『47、今機内よね?シドニーに向かってもらってると思うのだけれど、緊急事態が発生したため行き先をバージニア州リッチモンドに変更するわ。』
『リッチモンドには我がICAの情報管理施設“セクター14”があるわ。浄水場施設に偽装されているのだけれど、今現在その施設が所属不明勢力によって襲撃を受けているわ。リッチモンド市街全域が現在停電中で、正確な情報把握が出来ない状況にある。』
『セクター14には最高機密レベルである“クラスA”の書類も多数存在していて、それらが奪取されたら、最悪の場合核戦争に匹敵する大惨事を引き起こしかねないわ。』
『上級委員会はICAの総力を持ってこれを撃滅する決定を下したわ。ブルーとシルバーとキュラソーは別世界で任務中だから間に合わないけれど、タバサがモスクワで活動中だったから急遽呼び寄せたわ。共同で敵性勢力を殲滅して頂戴。』
『準備は一任するわ。』
~準備~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・メンバー
【エージェント47】・【エージェント66】
・装備
【シルバーボーラー、TAC-4 AR Auto】・【愛用魔導杖、Enram HV】
・服装
【愛用スーツ】・【魔法学院制服】
『そろそろリッチモンド上空ね。』
『リッチモンド国際空港は停電の影響なのか管制塔が応答しないわ。もしかしたら敵勢力に制圧されている可能性もある。悪いけれどHALO降下で行ってもらうわ。』
『タバサは一足先に別の機から降下したわ。下で合流して頂戴。合流したあとは浄水場の北部にある地下への入口から内部に侵入、敵を殲滅して頂戴。』
『敵性勢力が何者であろうとも、ICA施設を狙った攻撃であるのは明らかよ。実際、南側の浄水施設には一切手を付けておらず、非常用発電機も破壊していないため断水もしていない。ICAを狙う者は何人たりとも容赦はしない。敵性勢力は所属する組織自体が抹殺対象になるわ。たとえそれが合衆国軍であろうともね。』
『幸運を祈っているわ。慎重にね。』
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「後部ハッチ開放。降下30秒前。」
「“鳥になってこい”とでも言ったほうが良いですか?」
「いや結構。」
HALO降下は久々だ。ケベックの訓練施設で訓練を受けたが、実際に任務で使用するのはこれが初めてだ。エージェント訓練過程の一つに入っているのでタバサもこなしたのだろうが、タバサの場合は魔法を使えばパラシュートすらいらなそうだ。
「降下10秒前。」
「幸運を祈ります。」
「・・・ああ。エージェント47、降下する。」
私は2人の搭乗員に見守られながら空へと飛び出した。昼間ではあるが幸いにして今日はかなり低い高度に雨雲があり、地上から見られる心配はさほどない。もっとも、こちらも地上目標が確認できないが。そのあたりはGPSと機内からの誘導に頼ることにする。
ほどなくして雲を突き抜け、高度280m地点でパラシュートを開き、ほぼ正確に浄水場の北部の雑木林の横の平地に降り立った。降り立ったあと、雑木林にパラシュートを隠していると人が近づいてくる気配を感じた。見るといつもの長い杖を持ったタバサが居た。
「この周辺は問題ない。150m先の基地建物に敵性勢力あり。数名は既に制圧済み。」
「ご苦労。さすがの仕事の速さだな。」
見るとレビテーションで数名の武装した男を後ろに浮かばせていた。皆一応に頭部または胸部に氷の矢が刺さっている。抜いたり消したりしないのは本人曰く血が流れ出てくるのを防ぐためだそうだ。それでも若干滲んで垂れてはいるが、少量であれば辺り一帯に降る雨が洗い流してくれるだろう。
「建屋への侵入方法が私にはない。」
「その点については問題ない。私が到着したら本部が遠隔で開けることになっている。」
『そのことなのだけれど。47。』
「・・・問題発生か。」
『ええ。正面扉のロックシステムが改竄されている。ハッキングすれば開けられるでしょうけど、少し時間がかかってしまうわ。』
「わかった。一応ハッキングを試みてくれ。我々は別ルートを探す。行くぞ。」
「了解。」
ひとまず建屋を目指し移動を開始する。建屋は地上2階、地下1階の建物に見えるが、内部の隠し通路と昇降機で地下1200mまで降りるとセクター14がある。兎にも角にも内部に入れないことには始まらないので、建屋の周囲をくまなく観察していく。
建屋の後ろには外階段があり、その先には金属製の扉があった。勿論生体認証のロックがされているが、この扉は長らく開けられていないらしく、扉の各所にサビが浮いていた。これならばもしかすると・・・。
「タバサ。この扉を開けるぞ。」
「生体認証パッドに“アンロック”の呪文は効かない。」
「“鍵”を開けようとするな。“扉”を開けろ。」
「・・・!やってみる。だけど大きな音がする可能性がある。」
「さきほどお前が浮かばせて運んでいた死体には通信機がついていた。おそらく定時連絡は行っていたはずだ。その連絡が途絶えた時点で追手が来たと向こうもわかっているだろう。」
「わかった。扉から離れて。」
私は階段の下に移動してそこから見守る。タバサは階段の中腹辺りから呪文を詠唱し始める。
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ…」
“ジャベリン”
ドゴォォン!!
いつもより大きめに形成された氷の矢は見事に鉄製の扉を貫いた。貫徹力も最初の頃に比べて上がっているようだ。ただ予想されたとおり、盛大にあたりに響く大きな音が発生してしまった。雨音でもこの音は消せそうにないだろう。早急に事を済ませる必要があるな。
「よし、急ぐぞ。」
「了解。」
内部には扉の近くで伸びている兵士が一人いた。すかさずシルバーボーラーで眉間を撃ち抜いておく。どうやら我々がここから入ってくるのを見越して警備していたようだ。このような強攻策に出るとは思っていなかったようだが。
『内部に入ったわね。ハッキングが思ったより手間取りそうだったからちょうどよかったわ。』
「内部の情報がほしい。」
『わかってる。こちらから誘導するわね。』
本部の誘導に従って内部を進んでいく。とある部屋の本棚の奥に隠されたスイッチを押して隠し扉を開け、内部にある昇降機に乗り込んだ。
「タバサ。敵は昇降機が動き出したことを察知しているはずだ。扉が空いた瞬間に銃撃を受ける可能性が高い。到着と同時に扉ごと吹きとばせ。」
「わかった。詠唱を開始しておく。」
昇降機は結構なスピードで降りていく。5分ほど降りたあと、昇降機の動きがゆっくりになり始めた。そろそろ到着だ。
「ラグーズ・ウォータル・デル・ウィンデ…」
ゴゥゥン・・・チーン!
“アイス・ストーム”
ドゴォォォォン!!!
「撃t…うわああ!!」
ギャーワーワー
案の定、扉の前で出待ちをしている敵部隊がいたようだ。私は扉の横のスペースでアイス・ストームを躱しつつ、収まったところで扉の向こう側に向けてシルバーボーラーで一人ひとり頭を撃ち抜いていく。相手が前線にしようとした即席バリケードを逆に利用して前に出る。魔法を撃ち終わったタバサも直ぐさまバリケードに張り付く。・・・っと、バリケードの横で転がっている兵士の死体には閃光手榴弾が腰の部分にくくりつけられていた。拝借しておこう。
タバサのウィンディ・アイシクルで近場の敵を。私のTAC-4で遠目の敵を各個狙撃して排除していく。10分もすると最初の通路はあらかた制圧できた。最初のアイス・ストームでだいぶ混乱していたようだったから制圧が思いの外うまく行った。転がる死体を見て気がついたことをタバサに伝える。
「タバサ。この兵士たちは全員腰に閃光手榴弾を携帯している。利用しろ。」
「了解。こちら側の部屋の制圧は任せて。」
「では私はこちら側を。行動開始。」
2人同時に通路の左右の部屋の扉の中を攻撃していく。私は閃光手榴弾を投げ入れて混乱したところをTAC-4で撃ち抜いていく。1つの部屋には2~3人が居ることがほとんどだが、偶に10人以上の大人数が大部屋に居ることがあった。そういう場合は相手を物陰に隠れさせてからその場所に向かって手榴弾を投擲するだけだ。
タバサの方はと言うと、扉をエアハンマーでぶち破り、内部をカッタートルネードで内部の調度品もろとも全てを切り刻んでいる。度重なる任務で“スクウェア”に再昇格できたと言っていたが、これがそのスクウェアとやらの力なのかもしれない。偶にこちらの方にまで敵の死体を放り投げてくるのは、少なからず驚くので控えてほしいところだが。あの様子だと閃光手榴弾はいらなそうだ。
そうしてすべての部屋をくまなく制圧したあと、最後にサーバールームである一番奥の部屋にたどり着いた。デンバーにあったサイト21もそうだったが、ICAはサーバー関連施設は一番奥に設置することが義務付けられているようだ。私は反対側のタバサに目配せをして慎重に扉を開ける。
バァン!キンッ!
「っと。」
「内部でこちらを見ていると思われる。」
「じゃあこいつの出番か。」
私は閃光手榴弾を内部に投げ入れる。
シュッ
バァン!バシュン!
「ぐっ!」
閃光手榴弾が迎撃されてしまった。相手はどうやら結構な手練のようだな。だがこれまでの兵士たちの対応や装備を見る限りこの世界の人間だ。そういう人間たちにはタバサの魔法がこの上なく効果を発揮する。
「仕方ない。タバサ。」
「わかった。」
「イル・ウォータル・スレイプ・クラウディ…」
“スリープ・クラウド”
スリープクラウド、化学防護服を着ていても貫通するエアロゾル化された睡眠薬だ。防ぐにはICA技術部の作った特殊防毒マスクが要る。彼らに防ぐ手立ては無いと言っていい。案の定中では少しの間があったあと、人が次々と倒れる音がした。倒れる音がしなくなったあと、タバサのスリープクラウドを解き、内部に慎重に侵入を試みる。
内部には床に置かれたサーバーの上に覆いかぶさったりもたれかかるようにして眠っている敵兵が10人は居た。一人ひとりをくまなく見ていき、その一番奥に居た男の肩に大尉の階級章を見つけた。私はそれ以外の9人の眉間を撃ち抜いたあと、男が起きるのを待った。タバサ曰く、即座に起こすことは出来ないらしく、本来数時間は眠っているものを数分に短縮するくらいしか出来ないらしい。意外なところで不便なものだ。
「うっ・・・ううん・・・」
「気がついた。」
「・・・。」
「うぐ・・・私は何を・・・。」
「目が覚めたか。」
「な!?こ、ここは・・・手が縛られ・・・!」
「お前がリーダーだな。誰に雇われた。」
「・・・誰が言うか。」
「ふむ。」
パシュン
「ぐあああああ!!!」
「早く言ったほうが良いと思うぞ。次は左足だな。」
「うぐぐぐ・・・・。」
「タバサ。お前がやってみるか?」
「・・・。」
タバサは男の前に立つと無言で股間を全力で踏みつけた。
ガッ
「ぎゃあああああ!!!」
「早く言って。」
「く・・・くっそお・・・。」
「・・・。」
ガッ
「ぐわあああ!!」
「早く。」
「ぐうう・・・。」
タバサは何故か執拗に男の股間を足蹴にしている。踏みつけ、蹴り飛ばし、杖先での刺突。確かに男性への拷問の場合そこを狙うのは常套手段ではあるのだが・・・。その顔はいつもの無表情から愉悦が混じった顔になっている。訓練施設でどんな方法を習ったのか・・・。
「わ、わかった・・・言うから・・・言うからもうやめてくれ・・・。」
「早く。」
「め、メールだよ。」
「メール?」
「メールで依頼されたんだよ。ここに施設があって、そこから文書を奪取してくれって・・・。」
「そんな訳のわからないものに応じたのか?」
「最初はいたずらだと思ったさ。でもその後すぐにうちの構成員の一人の生首が宅配で送られてきてよぉ・・・。」
「・・・。」
「それで、依頼主は。」
「わからねえ。L,Kとしか書いてなかった。」
「L,K・・・それだけか?」
「それだけだよ!嘘じゃねえ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『L,K・・・イニシャルかもしれないわね。調べて見ないことには始まらない。とりあえずその施設の奪還作戦を完了して頂戴。』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「わかった。」
「ほっ・・・。頼むよ、言ったんだから助けてくれ・・・。」
「タバサ。」
「ん。」
「やれ。」
「了解。」
“ウィンディ・アイシクル”
脳天に氷の刃が刺さった男を尻目に部屋を出る。そのまま他の部屋も再度確認し、息がある兵士にとどめを刺していきつつ、我々は昇降機に乗って施設を出た。
~~1週間後~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『47、あの施設に居た男の自宅や組織の事務所をくまなく捜索した結果、たしかにL,Kという人物からメールと小包が届いていることが確認できたわ。』
「それで、L,Kという人物が誰なのかわかったのか?」
『それが・・・。』
「・・・?どうした。」
『発信元をたどったら意外にあっさり住所が割れたのだけれど、L,Kという人物は本名“リアン・カーキンス”という名前であることがわかったの。』
「リアン・カーキンス・・・。まさか・・・。」
『そう。あのドナルド・カーキンスの娘。あなたが水酸化ナトリウムの海に沈めたあの娘よ。』
「どういうことだ?誰かが偽造しているということか?」
『発信元はこちらもあなたが襲撃したドナルド・カーキンスの自宅。でもあそこは既にICAが買い取って更地にした。もう訳がわからないわ・・・。』
「その発信元情報はあっているのか?」
『あってるわよ。でもたどってみるとその地域の中継局がその家の番地の回線から発信された情報というところまでしかつかめなかったの。何もない更地からメールが送られてきたのよ。』
「番地の電話回線を現地でつなげて使用したという可能性は。」
『無いわ。そもそも電話回線は更地にした時に解約しているし、物理的な回線も他につながっている家がなかったのもあって電信柱ごと撤去されてる。』
「ならば・・・、一体どうやって・・・。」
~~ミッションコンプリート~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・「裏口入社」
【+1000】『正面扉を通らずに施設に侵入する。』
・「閉所恐怖症」
【+1000】『昇降機の扉を破壊する。』
・「Tシャツで十分!」
【+3000】『銃弾を一度も食らうこと無く任務を完遂する。』
・「そして誰もいなくなった」
【+3000】『敵性勢力を完全無力化する。』
参考にした浄水場は実際にあるものですが、勿論浄水施設しか無く、暗殺組織のサーバー施設なんてどこにもありませんのであしからず。
次回はカウンセリングを受けに行きます。