魔法少女リリカルなのは ~ Silver of Paladin ~ 作:アルフォンス
花の国、ラーワ――――。
ここは一年中、四季折々の花が咲き誇る自然豊かな国。
そこにあるシャイン大神殿は、シーリウスを作ったといわれる『創造神』の一人、ヲーグを祀られていた。
俺たちは、今、キャロの召喚竜フリードに乗って、シャイン大神殿に向かっていた。
なのはとフェイト、そしてキャロは俺たちと合流できたけど、残りのメンバーは、シーリウス各地で起こってる災害や魔物に対処するために現地の管理局員やシーリウスの戦士達と一緒に戦っている。
スバルやシグナム達も頑張ってくれてるんだ。
俺も負けないようにしないとな。
「あのさ……。キャロ、そんなにくっつなかくても、俺、もういなくならないぞ」
「その言葉、信用できません。不安なんです……。ケインさんが、また消えてしまうんじゃないかって……」
キャロの瞳は、ぐっと涙をこらえ、涙をためている。
そうだよな……。
半年も俺は、みんなの前からいなくなっていたんだよな――――――。
「だったら、キャロが安心するまでそうしてな」
「はい♪」
キャロは、さらに自分の身体を密着してきた。
まだ、成長段階だけど、ちゃんと女の子なんだって事はわかる。
「ったく……。甘えてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと複雑かな」
キャロにとって、俺はアニキみたいな感じなのかもな。
でも、本当に良い子だよ、キャロは……。
「よかったわね~。可愛い女の子がそばにいてくれて」
「おいおい、ずいぶんトゲがある言い方するな、ティアナ」
「……別に」
さっきから、怒っている感じのティアナ。
一体俺が何をしたって言うんだよ。
「はぁ……。ケインはもう少し女心を勉強した方がええよ」
「そうだね。お嫁さんを探すのに、そんなんじゃだめだよ」
はやてとなのはからは苦笑いをされてしまう。
今更ながら、女の子は難しい。
* * *
「ここがシャイン大神殿なのね」
「うわぁ……。大きい所ですね」
「ギリシャのパルテノン神殿に似てるね」
「そうだね」
「ケイン、ここでええんやな」
俺たちは、シャイン大神殿の中を歩いている。
中が広すぎて、どこを歩いてるのか分からなくなりそうだ。
「それにしても、少し身体がだるいわ……」
「ここは光の加護を受けた場所だからな。闇の加護を受けてる人間には、少し辛いかもな」
はやては、闇の加護を受けてる人間。
多少の力の持ち主なら、たいした影響はないんだけど……。
力が強い人には、影響が強く出てしまう。
「それにしても、皇牙はここに来れば全てが分かるって言ってたけど……」
『そう、全てをお知らせしましょう』
「「「「「えっ!?」」」」」
俺たちの前方に一人の女性が立っていた。
黄金色の法衣を纏った美しい金髪の女性―――――。
「大神官様!!」
「大神官……?」
「ああ、全てをヲーグ様のために捧げ、長い修行をした女性だけがなれる聖なる神官だ。それにしても……綺麗な人だよな」
近寄りがたい雰囲気はあるが、とても綺麗な女性だよな。
「「「「ケイン(さん)(君)!!」」」」
ティアナ、はやて、キャロ、なのはの声が一斉に重なる。
次の瞬間、頬と腕と腿とお尻を同時につねられてしまった。
「あいたたたたッ!!」
なんで……?
なんで、綺麗な女性を綺麗だって言って怒られなきゃいけないんだよ。
「どうぞ、こちらへ」
大神官はこちらに動ずることなく、俺たちを奥の大拝殿に導いていった。
「うわぁ……」
「これは……」
大神官に導かれて、大拝殿に入った俺たちは思わず言葉を失う。
そこは、遙か彼方、霧がかかるのではないかと思うほどの高さのドーム天井の巨大空間があった。
「あれを見てください!!」
キャロが大拝殿の前方を指し示した。
そこには、巨大な祠があり、女性の石像が奉られていた。
髪の長い、神秘的な笑みを浮かべた女性――――――。
「もしかして、これが……?」
「これが光の創造神、ヲーグ様です」
「なんか、私ら人間とそっくりやな?」
「そうです、創造神は己の姿に似せて我々人間を作ったのです」
大神官は俺たちを見つめそう答える。
「よく来ました、ケイン、そしてその友たちよ。今こそ、全ての真実を伝えましょう。惑星『シーリウス』の全てを」
そう言うと、大神官は手を組み、なにやら呪文のような物を唱え始めた。
「アルド ナル ゴルダ デル セラリ ハズリラグナ……」
「な、なんやこの呪文は!?」
「こんなの聞いたことがないね……」
「うん……。わたしもこんなのは初めて」
その時……。
「あれをみて!!」
ティアナの声に上方を見た俺たちは、驚きのあまり目を開いた。
なんと、ヲーグの像が目を開けたのだ。
いつの間にか、その肌は柔らかい人の物となり、髪もふわりと風にまった。
「……ヲーグ様が降臨されました」
「創造神が!!」
「信じられない……」
ヲーグの像がこちらを見つめ、口を開く。
「私は真実を語る者、今こそ、真実を伝えましょう」
神々しい声は、まるで俺たちの頭に直接聞こえてくるようだ。
俺たちは固唾をのんで、真実を語る者の次の言葉を待った。
「この世界に、創造神が何人いるかご存じですね」
「……はい。光、火、水、風、地、闇、6人の神というのが一般的に知られてますが、実際は……7人です」
「知っていたのですね……」
「親父から……散々聞かされてましたから」
親父から聞いてたのは、かつて大きな戦いがあって、その時に消滅してしまったとしか聞かされてない。
「この世界にくる前、創造神は7人いました。7人目の創造神『ヨラート』は、かつて、巨大な闇を倒すために死にました」
「神が……、死んだ……?」
「そうです、神も死ぬのです。ヨラートは闇を倒す聖なる武器を作るために、その身を犠牲にしたのです」
「聖なる武器?」
「しかも、その刀は不完全な物だったのです」
「どういうことや?」
「ヨラートが命をかけた聖なる武器でも、闇を消し去ることは出来なかったのです」
「その闇というのは、魔王『ダークロード』なんですか?」
フェイトの疑問に、真実を語る者は――――。
「いいえ、違います。闇の名は『ダークジー』。意志を持たず、ひたすら全てを呑み込んでいく異界の神。このままではシーリウスも、さらには全ての世界も、ダークジーに呑み込まれ、全てが消滅してしまうでしょう」」
「そんな!!」
「……そして、ダークジーに呑み込まれた世界は、その闇の波動に犯された人々が争い、堕落し、破滅の道をたどることになります。そして、残された時間は後わずか、もうすぐそこにダークジーが迫っているのです」
「ケインさん……。わたし達、どう、すれば……」
「何とかする方法はないんですか!! このシーリウスを救う方法は!!」
「方法はたった一つだけあります」
「なんですか。それは!?」
「聖なる武器を造るのです。もっと完璧な、もっと強力な聖なる武器を」
一体どうやって造れば良いんだ!?
創造神の一人が命を落としてまで造っても、ダークジーを滅ぼすことが出来なかったのに――――。
「創造神の力を借りるのです」
「創造神の力を?」
「この世界、惑星シーリウスを造った創造神は守護者を残してこの世界を去りました。しかし一人だけこの星に残った創造神がいたのです」
「それは一体?」
「闇の創造神『ロディス』。あなたたちには魔王『ダークロード』と言った方が分かりやすいでしょうか」
「「「「「「なんだって(ですって)!!」」」」」」
「そして、その部下である三邪星は水、風、地の守護者達なのです」
それじゃ、俺たちは守護者と戦っていたというのか――――。
「そして、あなた方はヨラートが造った聖剣をすでに持ってるのです」
「聖剣を? 俺が手に入れたのは皇牙ですが……」
皇牙は確かに強い力を持つけど、それは最強の名剣としてだ。
「元々、皇牙は、創造神が守護者を造り出すとき、核となる物に使用したのが、ヨラートが造った聖剣だったのです」
「!!」
「そして、皇牙を真の姿に覚醒させるためには、創造神の力と人の強い心の力が必要になります……」
そういうことだったのか……。
皇牙の中に感じた聖なる力は、聖剣としての力だったのか。
「ケイン、ダークロードは本当に力を貸してくれるのかな? 闇の創造神と言っても、悪に走っちゃったんだよね……」
「フェイト、ティアナにも言ったんだけど、闇というのは決して悪じゃないんだ。闇も人の営みには大事な物だし、闇がなければ夜もやってこないんだから……」
「それは……わかるんだけど……」
なのはとフェイトは、頭では理解してるけど、感情的にはって感じだ。
すると、はやてが……。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、私だって闇属性の者やで。だけど、ごくごく普通の女の子や。ダークロード、いやロディス様に、私達の気持ちを全力でぶつければ、絶対に伝わるはずや!!」
「そうですよ。いつものなのはさんらしくないですよ。全力全開でぶつかりましょう!!」
「はやてとティアナの言うとおりだ。迷っている時間はない。行こう、ダークロードのところに!!」
こうしてる間にも、どんどん世界の危機が迫ってるんだ。
今は行動あるのみだ!!
「これだけは忘れないでください。先ほども言いましたが、皇牙を目覚めさせ完全な聖剣にするには、貴方の心の力が大切なのです……。ケイン、あなたの旅は多くの心を知るためのものだったのですよ」
そう言うと、真実を語る者はスッと石像に戻っていった。
魔王『ダークロード』の正体――――――。
そして、ダークロードより、更に巨大な敵『ダークジー』――――。
正直、色んな事がありすぎて混乱している。
だけど、今は立ち止まってるときじゃない。
「よし、さっそく出発しよう」
「「「「「ええ(うん)(はい)!!」」」」」
「でも、ケイン。あたし達は一体どこに行けばいいのかしら?」
「そうだよな……」
俺たちが途方に暮れてると――――。
『どうやら、我の出番のようだな』
俺の頭に皇牙の声が響いてきた。
「皇牙!?」
『ロディス様の居場所なら、我が導こう。ケイン、我を使って空間を切るのだ』
「分かった!!」
俺は精神を統一し、皇牙を一閃した。
一閃した所から空間が裂け、そこに突然大扉が現れる。
「これは!?」
『これこそ、封印されし扉、“時空門”だ』
「時空門……。まさに封印するための扉って感じやな」
「うん……」
『さあ、我を鍵穴に納めるがよい』
「鍵穴?」
皇牙に言われて扉を見ると、そこには剣の形をした鍵穴がある。
皇牙の形と全く同じ形だ―――――。
「ケイン君、皇牙を……」
「ああ……」
皇牙を鍵穴に納めると―――――。
ガクン!! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
振動音がして重厚な扉が左右に開いていった。
その奥に異様な、それでいて神々しい姿の大陸が見えた。
「あれは?」
「大陸……かしらね?」
「あんな大陸、管理局のデータにもあらへんで……」
『あれこそが『神の国・ジオード』。創造神が最初に創造した地であり、かつて神々が存在していた……聖なる大陸だ』
あそこに魔王『ダークロード』が、いや、闇の創造神『ロディス』がいるのか―――――。
俺たちがジオードに入ろうとしたとき……。
「悪いが、お前達をダークロード様のところに行かせるわけには行かない」
「その前に我らと、最後の勝負をしてもらおう」
一人は、一つ目の、漆黒のマントの姿。
そして、もう一人は乾ききったミイラ姿の魔物。
「マジックマスター!!」
「アンデッドマスター!!」
ここはダークロードの本拠地。
この二人が待ちかまえていても当たり前だ。
すでに、なのはとフェイトが、それぞれデバイスを起動させ、戦闘態勢に入っていた。
「高町なのは、俺たちの長い戦い。ここで終わりにしてやる!!」
「……良いよ。わたしも、あなたとの戦いを決着付けたかったんだ」
「では、我の相手は、フェイト・T・ハラオウン、お前か?」
「アンデッドマスター、今日こそあなたを倒して、全てを終わらせます!!」
俺がいなかった半年。
なのはとフェイトは、マジックマスター、アンデッドマスターの二人と、何度も死闘を繰り広げてきたんだ。
「ここは私となのはがくい止める!! ケインは先に進んで!!」
「はやてちゃん、ティアナ、キャロ、ケイン君のことお願いね。わたしも決着を付けて、すぐに追いかけるから!!」
今のなのは達は、こと魔法戦に関してはこの中の誰よりも強い。
ここで下手に手出しするより、彼女たちを信じよう……。
「分かった……。ここは任せたぜ!!」
「ケイン、行くわよ!!」
「ケインさん!!」
「ケイン!!」
俺たち4人は、ジオードに突入した。
全ての決着を付けるために……。
――――――神の国・ジオード。
ここに全ての答えがある。
世界を救うための……。
そして――――。
俺自身の旅の答えが―――――。