アムロ転生記 騎士ガンダム物語 作:ティンティン
SDフルカラー劇場みたいな物だと思ってください。
「こ、これは……!」
今日で驚くのは何度目だろう、と思いつつもアムロは驚嘆の声を上げた。平原から歩く事数十分程をかけて街にたどり着いたアムロだが、その街並みは幼少の頃に呼んだ事のある中世の国を題材にした絵本そのままを再現したような何ともクラシカルな雰囲気の街並みであった。
この街の住民には普通に人間の姿をした者もいるが、それに混じってやはり今のアムロ同様にモビルスーツをデフォルメしたような存在もいた。
「……ジム、だよな?」
モビルスーツは基本的に宇宙世紀で連邦がガンダムのデータを元に量産、発展をしつづけたモビルスーツ『ジム』のような見た目をしていた。
しかも、今のアムロが出来るのだから当然なのだが喋る。人々に紛れて会話をする者、露店商となって呼び込みをする者、酔っぱらってその辺の路地裏で寝る者……人間と同様の生活を送っていた。
「こ、興業用アトラクションか何かか?」
だがそんな事をやっている等とは地球にも、どのコロニーでも聞いたことは無い。デフォルメされたモビルスーツはプチモビの発展にしては出来が良すぎるし、何よりアトラクションと考えれば返って今のアムロの姿が説明つかなくなってしまう。
そして何よりこのクラシカル過ぎる街並みに空の光景だ。一から再現したにしては、空気がリアル過ぎるようにアムロは感じた。最初からこの形をしていたかのようだ。
そして空。コロニーならば円柱状、必ず天井に別の居住空間があるはずだがそれも無い。清みきった空に鳥のような生き物が飛んでいるだけだった。
「……俺は別の世界にでも来たのか……?」
達観、いや諦めだろうか。目覚めたあの平原で、この場で幾つもの物的証拠や己の体から推測するにアムロはこの結論にたどり着く。別世界とでも考えなければ『ガンダム』のような己の姿やモンスターと化したザクもどき、普通に人間に混じって生活を営むジムの姿をした者。そしてこの街並み……それら全てを受け入れるには完全に別世界に来たと考えるしか無かった。
(いったい何が原因だ……? あの時の、アクシズを押した時に発生したあの光か?)
可能性として上げられるのはやはりアクシズを押した際にνガンダムとサザビーの脱出ポッドから広がったサイコ・フレームの光だった。朧気にアムロが覚えているのはサイコ・フレームの光が落下するアクシズの後部を包み地球への落下軌道から外れて行く事。それと同時にアムロはサイコ・フレームの光に包まれその意識を失った。
サイコ・フレームにあんな超常現象を引き起こす作用があるなどと考えてもいなかった。精々アムロの反則的なまでの反応速度に機体を追従させる為の、宿敵であるシャア・アズナブルから贈られてきた『情けの塩』ぐらいにしか思っていなかったがアクシズの軌道を変え、そして経緯は分からないがアムロ自身を別の世界にまで飛ばしたのだ。『ガンダム』の姿になってしまったのは完全に泡を吹いたが。
「……だが、これで良かったのかも知れない」
別世界に来てしまった以上、元の世界の事が気掛かりになったがアムロは今の状況に納得していた。サイコ・フレームの光が広がった時に感じたのは未知なる現象への恐怖とも、アクシズが落下していく事への絶望でも無い。むしろ暖かみと安らぎを感じさせるモノだった。あの時、敵味方を越えて全ての者がアクシズを押し返そうとしたあの光景。爆装している機体もあったしアムロも人の事も言えた義理では無いが明らかに無茶をやった。シャアはあの行為を『悲しみ』と捉えたがアムロは絶望しない心の光、『希望』を感じ取っていた。
これから先の宇宙世紀の世界が気掛かりだが、己を知る者である盟友のブライト・ノアといった人間が生き延びて居るのであれば、きっとあの時の光景を語り継ぎ次へと『バトン』を橋渡ししてくれるだろうとアムロは考えていた。
「……となると、俺はどうしたら良いんだろうか?」
これまでを振り返った所で次の問題は、アムロ自身だ。こんな『ガンダム』の姿になってしまい、見知らぬ世界の、見知らぬ土地でどうすごせば良いのか。
「うーん、どうした物か……」
「きゃっ!」
「おっ……と、失礼!」
腕を組み、考え事をしていたせいかアムロは誰かとぶつかってしまいそれを詫びる。アムロがぶつかってしまった相手は頭にフードを被っていたが、その顔は気品さを感じさせる少女であった。
「いえ、大丈夫です。こちらも少し慌てていた物ですから……あら、このムンゾでは見かけない顔ですね。名は何と申すのですか?」
「はぁ、俺はアム……いえ、ナ、
名を訪ねられて最初は素直に答えようとしたアムロだが、今は人間では無く『ガンダム』の姿である。人としての名前を名乗るのもどうか、と思い咄嗟に己の姿そのままに『騎士ガンダム』と名乗った。
「……! ガンダム!?」
「ン? 俺の名前がどうかしましたか?」
「い、いえ……珍しい名前な物ですから」
──驚いたのはてっきり見た目からなのか?
そう思ったアムロだが、よくよく考えると少なくともこのムンゾという街にはモビルスーツのような『生命体』が普通に生活を営んでいるのだ。恐らくこの世界では『ガンダム』という生命も存在し、それが単に希少なのだと考えた。
(……だが、本当にそれだけだろうか?)
しかし、アムロの鋭い感性は目の前の少女が『ガンダム』の名を聞き驚いた事にもう一つ別の理由が含まれているのでは? とも捉えていた。己も名を偽ってしまったし、初対面なので始めから全てを明かす事などほぼあり得ないのだが、その含みに引っ掛かる事を覚えたアムロは探りを入れる事にした。
「……こちらからぶつかってしまった手前失礼ですが、名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「え、ええそうですわね。貴方も名乗った事ですし……私はミネ……い、いえ『オードリー・バーン』と申します」
──明らかに偽名だ。
この拙い名乗り方は間違いなく偽名、何かを隠しているとアムロは確信する。今の己も『ガンダム』だ。この娘もきっとこの世界における『ガンダム』について何かを知っているかも知れない。そしてそれを知ればこの世界において己が何をして、何を成し遂げれば良いのかを知りうる事になるだろう、と決め込みアムロは更に探りを入れようとするが……
「見つけましたよ、『ミネバ』様!」
街並みに響く大きな声が聞こえたと思えば、アムロとオードリーと名乗った少女の側に白いモビルスーツのような姿をした存在が立っていた。そしてその姿に、アムロは見覚えがあった。
「……今度はキュベレイか?」
それは、宇宙世紀0087に起きた地球連邦において『地球至上主義』を掲げ、後の歴史にコロニー側に対して毒ガス作戦等の数々の愚行を繰り返したとされるエリート部隊『ティターンズ』とそれに反発する反地球連邦活動『エゥーゴ』との間に起きたグリプス戦役。その末期に活動を起こしたジオン残党が小惑星アクシズを拠点に興したその場通りの組織名『アクシズ』後に『ネオ・ジオン』と名乗る組織において摂政を勤めた女、『ハマーン・カーン』が愛機としていたモビルスーツ、『キュベレイ』に酷似していた。