Sランク武偵 天羽斬々   作:遊び人の旅行記

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琉球空手を使う奴は大抵化け物(黒木視点)

嘗て一度は殺しあった知己から連絡が届いたのは、私が強さを求める旅から戻ってきて数日が経った頃だった。

 

私は拳の求道に明け暮れ、徒手に置いて自分に勝る者との闘いを望んでいた。

 

しかし、その旅で得られたものは、もはや自分を越える拳士はいないのではないかという不安とそこから生まれる孤独感だけだった。

 

今や強さを求める者は銃や刃物、爆弾等の武器に頼り自らの身体を鍛えることを蔑ろにする傾向にあった。

 

武器に頼るのは間違いではない、それらに頼る者が弱いという訳では決してない。

 

それらの武器を使うのは人であり、使い方を決めるのもまた人である、それ故にその強さを決定づけるのは己自身の強さだ。

 

弱い者が武器をとっても弱い奴は弱いのだ、事実武器を持って強かった金叉は素手でも強かった。

 

仕事で武偵と殺り合うことも多かったが彼等は拳銃やナイフ等を武術として取り込んだアル=カタなるものを使う、金叉の奴は義理の娘に怪腕流をアル=カタに組み込ませるつもりで、この黒木に預けるつもりのようだが、我が怪腕流は凡そ常人がおいそれと身に付けられる代物ではない、それに私はまだ求道中の身であり他者を教え導くだけの余裕などはない、娘には悪いが適当にあしらい帰ってもらうことにした。

 

だが、道場にやってきたその娘は挨拶を済ませるや否やとっとと先ほど修練で割れた壺を片付け初め、私が弟子は取らないと突き放してもまるで聞こえていないように、たちまち道場の掃除やこの黒木の身の回りの世話をしだすのだから、たまったものではなかった。

 

無理な修行を積ませて無理やり追い出そうと

 

「庭で三戦の型を私が良いと言うまで続けることができるなら認めてやろう、途中で倒れたり型が崩れたらもうお前には何も教えない。」

 

と言って、炎天下のなか数日にわたり放置しても彼女は諦めなかった。

 

途中に型が崩れていると言って水を掛けても、もう何も教えないと怒鳴っても、彼女は諦める素振りを見せなかった。

 

そんな彼女に私も根負けして型の指導くらいならばと、面倒を見る事にした。

 

これ程の忍耐力があれば、わざわざ私の道場などに来なくとも充分に強くなれるだろうに。

 

当初はそう考えていた私だったが、彼女、天羽斬々の才能を視て考えを改めた。

 

あれは、100年に一人の天才だ。

 

私が教えた全ての技を瞬く間に吸収する為、あとは試合や実戦を積ませるしか教えられることがなかった。

 

私との組み手でも最初は寸止めで済ませるつもりだったが、彼女は化身刀(タケミカヅチ)のせいで軽い打撃程度では回避する素振りを見せない、これではその身体を撃ち抜くだけの技を持った強者を相手にする際に致命的な弱点になる。

 

私は彼女の脇腹に「魔槍」を撃ち込み、その悪癖を正そうとした。

 

例え入院することになっても彼女が武偵に成るならば、この弱点だけは潰しておかなければ命をおとしかねないからだ。

 

しかし、その心配は杞憂に終わった。

 

彼女は私が「魔槍」を放とうとしたその直前には既に回避行動に移っていた、まるで最初からこの黒木の魔槍だけを警戒していたように。

 

金叉にすら私の「魔槍」のことは話していない、これを体得したのは私が旅にでた直後だ。

 

これを喰らい生き延びた者はいない、故に彼女が知っている筈がないのだ。

 

私はもう一度それを確かめる為に彼女の鳩尾に「足による魔槍」を撃ち込もうとした、今度は死んでも可笑しくない威力で、そうして疑問は確信に変わった。

 

彼女は私が見せた大きな攻撃の隙すら無視して大きく回避行動をとっていたのだ、彼女は受けても問題の無い攻撃と致命傷になりうる攻撃を完全に見切っている。

 

それは我が怪腕流に置いて「無道」と呼ぶ見切りの究極、先の先に他ならない。

 

世の中には遥か先の未来を直感と推理で予測する「条理予知」なるものも実在すると、まことしやかに噂されていたが。

 

この域に至った私ならばそれは可能であると断言できる。

 

私とて戦闘においてしか少し先の未来は予測できないが確かにそれは予知に匹敵すると自負している。

 

これはオカルト等ではない、経験から来る予測と戦士としての研ぎ澄まされた直感が掛け合わされば、例え相手が気配を飛ばせる程のフェイントの達人でも惑わされる事はない。

 

そして彼女は既にそれを習得し、その精度と深さは既に私を上回っている。

 

それは、私に悔しさと同時に悦びを与えてくれた。

 

 

「無道」は未だ完成に至っていない、それはこの黒木もいまだ成長途中であることの証明に等しかったからだ。

 

長く険しい武の頂きへの道は、それでも決して孤独へ通じる道ではないと彼女が証明してくれたような気さえした。

 

「まさか、10年以上離れた少女に励まされるとはな。」

 

「天羽斬々、その道を、、共に歩めるだけの強さを持った仲間に恵まれることを願う。」

 

果ての無い道に、光を見出だした男の話しだ。

 

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