仮想の歌創想 作:月と風
夢ならばどれ程良かったでしょう。
「楓!楓!目を覚ませよ!まだ何もしていないだろ!」
楓が微笑んでいるような気がした。
僕等は結婚した。
「新婚旅行どこに行く?楓」
「そうね...オーストラリアとかどう?健吾も言ったことないっていってたし」
「そうだね。そこにしよう!」
オーストラリアでは色んな物をみた。
ゴールドコーストの美しい海や日の出。
威圧感を伴って立っていたウルル。
ただ一つだけ玉に傷だったのが、
お土産だった。
オーストラリアで僕はお守りをかった。
彼女は、外国に来て、日本の物を買うなんて、と反対したが、僕はそのまま買った。
そのあと楓と喧嘩になり、楓はお守りをゴミ箱に捨ててしまった。
それ以外は楽しいことばかりだった。
帰ってきてからも思い出話は尽きなかった。
でも、そこに悪夢が襲った。
突然彼女が倒れたのだ。
病院に搬送され、入院した。
診断結果は、大腸がんだった。ステージⅣ。既に転移が進んでおり、余命は一年半との宣告を受けた。
僕は目の前が真っ暗になった。
嘘だ。そんなはずはない。
何度そう思ったことか。
入院を続け、抗がん剤治療をすることに決めた楓は、
「頑張って治して、健吾とまた旅行にいかなくちゃ。」
と微笑んだ。
そんな彼女は、自分の余命を知っていたのだろうか。
少なくとも、僕はそれを言う勇気などなかった。
抗がん剤治療の合間に、楓は僕と散歩に出ていた。
抗がん剤は副作用が厳しい。
ほんの数週間前まであんなに元気だったのに、
散歩に出ると、すぐ頭痛や手足の痺れを訴えて、休むようになってしまった。
そして、楓はだんだんと苛立ちを隠せなくなっていった。
今は、彼女の気持ちがとてもよくわかる。
だんだんと死が近づいてくる恐怖。
思うように動かない自分の手足に対する不満。
でも、あの時の僕は、彼女の苦しみに気づけずにいた。
あんなにも近くにいたのに。
それから僕と彼女はぶつかり合うことが多くなった。
些細な事で喧嘩をし、彼女はそのたびに悲しそうな目をした。
僕は次第に引きこもるようになった。
これ以上病院に毎日通って彼女を傷つけるくらいならいっそ、と包丁で自分を刺そうとしたこともあった。
でも僕には勇気がなかった。余命宣告を告げることが出来なかったように。
病院に通わなくなって一年と3ヶ月。
僕はその間ずっと引きこもり、悶々とし、自分を責め、何回も自殺を考えた。
でもできなかった。
ある朝、メールの受信音が響いた。
メールを見ると、楓からだった。
病院に来て、と。
僕は怖かった。楓をまた傷つけてしまうのではないかと。
でも。僕は同時に断る勇気もなかった。
僕は重い腰をあげ病院にいった。
彼女は一年前と変わらずベッドの中にいた。
でも、彼女は前よりもっと苦しそうで、
少し話すとすぐ息切れをしてしまった。
そんな中、彼女は告げた。
余命が後2ヶ月だと言うこと。
このまま治療を続けても意味がないので、緩和ケアをする、ということ。
僕は言葉がでなかった。
緩和ケアに行くと言うことは、治療をやめると言うことを意味する。
僕はダメだ、と止めた。怖かった。楓が死んでしまって、僕が一人になってしまうことが。
でもベッドの中の楓は微笑んだ。
そして、
「回答を用意しなくていいんだよ」
と。
僕はその意味がわからぬまま、楓との面会を終えた。
家に帰ってから僕は楓が言った言葉をずっと考え続けた。
そして、一つの結論にたどり着いた。
僕は、楓の悩みを自分で解決しようと必死だった。
でも、楓は、ただ、聞いてほしかっただけだったのだと。
その日から僕は、また楓のところに通うようになった。
楓は、始めこそ動揺はあったものの、時間がたつにつれ、いつもにまして、周りの人をいたわるようになった。そんな日々は楽しかった。
でも、時間は待ってはくれない。
家に帰って、夜ご飯を食べていると、病院から電話がかかってきた。
楓は危篤状態にあった。
僕は急ぎに急いで病院に駆けつけた。
楓はベッドの上に変わらずいた。
でも、人工呼吸機を着けた楓はとても苦しそうだった。
「大丈夫か?楓」
楓は腕を必死に動かして、僕に何かを手渡した。
お守りだった。
オーストラリアで買ったお守り。
「楓...何で...」
僕はお守りを見つめた。
楓は人工呼吸機の中で笑い泣きをしていた。
僕も泣いた。楓の事をしっかり支えられなかった自分、楓を傷つけてしまった自分を悔やんで。
そのあと楓は、僕にてを握られながら息を引き取った。
僕は信じられなかった。楓が、楓が死ぬなんて。
楓、と何度も呼び掛けた。いまにも目が覚めて僕に笑いかけるんじゃないかと思った。
でも、楓は起きてこなかった。
楓が死んでからもう2日。
楓は夢に出てきて、僕に微笑む。
僕はいまだに彼女にさわれないでいた。
楓が死んでしまったことを受け入れられずにいた。
僕は病院にいた。
目の前には変わらずベッドに横たわる楓。
でも、そのからだはもう生きておらず、何かを感じることもできない。
僕は覚悟を決めて、そっと手を伸ばした。
楓はまだ少し温もりがあった。
「楓! 楓! 何で死んだんだよ!まだ何も...何もしてないんだよ!新婚旅行したばっかだよ!目を覚ましてよ!楓!」
僕は涙が止まらなかった。楓の温もりがある頬か、手がはなせなかった。
葬儀の手続きが始まって、悲しみを感じる暇もなかった。
でも、葬儀の日。壇上に飾られていたのは、楓との結婚式の写真だった。
楓がいなくなってしまったことが、ストンと胸に落ち、僕はまた泣いた。
葬儀も終わり、僕は彼女の遺影を見ていた。
もう、どんなに怒っても、文句を言っても、彼女はひたすら笑っている。
見る景色全てに楓との思い出があるようで、怖かった。
そんな中、僕はお守りを取り出した。
しばらくお守りを見ていると、下の方に切れ込みがあるのに気がついた。
中にあったのは、小さな紙片だった。
―健吾の嘘つき。でもこれが貴方に送る最後のラブレターよ。落ち込んだ貴方を助けてくれる誰かが私の代わりになるはず。じゃあね。また遺影の中で。―
と。
僕は泣き崩れた。
「お前の代わりになるやつなんていないんだよ!僕はお前が好きだったってのに...」
今は切られたハート。
また誰かが埋めてくれることを願っている。
でも、
今でも貴方は私の光。
米津玄師さんのLemonからでした。
唐突に思い付いて書きました。
まぁベタな展開になってしまったような気もしますが...
これからも思い付いたら書いていきます。
書いてみて欲しい歌手を教えてください。書ける範囲で書きます。
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