「魔葬」が金次くんの右腹部から左脇にまで切り裂こうと迫るなか、彼は脱力させた全身に一瞬で力を込め逆ベクトルの「桜花」である「橘花」を用いて私の一撃に併せて〟回転〝した、そしてそのまま私の左側頭部にむけて「桜花」による蹴りを放ってきた。
その技の構造上「絶牢」に近いが厳密には違う。第一に私の魔葬は彼に触れてもいない、攻撃の進行方向を見極めて「橘花」を用いて回避し、その勢いを殺さずに更に「桜花」を重ねて攻撃に転じる技だ、攻撃の進行方向を予め見極めなければ使えないうえに「絶牢」のように相手の力を利用できないが、「魔葬」のようなガードや受け流しが不能の大技には有効だろう。名付けるなら「春風車」といった所か。
私は放たれる蹴りを同じく「橘花」で受けながらも金次くんの足を掴み、殺しきれない衝撃はそのまま勢いを殺さずに「秋水」の体重移動を用いて相手の体をコンクリートの床に叩き付ける、名付けるならば「人間ベイブレード」といった所だ。
あらかじめ橘花×絶牢×桜花の流れを警戒していた私にはその技を称賛こそすれ、驚きはしなかった。
ほとんど勢いは殺したとはいえ「春風車」と私の「秋水」を乗せた一撃を受けても尚起き上がろうとする金次くんの頭を「魔弾」でもう一度床に叩き付ける。
いくら金剛石のように硬い彼の頭でも脳を揺さぶれば流石に堪えたらしくそのまま気絶したようだ。
私も先程の一撃を捌ききれずにダメージを負ったが、今はそれより勝利の高揚感が勝った。
「ふふっ、ふふふっッ……あはははははははははははは!!!」
私は仰向けで倒れた彼の上に馬乗りになった体勢のまま、回転する景色のなかで勝利の雄叫びをあげて、
「私のッ…勝ちだ!…遠山金次!あはははは…」
DEATH NOTEの夜神 月のように勝利宣言した。
ダメージが蓄積した私は最後、睨みを利かせながら迫ってくる蘭豹の怒声を聴きながら、彼の体の上に倒れ込んだ。
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私はあの後、救護科(アンビュラス)の専門棟に隣接する武偵病院で入院することになった。
まさか、最後まで生き残った私が一番ダメージが大きいとは、ある意味必然ではあるが…。
どうやら金次くんとの戦いで頭を強く打ち過ぎて脳震盪に陥っただけでなく、頭部からの出血による貧血まで引き起こしたらしい。
まぁ、それ以外は無傷だし、頭の包帯が取れれば退院と言っていたので暫くは経過観察だろう。
隣では左手と左足首を骨折した不知火くんが同じくベッドに寝ていたので、やはり私達一般中組では彼らの様に危機管理能力には長けていないらしく、どうやら足場の不安定な場所での行動は慣れていない為に階段で滑って転んでしまったらしい。
不知火くんも結構お茶目なところがあるんだなと思った。
金次くんは目を覚ましてすぐに、何故か私に試験での事を謝りだしたので、私は気にしてない事と、手加減されるのは不本意だったから寧ろありがたいと感謝したら、彼もようやく顔を上げてくれた。
彼もビルの床に叩き付けられた際に助骨にヒビが入っているし、右手首は私の「小手返し」の所為で包帯が巻かれており、最後の「魔弾」で後頭部が出血した為、軟膏を塗ってガーゼを貼られている。
パッと見た感じでは、彼の方が入院すべきような有り様だが、私の様に急所である脳や心臓にも影響はないし、不知火くんの様に自分で歩けない訳でもないので、暫くは自宅療養のようだ。
不知火くんは何故か終始冷や汗を流し震えていたが、そんなに骨折が痛むのかな…。
それに、私が彼に金次くんを紹介しても、あまり会話をしなかったようだし…そんなに人見知りだっただろうか?
寧ろ積極的に交友を拡げるタイプだったような気がしたが…。
2日程休めば包帯も外せ、不味い病院食とも今日でお別れだ。
退院する際に「救護科」の教諭である矢常呂イリンさんに、
「もし、何か身体に異常がでれば戻ってきなさい」と言われたが、やはり私の脳に何かしら問題でもあったのだろうか?
私はその後、一度遠山家に戻り、金次くんと合格発表を待った。
「遠山金次 入試Sランク」
「天羽斬々 入試Sランク」
桜咲き、私達の東京武偵校での生活が始まる。