斯くして、一色いろはの小悪魔生活は終わりを迎える。   作:蒼井夕日

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4話 先輩、これ苦いです……

 「それで、女の子をひとり人気の少ない放課後の図書室に連れ込んだ理由を聞いてもいいですか?」

 「ちょっと?誤解招く言い方やめてくんない?そもそも勝手についてきたのそっちだろうが」

 「む、先輩が急に出ていくからわたしもみたいな空気あったじゃないですか。責任はそちらにあると思います」

 

 

 部室を出たあとまっすぐ図書室へ向かった俺は、後輩から理不尽な説教を受けていた。といっても、俺はプリントの裏に文字列を書いていくことに勤しんでいるため、ほとんど聞き流している。もう一色の説教がBGMになってた。『JK(CV:佐倉〇音)のお説教サントラ』とかなにそのサントラ絶対買うんですけど。

 

 ていうか、女子が「責任」って単語使うだけでちょっとドキッてしちゃうからやめてほしい。どんな内容でも責任取りかねないから。マジで。

 

 「さっきから何してるんですか?」

 

 はぁ、と一息ついてから、一色は呆れ半分疑念半分の声で聞いてきた。

 俺は一度手を止め、一色の方へ顔を上げた。 

 

 「他の立候補者を擁立する」

 「え?でもそれって…………」

 

 そう、それは雪ノ下が提示した案だった。そして俺は、「やる気のある奴ならもうとっくに立候補しているはずだ」という建前で否定した。

 なぜいまさらと思われるかもしれないが、実際100%のやる気で立候補する奴なんていないと俺が気づけたからだ。わざわざ部室抜け出して図書室に来たのも、一度否定した手前当人の前でその作業をするのが憚られたからなわけで。…………いや、ほんとだよ?自分でもビビるくらい恥ずかしいセリフ吐いたからその場にいられなくなったとかそんな理由じゃないよ?

 

 

 「選挙まで二週間を切った今日で、選挙日とか立候補者は公示されてるんだ」

 「えっと、朝のホームルームで配られたプリントのことですよね」

 「ああ。それで、生徒会長の立候補の欄は見たか?」

 「……?いえ、興味ないので見てないですけど……」

 

 さっきから何言いたいんだこの人という一色の疑問に答えるべく、俺は書いていたプリントを裏返し、表を一色の方へ向けた。

 

 「これ、今日配られたプリントですよね?…………あっ!」

 

 一色は気づいたのか、静かな図書室に響きわたるくらいの声をあげた。おかげで、慌てて両手で口を覆ったのもむなしく、近くを通りかかった図書委員に注意された。

 

 「わたしの名前が、書いてない……?」

 「そうだ。一色が立候補する前にはすでに一回目の公示は作られてたんだ。だから生徒会長の欄はいまだ募集中になってる。もちろん、俺もな」

 

 公示が行われるのは、当日から二週間前と一週間前の計二回だ。

 一度目の公示で立候補者がいた場合、それが一色や葉山、雪ノ下であればわざわざ好き好んで直接対決をしに来る奴なんていない。わざわざそんなことするのはドMか戸部くらいだ。

 しかし都合がいいことに、一度目の公示では一色いろはの立候補については記載されていなかった。一色は間違いなく可愛い。雪ノ下のような辺りを払うような可憐さ、由比ヶ浜のような天真爛漫さはないものの、ルックスだけで言えば二人に勝るとも劣っていない。

 

 そんな、一般生徒にとってはデカい壁になるだろう一色いろはの立候補が公になっていないのなら。

 

 「先輩、ニヤニヤして気持ち悪いですよ」

 「君、オブラートに包むって言葉知ってる?」

 

 いや後半の方は割と自覚あったけどさ。むしろ、「くっくっく」キャラとかミステリアスでかっこいんじゃね?なんてことを思い始めてたくらいなんだけど。なんだよ「くっくっく」キャラって。

 それはさておき。

 

 「そろそろ立候補を決めあぐねていた奴らが数人出てくる頃だ。この学校はそこそこの進学校だし、意識高めな奴らは結構いるはずだ。──でも、狙いはそこじゃない。モブがどれだけ出てこようが、どうせ一色には勝てないからな」

 

 ──と、ここまで説明したところで先ほどまで難しい顔をしていた一色は、俺が書いていたプリントを見てから「なるほど!」と手を打った。

 

 「校内で悪い噂がたちまくってる先輩が立候補してるって葉山先輩とかに広まれば、周りの人のおぜん立てで立候補せざるを得なくなる…………ってことですか」

 「……………………その通り」

 

 東〇王ばりのタメで答えてやると一色は「ふっふ~ん」と満足げに胸を張った。

 いや、こいつの頭の回転速度と理解力に正直かなりビビっている。計算高い奴だとは思っていたが……。

 劣化版城廻先輩兼上位版相模兼超劣化版はるのんと侮ってましたすいません。さすがはあ〇ねるさんマジパネェっす!

 

 「先輩ってもしかして頭いいんですか」

 「まあな」

 

 聞かれ、俺もどや顔で返してやる。が、正直確実性に欠けていることは否定できない。俺の立候補で回りが騒ぎ立てるという前提も自意識過剰と言われればそれまでだ。──が、その心配はなさそうだ。俺が思っていたよりも、俺の名前は全校で知れ渡っているらしい。学年も違う一色が俺のことを知ってるといっていたのがなによりの証拠だ。

 

 「だから念のため、こうやって選挙活動用の広告を作ってるってわけだ。後日印刷して学校中に貼る予定だ」

 「でも、上手くいくんですかねー」

 「まあぶっちゃけ、完全にこの学校のやつらにかかってるからな。だからうまくいかなくても俺のせいではないということだけは先に伝えておこう」

 「完全にトカゲのしっぽ切りじゃないですか……」

 

 なんだこの頼りない先輩は…………とため息をつく一色。

 まあ、いくら生徒会への興味が薄いとはいえ、悪評つきまくってる俺が立候補するとなればそれなりの話題性にはなるだろう。トップカーストの連中がそれを耳にして、かつ行動に移してくれたら今回の作戦は成功とはいえるが、ぶっちゃけ半分博打だ。

 

 「ていうか、大丈夫なの?」

 

 粗方の説明を終えたところで、俺は一つの疑問を呈した。

 

 「大丈夫って、なにがですか?」

 「お前は俺の噂知ってたんだろ。周りに色々言われんじゃねえの」

 

 俺が危惧しているのは、一色の沽券だ。どっかの相模様のおかげで悪評たちまくりの俺と一緒にいるところをみられて変な噂でもたてば困るのは一色の方だろう。

 現に、先ほどから図書室を行きかう生徒からちらちら視線感じるし、本棚の影からひそひそとこちらを伺っているやつだっていたくらいだ。

 

 一色は聞かれると、顎に人差し指を置いて考える人ポーズで口を開いた。

 

 「ん~、そうですねー…………………………はっ!なんですか口説いてるんですか放課後に二人で図書室にいるだけで彼氏面とか単純だし気持ち悪くて無理です」

 「だから違うから……。単に心配しただけだろうが。てか、振られる理由前と違うんだけど」

 

 返して。俺の心配返して。

 にしても、よくもまあそんなすらすらと言葉が出てくるもんだ。どんだけ振り慣れしてるんですかね。イチローにだって引けとってねえぞ。………………イチロー、引退しちゃったからなぁ。野球全然知らんけど。

 

 俺が疲れの表情を浮かべると、一色は「それは冗談として」と今度こそ真剣な面持ちで答えた。

 

 「人の評価くらい、自分で決めたいじゃないですか。仮にその人がうわさどおり変な性格だったとしても、自分と気があってればそれでいい気がするんです」

 

 真面目な意見に気恥ずかしくなったのか、「みたいな?」と誤魔化す一色だったが、それはどこか他人事ではないような語り口にも見えた。まるで、自分のことを話しているような。一色を、自分のキャラクター性とブランドを重視する小悪魔と認識していた俺にとっては意外で、少し感心してしまった。

 

 「ほーん。そういうことも考えてんのな。正直意外だ」

 「えっへん。こういうところをちらっと見せたほうが男ウケいいんですよねー」

  

 しかしこの小悪魔は、俺の感心をコンマゼロ秒で一蹴しやがった。いやー、危うく俺もこの小悪魔のブラックホールに飲み込まれるところだったわー。絶対ハマったら抜け出せない自信あるわ。

 

 「ほんといい性格してるな…………」

 「ありがとうございます♪」

 

 全然褒めてないんだけど、こいつは自分の長所として捉えてそうだからなお(たち)が悪いんだよなぁ。

  

 「ほら、あばたーもえくぼっていう言葉もあるじゃないですかー?」

 「どこの青い人だよ。それをいうなら“あばたもえくぼ〟だ。ていうか、使い方間違ってるから」

 

 それじゃあまるで俺が一色を贔屓目に見てるみたいじゃねえか。俺が贔屓するのは小町と戸塚と戸塚だけだから。

 

 つか、自信満々で難しい単語使おうとしてくるあたり、どっかの由〇〇浜さんに似てアホの子なんですかね。とかいったら〇比ヶ〇に怒られそうだからやめておこう。普段優しい女の子が機嫌悪い時ほど怖いことないからなぁ…………。

 

 「もう遅いな。続きは明日やればいいし、俺は帰るわ」

 

 気づけば赤い夕陽が図書室を満たし、時計に目をやると18時を回っていた。暗くなる前に一色も帰ったほうがいいだろうという気づかいだったのだが、目の前の一色は頬を少しだけ膨らませて、「まさかわたしを置いて帰るんですか?」とかヤンデレヒロインみたいなことを言ってきた。

 

 なんか圧がすごいんですけど。あれ、俺何か間違ったこと言った?

 何が理由で責められてるのかがわからない俺に、一色は心底呆れたようにため息を漏らした。

 

 「これじゃあ、結衣先輩も苦労しそうですね。同情します」

 「さっきから何言いたいんだお前は。言いたいことははっきり言えって中学のクラスの連中に教わらなかったのか?」

 「中学時代に先輩がイジメられてた話は聞いてないですから……」

 

 バッカお前いじめられてなんかねえし?ただ席に座ってたらちょっとヤンチャな男子たちに囲まれてそう言われただけだから?休み時間に同級生に席囲まれるとかいう数少ない俺のリア充エピソードだから泣いてねえからマジで。

 

 「それじゃ、帰りましょうか。もう暗いですし」

 

 後ろ手にバッグを持って図書室を出ていこうとする一色の後ろ姿を眺めながら、俺も図書室を後にした。

 

* * *

 

 外靴に履き替え外にでると、サッカー部や野球部やらの青春を感じさせる掛け声が響いていた。

 金属バットの音、フェンスにボールが当たる音、サッカーボールが蹴られる音が、ここが高校であるという意識を強くさせていた。

 俺もまともな分岐点を選んでいたのなら、彼らのように一つのボールを追いかけ、汗を流し、敗北に涙するという所謂"高校生らしい高校生〟の人生を歩んでいたのだろうか。

 

 ────答えは否。愚問である。

 

 一人一個しか持つことを許されない人生において、そのような問いかけは意味をなさない。

 

 人生山あり谷ありという言葉がある。

 人間生きていれば良いことも悪いこともあるということを比喩的に表現したことわざであるが、実際は違う。

 だって、普通谷とか危険だろ。どうやって山から下りるんだよ。

 

 そう、このことわざはよく誤用されている。

 

 実際人生なんて悪いことしか起きない。ソースは俺。

 義務教育を課せられてから今現在まで人から距離を置かれる人生を歩み続け、高校入学初日に車にひかれ、挙句の果てにはよくわからん部活に強制入部させられた男のどこに〝良いこと〟があっただろうか?

 

 人生は無限の選択肢があるとか言われるが、実際予定調和によってそれは一つしか存在しない。

 過去のどこかで、たった一度の選択ミスを犯した時点で挽回など不可能。

 俺はどこかで間違えたのだ。俺の人生は遥か遠い昔に、詰んでいたのだ。

 

 畢竟、ただの運で選択肢を一度も間違えずにこれたような、人生ヌルゲーモードリア充なぞ、皆爆発すればいい。

 

 さて、この学校に爆弾をしかけるならどこがいいか…………。

 

 「あ、八幡!今帰り?」

 

 と、俺が再び総武高テロリズム計画を案じていたところで、テニスコートがある方向から名前を呼ばれた。

 振り返るとそこには──。

 

 白皙な肌、さわやかな笑顔、さらさらな髪の毛に、華奢な体躯。

 運動後なのか、首から滴る汗をタオルでふきながら、頬を朱色に染めた男の娘、戸塚彩加がてててっとこちらへ駆け寄ってきた。

 

 前言撤回。

 人生の選択肢を間違えた?リア充爆発?誰だそんなことを言ったのは。

 

 俺の人生において、この天使と出会えたことがなによりの幸福ではないか。

 守りたい。この子の人生を。

 一緒に二人の未来予想図を完成させよう、戸塚…………、

 

 「ああ。戸塚は部活か?」

 「うん、今休憩してるところ」

 

 戸塚の後方、テニスコートのほうを見やると、確かに休憩中の部員たちがベンチで水分補給をしていた。

 戸塚もその最中で、たまたま駐輪場へ向かう俺を見つたのだろう。

 

 嬉しさのあまりににやけ顔を浮かべていると、戸塚は俺の後ろの方をちらっと一瞥し、軽くお辞儀をした。

 はて、誰か知り合いでもいたのだろうか。ここで俺も振り返って挨拶するべきか迷ったのだが、そのあと話すことも特になくて俺と戸塚の空間に気まずい空気が流れるのは嫌だったので無視することにした。

 

 いやー、知らんぷりってマジ便利。居留守とか効用性高すぎて愛用してるまであるしな。ちなみに、小町宛の配達までも居留守を使うとあとでこっぴどく怒られるので注意な。

 

 「えっと、八幡と同じクラスの戸塚彩加です」

 

 と、俺の予想と反し、いきなり自己紹介を始めた戸塚。知り合いではなかった?じゃあ今俺の後ろにいるのは誰だ?

 

 「あ、初めまして。一年の一色いろはです」

 

 振り返って、同じく頭をぺこりと下げていたのは。

 

 「あ、一色か」

 「はい?」

 「……いや、なんでもない」

 

 っぶねー、人生と戸塚のことを考えるのに頭使いすぎて一色のこと完全に忘れてたわー。忘れられることに定評のある俺はもちろん忘れられる奴の気持ちも慮れる人間なので口には出さないよ?

 

 ん?ていうか忘れてたんじゃなくて俺自転車とりにいくからっていって別れたよね?なんでこいついるの?

  

 俺の内心を知ってか知らずか、戸塚に初対面スマイルを見せる一色。

 戸塚もそれに柔らかい笑顔で返すと、「あっ……」と俺と一色を交互に見て、

 

 「ご、ごめんね。僕そろそろ部活に戻るね。また明日!」

 

 そういって、先ほどきた道を通って部員たちの方に戻っていった。休憩時間が終わったのだろう。

 戸塚の後ろ姿をしっかり見送ってから、俺は一色の方へ視線をくれた。

 

 「で、さっき別れたよね?なんで帰ってないの?」

 「せっかくなので、先輩に送らせてあげようかとおもいまして」

 「なんでそんな上から目線なんだよ…………」

 

 この子自分に自信ありすぎじゃないかしら?誰が好き好んで女子を家まで送るとかいうラノベ主人公みたいなことするんだよ。てかこいつと歩いてたら絶対目立つし嫌なんですけど。

 

 「わたしと一緒にかえれるなんて、同級生の男子たちはお金払うレベルですよ?」

 「俺をそんなアッシーと一緒にするな、てかその話マジ?」

 「マジです」

 

 ほーん、まあ一色はこの学内ではアイドルみたいなもんだろうからな。一色ファンクラブなるものがあったところで別に驚きはしないな。

 

 「なるほどなぁ。いつか悪い方向に行かなきゃいいけどな」

 

 話しているうちに駐輪場につき、自分の自転車を見つける。

 

 「んじゃ、気を付けて帰れよ」

 

 そういってペダルに足をかけ、地面を蹴ろうとしたのだが。 

 

 「ちょっと?」

 「よくこの流れでわたしを置いていけますね……」

 

 ち、ばれたか。

 自然な流れで逃げ出そうとしたのだが、しっかりキャリアをつかまれてましたお疲れ様です。

 

 「…………わかったよ」

 

 くそぅ…………。依頼という仕事でさえなければ隙見て速攻逃げ出したのになぁ。“仕事”というワードの拘束力ハンパない。これがバイトだったら問答無用でバックレてたんだけどな。

 

 「ありがとうございます♪」

 

 中学の俺だったら完全に落ちていたであろう笑顔をぱぁっと咲かせた一色。

 仕方なく自転車からおりて押していくことにした。

 

 「ていうか、部活でなくていいの?」

 

 今もなお部活動中のサッカー部の方を遠く見ながら聞くと、一色はため息を含んだ声で答えた。

 

 「それなんですよぉ。聞いてくださいよ先輩。前言ってたわたしを生徒会長に推薦したっていうクラスの女子いるじゃないですかー?あの子つい先週からサッカー部のマネージャーになったんですよ!!わたしを陥れた挙句わたしのいるサッカー部にですよ!?ほんっと信じられないです」

 

 言いながら、ぷんすかぷんすかと愚痴をもらす一色。

 

 なーるほどなぁ。一色を生徒会長に推薦したのは葉山と仲のいい一色を生徒会という仕事で縛らせて、その隙に自分は葉山とお近づきになろうということだったか。

 いや、こわっ!もうずるい賢いとかそういう次元じゃないんですけど。

 

 「そう考えると、お前のずるさが可愛く見えてくるな……」

 「女子の嫉妬ほどめんどくさいものないですからね」

  

 そういって一色は、もう一度ため息をついて肩を落とした。どっと体も重くなったのか、歩く速度も遅くなってどんどん視界の後ろへ消えていった。

 

 嫉妬というのは人間の醜いところの代表例といっていいものだろう。自分より優れたものがよくその嫉妬の対象となる。

 

 雪ノ下も、そういう経験が多かったと語っていたことがある。

 優れすぎた容姿に、優れすぎた才能。彼女に嫉妬した者はおそらく一色のそれよりも多かったのではないだろうか。それでも彼女は、人間が『そういう生き物』だからと早くに悟り諦めることで、嫉妬されることに慣れてしまった。

 

 しかし彼女と一色は違う。

 

 隣をみれば、一色がそれに耐えられるような屈強な精神を持っていたり、妬まれることで快感を覚えるサディスティックな人間ではないことは一目瞭然だ。

 

 一色がこうして部活から逃げてきたのも、きっと傷つくのが怖いからで。

 やりかえそうとしないのも、きっと優しい心を持っているからで。

 だから自分が傷つかないような立ち回りを計算して、ずる賢い女を演じて見せる。

 

 ────出会って間もない一色がそう見えたのはきっと、違う女の子と重ねてしまったからだと、俺は自覚しているのだろうけれど。

 

 

 「まあなに、ほら、なんか飲むか?」

 

 学校から数百メートル歩いたところで、小さな公園が見えてきた。

 公園の入り口横に設置された自販機に小銭を入れて、少し後ろを歩いていた一色に問うと、

 

 「あ、先輩やっさしー♪」

 

 さっきまでの落ち込んでた表情をすって引っ込め、ぴっとボタンを押した。

 意外にもブラックコーヒーを選んだ一色と、いつものようにマッ缶ことMAXコーヒーのボタンを選んだ俺。

 

 自転車を押しながらは飲めないので、一色のたまってる不満でも聞いてやろうという目的も込めて公園のベンチで小休止することにした。もちろん、これも仕事の一つだが。

 

 「にしても意外だな。お前ならキャラメルフラペチーノカフェオレチーノマキアートみたいな長い名前の甘いやつ飲むかと思ったんだが」

 「何ですかそのセンスのない名前の飲み物。スタバじゃないんですからないですよそんなの」

 

 どうやら背伸びしてかっこつけたのがばれたみたいだ。いやだってね?スタバとか本読んだりするのにちょうどいいから行くけど、あんな長い名前恥ずかしくて注文できないでしょ?仕方なくブラックコーヒーにミルクと砂糖大量に入れて飲むしかないんだから。

 

 ぷしゅっと蓋をあけて、意を決したようにぐいっとBCを呷る一色。酒かよ。

 

 「先輩、これ苦いです……」

 「ブラックなんだから当たり前だろ。なに、なんでそれにしたの」

 

 背伸びしてたのは一色の方だったわ。どうみてもブラック飲みそうなキャラじゃないもんね。お腹もブラックだからもしかしてとか思ったけどそんなことなかったわ。

 

 うげぇ苦い……と舌を出す一色。

 

 「人生とどっちのほうが苦いのかなって」

 「そんなの人生に決まってるだろ」

 

 即答で返して、マッ缶をちびりと飲む。やっぱこの甘さは絶妙。これ考えたやつマジ神。

 

 「そうですか。わたしは、こっちのほうが苦かったです」

 

 言って、それ以上コーヒーには口をつけず、閑静な公園に目を配った。

 その横顔を見ることがなんとなく罪悪感で、俺も一色に倣って誰も使っていないブランコの方に視線を逃がした。

 

 そして思う。俺はこんなとこでなにしてんだ………………と。公園のベンチで休憩とかどこのカップルですか。

 こんなところ誰かにみられたらどうしよう。戸塚に見られて誤解でもされたらショックで1か月は不登校になる自信あるわ。

 

 「せんぱい」

 

 卒然に、顔の目の前に黒色の缶を押し付けてきた一色。

 なんだよ邪魔くさいなという視線を送ると、いつもの三倍あざとい猫なで声で、

 

 

 「これ飲めないので、交換してくれませんか?」

 「ムリ」

 

 

 俺は、その小悪魔の提案を、脊髄反射で拒否った。




え、タイトル?なんのこと?(汗
公示を二回行うとか現実の生徒会選挙であるのかよと自分に突っ込みながら書いてました今日です。
 全然筆が進まずに、一日300字とかしか書けず、投稿がかなり遅れてしまいました。大変申し訳ないです!
 八色モノなのに、戸塚がかわいい。とっつかわい~~~!((もっと執筆がんばりまする。
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