Sランク武偵 天羽斬々   作:遊び人の旅行記

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依頼内容は明確に記載願います

依頼主との顔合わせの為に、東京から少し離れた山間部の宿泊施設まで向かった。

 

『考える木』の拠点は幾つかの広大な土地を有している。

 

この一帯の山もその例外に漏れず、私達が今向かっている宿泊施設も近隣の小学校や中学校が林間学校として利用していたものだったのだが、数年前に地震が起き、近年の少子化問題も相まって施設の経営が続けられなくなった建物を『考える木』の創設者である今回の依頼主が買い取ったようだ。

 

「それにしても、何処からそれだけの資金を集めたんだ?」

「たかだか個人が創設した独自の宗教団体だろ?」

 

と、金次くんが尤もな疑問を投げかける。

 

「最初は小さな宿舎だったらしいが、投資で得た金で土地や建物を買ってそれを身寄りのない人達に無料で貸し与えたそうだ。」

「他にも仕事を紹介したり、内職を手伝わせたり、働けない人には土地や建物のの管理を任せたり、他にも専門知識や資格を持っている者にはインターネットを使った布教活動等も手伝わせているようだ。」

「尤も、それだけでこれ程の資金は得られないだろうからな、後はお察しだ…」

 

私が事前に調べた情報を金次くんと共有する。

 

「そういえばこの前に駅で教本かなにかを配っているの見たぜ!」

 

話に介入してきたのは「車輌科」のAランク武偵である武藤 剛気

依頼を受けた私達が助っ人として雇ったのだ。

 

目的地までの移動と、必要に応じて護衛対象の移動に使う足として雇った。

 

彼曰く、ここ暫く一般教科の授業ばかりで腕が鈍るところだったらしい。

 

「お前等に付いていけば合法的に授業を抜け出せるぜ!」

「護送については任せろ!護衛対象は傷一つなく送り届けてやるからよ!」

 

装甲車を走らせながら意気込む彼を横目に私が地図を開く。

もう見えてきてもおかしくはない距離だ、金次くんは最初こそ武藤くんが持ってきた雑誌や漫画を読んでいたが、目的地が近付くにつれて、窓越しに周囲を観察し始めた。

 

どうやら、私達以外の車が通った跡がない事に彼も気づいたようだ。

 

暫くすると、それらしき看板と入り口らしき道が見えてきた、その入り口の前に武装した男が二人、私達の案内役を任されているそうで敵意は感じられなかったが、どうやらこの二人は外部から雇われた警備員のようで『考える木』のメンバーではないようだ。

 

「私達の役目はここら一帯の監視と客人の案内だけなので、本館の中には入れないんですよ、なかの案内は別の案内役が致しますので暫く此処でお待ち願います。」

 

どうやら、直ぐに依頼主と話をすることはできそうにないな。

 

「私達は事前に依頼主と会う際に合言葉を用意しているが、お前達はそれを聞かされているか?」

 

私が一応の確認を取ると

 

「はい、『木を隠すなら森の中へ』でしたよね?」

 

確かに、案内役に使う合言葉はお互い承知しているようだ、因みに私達の返す言葉は『人を隠すなら人混みの中へ』だ。

他にも様々な質問や書類の確認等を済ませると、待っていたとばかりに正門らしき扉が開かれ和装の老人に招き入れられた。

漸く建物の中へ入った私達は依頼主と護衛対象の居る部屋に案内されることになった。

 

因みに武藤くんはいざとなったら直ぐに車を出せるよう、その場で待機してもらった。なにか怪しい動きがあったら無線で連絡を取り合う。

 

建物の中は小さな宿舎が幾つも重なり、それが周囲を囲うように存在している。

 

林間学校の名残だろう体育館や食堂の他にも、キャンプ場や広場が点在している。

 

長い廊下の天井には燕の巣や蜂の巣ができた箇所があり、その間を通ると壁に消火栓が掛けられている。

 

廊下を通りなんの変哲もない部屋の一室に入ると、そこには法衣を着て穏やかに笑みを浮かべる中性的な顔立ちをした子どもと、気難しそうな中年男性が椅子に座っていた。

 

もう一人、子どもの後ろに立っているのは、黒髪を短く切り揃えている20代後半あたりの女性で小太刀と薙刀を携えている、僅かな重心のずれも見られない事から、かなりの手練れであることが窺えられる。

 

私達が挨拶をすると

 

「よく来てくれた、私が君達の護衛対象である『考える木』の教祖だ。」

「君達にはこれから三日間、私の警護に当たってもらうことになるから、よろしくね。」

 

余りにも綺麗な声色だったため、その言葉が目の前の少女から発せられたものだとは一瞬気づかなかった。

 

「貴女が『花御御前』ですか?」

「思っていたより若いんだな…」

 

私と金次くんの質問に彼女は笑って返す。

 

「ホルモン異常の病気でね…発育不全なんだ。」

「これでも29歳なんだよ。」

 

彼女は気にした風もなく言葉を返す。

 

「最近では骨も脆くなってしまってね、キャタツから落ちただけで足首の骨を折ってしまった。」

 

けらけらと笑っているがそれはいざというとき自分で走って逃げられないということだろう。

 

「何故、俺達に依頼をだしたんですか?」

「そもそも、なんで自分の創設した組織の幹部に命を狙われているんです?」

 

金次くんが話を進めようとすると、彼女は困ったように頬を掻く。

 

「そもそも私は君達を雇うつもりはなかったんだ。」

「彼が君達の依頼主で私の父、花御 木屑だ。」

 

そう言って、彼女が隣の椅子に座る父親を紹介すると、木屑さんは軽く会釈をして彼女が言っていることが事実だと説明した。

 

「私自身は組織内の争いに部外者を巻き込むのには反対だったんだよ。」

「しかし、父は私の事を心配して君達を雇ったそうだ。」

「命を狙われているといっても、たかだか数十人の集まりに過ぎないし。外部から人を雇うだけの金も彼等にはない。」

「君達が心配するような事にはならないよ。あぁ、追い返したりはしないから安心してくれ。3日間ここで過ごして帰ってくれれば後は学校には私が上手く報告しておくよ。部屋も用意する。」

「私はこれから用事をすませに此処を離れるから、留守は任せるよ。」

 

 

 

随分と軽く今後の方針を決められた私達は彼女の用意した部屋で今の状況を整理した。

 

「で、どうする?このまま大人しく3日間泊まるだけか?」

 

金次くんが私の意見を聞いてくるが、それは愚問だ。

 

「“断じて”否だ、依頼を受けた以上は花御 咲羅の護衛は“断じて”続行する。例え望まれていなかったとしてもだ。」

「彼女が出発するまで後30分程ある、15分で支度した後に、すぐに咲羅のもとまで向かうぞ。」

 

 

こうして私達の最初の任務が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ…武藤くんは?

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