アムロ転生記 騎士ガンダム物語 作:ティンティン
「よし、落ち着け……こういう時こそ冷静に……冷静に……」
数刻後、平常心をようやく取り戻し始めたアムロは状況を整理すべく再び水面に写る己の姿を見る。
ガンダムに乗り始めた時から非常時に平常心を失えば死、あるのみという環境で生きてきたアムロは兎に角状況を受け入れるべきと考えた。例え今の己の姿が、人ならざる姿でも。
「……しかし改めて見てもとんでもない格好だな……デフォルメされているがまさか『ガンダム』になってしまうとは」
──思えば己の人生の半数以上は直接的にせよ、間接的にせよ『ガンダム』という存在と関わりながらの人生であった、とアムロは振り替える。
かつて一年戦争と呼ばれる地球連邦とジオン公国の戦争の最中に父が開発したモビルスーツ『ガンダム』に乗り込み、まだ青い少年であったアムロは時に疲弊し、時にかけ換えの無いものを失いながらも、そして『ニュータイプ』なる存在へと覚醒し生き抜いてきた。
その後も反地球連邦運動へと身を投じたり、そして地球連邦へと牙を向いた長年のライバルとの激戦も繰り広げた。
その全てにいつも『ガンダム』という存在があった。皮肉にも今はアムロ自身が『ガンダム』の姿になってしまったが。
「ここまで来ると呪いかも知れん……」
生き残る為、己の『人の革新』という理想の為とは言えそれは全て戦争の中。ガンダムというモビルスーツを駆ってどれ程の命を奪ってきたのか。もしや今の姿はガンダムに縛られ続けた己自身に相応しい呪いなのか、とまで考える。
「……っ! 誰だ!」
アムロの鋭すぎる五感は、近くに迫る何かを捕らえた。アムロが感じ取ったのは己に向けられる『敵意』。その敵意の持ち主はガチャガチャと物音を立ててアムロの下に迫っていた。
「来るのか……? だがこんな姿でどうしろと言うんだ……」
ここが戦場であり、アムロがモビルスーツに搭乗していたのであれば真っ先にこの『敵意』の持ち主に一発撃ち込んでいただろう。だが今のアムロは恐らくメカ寄りの、デフォルメされたガンダムの姿。人体とのバランスの違いから歩くのがやっとの状態であり襲われたらひとたまりも無いだろう。
だがアムロの長年に渡り戦場で鍛え上げられた戦士としての感は己が不利な状況であろうとそれに対応できるようにと、身構えて立ち向かう事を選らんた。
「来たな。……ン?」
そして、アムロに敵意を向けていた存在はついに目前に姿を現す。その数は二つ。だがその姿を見てアムロは思わず気の抜けた声を出してしまった。
その姿はアムロにとってある面影を思い出させる物だった。
「……ザク、なのか?」
それはアムロの今の姿と同じくデフォルメされているがかつてジオン公国において多くの機体が生産、運用され一年戦争終結後もジオン出身の技術者により多くのバリエーション、後続機が生産されたモビルスーツ、ザクに類似していた。
まるで『生き物』のように五体のあちこちに毛並みがあり尻尾のような物も生えている。そして尚且つ手には尾のが握られアムロに向けてその斧を唸らせていた。
「敵意はこのザクもどきからか……だがこの感じ……人では無く寧ろ『獣』のようだが……」
これまた珍妙な存在にアムロは首を傾げる。が、相手のザクのような生き物はお構い無しにその斧を振り回しながらまず一匹がアムロに迫る。アムロの感性はそれに咄嗟に反応し後方に下がろうとするが、いかんせんまだ体のバランスが取りづらいのか斧の一撃がアムロの体にかする。
「ちいぃ! かすったか!」
幸いにもその西洋騎士のような鎧のお陰でダメージは最小限に留まったが、まだ体のバランスが上手く取れない以上何度もしてやられる訳には行かないとアムロは反撃の算段を考えていた。
「せめて何か武器を……ン? これは……」
武器が無い以上この敵は倒せない。最低でもその辺にある石ころを使ってでもと考えていたアムロだが己の背にある物が装備されている事に気付く。
それは盾でありそしてその盾に諸刃剣が仕込まれている事に気付いた。
「こうなれば使える物は使うべきか!」
アムロは右手に剣を、左手に盾を構え臨戦態勢を取る。
──思い返せば今のように武器を手に取って白兵戦を挑むのは一年戦争末期の、宇宙要塞ア・バオア・クーにおいての激戦。長年のライバルとなるシャア・アズナブルとの決戦において互いにモビルスーツが大破しア・バオア・クーの内部にて生身でレイピアを手に取り直接対決をした時以来では無いか、と思い返す。
肉体派ではなかったアムロであったがあの時もどうにか潜り抜けたのだ。今はまだバランスを取りづらいが武器が互角ならばきっと今の状況を潜り抜けられる、とアムロは決意し剣をザクもどきに構えた。
先程アムロに仕掛けたザクもどきは再びアムロを仕留めようと斧を振りかぶり駆け出してくる。対するアムロも慣れない足ながらも駆け出し宙へ舞う。
互いに仕掛けた果てに、攻撃が炸裂したのは──アムロの剣であった。アムロの剣はザクもどきの胴を真っ二つに切り裂き、ザクもどきの二つに別れた体は青白い炎を上げて消滅した。
「……体は不慣れでも頭はちゃんと働くんだ。行けるぞ!」
この程度の相手ならば今の自分でもやれるとアムロは革新する。もう一体のザクもどきは相方がやられた事に対して腹を立てたのか唸り声を上げながらアムロに向かって突っ込んでくる。
「……! 動きが甘い!」
だがアムロの鋭い感性はその動きを完全に捉えていた。アムロはその場から動かずに剣を両手に持つとその切っ先をザクもどきに向けて突き出す。
剣の切っ先はザクもどきの胴を貫き串刺し状態となってザクもどきは青白い炎を上げて消滅した。
「ふう……何とかなったか。しかし全く不可解な場所だ……」
二体のザクもどきを仕留め、剣を盾に納めてアムロは一息つく。己の今の姿と言い、襲ってきたザクのような生き物と言いまるで自分がそれまでいた宇宙世紀とはまるで違う世界に来てしまったのでは? とアムロにとって一番叶って欲しくも無い考えがよぎる。
「とは言え何時までもこんな平原に居るわけには……ン? あれは、町……なのか?」
遠くの光景を見つめるアムロだがその目に町のような物が映った。その町の中央には大きな建築物があり町の規模はかなり大きい物と認識出来た。
「……ここにいても仕方無い。行ってみるか」
アムロはその足を踏み出す。この大地が、自分の全く知らない未知なる世界かもしれないという不安を抱きながら。