武藤side
金次と天羽さんが建物の中に入ってから俺は警備員の長澤さんに頼んで辺り周辺の監視カメラの映像を確認していた。
といっても外を写す映像は僅かしかなく、交代で周囲を見回ったり業者や信者の対応、他には壁や看板の修理、害虫駆除に庭の剪定が警備員の仕事に含まれているそうだ。
「まさか依頼が御破算になるとはなぁ…」
武偵校には既にキャンセル料が振り込まれている。
もう俺達が此処に留まる理由はないが人の命に関する依頼であった以上あの二人が簡単に手を引く筈がないだろう。二人がまだ中から出てこない以上は俺も自分の役割に専念する必要があるだろう。
「と言っても、俺は中に入れねぇし二人からの報告を待つしかやることがねぇんだよな…」
俺が欠伸を噛み殺しながら流れる映像を眺めていると、長澤さんと守木さんが缶コーヒーを奢ってくれた。
この二人とは車の駐車場所まで案内してくれた折に仲良くなった。
どうやら二人とも此処では長いらしく、昔はこの近隣にあった学校で働いていたらしい。
「あざっす!二人はこれから休憩っすか?」
暇なら話し相手にでもなってもらうか、この組織の情報とかを聞けるかもしれないし。
「ああ、昼飯食ってからはキャンプ場の薪を割りに行かねばならんがのぉ、それまでは暇じゃよ。長澤はどうじゃ?」
「俺も昼から蜂の巣駆除を頼まれているが、1時まで休憩だ。どっかに移動する時は他の警備員に言ってくれや。」
二人ともこれから昼休みのようだ。
「ちょっと聞きたい事があるんすけど。この『考える木』って組織は具体的にはどういう政策をもとめてるんですか?」
「自然保護の政策ならもとより国が取り組んでいるでしょ?」
「聞いた限りだと反社会的思想だとは思えないんすよね。」
俺が気になったのは『考える木』が何を目的にした集団なのか、それが知りたい。
長澤さんと守木さんはしばらく悩んだのちに口を開いた。
「武藤くん、君は花咲か爺さんを知っているか?」
「そりゃあ知ってますよ。子どもなら日本昔話とかで馴染み深いんじゃないっすか?」
なんで急にそんな話を始めたのかと疑問に思っていたが、長澤さんの次の言葉に俺は耳を疑った。
「信じられないかもしれんが、その花咲か爺さんの子孫こそが歴代の『花御御前』なんだよ。」
花御御前の祖先は嘗てこの周辺にあった集落の外れで暮らしていたそうだ。その家は先祖代々灰買いをやっていてなこの山も元々は灰山として利用していたらしい。
その山の樹木はいくら切り倒しても1年も経たずに新たな木が生えてくるので生活に困ることがなく、村の人間も質のいい灰が安く手にはいるのでその一家に感謝して暮らしていたが、それをよく思わない者も多くいた。
そんなある日、山火事が起きて偶々他の村に灰を売りに降りていた祖父と孫を残して一家は焼死してしまい。更に山火事の咎められ土地を手放さなければならなくなった。
しかし、それから山からは生気が失われていき雑草すらまばらにしか生えてこなかった。そこを偶々通りかかっとある大名が話を聞きつけ山火事を生き残った老人になにか上手いてはないかと訪ねれば。老人は家族の遺灰の入った壺をとってきて灰山に撒いたところ忽ちに新芽が生えていき枯れていた木々には季節外れの桜が咲いた。
これに感動した大名はその家に花御の名字を与え、その山の管理を任せた。
それが事実だとしたらおそらく超能力(ステルス)の一種なのだろう。
「じゃあ、今の花御御前もそれと同じことができるんすか?」
俺の質問に二人は頷いた。
「俺達は初期のメンバーだからな、先代の灰桜さんの頃から務めてる。」
「前に花御家の人間が1ヶ月ほどこの山を離れた時に木々が腐り始めたのを見たからなぁ。」
「たしか麻薬密売の容疑で木屑さんが連れていかれた時だったかなぁ。」
「あの少し前に灰桜さんが行方不明になって娘の咲羅さんが一時期警察に保護されてたんだよ。結局、灰桜さんも見つけられないまま捜査は打ちきられた。」
咲羅さんが戻ってきたら元通りか
「話してくれてありがとうございます、中の二人にこの話伝えてきますね。」
俺が車に戻ろうとした時、監視カメラの映像に二人の女性が駐車場へ向かうのが見えた。
「少し様子を見てみるか。」
俺が車に戻って二人からも情報を引き出そうと駐車場に向かったところ。
そこには薙刀を持った女性が拳銃を構えていた女性の腕を縦に切り裂いた場面を目撃した。
「お前らなにしてんだ!」
俺がコルトパイソンを構えて二人を引き離そうとした瞬間
腕を切られた女の足元から桜の大木が地面から勢いよく生えてきて彼女もろとも飲み込んでしまった。まさか今の女が花御御前か?
大木はまるで意思を持つように枝を鞭のようにしならせ、まだ斬りかかろうとする薙刀レディ(仮)を弾き飛ばした。
俺も咲羅さん?に当たらないよう2~3発程銃弾を撃ち込んだが案の定効果は薄い。
俺が金次達に状況を伝える為に無線を繋ごうとしたところ、大木は俺達の乗ってきた装甲車を掴み俺めがけてぶん投げた。
「ちょっと待て、轢き殺される!!」
化物の退治は俺の仕事に含まれていない。
俺は一か八か地面に伏せてそれを回避し、最強コンビに助けを求めた。