三人称視点の小説まだまだ不慣れな部分がありますがどうかよろしくお願いします。
第2話 屑野郎は女子高生と鬼ごっこをするようです。
黄昏時の病室の中には、少年と女性が居た。
猛暑続きの季節だが病室の空調は整えられている。
外では、もう既に蜩が産声を上げていた。
「例えば」
蜩と空調の音の中に割ってはいるように、少年が口を開く。
「例えばアンタがマラカイトで、俺がガーネットなら…先に光を失うのは、どっちかな?」
少年は自身と女性が左手首に付けているブレスレットを指し、卑しくも、穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
「………賭けてみますか?ーー。」
病に侵されていてもその美しさの衰えを感じさせない女性は、少し力なくも深く静かに冴え冴えと優しく、冷たく、暖かく聞き返した。
急に名前を呼ばれた少年は少し動揺するもすぐに表情を戻し
「…いいね、何を賭ける?」
と再び聞き返す。
女性は
「そうですね…未来に輝く希望の"原石たち,,を」
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夢と同じく、黄昏時の電車の中で凌輔は目を覚ました。
先日の騒動や、友人の伝で勤務先の近くに格安で借りた賃貸マンションへの引越しや住所変更の手続きで最近夜あまり眠ることの出来ない彼は、不覚にもこんな所で寝てしまったことに慙愧の念を覚えた。
少し自嘲じみた溜息をつくと
(降りてないよね?俺も、アンタも。)
彼は左腕に付けたブレスレットを懐かしげに見る。
(だってほら、アンタはまだそこに居るから。)
深い緑色をしたその石は、淡い光を保ち続けていた。
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引越しのための最後の荷物を新居に置き、
凌輔は今日から始まる例の家庭教師のバイトに向かう。
彼の今日の服装は先日のようなものではなく、細身の黒いパンツとワイシャツである。
髪は軽くセットされ申し訳程度の眼鏡。
靴は相変わらず先が尖っている。
大学時代の彼はこの風貌でバイトをしていたのだ。
「しかし…」
凌輔はスマホを取り出し、勤務先の住所を確認する。
「俺の記憶が間違いでなければ先日の爆食い女の住所なんだよな。まさかな…」
まあでも記憶違いだろう。そんな偶然は起こりえないと凌輔は自身に思い込ませ、ちょうどいいところにあったコンビニの喫煙所で悪い予感を吹き飛ばすように一服をする。
彼の吸う銘柄は『峰』。
国内では滅多に見られない激レア銘柄だ。
彼は留学によく行く友人からその都度買ってきてもらいストックしている。
エナジードリンク片手に一服し終えると、彼は再び目的地に向かった。
県内でも有数の高級マンション、PENTAGON。
そんエントランスへ続く道の途中で凌輔は異様な光景を目にする。
「早く帰れよ」
高校生らしき男女が3人、口論をしている。
男女比1:2という構図だ。
そして、彼が異様に感じたのは2人の少女の方だ。
髪型の違いや顔の幼さはあるものの、彼のよく知る女性の面影を残している。
植え込みに隠れ、顔だけを出して様子を伺う。
(まさか本当にあの人の…いやいやいや…)
不確定要素が多すぎるため、彼は変に勘ぐるのを辞めた。
そうこうしてる間に、男子の方がエントランスへ走って行き、滑り込むようにマンションへ吸い込まれて行った。
(なんだかよく分からんが俺も行こう。時間ギリギリだし。)
そう考え、彼が植え込みから抜け出そうとすると
「こんな所で何してるんですか?」
「おわーーーーーーー!!!!????」
真正面に現れた顔に彼は条件反射で絶叫した。
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「なに?キミもストーカー?」
叫び声を先程の2人にも聞かれてしまい、後から来た2人と共に逃げ道を防がれる。
「ハッハッハなんの事かな?私はしがない用務員のおじさんだよ?」
凌輔は顔を引き攣らせながら、弁解を垂れる。
「用務員さんなら、作業着を着てるはず…」
ヘッドフォンを首にかけて眠そうな目をした女子が、彼を見つめる。
「そうよ!大体、こんな夕刻に用務員さんは居ないわ。」
今度は蝶を模した髪飾りをした気の強そうな女子が捲したてる。
「もしかして、不審者さんなんですか!?」
悪目立ちしている緑のリボンを付けたアホそうな女子が焦っている。
「あははー、これは110番かなー。」
アシンメトリーな髪型をした軽薄そうな女子がスマホを取り出す。
「いや、待て待て待てて!俺は仕事でここに来たんだ!決して怪しいものじゃない!」
凌輔はここに来た理由、家庭教師のバイトをしに来たという節を必死に伝える。
「「「「家庭教師…」」」」
ユニゾンする彼女達。
「なにか心当たりがあるのか?あとツーマンセル体制だからもう1人いると思うのだが?」
彼女達は顔を見合わせた。その直後
ダッ!!
4人はエントランスへ走り出した。
「ちょ、どういうことだ!?」
彼は逃走する彼女達を全速力で追う、運動不足とはいえ、体力全盛の成人男性の全力疾走だ、徐々に距離を詰める。
4人はエントランスの自動ドアをくぐり抜け、エレベーターに乗り込む。
凌輔が追いついた時にはエレベーターのドアが締まろうとしていた。
彼女達は安堵の表情を浮かべたが、
ガッ!
凌輔がドアに足を挟んだことにより、絶望の表情へと変わった。
人を感知し再び開いたエレベーターに肩で息をしながら乗り込み先程とは打って変わって彼が4人の逃げ道を塞ぐ。
30階と開閉ボタンの閉を勢いよく叩き押し、震える彼女達に対し、口を開いた。
「よぉ~く分かったぞぉ…俺が教えるのは、お前ら4人ってことがな!」
切羽詰まった彼は、懸念していた問題の条件が着々と揃い始めていることに対して冷静に考える余裕が無かった。
最も、数分後には嫌でも理解することになるのだが。
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ポーン
「さあ、クソガキども!覚悟はいいな!?」
彼女達を引き連れてエレベーターから出ると、先程の男子高校生とどこかで見覚えのある女子高生が立っていた。
一瞬、全員が場の時間が止まったかのように立ち尽くす。
直後、はっとなったように全員が声を上げる。
「あ、あなたはあの時の…!」
「あ、思い出した。無銭飲食爆食い女だ。」
「な、なんですか失礼な!?財布を忘れただけです!」
珍妙なあだ名をつけられた女子は不満そうにぷくぅと頬を膨らませる。
「なんでこいつらがここにいるんだ…?」
男子高校生が顔面蒼白で言葉を絞り出す。
「なんでって…住んでるからに決まってるじゃないですか。」
少し頭の冷えた凌輔は今出くわしたこの少女と自分が受け持つ少女達を見比べる。
髪型や服装、声にそれぞれ違いはあれど、この5人は全く同じ顔をしている。かつての恩師の面影を強く残しながら…
母親から依頼主の事は一切聞かされなかったがこの5人と表札の苗字、ある一人の男が凌輔の脳裏に過ぎった。
「へぇー…同級生の友達5人でシェアハウスか、仲がいいんだな。」
男子高校生が力無げにそう言った。
まるでそんなことがあるはずがないというように。
「違います。私たち、五つ子の姉妹です。」
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「五つ子!?」
ベランダに男子高校生、もとい上杉風太郎と凌輔は立っていた。
風太郎は依頼主に電話をかけ、凌輔はベランダとは言え他人の家にもかかわらずプカーっと紫煙をくゆらせて眠そうな顔をしている。
「板垣さん」
不意に先程紹介した名前を呼ばれ、凌輔はまぁそう来るよなと思い風太郎から携帯を受け取り耳に当てる。
「まさか依頼主が貴方だったとは驚きましたよ、先生。」
全く驚いてないテンションで開口一番を放つ。
『久しぶりだね、凌輔君。元気かい?』
電話の相手…五姉妹の父親は感情の無さそうな声でそう言った。
「元気も何も、か…理事長から聞いているでしょう?…で、今度はなんのつもりですか?」
『君のお母さんから君が借金を作ったと話を聞いてね…僕なりの助け舟を出したつもりだが、不満かね?』
「またそうやって…父さんの贖罪でもしてるつもりですか?」
携帯を握る凌輔の手に力がこもる。
『……僕は、君が幸せになる手助けをしてそれを見届ける義務がある。それが僕のせめてもの償いだ。』
それを聞いて凌輔の語気が荒くなる。
「父さんのことといい、あの人のことといい…貴方は勝手すぎる。俺は父さんのことで貴方を恨んでなんかいない!それどころかあの時優先的に治療されてなければ死んでいたのは俺の方だ…先生は、俺の命の恩人なんですよ…」
『………………………』
「…借りを返さなきゃいけないのは俺の方です。」
『…ではこうしよう。僕の娘達は君のお母さんが運営する黒薔薇女子を落第してしまい、転入を余儀なくされた。そこで家庭教師を付けることにした。無論、信頼できる人物でだ。そこで君と、僕の……知り合いの息子の上杉風太郎君に家庭教師の依頼をした。
娘達の卒業は僕の悲願とするところだ。
これは依頼だ、それであれば君も僕に雇用されるという形で僕の力になれる…それでいいね?」
凌輔は彼の合理的な物言いが腑に落ちなかったが、少し表情を和らげると
「わかりました。正式な雇用という形で請け負います。」
『いい子だ。分かればそれで宜しい。』
「では、いずれまた。」
凌輔は携帯を切りそれを風太郎に返すと燃え尽きかけていた煙草を携帯灰皿に押し込み、新しく取り出した煙草に火をつけた。
「板垣さん…今のは…」
「凌輔でいいよ、あの人とは個人的に知り合いだったってことさ。他にはないよ。」
「そうですか…」
「それはそうとこれからはチームを組む仲だ。よろしくな、上杉風太郎君。」
そう言って握手を求めた。
「俺こそ風太郎でいいですよ。それより…」
「ああ、そうだな。まずは…」
今の2人は自室に閉じこもってしまった姉妹達をどうにかしなければならず少し沈むのが早くなった夕日と共に途方に暮れていた。
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~おまけ~
NGシーン
「逃げろ」
ダッ!
「待てやコラァ!」
「エレベーターに乗っちゃえばこっちのもんよ!四葉!閉ボタン押して!」
「うん!」
ポチッ
「させるかァァァ!!!」
ガッ!
ボキッ!
「「「「「えっ?」」」」」
ピーポーピーポーピーポー
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