魔法少女リリカルなのは ~ Silver of Paladin ~ 作:アルフォンス
フェイトとのことから一週間。
しばらくの間、魔王達からの進行もなく、穏やか日々を過ごしていたが、突然はやてが倒れてしまった。
最初ははやても無理を押し通して動いていたが、日が経つにつれて、どんどん顔色が悪化していき、とうとう今日、ブリッジで仕事中倒れてしまったのだ。
倒れたはやてを発見した俺となのはは、急いでシャマルのいる医務室に連れて行くことになった。
「はやてちゃん……」
「はやて……」
「心配せんでも…はぁ……はぁ……大丈夫や。疲れが……はぁ………溜まった……だけやで……」
そうは言うが、明らかに息も絶え絶えだし、熱も39℃以上で下がる気配は全くない。
アースラの艦内医のシャマルの診断でも、こんなのは見たことがないという。
だけど、俺はこの症状を見たことがある……。
「間違いない……これはアセスト病だ」
「「えっ……?」」
「ケイン、アセスト病って何なの?」
「ああ……アセスト病ってのはな……」
ケインの説明によると、この病気は魔力の高い人間がかかりやすい、このシーリウス特有の風土病だ。
しかもこの病に効く薬は、シーリウスのルカーノ火山にある特別な薬草でしか治すことが出来ない。
「それじゃ……はやては……」
「このままじゃ助からない。しかもこの病の厄介なところは、感染した人間の魔力を食い尽くしてしまう性質なんだ。ほっといたら……はやては……」
「そんな!! ケイン君。何とかはやてちゃんを助けて!!」
「分かっている!! だけど、ルカーノ火山はこないだの噴火騒ぎで、一般人は入ることが出来ないんだ。それに、はやてがこの状態では、六課隊長陣は動かすことが出来ない。どうしたら……」
俺たちが途方にくれてたその時……。
「あの……それでしたら、あたしがケインと一緒に行きます」
「ティアナ?」
ティアナがなのはに進言し、俺と一緒に行くと言ってくれた。
「確かにティアナなら、頼りにはなるが……」
「そうだね。それじゃティアナお願いね。後一人くらい行って欲しいところだけど……」
なのはがメンバー選出を悩んでいると、ブリッジの扉が開き……。
「そんなの決まってらぁ、あたし以外に誰がいるって言うんだよ」
「「「ヴィータ (ちゃん)!?」」」
別任務でアースラを離れていたはずのヴィータの姿がそこにあった。
* * *
「ヴィータちゃん……どうして?」
「シャマルの奴から連絡を受けたんだ。はやてが命の危機にさらされているってな……」
「でも、ヴィータ。そっちの任務は大丈夫なの?」
「心配すんな。そっちの方はシグナムとザフィーラに任せてる。それに……」
「はやての危機だってのに、はやての騎士であるあたしが、何もしないでどうするんだ!! はやてはあたしが絶対助ける!!」
ヴィータの決意は、俺にもビンビン伝わってくる。
あいつは、はやてを助けるために、必死で戻ってきたんだ――――。
「ヴィータ、はやてを救うため、力を貸してくれ!!」
「ったりめえだ!! ケイン、そっちこそぬかるんじゃねえぞ!!」
「おう!!」
「ちょっと……二人だけじゃないわよ。あたしだって、部隊長を絶対に助けたいんだからね。仲間外れは無いんじゃない」
――――そうだった。
もう一人、心強い味方がいたんだ。
「そうだったな。おめえも立派なストライカーだったな。いいか、絶対はやてを助けるぞ!!」
「はい!!」
ヴィータとティアナ。
この二人がいれば、何とかなる。
――――いや
絶対に助けるんだ!!
このまま、はやてを死なせてたまるか!!
* * *
「はぁ……はぁ……」
出発直前、俺ははやてがいる医務室に寄り、はやての様子を伺いに来ていた。
こうしている間も、状態はどんどん悪化していってる。
魔力もフルパワーの半分以下になってしまっていて、もはや立ち上がる体力もなく、話すことも困難になってしまっている。
「はやて……絶対にお前を死なせはしないからな……」
俺はそっとはやての手を握り、自分の魔力を注ぎ、少しでもはやての苦しみを取り除く。
こんな事をしても、雀の涙なのは分かっている。
だけど、何もしないのは絶対嫌だから……。
「行ってくるからな……はやて」
俺ははやての手を離し、そっと医務室から離れ、ヴァイスが待つヘリポートに急いだ。
ヘリポートに到着すると、すでにティアナとヴィータは乗り込んでいて、あとは俺待ちだったとのことだ。
俺が到着するのを確認したヴァイスは、ヘリのエンジンに火を入れ、全速でルカーノにヘリを飛ばした。
* * *
ルカーノ火山に到着した俺たちを迎えてくれたのは、現地職員一人だった。
これ以上人員を割くことは難しくやむなくのことだった。
そこで説明されたのは……。
「……一角獣、ラギア……か……」
「はい……」
「ケイン、その……ラギアって何者なの?」
ティアナの疑問に、俺はラギアの説明をする。
ラギアというのは、ルカーノ火山に古くからいる伝説の魔獣の一匹だ。
特徴は馬型の魔獣で、頭にダイヤモンドの角があり、その巨体に似合わず高速の動きをする、とても厄介な魔獣だ。
「だがな、あたし達は、そんな魔獣程度にひるんでなんかいられないんだ。はやてを助けなきゃいけないんだからな!!」
「ああ、確かにラギアは手強い。だけど、今回はこれだけ頼もしい仲間がいるんだ。絶対うまくいく!!」
「あたりまえよ!! あたしとヴィータ副隊長までいるんだからね。大概の魔物なら大丈夫よ」
「ティアナ、ヴィータ……ああ、頼りにしてるぜ!!」
* * *
「おらおらおら!! 邪魔する奴はアイゼンの錆にしてやる!!」
「邪魔だ!! どきやがれ!!」
ケインとヴィータ副隊長が、全力でやってくる魔物を片っ端からなぎ払っていく。
副隊長が鉄球をデバイスで撃ち放ち、ケインはダイヤモンドブレイカーぶっ放していた。
その姿はまるで羅刹のごとく……。
「!! ケイン、後ろ!!」
ティアナの声で、後ろの魔物に気づき……。
「……俺を……なめるな!!」
砲撃を受けた魔物は、形も残らず完全に消え去る。
魔物をなぎ払い終わると、東の方から光が差し込み、森の出口が見えてきた。
俺たちは光が差す方向に全力疾走をした。
* * *
「おい、ここじゃないか!?」
ヴィータの声で辺り一面を見渡すと、そこには薬草である【アドニス】の花が一面に咲き誇っていた。
花の色は綺麗な白をしていて、花びらの形はバラに近い物をしている。
「……綺麗な花ね。ケイン」
「ああ、アドニスの花は薬草にもなるけど、観賞用の花としても珍重されているんだ。さぁ、ティアナ、これを持って帰って、急いではやてに飲まそう」
俺はアドニスの花を摘もうとしたその時……
「危ねえ!!」
空から砲撃が降り注いだが、ヴィータの声で咄嗟に反応することが出来、なんとか交わすことが出来た。
俺がいたところは、直径2メーターくらいのクレーターが出来ている。
「……こんなまねが出来る奴は……」
「ラギア……だけよね。ケイン……」
上空を見ると、そこには……。
『人間よ……何故アドニスの花を欲す……』
大きな赤き馬――――。
――――頭には銀色に輝く角。
伝説の一角獣、ラギア。
その姿を現した。
伝説の名にふさわしく、その身体を覆うオーラはとても強力で、立っているだけでプレッシャーで押しつぶされてしまいそうになる。
だけど……。
「こんなところであきらめるわけにはいかないんだ。俺たちが薬草を持って行かなければ、はやてが死んでしまうんだ……」
「ああ、こんな奴に邪魔されるわけにはいかねえ!! ケイン、ティアナ、全力でぶっ倒すぞ!!」
「「ええ (おう)!!」」
俺たちはそれぞれデバイスを戦闘モードに展開する。
ヴィータはラケーテンフォームに、ティアナはダガーモードに、そして俺は凍牙を抜刀し身構える。
「いくぜ!!」
はやて、もう少しだけ頑張ってくれ。
絶対薬草を持ち帰り、その苦しみを解き放ってやるからな!!