。
「残念だが、あなた達の戦いはここまでだ・・・」
そう言った瞬間、イタチの姿が船の上から消える。彼の動きをとらえることが出来た者はそこにはいなかった。
「えっ」
イタチが移動したことに気づいた時には、既にクリスとアリスが当て身を入れられ気絶していた。2人を両腕に抱え、カールの鳩尾に蹴りを入れるイタチ。ものの数秒で影は主力を失ってしまう。
そのまま気絶した3人を担ぎ、驚くべきことにイタチは川の水面をバスラ県の方向へ“走り去って”いった。
唖然としたのは残された影の人間たちだ。何が起こったのかわからない彼らのもとにイラク軍から銃撃の嵐が降ってくる。何てことはない。普段の彼らなら落ち着いて対応が出来たであろうが、ボスを失った彼らに冷静さはなかった。そのまま作戦に参加した影は壊滅へと向かっていったのである。
安否不明のカール達3人を除けば、生き残ったのは村で保護されていた先の男ただ1人となった。
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1987年1月5日
男の独白に、影の人間は言葉を発することができなかった。
「ありえない」とは誰も言えない。そんな人間離れした芸当でもイタチであれば恐らく可能であろうし、何よりも語る男の目に嘘の色は一切なかったのだ。
だが実際イタチは50km以上離れたアジトにいたのだ。さすがにそれだけ距離の離れた場所でそんなことは・・・イタチならば出来なくはないかもしれない・・・。
そんななんとも言えない雰囲気の中、男はトドメの一言を放つ。
「イタチよぉ、お前今年の夏以降、よく1人でアジトを抜け出してたよな・・・。いつもどこに行ってやがったんだ?」
イタチは答えない。男はそれを無言の肯定だと受け取った。
「てめぇが・・・!てめぇがイラクと繋がってたんだろ!!ボスをどこに連れていきやがった!!」
部屋が静まり返る。
「イタチ・・・」
マリオが心配そうにイタチの顔を覗きこんでくる。
「俺はカール達を襲ったりはしていない・・・。アジトを出ていたのは修行のためだ」
男は歯軋りさせながら声を捻り出す。
「・・・だったらよぉ。お前と同じ顔で、ボスとクリスとアリスを一撃で気絶させられて、水面を歩くことができる奴が他にいるってのかよ!ふざけんじゃねぇぞテメー!」
周りの男達も、疑惑に満ちた目でイタチを見つめる。
イタチはその目をよく知っていた。
『同胞殺しのお前が言うセリフじゃねーな』
『あの眼は昔のまま…』
(まずいな…)
前回の作戦の失敗と戦闘前の緊張感で影メンバーのメンタルが弱まっている。
(こうなってしまうと誤解を解くのは難しい)
イタチが否定をすれば男が反論する。話は平行線のままでこの日は何の結論も出なかった。
そして、イタチと影の関係が改善しないまま作戦当日を迎えることになる。
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1987年1月8日 22:00
作戦の決行は本日深夜。所在の分からないカールの代わりにマリオが"影”のボス代行となっており、バスラ東方国境の村シャラムチェから程近い森の中で野営している。
大き目のテントの中ではイタチを除いた影の構成員15名が作戦の最終打ち合わせ中だ。犠牲を払った先の作戦でシャタルアラブ川の中洲4島の内3島はイランが占領している。戦闘で先手を上手くとればイランの勝利で終わる。それが大方の意見である。
作戦会議も終わり出撃時間まで各々自由に過ごそうとテントからメンバーが出ようとしたとき、外から銃撃音が聞こえた。
何事かとメンバーがテントの外に急いで出ると、見張り5人の内4人が地面に倒れ、残りの一人が必死の形相でこちらに走ってきた。
「一体何事だ?」
マリオは見張りの男に尋ねる。
「わからねぇ・・・。俺たちは5人でテントの周りを警戒していたんだ。気づいたらそこに3人倒れててよぉ。そいつらを見に行ったあいつの頭に闇の中から飛んできたナイフが刺さって・・・。だからナイフの飛んできたあたりに一発ぶち込んだんだが・・・」
腰が抜けたのか座り込んでガタガタと震えながら男は語る。
ハンドガンやライフルを手に周囲を警戒する影の面々。
「・・・イタチはどこにいる?」
誰にとも無くマリオが質問する。
「いつ裏切るかも分からねぇから、シャラムチェ村に食料を取りに行かせてる。この襲撃があいつじゃなけりゃあと30分程で戻るはずだ・・・」
ガサリ、と闇の奥から足音が聞こえた。
「誰だ!?」
音のした方向へマリオが声をかける。
「イタチか?もう帰ってきたのか?」
そう声をかけた瞬間、闇の中からナイフが恐ろしい速度で飛んできた。そのナイフはマリオの隣にいた男の腕に突き刺さる。
「があああ!!痛ぇ」
攻撃を受けてからのマリオの決断は早かった。
「撃て!!」
マリオの宣言と同時にナイフの飛来した方向に銃弾を打ち込む影のメンバーたち。
「よし、囲い込むぞ!」
マリオは慎重な男である。カモッラを抜け、なお生き残った彼は危険に敏感だった。そして今まだ危険の臭いは消えていない。慎重に慎重に獲物を捕らえようとしていた。
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1987年 年始
イラク内のアメリカ軍駐留施設。その施設の中にレックスとレティシアがいた。レティシアは部屋に備え付けられたテレビをつまらなそうに眺めている。
「もう行くのか?」
尋ねるレティシアに
「あぁ、こっちの種はもう蒔いた。レティシア、終わったら新しい方の依頼にすぐ取り掛かってくれ」
レックスは落ち着いて応える。
「もちろん。俺が行くまでに死ぬんじゃないぜ」
肩をすくめながらレティシアがそれに応える。レックスは少し笑ってドアから出て行った。
「こっちはこっちで気合を入れないとなぁ」
レティシアはブラウン管から目を離すことなく、気合の入っていない声で呟いた。
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襲撃者は圧倒的な強さだった。
音を立てずに一人一人的確に敵を殺し、残る影の仲間は5人しかいなくなっている。
(なんてこった…。武装した影を圧倒かよ。姿すらみえねぇ)
そんなことを考えている間にまた1人投げナイフで首を貫かれ、生き残っているメンバーはマリオを含めて4人しかいなくなってしまった。
影、事実上の崩壊である。
人数が少なくなったためだろうか。襲撃者はマリオたちの前に姿を現した。
全身を黒い戦闘服に身を包み、顔はフルフェイスのヘルメットで覆われうかがい知ることはできない。身長は180を超えているであろう大柄の男だった。
マリオは一瞬去年の夏戦場にクレーターを作った男かと思ったが、あの男はさらに大柄で、闇に乗じて攻撃するタイプではなかったことを思い出す。
(こいつは一体誰だ…?)
男は一瞬でこちらに接近し、マリオ以外の3人を瞬く間に切り伏せた。男はナイフから短い刀に武器を持ち替える。
かなり短めの、刃が少しこぼれている、殺傷能力はあまり高くなさそうな刀だ。とはいえこれだけの実力者である。この敵が仮に木刀を持ったとしてもマリオでは一瞬で殺されてしまうだろう。
マリオは両腕を下ろし死を覚悟した。
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襲撃者が影を襲う少し前。
イタチは影のための食料を手に、今後のことを考えながら影の野営ポイントに向かい歩いていた。マダックス親子を救出した後は、影を抜けることも視野に入れなければならないかもしれない。
戦闘前の興奮からか、影のメンバーからの懐疑心のせいか、先ほどからずっと妙な胸騒ぎがする。
まず大前提として、イタチはカールたちを襲ってはいない。ではイタチの姿をした人間は誰だったのか。
(十中八九…)
「レティシア。お前だな…」
闇を睨み口を開くイタチ。
「よう。この前ぶりだな」
イタチの目線の先、太い木の裏からレティシアが現れる。相変わらず余裕たっぷりの表情だ。
「俺に変化して影を襲ったお前がよく俺の前に姿を現せたな」
すでにイタチの眼は写輪眼に変わっている。
「あれ?もうバレてるのか?まさかあの最前線で生き残れる影のメンバーがいたとは思わなかった」
「重症だがな。それで、カールたちを攫って影をどうするつもりだ?」
より鋭い眼光でレティシアを睨むイタチ。相対してからレティシアはイタチに目を合わせてこない。
「イタチさぁ。お前平和ボケしてないか?俺の目的は影の皆殺しだって説明しただろうが。一緒に修行したオトモダチだから影を襲うのは中止してくれるとでも思ったのか?」
軽く馬鹿にした笑みを顔に貼り付けイタチの殺気をものともしないレティシア。
「だがまぁ、理由ぐらいは話してやってもいいか。何から知りたい?」
両手を広げ質問の答えを待つレティシアだったが、レティシアを襲ったのは言葉ではなく銀色に光るナイフだった。
一瞬で距離をつめたイタチ。しかしレティシアの予想の範囲内だったのか、レティシアも難なくその刃を短刀で受ける。
「いきなりじゃねえか」
「…時間稼ぎがみえみえだ。何を狙っている?」
鍔迫り合いながら会話する2人。
「だってよぉ」
ニヤリと笑いレティシアが答える。
「"俺の仲間”が今影を襲ってるんだから、お前に邪魔されちゃかなわないだろ」
イタチは一瞬驚いた顔をした後、少し微笑んだ。
その直後レティシアの顔から表情が消える。
「おいイタチ。お前なんで…」
刃をはじき合い少し距離を取る2人。そしてレティシアは怪訝な表情をしてイタチを睨む。
「後ろにいた影分身を消した?」
(シアンを使わずあの影分身に気づくか…。相変わらずの感知能力だな…)
「俺でもギリギリ気づいた。なぜ分身体で隙を狙わず、魔力を消費して作った影分身を消した?」
鋭い表情で質問するレティシアに、イタチは無表情で言葉を紡ぐ。
「決まっている」
そう言うとイタチはナイフを袖に戻し構えを解く。会話の途中であろうとその隙を逃すレティシアではない。
レティシアの短刀がイタチを貫いた。
「俺の本体にこの情報を知らせるためだ」
イタチの体だったものが無数のカラスに変わる。鳴き声と共にカラスたちは空に飛び立った。
「チイッ」
レティシアの口から舌打ちがこぼれる。しかし
(しかしまぁ、計画を考えればこの方が都合が良いか…)
影の最後を確認するため、レティシアは短刀を鞘に収め、影の野営ポイントに向かった。
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イタチの本体が太い木の枝を踏みしめ猛スピードで影の野営ポイントに向かっている。
買い付けが終わった後、胸騒ぎのため、チャクラを消費するリスクを犯してまでイタチは2体の烏分身を作った。
1体を目立つように歩かせ、もう1体にそれを尾行させる。
本体は一度身を隠した後別ルートで誰にも見つからないよう慎重に野営ポイントに向かった。
当たって欲しくない予想が当たり、現状を把握した尾行している分身体が自分の意思で分身を解除。本体に情報を伝える。本体は情報を把握し、急いで野営ポイントに向かっている。
見えた。
今まさにマリオが男に刀で貫かれようとしている。
(だめだ…間に合わない…!)
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マリオは死を覚悟した。完全に手詰まりだ。自分ではもうどうしようもない。
以前にもこんな状況があったことを思い出す。殺される直前のカールたちをイタチの巻物で救い、クレーター男に殺されそうになった時のことである。
(くそ…ここまでかよ)
「すまねぇな、カール…」
目を閉じて自分を殺す攻撃を待つ。しかしいつまでたっても痛みが来ない。マリオは恐る恐る目を開けた。
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「すまねぇな、カール…」
その言葉がイタチの耳にも届いた瞬間、マリオを殺そうとしていた襲撃者の動きが一瞬遅くなった。
(これなら間に合う…!)
イタチはトップスピードに乗ったまま、襲撃者の刀を素手で抑え、ナイフを襲撃者の首に突き刺した。
これで襲撃者は死に、マリオは助かった。しかし何だろうか、何か取り返しのつかないことをしてしまったような妙な違和感を感じる。
この違和感の正体は何なのだろうかと考えようとした刹那、背後から殺気を感じた。
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「おっ、ちょうどクライマックスじゃねーか!」
レティシアが野営ポイントに到着した時は、正に襲撃者がマリオを殺そうとする瞬間だった。必死にイタチが間に入ろうとしているが、
(ありゃ間に合わねーな)
そう判断し結末を見取ろうとする。
だが予想に反して襲撃者の動きが遅くなる。結果、イタチは襲撃者を殺しマリオを助けることに成功した。
「まじか!これはこれで面白いけど、影の構成員が生きてると困るんだよね」
レティシアはそう呟くと、小石の礫をイタチとマリオに向けて飛ばす。
(あの体制じゃ、イタチは避けられてもあの影の生き残りは死ぬかな)
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自身に飛ばされている石の礫を認識しながら、イタチは気づいてしまった。自分のしてしまった行為の意味に。
(なぜこいつが影を襲う?マリオを襲う?何をしたレティシア…)
イタチがしてしまったこと。
それは "影のリーダーであるカール・マダックスを自分の手で殺してしまった" という恐ろしい事実であった。
襲撃者の正体はカール・マダックスその人だった。理由は分からないが、カールは1月8日の作戦に参加しようとした影のメンバーを皆殺しにした。
そしてマリオも殺そうとしたカールの首に、イタチがナイフを突き刺したのだ。
なんてことは無い。カールとイタチが”影”を殺したというだけのこと。
もうイタチの決意は決まった。"イザナギ”を使ってでもマリオは守る。
だがここで、誰もが予想していなかった事態が起こる。
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1986年 大晦日
カールが目を覚ました時、自分の両手首は後ろ手に縛られて椅子に座らされていた。8畳ほどの窓も無い殺風景な部屋の中、ブラウン管のテレビとテレビにつながっている大きな機械が目立っている。
ここはどこなのか。クリスとアリスは、影は無事なのか。イタチの目的は?戦争はどうなったのか。
「目が覚めたか」
背後から男の声がする。振り向き声の主を確認したカールは驚きで表情が固まってしまった。
「まさか…、なぜあなたがここにいる」
男は無表情のままカールを見つめ続けている。
自分がアメリカ軍にいた頃上官だった男、自分にファロットの一族の事を教えてくれた男…。
深呼吸してカールは男の名を呼ぶ。
「レックス・ソウル…」
名前を呼ばれて、初めて男の表情に変化があった。お世辞にも好意的とはいえない、獰猛な笑みだった。
レックスは再会を懐かしむつもりは無いらしい。無表情に戻り、イヤホンマイクを耳に取り付け部屋にあるテレビを指差した。
「ふむ、その質問に答えても良いが、お前が知りたいのはあっちだろう」
カールがブラウン管に目を移すと、そこにはクリスとアリスが映っていた。ここと同じような部屋で同じように縛られている。まだ2人の意識は戻っていないらしい。
「この映像はLIVEでな。向こうにいる俺の仲間にこのマイクで指示ができる。イタチ!」
クリスとアリスしか映っていなかった画面に、短刀を持った新しい人影が入り込む。イタチだ。レックスの声が聞こえたのだろう。カメラに向かって小さく手を振った。
「どういうことだ。おい!何をしようとしている!?」
「ふむ、もっともな疑問だ。いや実はな、カール、お前にやってもらいたいことがある。だが俺のやってもらいたいことは恐らくお前のやりたくないことな訳だ。」
ここまで言われればカールにもレックスが何を言いたいのかが分かってきた。興味なさのうにテレビの画面を見たままレックスが言葉を続ける。
「まぁ分かりやすく言えばお前の子供たちは人質というわけだ」
「何が望みだ…」
激しい怒りを目に宿したカールがレックスに尋ねる。
「端的に言おう。子供たちを殺されたくなければ、」
レックスが一度言葉を区切る。ブラウン管の電子音が響く室内にカールのつばを飲み込む音が混じる。
「影の生き残りを皆殺しにしろ」
カールは目を閉じ、深呼吸してから答える。
「断る」
「よし、やれ」
予想していた回答だったのだろう。間髪いれずにレックスはイタチに指示を出す。
イタチは短刀を構え、
カールが静止の言葉を発する時間も与えず、
短刀を横に振りぬく。
「え」
カールが気づいた時には、
クリストファー・マダックスの生首が画面の中で飛んでいた。
レックスはテレビの電源を消す。完全に無音になった室内。カールの荒い呼吸だけが響く。
茫然自失のカールは部屋に新しく入ってきた男に気づくことすらできなかった。
「マダックス君、スペシャルゲストだ!彼は驚くことに魔法使いでね、人に言うことを無理やりきかせる”服従の呪文"という便利な魔法が使えるそうだ」
うつろな目のカールはレックスの言葉に反応しない。
「ふむ、心が折れてしまったかな。まあいい。やってくれ」
「あ…」
何も言葉を紡ぐことができないまま、カールは服従の呪文を浴びてしまう。
部屋のドアが開きイタチが室内に入ってきた。レックスはイタチを一瞥し、
「いつまで化けているつもりだ。レティシア」
衝撃の事実を口にする。
魔法使いの姿はもうすでに部屋の中には無い。
「計画通りだな」
「イタチがいなけりゃこんなもんだよ」
うなだれているカールを無視して2人は会話をする。
「しかし魔法使いとも繋がっていたとはねぇ」
「イギリスのとあるならず者の紹介でな。金さえ積めば大抵のことはやってくれる便利なお友達だ」
「あっそ」
レティシアの興味はわかなかったらしい。
「それでだレティシア。個人的にお前に仕事を依頼したい」
ニヤリと笑ってレックスが口を開く。
レックスの依頼はレティシアの興味を大いにそそるものだった。
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イタチがカールの刀を止め、カールの首にナイフを突き刺す。そこにレティシアの石の礫が襲う。イタチはそれを認識しつつも、自分がナイフで刺した相手がカールだったことに気づく。
この一連の流れ、実際のところ時間にすれば1秒にも満たない、コンマ数秒の出来事である。
イザナギという、うちはの禁術を使ってまでマリオを助けようとしたイタチ。
マリオの死を確信したレティシア。
状況を掴めていないマリオ。
ここで彼らの誰もが予想しない出来事が起こる。
結論から言おう。
レティシアが飛ばした2つの礫。1つはマリオの脳天に命中。そしてもう1つはイタチが今まで立っていた地面にめり込んだ。
マリオは即死。しかしイタチの姿はどこにも見えない。
レティシアが周囲を探るが、姿どころか気配すら無い。
(どういうことだ…?)
イタチは、
その場から姿を消したのである。
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一番驚いたのはイタチである。
今レティシアの礫に対処しようとしていたにも関わらず、イタチは全く別の場所に立っていた。
(口寄せか時空間忍術で移動したときの感覚に近い…。何が起こった)
そもそも先ほどまでは夜中だっが、今イタチがいる場所は少し明るい。感覚的には早朝である。
先ほどは森の中だったが、今いる場所から見えるのは田園風景だ。はっきり言って以前の世界に近い雰囲気である。
(まさか、元の世界に生き返ったのか?)
何か手がかりはないかと、イタチは周囲を見渡す。
あるのは木々と田んぼと、後はイタチのへそほどの高さの、少し大きめの古臭い石碑だけだ。
だがイタチはその石碑から眼が離せなかった。
ちなみにだが、今の今まで戦闘をしていたイタチの眼は写輪眼のままである。
だからこそイタチはその石碑から眼が離せなかったとも言える。
その石碑には、写輪眼を開眼したうちは一族しか読めない文字でこう記されていた。
我、コノ世ニ渡リ
大地ノ理ヲ識リ
千手ト同ジ力ヲ得
コノ世ヲ救ウ為立チ上ガル者也
戦争編完結ッッ!!
5話ぐらいでここまでいけるかと思ったら10話かかった。
そして9479字!さりげなく最長記録。
twitter始めました:@occccchi