金次side
天羽が武藤のもとへ向かってから俺は天羽に拘束された木屑さんと部屋のなかで待機している間に話の続きを聞く事にした。
「あの、咲羅さんの居場所とかに心当たりはありませんか?」
「他にも最近の彼女のことで違和感を覚える事があれば調査の役に立つかもしれませんし。」
先程の武藤の悲鳴に咲羅さんが関係している可能性は高いが、天羽が向かったのならば安心だろう。
通常モードの俺が行っても足手まといにしかならんしな。
「それが、先程から鴉喰くん…私が咲羅の護衛と監視を任せた幹部との連絡がとれないんです。」
あの薙刀を持った女性は鴉喰という名前なのか…
「咲羅さんの近くにいたのなら彼女になにかあった可能性があります、最後に連絡をしたときはなんと?」
俺が問いただすと木屑さんはしばらく考えた後、妻の灰桜さんの埋葬場所を教えてくれた。
「鴉喰くんの話では確か、妻の遺体の埋葬場所を探していたそうだ。灰桜の遺体は私一人で行ったから鴉喰くんも知らない筈だ。」
「花御家の人間は皆死んだ後はこの山に埋葬されることになっているんだ。かつて花御家の祖先がこの地に身を沈めてからずっと。」
「敷地の外れを少し行った先に霊園を設けてあるんだが、灰桜の遺体をそこに埋めることはできなかったんだ。その霊園には教団員の親族や友人も眠っているからね、あまり目立つことは出来なかった。」
「だからそこを少し離れた木々の隙間に彼女を埋めたんだ。幸いと言うべきか、その辺り一面は直ぐに樹木に覆われたから私にしか正確な場所は分からないが、娘ならひょっとしてその場所を把握できるかもしれない。妻にしてもそうだったが彼女達にはこの周辺の自然環境を何らかの方法で把握する特異な能力のようなものが備わっていた。作物の収穫時期や桜の開花時期から、天候や虫や動物の生息場所、その活動範囲と時間帯までも正確に言い当てた程だ。」
もし仮に、彼の言うとおり咲羅さんが自分の母親の埋葬場所を探しているのだとすれば。
「何で今になって急に動き出したんだ…父親の殺害計画となにか関係があるようには思えないが。」
とにかく天羽に連絡を取りたい、武藤の安否は勿論だが先程から外の様子が明らかにおかしい。
俺が外の様子を確認しようと窓を開けようとすると武藤から連絡がきた。
「武藤か!お前無事だったんだな、天羽はもう着いたのか?」
「ああ、お陰で命拾いしたぜ。今は蜂の群れから隠れて連絡してる、お前も外には出んなよ!刺されたら意識乗っ取られるぞ!」
「蜂だぁ?」
窓の外を見てみるとグロテスクな程大量の蜂が窓を埋め尽くしていた。
「これはSAN値チェックものだな。」
下手すりゃ換気口から侵入される恐れもあるな、気休めにしかならんだろうがガムテープで隙間を塞いでいる間に武藤と情報の共有を行う。
「とにかく、そっちに護衛対象の咲羅さんがいるんだな?」
「もう姿は確認できないがな、あの奇っ怪な桜の木が咲羅さんを呑み込むのが見えた。そのすぐ後に蜂の群れが暴れだしたような気がする。負傷者も多いがあの化け桜(仮)は天羽さんが一人で抑えてる、なんならあのまま倒せそうだぞ。というか、負傷者の殆どが天羽さんに倒された奴等だ。」
だろうな、前に一度何で分銅鎖なんて扱いづらい武器を選んだのか本人に聞いたら手刀での峰打ちが難しいとか訳のわからん答えを返されたくらいだ。あいつの自動反撃(オートカウンター)は不意打ちにも有効らしいが自衛に特化している為か死角や意識外の攻撃に対しては加減が出来ずに致命傷を与えてしまう事があると言ってたからな、そいつらもその餌食になったんだろう。
「あまり余裕がないから要点だけ言うぞ。おそらく咲羅さんの狙いは父親の木屑さんの命だ。お前の話では咲羅さんに蜂を操る能力も備わっている可能性があるが、このままだと換気口や部屋の隙間からいつ蜂が入ってきてもおかしくない状況だ。流石に木屑さんを守りながらこの数の蜂を捌くのは無理だ、そっちが片付いてもまだ蜂が襲ってきたなら最悪の場合、咲羅さんとは別に蜂使いがいる事になる、気をつけろよ。あぁ後、天羽がやり過ぎないように見張っといてくれ。」
「最後のはともかく、他に怪しい動きをしている奴がいたら連絡するぜ。そっちに長澤っていう警備員が防護服を着て蜂の駆除に向かったからそれまで気合いで耐えやがれ。俺も動かせる車を見つけ次第負傷者の回収に向かう、ところで車輌科に借りた装甲車の修理費用なんだが…」
俺は無線を切って木屑さんの拘束を解いた、彼もある程度は自分の身を守れる筈だ。
「もう暫くしたら警備の人が駆けつけてきますから、それまで持ちこたえましょう。」
カーテンを切って換気口の隙間に詰めたり、肌を覆っていれば少しはましだろう。虫除けスプレーだけじゃ心許ないからな。そうこうしているうちに扉に人影が見えた、武藤の言っていた長澤さんか?それを確認する為に近づくと人影は扉を蹴破って入ってきたと同時に刀を振り下ろしてきた。
俺は咄嗟に後ろに飛び退きベレッタを構えると、そこには中太刀を片手で突きだした状態で構える武骨な容姿をした男が立っていた。
「何者だ、警備の人間じゃあないな。」
身に纏うボロから見える肌には幾重にも切り傷がついており、刀の切っ先に揺れが見られないことから相当の達人であることは明らかだ。
「ふん、御主もしや遠山の血筋か?」
「よもや、此度の代で合間見える事になろうとはな。」
「我が名は遠山 景善、訳あって木屑殿の命をいただきに参った。」
俺と名字一緒かよ、相手が何者にせよ木屑さんの命を狙っているのなら戦闘は避けられない。先手必勝、相手の間合いに入らない内に制圧する。俺がベレッタの引き金を引き銃弾を発射する。
「あんた一人に構っている余裕はない。暫く眠って貰う。」
手足、両肩に一発ずつ撃った弾丸はしかし相手に当たる事はなく。まるで渦潮に呑まれるように奴の構えた中太刀に吸い込まれ切り伏せられた。
「眠るのは御主の方だったな、小僧。」
驚く間もなく、景善は俺との間合いをつめて刀を振り上げる…
「やはり、返對しなければその程度か…少しは期待したんだが。」
それを最後に俺の意識は絶たれた。