うちはイタチと賢者の石   作:おちあい

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1986年8月 ③

生きているものは1人としていない。死体だらけの戦場跡。

そこに立つ唯一の生者、一人の老人がいた。

「愚かなことじゃ…」

老人はローブから杖を取り出し一振りする。すると大量の数の蓋のあいた木製の棺が現れ、全ての遺体がそれぞれの棺に入っていく。

杖をもう一振りすると、遺体からドックタグが外され棺の蓋が閉まり、ドッグタグは棺の上にゆっくりと落ちて行った。

老人はドッグタグを所有していなかった一つの遺体に近づき、悲しい目を閉じて数秒間祈りを捧げる。

死んだ時に自分の正体が分からないようにするため、自分に繋がる所有物を一切持っていなかったリンダ・ファロット。老人はドッグタグを棺の上に乗せる代わりに、彼女の使っていた短刀を棺の近くの地面に突き刺した。

「さて、そろそろ行くとするかの」

パチン、という音を残して老人は忽然と姿を消した。

数時間後、この戦場で勝利したイラン軍が自軍の死体の回収と敵軍の死体の埋葬のため戦場に戻ってきた時、大量の棺を見つけて驚き、本戦争の七不思議の一つに数えられることとなるのだが、それはまた別の話である。

 

--

 

「イタチと互角以上の戦闘力を持つファロットの子供に、地面に素手でクレーターを作る怪物か…」

「正にワンアーミーね」

「いくつもの戦場を経験した俺だが、ここまで化け物揃いの戦場は初めてだ…」

影を含めたイラン軍の野営ポイントにて、イタチから今日の戦いの説明を受けたマダックス親子は、額に汗を浮かべながらそう呟く。

「それにしても、イタチがいなければ我々はこの戦場で確実に死んでいた…。礼を言う。ありがとうイタチ」

「やるべきことをやっただけだ」

頭を下げるカールに、イタチは無表情のまま言葉を返す。

「命を救ってもらったイタチにこんなことを言うのはアレだが、相変わらずの化け物っぷりだったな。イタチ」

「全くだぜ!あいつの短刀をナイフで受け止めるなんて絶対やりたくねぇ」

どうやら笑顔で冗談を言える程度には回復したと判断したイタチは話を切り上げる。

「話は終わりだ。もう各々のテントに戻れ。俺も今日は早めに休むことにする」

「ああ、そうだな。クリス、アリー、もう寝るぞ」

 

「そろそろ出てきたらどうだ…」

3人の気配がテントから離れたことを確認してイタチは呟く。

数秒してイタチのテントの入り口が開いた。そこに立っていたのは、数時間前に自分と死闘を繰り広げた相手、レティシア・ファロットその人であった。

「よお!」

左手を上げて気軽に声をかけてくるレティシア、対するイタチの眼はいつの間にか写輪眼となっていてレティシアを油断なく見つめていた。

「少し出ないか?」

上げた左手の親指でテントの外を示すレティシア。少し考えるそぶりをしたイタチは、

「いいだろう」

そう呟きレティシアの後に続いてテントを出た。

2人は野営ポイントから少し離れた森の中まで移動する。ほとんど光のない暗闇の中、2人ともつまずくことすらない。やがてレティシアは少し大きめの岩に腰を掛けた。

「…あの女の敵討ちか?」

しばらくの沈黙の後、先に声をかけたのはイタチの方だった。

「あの女…?あぁ、リンダの事か」

しかしレティシアはそれを否定する。

「ずれてるぜ、うちはイタチ。あの女なんざどうでもいい。俺が興味を持っているのは…」

レティシアは右手の人差し指をイタチに向ける。

「お前の魔法だ」

 

--

 

話は数時間前に遡る。

イタチとの戦闘を避け、退くことを選択したレックス・ソウルは今までにないほど苛立っていた。

彼は今まで戦いで敗北したことが無い。常に捕食者であり、恐らく世界最強であるあの男との戦いにおいても互角に戦い、無様に敗走なんてしなかった。

「うちはイタチ…」

ギリギリと悔しそうに奥歯を噛みしめるレックス。今回はどう言い訳をしてもただの敗走である。

彼はイタチの眼の奥にある意志に恐れ、戦うこともせずに逃げ出した自分自身を許せなかった。

(俺の力だけじゃねぇ…権力、財力、人生の全てを賭けてもあのガキは絶対に地獄に叩き落としてやる…!)

初めて敗北を知ったレックス。彼はイタチへの復讐を誓った。

 

--

 

「悪いが、俺は魔法というものが何のことなのかよく分からない」

何を言っているのか分からないという表情をするイタチに、レティシアも少し混乱した。

「分からないってお前、自分で使ってたじゃねぇかよ」

レティシアの言葉にイタチはある仮説を立てる。

(まさか忍術の事をこの世界では魔法と言うのか…?)

「お前はその纏っている力を魔力とは言わないのか?」

自身の体に魔力を纏わせレティシアが問う。

「俺はそれをチャクラと呼んでいる。恐らくその魔力とほぼ同義だろう」

イタチの言葉に満足した様子のレティシアは新たに問う。

「そのチャクラとやらを利用して、幻を見せる魔法を使用したってことだろ?」

「…そうだ」

イタチの簡潔な答えを確認したレティシアは、短刀を抜き切っ先をイタチに向けた。

「だったら話は早いな」

魔力を纏った短刀を向けられてもイタチの表情は変わらない。レティシアを無言で見つめたままである。

「その術、使い方と解き方を教えてもらおう」

 

レティシア・ファロットは驕らない。まだまだ経験の浅い子供ではあるが、相手と自分の力量を冷静にはかる力を持っている。

そのレティシアが冷静に判断した結果。イタチに出会うまでは自分と同等か自分より強い可能性があると考えたのはファロットの長リチャードと、レックス・ソウルの2人だけであった。「イギリスの悪魔」は出会ったことも無い上に、ファロットに心臓を貫かれた事実もある。その判断はある意味正解と言えるかもしれない。

しかしイタチとの戦いで、自分の知識と力量では抵抗できない力があることを知る。自分が最強でなければならないレティシアとしては、なんとしてもイタチの術を破るすべを身につける必要があった。

「お前を殺すのも一つの手段だとは思ったんだがな…。同じ術を使う敵が現れた場合、対抗できる力が欲しくてな」

当然、自分と同等の力量の相手に手の内を見せるのはご法度。ナンセンスであるが、イタチには一つ気になることがあった。

「その前にファロット。俺の質問に答えてもらう」

あえて写輪眼を通常の眼に戻しレティシアを見つめるイタチ。

戦闘の意志を自分から消したイタチに、レティシアも短刀を鞘に収め無言で続きを促す。

「…俺の幻術を解いた後、お前のチャクラの質が大きく変わった。あれも魔法なのか?」

(幻術…ね。あの幻を見せる魔法は幻術というのか)

「YESでもありNOでもある…。あれはシアンという、ファロットの中でも長になる予定のものだけが教わる秘術だ」

少し考えた後、レティシアはあえて詳しくイタチに説明をする。

対するイタチも少し考えた後、

「いいだろう。俺の幻術について教えてやる。ただし、お前のシアンとやらについて教えてもらおう。それで対等だ」

あえて踏み込むことを決断した。しかしレティシアは腕を組み、難しい顔をしたまま応えない。

10秒ほど考えた後にレティシアはゆっくりと口を開く。

「…いや、それは対等じゃないな」

イタチの眼が少し細まる。

「お前の幻術とやらは恐らく魔法の技の一つだ…。だがシアンは魔法とは少し異なったまた別の術だ。魔法の技一つを教わるのと、魔法と同じような技の体系そのものを教わるのでは対等とは言えない。少なくともお前の他の技もいくつか教わるぐらいじゃないと割に合わないな…。どうだ?」

イタチも少し考える。実際幻術一つとっても相当奥の深い代物なのだが、そこまで言うという事はシアンという技もかなりのものなのだろう。

イタチの中で考えがまとまり、口を開こうとした瞬間、イタチとレティシアから数メートル離れた場所で、パチンという小さな音がした。

その瞬間、イタチはナイフを手に、レティシアは短刀を抜刀して同じ空間を睨む。

 

「ファロット、これも魔法か?」

「十中八九そうだろうな」

お互い、同じ空間から目を離すことなく会話する。いつの間にかイタチの眼は写輪眼となっていた。

「それにしてはお粗末だな…。姿と音は完全に消しているようだが、匂いが消えていない。これじゃ居場所が簡単に見つけられる」

「この距離ならシアンを使わなくても魔力感知できるしな。おそらく瞬間移動であろう術の音も丸聞こえだったし」

「瞬間移動の音を消すか、真後ろに来て素早く殺すべきだったな…」

「大した使い手じゃないかもね」

あえて相手を煽り、敵の出方を窺う2人。決して仲間ではないが素晴らしい連係プレーだった。

 

「君たちを殺す気など無いからのぉ…」

何もない空間から老人の声が響く。イタチもレティシアも表情一つ変えない。

「驚かせてしまったようで悪かったの。お詫びにレモン・キャンディーはいかがかな?」

その声と同時に隠れていた男の姿が現れる。姿を現したのはかなりの高齢であろう老人だった。

ヒョロリと背が高く、髪と髭がとても長くベルトに挟み込んでいる。紫のマントを地面に擦り、淡いブルーの優しい目が半月型のメガネの奥でキラキラと輝きイタチとレティシアを捕えていた。

(成程…相当の使い手だな…)

イタチは老人を分析する。かなり老いてはいるが、そのチャクラはとても穏やかで且つ力強かった。

「殺すつもりがないなら何の用だ?」

イタチと同じく、レティシアも相手の力量を感じ取ったのだろう。油断なく相手に一歩近づき質問を投げかける。

しかし老人はくっついたレモン・キャンディーをはがすのに夢中で聞こえなかったらしい。やがて綺麗にはがれたレモン・キャンディーをイタチより近くにいたレティシアに差し出す。

「ほれ、レモン・キャンディーじゃ。わしゃこれが好きでな。甘くておいしいぞ」

「…そんなものはいらない。何の用かと聞いているんだ」

お気に入りのお菓子をレティシアにそんなもの呼ばわりされて、少しいじけた老人だったが、やがて静かに口を開いた。

「噂を聞いての。子供の魔法使いがマグルの戦争に巻き込まれていると…。事実を確かめるために出向いたのじゃが」

イタチを見つめ、その後にレティシアに目を向けると老人は悲しそうな顔で2人に語りかける。

「まさか魔法使いの子供が2人もいるとはのぉ…。悲しい事じゃ…」

「マグルとはなんだ?」

しばらく黙って様子を窺っていたイタチが口を開く。

「おぉ、君はマグルに育てられたから知らなかったんじゃな。マグルとは魔法使いではない者たちの事じゃ」

イタチは腕を組みまた何かを考え始めた。

「ふむ、何をしに来たのか、じゃったか…。では単刀直入に言おうかの。儂は君たちにこの戦場から離れてもらいたいと考えておる」

「はぁ?」

間抜けな声を出したのはレティシアだ。

「ボケてんのか?ジジイ…」

レティシアに失礼な言葉をかけられても、なお老人の目は優しいままだ。

「儂はイギリスでホグワーツ魔法魔術学校の校長をしていての。魔法使いの子供がマグルの戦争に巻き込まれているのはとっても心苦しい。君たちにはイギリスに来てもらって、11歳になったらホグワーツに通って欲しいと思っておるのじゃよ」

「なるほど…アルバス・ダンブルドアか…。あんたがとっても良い人なのは分かったよ。ただ悪いけどよ、俺はやらなくちゃいけないことがあるから無理だ」

飽きれた顔で答えるレティシア。それでも老人の顔に動揺は見られない。

「アルバス・ダンブルドア?有名人なのか」

再び口を開くイタチ。

「どうかの。名乗りが遅くなってしまったの。儂の名はアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア。イギリスには友人も多いが、まぁ魔法は割と得意じゃよ」

イタチにウインクするダンブルドア。

「アルバス、一つ聞きたい」

いきなりファーストネームでダンブルドアを呼ぶイタチだが、ダンブルドアは優しい笑顔のまま無言で先を促す。

「この戦場には俺たち2人以外にも子供の兵士が多数存在する。そいつらにも声はかけたのか?仮に我々だけにその提案をしたとなると、俺たちが魔法使いとやらだという理由か?」

イタチの冷静な質問に、ダンブルドアは少し悲しい顔をして応える。

「質問が2つじゃが両方に答えよう。もちろん全ての子供たちに戦争から遠ざかって欲しいと思ってはおるがの、君たち以外に声はかけておらんよ。…そうじゃな2つ目の質問、YESかNOで答えるのであればYESじゃ」

ダンブルドアの答えを確認し、イタチも静かに応える。

「申し訳ないが俺もその申し出は断らせてもらう。俺が守るべき子供もここにはいるしな…」

ダンブルドアは悲しみを含んだ笑顔で2人を見つめる。

「そうか…。予想はしておったがの。最後に君たちの名前を教えてはくれないかな?」

「うちはイタチ」

「レティシア・ファロットだ」

「ふむ、覚えておくとしよう。とりあえずは儂も引き下がるとするかの」

またパチンという音を残してダンブルドアはその場から消えた。

 

ダンブルドアが消え、静寂が2人を包む。

その静寂を先に破ったのはイタチだった。

「名をレティシアというのか。…いいだろう。お前のシアンを教えてもらう代わりに、俺の術をお前に教える」

まるでダンブルドアとの話し合いなど無かったかのように、ダンブルドア登場前の会話の続きを始めるイタチの切り替えの早さに少し驚きつつも、レティシアはニヤリと笑みを浮かべ言葉を返す。

「契約成立だな」

 

--

 

ホグワーツに戻ったダンブルドアは、新たなレモン・キャンディーを袋から取り出し口に含む。

その表情は悲しみに満ちていた。

「すまんのうアンナ…」

ダンブルドアのその呟きを聴いたのは、彼の傍らにいる不死鳥だけだった。




設定資料

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1986年8月
ダンブルドアがイタチとレティシアに接触。
イギリスへの誘いを2人が断る。

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