斯くして、一色いろはの小悪魔生活は終わりを迎える。   作:蒼井夕日

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15話 あの日の

 「よし、行くか……」

 

 海浜総合と二度目の活動を終えて翌日、12月16日水曜日。

 いつも通り6限とホームルームを半醒半睡で切り抜け、気づけば放課後である。

 

 窓際後方では葉山グループがまだ談笑しており、その中にはもちろん由比ヶ浜の姿もあった。

 ポチポチと椅子にもたれてスマホをいじる三浦に話しかけつつも、無駄にでけえ声で喚く戸部にも上手く対応し、面倒になれば大和や大岡に話を振って受け流す。相も変わらずのコミュ力お化けだなぁとチラっと後ろを見ると、不意に由比ヶ浜と視線がぶつかった。慌てて逸らしたがそれも遅く、由比ヶ浜は話を切り上げてこちらへ駆け寄った。

 

 「ヒッキー、今日部活は?来る?」

 

 伺うように体を屈める由比ヶ浜に、俺は少しだけ体を反って距離を取った。近いしいい匂いだし明らかに後ろから視線感じて恥ずかしいからやめてほしい。

  

 「……今日特にやることないし、行くわ。めんどいけど」

 「そっか!……ていうか、めんどいとかいうなし」

 「いったぁ……」

 

 とん、と肩パンで抗議する由比ヶ浜に、さして痛くもないがそう言った。

 いやもうほんと、後ろから「ひゅ~」とかいう声が心に痛くて仕方ない。戸部マジでうるさい。

 

 「それじゃ一緒にいこ!準備してくるから!」

 「おぉ」

 

 ぬるっと返事をして、いち早く教室の外で待つことにした。だって、あの状況で教室で待つとか無理ゲーでしょ。三浦とか一見気にしてない風に見えるが、あれで由比ヶ浜大好き人間だから下手に動くといつ撃たれるかわかったもんじゃない。あれは暗殺者というよりスラムの街道で堂々とピストル構えてるタイプだわ。想像したら似合いすぎててちびる。

 

 「なんで先いくし」

 「いったぁ……」

 

 不満げな顔で、今度はわき腹にスクールバッグをぶつけてきた由比ヶ浜。

 マフラーとコートを着て準備が整ったようなので、俺は痛くもないわき腹をさすりながら歩き出した。

 これから部室に行くのだと思うと昨日のことを思い出してしまって気が滅入る。手伝わなくてもいいといった手前、どう雪ノ下に顔を合わせればいいのだ。そう思うと、右手に持ったスクールバッグも心なしか重く感じた。

 

 「いやー、冬休みも来週だね。ヒッキーは冬休みの予定とかあるの?」

 「あああるぞ。お年玉が小町だけに渡されてると知ってショック受けたりとか、家族旅行を見送ったりとかな」

 「ヒッキーの冬休み悲惨だ!?」

 

 ほんとそれなぁ……。家族旅行に関しては来週に行くらしいが、「どうせ来ないでしょ?」って端から誘われてなかったんだよなぁ。いやまあ、どうせ誘われても悩みに悩んで結局行かないから結果同じなんだけど、誘ってくれてもいいじゃない?僕も家族の一員なんですよ?

 

 「えーと、ほ、ほらっ!クリスマスの予定とかは?」

 

 気の毒なほどの俺の予定を聞いて、由比ヶ浜は慌てたように話を逸らす。この流れからしたらその話もアウトなことくらい察してほしいものだ。まあ昨日までは予定はあったんだが、それも無しってことになったしな。

 

 「普通に家にいると思うぞ。まあ小町のプレゼント買いに行くかもしれないけど」

 「ふ、ふーん」

 「クリスマスは家でゆっくりしたいもんだよな。なにせ最近の俺、珍しく忙しいし」

 「で、でもクリスマスの夜景とか超きれいじゃない?デートしてるカップルとか見るとあたしもその、憧れるっていうか……」

 「いいことを教えてやる。クリスマスでデートしてるカップルの8割はクリスマス用なんだよ。しかも2か月後にはバレンタインもあるからそれに向けて相手が欲しいだけで、4月になれば秒で別れるぞ」

 「彼女いたことないヒッキーに言われても全然説得力ない」

 

 由比ヶ浜の夢をぶち壊してやろうとクリスマスカップルの闇を語ると、由比ヶ浜はつーんっと拗ねたように口をとがらせる。

 甘いぞ由比ヶ浜。俺レベルのオタクともなると彼女はいなくても嫁がいるんだよ。つまりオタクは陽キャよりもリア充してるんだぜ。

 

 「…………あ、あのさ!」

 「どうした?もう着いたけど」

 

 何か言いかけた由比ヶ浜を遮ったせいで、やけに気まずい空気が流れた。やべーなんだよこの空気。なにその気まずそうな顔。最後まで聞いときゃよかったと若干後悔していると、由比ヶ浜は「ううん、なんでも!」と表情を一変させて、部室へ入っていった。

 

 「やっはろー!」 

 「こんにちは」

 「あっ、こん…………こんにちはー結衣先輩」

 

 由比ヶ浜を追うように俺も部室へ入ると、雪ノ下に加えて一色もいたらしい。

 

 あ、あれ……おかしいな。今完全に一色と目が合ったのに、由比ヶ浜にしか挨拶してなかったぞー?きっと僕の影が薄いせいで気づかなかったんだね。ちゃんとアピールしなきゃねっ!

 

 「比企谷君も、こんにちは。今日は来たのね」

 「……うす。生徒会の仕事全部会計と書記に押し付けてきたからやることなくてな」

 「生徒会長とは思えない発言ね……。投票しなくて正解だったわ」

 「違うな雪ノ下。それだからお前は協調性がないとか言われるんだ。これはワークシェアリングの一環なんだよ。新人には仕事を割り当てないといつまでたっても成長しない」

 「自分のことを棚に上げるとはよく言ったものね」

 

 呆れかえってこめかみを押さえる雪ノ下に、俺は言い返しもせずに文庫本を取り出した。棚どころかエベレスト山頂まで持ち上げてるまである。

 

 思っていたよりも普通に会話出来て心なしかホッとしたのは胸にしまっておこう。

 

 「一色はなんでここにいんの?」

 

 奉仕部でもないのに、と言外に聞いても、一色はこちらを振り返る素振りすら見せない。

 昨日、一色は九条祐介という海浜総合の男のパーティに招待され、俺と行くはずだったディスティニーの予定は変更することになった。おそらくそれから機嫌が悪くなったのだが、未だその理由はわからん。一色が九条のことを嫌ってる、という可能性も考えたが、だとしたら「裕君」なんて親し気に呼ぶだろうか。

 そして何よりも、材木座はその理由に気づいてる感じが一番鼻につくのだが……。

 

 にしても、反抗期すぎないですかいろはさん?

 

 「あ、そういえば結衣先輩、昨日オープンしたケーキ屋さん知ってますか?」

 「えっ?あ、うん、知ってるよ?」

 

 一色は全力で無視する気なのか、俺の話はなかったかのように由比ヶ浜へ話題を振った。由比ヶ浜と雪ノ下はそれを不自然に思ったのか、ちらちらと俺を見る。

 ま、まあ人に気づかれないとか「うんそうだねー」と適当に流されるとかは経験のある俺だが、こうも露骨に無視されると多少なりとも傷つく。

 

 俺は今にもあふれ出しそうな涙を堪え、そっと文庫本を開いた。

 

 「実はそこ、ネットでも結構バズってるんですよー。よかったら帰り行きませんか?わたしたち三人で!」

 

 倒置法でさらに心を抉ってくるという高度テクを使って、一色は露骨に俺を省きだした。

 こいつ……。イジメ側にいたらそこそこ厄介なタイプだわー。タイマンではなく城壁のように周りを取り込むその感じ、中学の時にもそういう奴いたわー。

  

 「ね、ねえいろはちゃん、ちょっと……」

 

 さすがに見過ごせなくなったのか、エアリーダー由比ヶ浜がちょいちょいと手招きして一色に耳打ちをしだした。俺は文庫本に目を落として、「別に気にしてねえけど?」と平然を装いつつもちらちらと二人の様子を見やった。

 

 「ヒッキーとなんかあったの?」

 「なんかもなにも、この人とは最初からなんの関係も交友も縁もないですよー」

 「絶対なんかあったじゃんその感じ!」

 「えー…………じゃあ結衣先輩は、わたしが先輩と『何かあった』方がよかったんですかー?」

 「へっ!?だ、ダメに決まってんじゃん!!い、いろはちゃんまさか……」

 「なーんて、なにもないですけどねー」

   

 こそこそやいやいと何を話しているのかわからないが、話しながらも二人はちらちら俺を見てきて居心地が悪い。わ、悪口とか言われてないかしら……。

 とちょっと心配になっていると、雪ノ下がぱたりと文庫本を閉じて軽蔑した目線を送ってくる。

 

 「どうせ、比企谷君がまた嫌がらせでもしたのでしょう?」

 「前科持ちみたいに言うじゃねえよ。してないから、たぶん」

 「その含みのある言い方、心当たりはあるのね」

 「なんか俺が加害者みたいになってるけど、いつも被害被ってんの俺だからね?そもそも、こんな棘だらけでやったら100倍でやり返してきそうな面倒な奴に俺が積極的に関わるわけがない。友達クエストレベル100くらいの難易度でしょ、コレ」

 

 「コレ」呼ばわりしたことも相まってか、一色は俺の訴えにピクリと反応すると、超絶冷え切った笑みを浮かべて、

 

 「何か言いましたかぁ先輩?」

 「いえ何も言ってないですごめんなさい」

 「やっぱりなんかあったんじゃんこの二人……」

 

 物理的に人を射殺しそうなこの笑顔にはさしもの俺も抗えそうにない。その瞳の奥で「次なにかいったら、わかってますよねー?」と死刑宣告しているに違いない。

 

 この部室にはもはや安息のスペースはない。

 もうおうち帰ろっかな……。俺の安住地は我が家しかないのかおよよ……と心の中で泣き崩れていると、雪ノ下が呆れたようにこめかみに指を当てて、

 

 「まったく、まるで痴話喧嘩ね。聞いていて辟易するわ」

 「ち、ちわっ!?」

 

 その雪ノ下の言葉に一も二も無く反応したのは、由比ヶ浜。

 しかし驚きと動揺を露にした由比ヶ浜とは対蹠的に、向かいの一色は心底嫌そうな顔を浮かべた。

 

 「やだなー雪乃先輩。いくらなんでもそれは笑えませんよー」

 

 手を横に振って「ムリムリ」という一色を、由比ヶ浜が伺うように見る。一色はそれを受けて、両手で小さくバツをつくり。さらにそれを見た由比ヶ浜が「うんうん」と小さく頷いて両手で小さくガッツポーズを一色に見せた。そして、「シャキーン」と音がしそうなほどのサムズアップをお互いに交わすと、二人は何事もなかったかのように紅茶をすすった。

 

 え、何その意思疎通?今二人の間でどんな駆け引きが繰り広げられていたのか俺には全く見当もつかないんだけど?これが噂に聞く女子語という奴だろうか。きっと、男には底知れぬコミュニケーションを交わしていたに違いない。

 

 と、女子の驚異的な意思伝達方法を垣間見てブルブルと内心恐れ慄いていると、コンコンと部室のドアからノック音が響いた。

 珍しい来訪者に俺たち四人は視線を合わせると、部長の雪ノ下が「どうぞ」とドアの向こうにいるだろう人物に声をかける。

 

 「し、しつれいしま~す……」

 

 弱々しい声と共に、一人の女子生徒が入ってくる。キョロキョロと部室内を見渡す彼女に、雪ノ下が「こちらの席へ」と一色の隣に置いてある依頼者用の席を指示した。

 一色にとっては初めての依頼者(といっても一色は奉仕部員じゃないが)ということもあってか、一色はあたふたしながら由比ヶ浜と雪ノ下の間に席を移動した。

 

 「ここが奉仕部の部室って聞いてきたんですけど……」

 

 肩まである内巻きの茶髪を揺らし、恐る恐る依頼者用の席へ腰かける。

 

 「部長の雪ノ下です。さっそくですが、なにかお困りなことが?」

 「あ、はい。えっと……」

 

 静まり返った部室で口を開きにくいのか、おずおずと視線をちらつかせる彼女。その視線がやがて俺のところでとまったかと思うと、次の瞬間ふっと顔を逸らした。

 

 ──おっとこれは?露骨な「視野に入ってくんなテメエ」な態度か?

 中学にもあったんだよなぁ。俺とうっかり目が合った女子に「あ、ごめん無理」と告ってもないのに振られた経験が。コイツもそのタイプかオラッ!?とトラウマ八幡君が顔を出し始めていると、しかし彼女は少し顔を俯かせて、俺を伺うように。 

 

 「あの、覚えてませんか?以前モールで会ったことがあるんですけど……」

 「……はい?」

 

 突然ご指名を受けたおかげで、三人の視線が一気に俺に集中する。

 以前モールで会っただと?果たして誰と勘違いしているのだろうかと思いながらも、最後にモールへ出かけた一か月ほど前の記憶を遡る。確かその日は小町のお遣いで駅構内のモールへ出かけ、そこで一色に捕まって……──。

 

 「あ、みずきの」

 

 記憶がつながり、俺も指を差し返した。

 そうだ。たしか、みずきの姉だ。もはや一か月も前で記憶からうっすら消えかかっていたものの思い出せたのは、今でもみずきと顔を合わせる機会があるからだろう。

 

 「覚えててくれたんですか!?そうですそうです!あの時はありがとうございました!本当に助かりました!」

 

 キラキラと瞳を犬のように輝かせ、犬のようにぶんぶんと頭を下げた。

 数分しか顔を合わせていなかったが、この犬感には確かに覚えはある。おまけにみずきの兄はあの海浜総合高校の生徒会長ときたもんだ。ということは。

 

 「あ、紹介が遅れてすいません。三年の玉縄といいます」

 

 ですよねー……。

 

 ここ一か月の登場人物三人が縦一直線につながり、俺は思わず苦笑を浮かべた。

 みずきと玉縄姉の間にヤツがいると思うと一気に脱力してしまうのはなぜだろう。思い出しただけでロジカルシンキングだのブレストだの脳内でリフレインしてマジで玉縄うるせえ。

 

 「みずきちゃんって海浜総合と会議した時の?」

 「ああ。迷子センターに届けた先で、な」

 「へー……」

 

 聞いといてそのそっけない返事はなんなんですかね。ていうか、おい由比ヶ浜やめろそんな目で俺を睨むな。なにもしてないのに何かやらかしたのかと思ってちょっと心配になるだろうが。

  

 「それで、相談というのは?」

 「あ、はい。その前にお三方にお聞きしたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 茶色の髪をさわさわといじりながら、女子三人を伺う玉縄姉。

 「三人」という単語に自分も含まれているのかと遅れて気づいた一色は背筋を伸ばし、雪ノ下と由比ヶ浜に関してはさして身構えるでもなく玉縄姉の続きを待っていた。

 

 女子空間が一層強まる部室に、果たして俺はいていいのだろうか。なんなら今すぐ抜け出してマッ缶買いに行きたい。そんな居心地の悪さマックスに浮足だっている俺を見ずに、玉縄姉は「すぅー」と大きく息を吸い込み。

 ビシっと俺を指さして、叫んだ。

 

 

 「私は比企谷君のことが好きですが三人は比企谷君のことをどう思いますか!!!!!」 

 

 

 そう、それはもう叫んでいた。

 

 標高数千メートルの山から轟く山彦のように。

 あるいは、夏の甲子園、決勝の舞台で声援を送るチアリーダーのように。

 そしてあるいは、メガホン片手に必死で講じるウグイス嬢のように。

 

 

 ……──。

 …………──。

 ………………──。

 ……………………──。

 

 「………………………………はぁ?」

 

 

 数秒停止していた脳が無意識的に発したのは、そんな間抜けな声だった。

 あ、あれかな。聞き間違いかな?比企谷君のことがスシですがって言ったのかな?じゃないとあんな大声でしかも本人のいる前で言うはずがないだろう。

 

 身体が硬直していく中、そう自己完結に至っていると、同じく硬直していた雪ノ下が頭痛を押さえるようにこめかみに手をあてて、俺の言葉を代弁した。

 

 「き、聞き間違いでしょうか?比企谷君のことを好きだと言ったのですか?」

 

 頼むから嘘であってくれという意味を孕んでそうな雪ノ下の質問に、しかし玉縄姉、平然とした表情で。

 

 「はい。言いました」

 「………………」

 

 その玉縄姉の答えに、雪ノ下は名状しがたい表情を浮かべる。

 そしてその横、一色と由比ヶ浜は口を半開き状態で石像化していた。

 

 仕方ない。ここは再起不能の三人に代わって俺がこの謎を解読してやろう。

  

 モールで一度会った以外に接点のない、まして名前すら知られていないはずの女子からの告白。こういった類は中学で既に経験済みなのだ。こいつらは知らないだろう。物陰に隠れてクスクスと笑っていやがる生徒たちがいることを。

 

 「それで、これはなんの悪戯ですか」

 「え?」 

 「いや、話したこともほとんどないですし、好かれる理由がないじゃないですか。罰ゲームとかそういうのじゃないんですか」

 

 さして気にしていない風に聞くと、玉縄姉はぽかーんと口を開けた後、考えるように人差し指を顎に当てた。

 

 「全然そんなじゃないよ。迷子センターで初めて会って、かっこいいなって思ったの。そしたら比企谷君総武高の生徒会選挙に出て、しかも会長でしょ?それを知った時に、「あ、あの時の人だ!」ってなって、それから気になり始めて、気づいたら好きになってたんだよね」

 

 ほんのりと顔を赤らめ。

 もじもじと身を捩りながら。

 極めつけにえへへっと困ったような微笑みを浮かべたその表情に。

 

 俺は不覚にも見惚れてしまった───…………。

 

 

 

 なんてラブコメ展開はもちろんあるわけがなかった。

 

 いや、え?この人マジなの?マジで俺に惚れちゃってる雰囲気出してるけどマジなの?

 ていうかなんでこんなところでそんなこと口走ってるの?馬鹿なの?死ぬの?

 そうだきっと天も呆れるほどの阿呆に違いない。でなければ他に人がいる前で告白なんてしないし、俺を好きになる時点で俺の中でヤバい人認定されてるまである。

 

 さすがは玉縄の姉と言ったところか。思い返せばみずきも独特の雰囲気を持っていたりするし。

 どうなってんだよ玉縄家。

 

 「や、やめておいた方がいいですよ?確かに先輩は友達いないしどうしようもないロクでなしだから簡単に騙せそうですけど、実際根性ひん曲がってて人のこと全然信用しないから美人局なんて通用しないですよ絶対」

 「お前の俺に対する評価はいったん気にしないでおくけど、俺会長で君副会長だからね?一応いっとくけど」

 

 先ほどまで固まっていた一色がつらつらと俺の悪口を言い連ねていくその横で、由比ヶ浜はまだショックが抜けきれないのか、明後日の方向を眺めていた。

 

 「騙そうなんてとんでもないよ。私は真剣に比企谷君のこと好きだもん。それで、実際どうなのかな?」

 「え、えっとー、そうですね……」

 

 一色は真摯に向けられた眼差しから逃げるように頬を掻き、由比ヶ浜に耳打ちをした。

 

 「ちょ、ちょっと結衣先輩固まってる場合じゃないですよ。この人色々ヤバいです」

 「……………………へ?あ、えーっと、うん、そだよね。そのケーキ屋さん行ってみたいかも」

 「ダメだこれ……」

 

 こいつはもう使いモノにならんと呆れてため息をつく一色は、今度は雪ノ下に体を寄せた。

 

 「雪乃先輩、どうします?」

 「そ、そうね。そもそも彼女の質問に答える義理はないのだし、ここは退席してもらいましょう」

 

 雪ノ下はコホンと一度咳払いをすると、玉縄姉へ向き直って。

 

 「恐れ入りますが、依頼がないのでしたら応じかねます。ここは奉仕部ですので」

 「あ、ごめんなさい。率直に言えば比企谷君と付き合いたいの。だからそのお手伝いをしてほしいんだけど……」

 

 「ちょっと飯食ってくる」くらいのノリで放たれた玉縄姉の衝撃的な言葉に、奉仕部メンバー一同プラス一人は頭の回転が追い付かなかった。

 待て待て。コイツ色々とネジがぶっ飛んでやがる。

 

 「……え、つきあ…………え?」

 

 壊れたロボットのように口をパクパクする雪ノ下に、玉縄姉はなおも続ける。

 

 「でも比企谷君と仲いい三人は総武高屈指の美少女でしょ?だからこの三人の誰かと付き合ってたら私なんかじゃ敵わないなって」

 

 …………なるほど。コイツの言い分はわかった。コイツには好きな人がいて、付き合えるように手伝ってほしいと。でもその好きな人と仲がいい女子は超絶美少女達だから手を出しづらいと。

 

 いたって普通だ。普通の女子高生っぽい悩みだ。それを相談のプロ(仮)である奉仕部に依頼するのも悪くない。

 

 ただ、その好きな人当人が目の前にいることだけを除いては。

 

 いや、普通恋の相談とか好きな人がいないところでやるだろと、俺は誰もが抱くであろう最大の疑問を彼女にぶつけた。

 

 「あの………百歩譲って俺を好きだってのはわかりましたけど、なぜその話を俺の前で?」

 「男子はその方が意識するって聞いたから」

 「は、はぁ……」

 

 つまりアレか。「おい、あの子お前のこと好きらしいぜ?」と男友達などから噂を聞くとやたらドギマギしたり逆に気になったりするんじゃないのかってことか。

 だとしても何かが違う気がするが……。

 

 しかし今の俺には言い返す気力は残ってなかった。仮に言い返してもこの変人先輩が聞き入れてくれる気がしない。玉縄家には人の話を聞かないとかいう家訓でもあるんですかね。

 

 いい加減、考えることすら面倒になってきて思わずため息を吐いてしまった。ふと一色の方を見ると、なにやら俯いて肩を震わせていた。どうかしたのかと声をかけようとしたところで、一色は手をそろそろと上げた。

 

 「わ、わたし……」

 「一色さん?」

 

 耳まで真っ赤に染まり、どこか強がるように笑みを浮かべると、一色は。

 

 

 

 「わたし!!先輩と付き合ってるんで!もう、き、キスとかめっちゃしてますし!超ラブラブですし!だから先輩はあなたと付き合わないですから!!!」

 

  

 言い切って、一色はふんすと、どこか誇らしげに胸を張った。




こんにちは、こちら寒いです。

今後のお話(文章)の書き方についてご意見を頂きたくて……。もしよろしければ、最新の活動報告を覗いていただけると嬉しいです。お願いします。……ぃします…………ます…………す……。
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