斯くして、一色いろはの小悪魔生活は終わりを迎える。   作:蒼井夕日

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6話 安息の危機

 「………………そっか。なるほどねー」

 

 小町が帰宅してから30分。

 コンビニケーキをつつきながら、一色いろはという後輩の依頼や、俺が生徒会長選挙に立候補していること、さらには雪ノ下や由比ヶ浜とのちょっとした確執などを端折りながら説明した。

 小町は終始真剣な顔で適度な相槌を打ち、俺の話を聞いてくれた。

 受験も控えているというのにこうして真剣に相談にのってくれる小町には感謝よりも罪悪感の方が強い。

 本来相談に乗ってやらないといけないのは兄である俺の立場なんだけどな。

 

 「ところで、そのイッシキさん?って人はどんな人なの?」

 「そうだな。わかりやすく言えば可愛くない小町みたいなやつだ」

 「全然わからないんだけど……」

 「俺もわからん」

 

 適当な答えに、はあっと呆れる小町。

 実際本当にわからないんだから仕方ない。

 まだ知り合って一週間も経っていないこともあるが、一色に限っては1年たってもわかる気がしない。

 

 逸れかけた話を戻すべく、背筋を伸ばして軽く頭を下げる。

 

 「……その、すまん。お前も大変な時期なのに余計な荷を」

 「はいストップ!そこまで~!」

 

 と、そんな俺の謝罪を小町はフォークを向けて遮った。どこのクイズ司会者だよ、と内心ツッコみをいれると、小町は残りのケーキをぶすっと豪快に指して続けた。

 

 「小町も色々変なこと考えちゃったりしてさ。…………ほら、最近こういう話することなかったでしょ?ちょっとした喧嘩みたいのもさ」

 

 そう顔を俯かせて柔和な笑みを浮かべる小町の顔は、小さな火種が破裂しないように、なにかを抑えているように見えた。きっと受験勉強の悩みだろう。最近模試でもいい結果がでなかったと聞いていたし、不安だったり、諦めたい思いも抱いているのかもしれない。

 

 「でもさっ!」

 

 しかし、そんなモノは何処吹く風というように、ぱっと明るい顔で。

 

 「お兄ちゃんと喧嘩できてよかったよ!」

 「いや意味わかんないから。喧嘩したあの日からお兄ちゃんがどれだけ枕濡らしたかわかってるの?」

 「知らな~い♪」

 

 なんてヤツだ。どれだけ鼻セ〇ブ消費してゴミ箱に白いバラ咲かせたと思ってんだよ。いや、先に言っとくけど違うよ?枕濡らしたのは涙でだからね? 

 

 「でも大丈夫なの?」

 「なにが?」

 「いやほら、お兄ちゃんはまた自分をエサにして解決しようとしてるわけでしょ?」

 「…………まあ」

 

 弱点を看破するように、小町は眉をひそめた。

 今回俺がやろうとしてるのは、俺の悪名を利用し、生徒会長立候補者を煽ることだ。それに加えトップカーストが周りのお膳立てによって立候補をせざるを得ない状況を作れたらという作戦だが、もちろんその確実性の足りなさは一色にも指摘されたとおりだ。俺もその自覚はある。が、しかし小町は問答無用で追い打ちをかける。

 

 「でもお兄ちゃんがエサだったら誰も食べに来ないと思うんだけど」

 「はい…………」

 「お兄ちゃんにそんな影響力あると思ってるの?」

 「思ってないです……」 

 「しかも雪乃さんと結衣さんを怒らせたってのに、また自分でどうにかしようとしてるわけでしょ?」

 「い、いやでもほら、案外あいつらも「こういうダメなところもハチマン」みたいになるかもしれないじゃん?」

 「ならないからこうして小町に話してるんでしょ?」

 「はい…………」

 

 もはやぐうの音もでないほどの正論ガトリングに、完全に言い返す気力をなくしてしまう。格好つけた挙句八方ふさがりになったこの状況をなんとかしなければと模索した結果、俺は受験勉強真っ只中の小町に相談することにしたのだ。

 なんと傍迷惑な男であろう、比企谷八幡。

 

 悄然とする俺を一瞥し、小町ははぁっと疲れたため息をついて続けた。

 

 「でも、お兄ちゃんが格好つけたのは奉仕部を守るためだったんだよね」

 

 思わず目を逸らしたが、きっと心の内では認めていた。雪ノ下が生徒会長に立候補すればまず間違いなく当選する。そうなれば、半端を嫌う雪ノ下は奉仕部に顔を出すことは減るだろう。奉仕部という部活はなくならないとしても、実質自然崩壊していくということを、俺だけでなく由比ヶ浜や、当人の雪ノ下でさえも感じていただろう。あの時は、それを防ごうと口から出まかせで適当なことを言ってしまったが、その結果がこれだ。いやー、アドリブなんてするもんじゃないな。

ベテランに限ってやたらアドリブ入れたがって新人の役者が対応できずにつぶれていくんだからな。あ、アドリブした俺がつぶれてたわ。

 

 「まあ、あんまり早く帰っても母さんに心配かけるしな。時間つぶしにはちょうどいい部活だ」

 「また捻デレちゃってー。…………んで言っとくけど、小町にできることなんてないと思うの」

 「ああ。さすがに勉強時間削ってまで解決案考えてくれなんて言わん。選挙活動についてちょっと聞きたくてな」

 

 小町はこうみえて、生徒会役員だったりする。

 つまり選挙活動もやっているし、選挙で選ばれるという経験もしているはずだ。

 

 「まあ小町は信任投票だったから参考になるかわかんないけど、手伝ったげる」

 「マジ助かる」

 「あっそういえば小町、欲しいものがあるんだよね~♪」

 

 英世と諭吉が宙を舞う幻想が脳内で再生されながら、ポスター制作に取り掛かるのだった。

 

 

* * *

 

 

 「…………よし、これで最後か」

 

 そんな独り言をぼやく昼休み。

 「比企谷八幡」と無駄にデカい字で書かれた最後のポスターを壁に貼り付ける。

 昨夜、ものの数十分で小町とつくり上げたのだが、小町が途中から面白がって描いた千葉県マスコットキャラのチーバ君がやけに目立つ。

 「大丈夫大丈夫、ちっちゃく描くから!」と言いながら赤いクレヨンを取り出した時の小町は完全にはるのん化していた。

 どこに地元のマスコットキャラを選挙ポスターに描く奴がいるんだよ。

 

 目的は目立つことだけで、真面目な活動をしたいわけじゃないからいいのだが、やはり自分の名前がこうもでかでかと廊下に晒されるのは居心地が悪い。「せっかくだから顔写真も撮ろうよ!」という小町の提案は却下して正解だったな。

 

 「せんぱーい、こっちも終わりました~」

 

 さて教室に戻るかとつま先を反転したところで、てててっと駆け寄ってきたのは同じく俺のポスター張りをしていた亜麻色髪の後輩、一色だ。

 一色の走った後の残り香に鼻をすする男どもは見なかったことにして、ついでに一色のこともみなかったことにして教室へつながる階段に足をかける。──が、

 

 「なんで無視するんですかあ!」

 「え、終わったんでしょ?ならもう戻っていいぞ。手伝ってくれてさんきゅな。んじゃ俺は飯食うから」

 「…………………………そういえばですねー」 

 「なんで我が物顔でついて来てるんだよ……。おまえの教室逆方向じゃないの?」

 「昨日テレビで見たんですよ」

 

 この女、聞いちゃいねえぜ……。

 もしかして俺の声届いてないの?これがナギナギの実の能力だな。コラさん、ローのことは俺に任せてっ!!

 

 「そっけない態度をとる男性の心理って、好きな人への照れ隠しらしいですよ」

 「何の話だよ急に」

 「先輩のことですよ?」 

 「その理論だと、俺が一色に恋してることになっちゃうんですけど」

 「だって先輩、たまに私のこと口説こうとするじゃないですかー」

 「いやしてないから断じて」

 

 なんでこの娘こんなに自分に自信あるわけ?

 謙遜って言葉知らないの?

 

 「さっきだってほら、ポスター少なめの方を渡してきたり」

 「そりゃまあ、手伝ってもらってるわけだし、普通だろ」

 「普通はかっこつけて、全部俺に任せろって言うところじゃないですか」

 「俺は男女平等主義だからな。割勘せずに全部男に払わせる女がいれば、地獄の果てまで請求書配達するまである」

 

 真面目な顔でそう主張すると、隣を歩く一色は呆れた表情を浮かべてため息をついた。

 

 「何言ってるんですか……」

 

 そんなことを言いながら未だついて来る一色だったが、とうとう2年F組の教室が見えてきた。こいついつまでついてくるんだろうか。

 

 と、俺が一色に「早く自分の教室戻れ」という意を込めて視線を送っていると、2年F組教室から出てきた高身長茶髪爽やかイケメンと遭遇。さらにその高身長茶髪爽やかイケメンにきゃいきゃい騒ぐ女子ども数人。てかその数人に一色混ざってたわ。

 

 「あ、葉山先輩!どうもです~」

 「やあ、いろはじゃないか。どうして2年教室に?」

 「葉山先輩の様子でも見にこようかなーとおもいまして」

 

 財布片手の葉山を見る限り、購買にでも行くのだろう。いつもは戸部やら童貞風見鶏大岡を引きつれているのに、一人とは珍しい。

 しっかし、今どき「やあ」なんて挨拶する人いるんですね。これが材木座とかなら、波動でも出そうとしてんじゃないかとか思ってしまうだろうが、様になっている所がこの男の凄いところだ。

 

 すると葉山は俺の方を一瞥して、驚きの表情を浮かべた。

 

 「比企谷と一緒か?珍しい組み合わせだな」

 「別にそんなんじゃないですからねー」

 

 美男美女カップルが廊下でいちゃつき始めたみたいな空気ができ、完全に蚊帳の外なので俺は一目もくれずに教室へ逃げこむ。

 いつもなら昼食はベストプレイスと決まっているのだが、ポスター貼りに疲れてそこまで歩く気力もなかった。

 小町が朝作ってくれた弁当を取り出しながら、ふと気づく。

 なるほど、一色は葉山目当てでここまでついてきたわけか。

 正直葉山狙いの奴の恋心なんてとか思っていたが、先ほどの態度を見る限りちゃんと恋する乙女やってるんだな。感心感心。

 

 さて、「小町との仲直りの印弁当」でも食べてゆっくり休むか。

 俺にしては珍しく、るんるんしながら弁当箱を開けると────

 

 「卵焼きにタコさんウインナー、唐揚げ、金平ごぼうとほうれん草の胡麻和え…………」

  

 誰だよ俺の大事な弁当の中身をみんなにバラそうとしてるやつは。

 この弁当は俺と小町の愛の結晶だ誰にも邪魔させやしないぞという気概で睨みつけようと視線を上げると、先ほどまで葉山と話し込んでた一色の顔が。お前かよ。

 

 「なんだよ。葉山と話してたんじゃないの?」

 「はい、さっき終わりました」

 

 じゃあなんでここにいるんだよ。

 さっきから周りの奴らの視線がすごくて八幡押しつぶされそうなんですけど?

 というか、よく1年なのに2年の教室にずかずか入ってこれるもんだ。

 俺なんて自分の教室ですらちょっと申し訳なくなるくらいだぞ。

 

 「いっとくが、この弁当はやらんぞ」

 「いやいや違いますよ。……………………まあその、違わないんですけど」 

 「……は?」

 

 果たしてこの女は何を言っているのだろうか。

 俺の「小町との仲直りの印弁当」をよこせだと……?

 

 「いやー、実はですね。今日朝お寝坊しちゃいまして、お弁当作る時間なかったんですよ。おまけにお財布もわすれちゃって、あはは」

 

 てへっ☆と頭に手を置く一色。

 なんてあざと可愛いんだ。

 

 「……別に俺じゃなくても、クラスの女子とかに分けてもらえばいいだろ」

 「そのクラスの女子の悪戯で立候補させられたわたしに友達なんていると思います?」

 「……なるほど。お前もこっち側だったのか…………」

 

 こいつ、ゆるふわギャルでみてくれもいいくせに女友達いないのかよ。

 よくよく考えれば、葉山争奪戦の最前線を走ってる一人だったな。

 男子こそ騙せても、一色の腹の黒さは女子には知られているのだろう。

 

 「朝ごはんも食べてなくてお腹すいてるんですよー。ねえ先輩、だめ、ですか……?」

  

 上目遣いに猫なで声をトッピングしてきた一色に、俺の退路はもうなかった。

 

 「いや、だめじゃないけど……」

 

 俺のチョロさもかなり末期まで来ていた。

 いや、こんな迫られ方されて断れる男がいるなら名乗り出てほしい。

 

 「ありがとうございます♪それじゃあ移動しましょうか」

 

 ここでもなんですしと言って先に教室を出ていく一色。

 まあさすがに女子とお弁当イベントとか見られて耐えられるもんじゃないしな。

 てかもう手遅れな気がするんだけど。

 戸部とか口ぽっかりあけてるんですけど。

 

 ああ、愛する妹小町よ。

 お兄ちゃん、行ってきます…………────。

 

 

* * * 

 

 

 「んー、これおいしいです!」

 「そりゃどうも。作ったのは妹だけどな」

 

 いい感じに日が差すベストプレイス。

 疲れたから来ないと決めたのに結局来てしまった。

 

 そして隣には遠慮もなくウィンナーをばくつく一色。  

 俺が口つけた箸で食べさせるわけにもいかなかったので先に食べさせたのだが。

 ここにきて八幡、重大な事実に気づいてしまう。

 

 「……購買でパン買ってくるわ」

 

 一色が先に口つけたら俺が食えねえじゃねえか……。

 というか、金だけこいつに渡しておけばそれですべてが済んだのでは……。

 この男、小町と仲直りしたことで完全に浮かれて(かま)けていた。

 

 「しょうがないですね。先輩もお弁当食べますか?」

 「いつのまにか弁当の所有権変わってるんですけど」

 

 言っても聞かず、「えい、えい」と卵焼きを向けてくる。

 おい、こぼれるだろうが。

 

 「おぉ、器用ですね」

 

 俺好みに合わせて作ってくれた小町特製卵焼きを落とさぬよう、何とか箸に口をつけずに食すことに成功。

 うん、うまい。

 うまいはずなんだけど、全然味がしねえよ……。

 後輩にあーんされるとか俺には早すぎるよぉ……。

 

 「……もう全部食っていいぞ。俺はそんな腹減ってないからな」

 

 思わず昨日の間接キスを思い出し、嘘をつく。

 ほんとは超腹減ってたけど。  

 八幡これ以上あーんできない。

 

 「そうですか?それじゃ遠慮なくいただきます!」

 

 言って勢いよく食べだす一色。

 だが一口が小さくて全然減ってない模様。

 はて、俺はここで何をしてるんだろうか。

 

 「というか、それこそ葉山にでも頼めばよかったんじゃないの?チャンスでしょ」 

 「そうしようと思ったんですけどねー。そうできない理由もありまして」

  

 葉山とお近づきになる絶好のチャンスなのではと思いつつ、一色の言葉を待つ。

 

 「ほら、葉山先輩っていつも三浦先輩とかとお昼食べてるじゃないですか。それで誘うとか自殺もいいとこです」

 「あー……」

 

 あーしさん、確かに怖い。超わかる。

 まして相手は上級生。一色にとっては虎穴に入るようなもんだろう。

 他だと由比ヶ浜とかならまだ頼めるだろうが、雪ノ下もそこにいるとなれば遠慮したいところだろう。

 うちの学校怖い人多いもんね。川なんとかさんもね。

 

 「ま、いいけどよ。てか、普段はどこで食べてるわけ?」

 

 まさか、こいつ教室でぼっち飯を展開できる鋼メンタルの持ち主か?

 おいおい、俺でもそこそこハードル高いんだぜあれ……。

 

 「普段は…………トイレで……………………」

 「お、おい嘘だろ?」

 「嘘です」

 

 くっそなんだよ本気で同情しかけたぞ今のは。

 ぼっちが同情するぼっちとか救いようねえよ……。

 

 「普通に教室で食べてますよ。適当な男子が話しかけてくるのでぼっち感は薄まります」

 「ああ、君男子には人気だったね、そういえば」

 

 気づけば一色は弁当を完食したのか、両手を合わせて「ごちそうさまでした」とこちらに一礼。

 俺の嫌いなトマトまですっかりきれいに食べて満足したようだ。

 

 「そういや、自分で弁当作ってるのか?」

 

さっき教室で、弁当を作る時間がなかったとか言っていた。

こいつもしやまあまあ女子力高いのではと思って聞いたのだが。

 

 「はい。お母さんが忙しい人なので…………ってなんですか口説いてるんですか遠回しに毎日お味噌汁作ってくれとでも言いたいんですかごめんなさい今日のお弁当は感謝しますが不味いとか言われるの嫌だしまだちょっと無理です」

 

 はいはい、いつものいつもの。

 

 「そろそろ教室戻るぞ」

 「あ、お弁当箱は……」

 「別に気にすんな。明日も使うしな」

 

 言って、軽くなった弁当箱を受け取る。

 実際小町の気分で弁当か購買パンか決まるのだが、そこまで気を遣わせる必要もないしな。

 

 「すいません、何から何まで……」

 

 一色にしては珍しく申し訳なさそうに俯く。

 

 「ま、ポスター貼り手伝ってくれたお礼だと思ってくれ」

 

 そんな適当な理由をいって教室に足を向け振り返ると、

 

 「比企谷君と、一色さん?」

 「雪ノ下?」

 

 そこには、弁当袋を片手に持った雪ノ下が佇立していた。

 意外な組み合わせだったのか、その顔には驚きの表情を浮かべていた。

 

 「雪ノ下先輩、こんにちは」

 「え、ええ、こんにちは」

 

 目をぱちくり瞬かせると、気を取り直すように俺の方に視線をやり、ここへ来た経緯を伝えた。

 

 「あなたに用があって教室にも行ったのだけれどいなかったから、ここならいるんじゃないかって由比ヶ浜さんが。……邪魔だったかしら」 

 「別に気にしなくていいぞ」

 

 言って、一色に先に戻ってろという視線を向ける。

 視線の意が伝わったのか、一色は「今日はありがとうございました」と俺と、そして雪ノ下の方にも軽く一礼をしてこの場を離れた。

 

 「んで、どうかしたのか?」

 「選挙のことで聞きたいことがあって。昨日あなたが言っていたことは…………その、信用していいのかしら」

 

 雪ノ下が言っているのは、昨日の部室での件だろう。

 俺は昨日、雪ノ下と一色が生徒会長にさせない方法があると啖呵を切った。

 実際、その方法の内容は雪ノ下と由比ヶ浜には伝えていなかったから、わざわざその確認をしに来たのだ。

 ぶっちゃけ確実性も低い上に代案もないので不安しかないのだが、後戻りできないのも事実。

 

 「ああ、信用してくれ。もちろんお前らに否定されたやり方は回避するつもりだ」

 「そう、ならいいのだけれど……」

 

 了解の言葉とは裏腹に、その顔にはまだ不安と心配が残っていた。

 しかし雪ノ下を立候補させないことが最優先事項である以上、雪ノ下に内容を告げるわけにもいかない。

 

 「俺は言ったことは守る男だ。安心してくれ」

 「あなたがそれを言うと、何とかなる気がするから不思議ね」

 

 そういって破顔する雪ノ下。

 彼女がこう微笑むようになるとは、出会った当初を思い出すと考えられないことだなと思った。

 

 「……とりあえず、私が立候補するという選択は排除しておくわ。由比ヶ浜さんにも、そう伝えておくから」

 「ああ、よろしく頼む」

 

 修学旅行での一件から、由比ヶ浜との会話の数は減った。

 とはいえ仮にも奉仕部部員の一員であるからには、活動の方針は伝えておかなくてはならないだろう。

 普段由比ヶ浜のポジションである仲介役を雪ノ下が担ってくれるというのは変な感じだ。

  

 聞きたいことは済んだのか、「それじゃ」と言って戻る雪ノ下だったが。

  

 「それと、比企谷君」

 

 嫋やかに長い髪を揺らしながら、もう一度こちらへ振り返って。

 

 

 「私たちの部活、守ってね」

 

 

 澄んだ声で、まるで懇願するように、期待に溶かされるようにそう言って、去っていった。

 

 

 一人取り残されたベストプレイス。

 気づけば日陰が出来ていて、流れ込む風が冷たい。

 こうも寒いと強制的にも秋を感じさせられる。

 読書の秋だのスポーツの秋だの、秋というのは何かと他の言葉が勝手にくっついてくるリア充のような季節で、俺はあまり好きじゃないのだが。

 逆に言えば、こんなにもいろんな色を持つ季節もそうないわけだ。

 

 ────さて、俺もそのリア充の仲間にさせてもらいますか。




更新、大変遅れてしまい申し訳ありません。
何をどうしたら2ヵ月も途絶えるのかという疑問を自分で抱きつつ、何とか投稿までこぎつけました。

それと!!!お気に入り数900こえました!本当にありがとうございます!
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