ナノマシン戦争 終結
宇宙に浮かぶコロニー群の一つ、サイド4。彼らは独立戦争を行った。戦力比は1:100とも言われる新連邦軍に勝ち進んだ背景には、軍事用ナノマシンの力があった。もともと医療用として開発されたナノマシンを武器に転用し、もはやMSの時代は終わりとも言われた。だが、圧倒的物量差によって辛くも勝利を収めた新地球連邦政府は、サイド4を含める全てのサイドと”ロンドン条約”を締結。軍事用ナノマシンの使用を禁止した。だが、新連邦の疲弊は大きく、数々の新興勢力を生んでしまう結果となった。
そしてA.S.189年、月面グラナダを中心とした神聖ムーンライト王国が誕生。他サイド群も次々と独立し、次第に新連邦の権力は弱くなっていった。
ついにA.S.200年、新連邦とムーンライト王国の間に戦争が勃発。泥沼に陥ったまま、3年が経過した…
機動戦士ガンダムΘ
―A.S.203、サイド9、アルカディアコロニ──
「さて、それでは復習をしよう。U.C.0079年、この年には何があった?」
高校に入って数か月。未だに宇宙世紀の歴史をやっているのだからたまったものではない。こんなのは小学校でもやってるよ。そう思いつつ本のページをめくる。昔はスマホってやつがあったらしいけど、粒子が飛び交う今では夢のまた夢だ。
「いないようだね。では、イオ・サイレル君」
「は、はい!」
急に当てられ戸惑う。
「えーっと、1年戦争です」
「よろしい。この戦争以来、人間が初めて戦争をやめたのは……」
眠すぎる。昔の高校生もこんな感じだったんだろうか。そう思いつつ、彼は眠りに落ちていった。
「おい、起きろって。部活始まるぜ」
「ふぇ?」
目の前には親友のトリス。周りにはクスクス笑う女子に、なんで起こしたんだよーとトリスの肩を叩く男子……
寝てしまったようだ。時計を見るとすでに16時になっていた。
「だいたい、お前は寝すぎなんだよ。タナカ先生の時、いっつも寝てるぜ」
「仕方ないだろ、あの先生退屈なんだから」
「ま、気持ちはわからんでもないけど……」
顔をしかめるトリス。
「とにかく、急ごうぜ。遅刻!」
僕はプチモビルスーツ部に入っている。BB弾の銃を取り付けて格闘する、ちょっとした戦闘みたいな部だ。ここのプチモビ部は強く、サイド9大会で何度も優勝したことがある。同じくサイド9大会での優勝経験を持つ僕がここを目指したのも、そういう理由だ。
「サイレル君、マカスキー君。あなた達は何回遅刻する気ですか? 実績のあるサイレル君はまだしも、マカスキー君。次遅刻したら、退部させますからね!」
「えーっ!」
怒鳴られるトリス。退部の心配がない僕はというと、高みの見物だ。
「イオ! こっち来て整備! あと8分でCチームと対戦だよ!」
怒鳴っているのはアンサ・ヒューメイソン。幼馴染で、世話焼き。この部は6つのチームに分かれていて、よく練習試合をやる。整備も自分でやるので、遅刻は結構痛手だったりする。整備不良は、試合の敵だ。
「もうイオったら、昔っから時間にだらしないんだから……とっととやりなさい!」
「へいへい、わかりましたー」
この部の中では自分が一番強い自信はある。
「Bチームイオ・サイレル。Cチームケルチ・ヤマモト。はじめ!」
相手は2年だが、自分よりは格下。勝てる!
散弾銃を使い、弾幕を形成するケルチ。シールドで強行突破!
「突破とはやるぅ、だが甘い!」
ソードを構えるケルチ機。そのまま突破する!
「……見えた!」
わずかに左に傾ける。右腕は切断されたが、シールド内のマシンガンで相手を狙う!
-YOU DESTROIED MISSION COMPRETE-
モニターに表示されるケルチ機を眺め、ため息をつく。流石は去年の準優勝者、今まで自分の機体に傷をつけたものなどいなかった。
「やるねぇ、君。さすがは昨年度中学の部優勝者だぁ」
語尾を伸ばすのがヤマモト先輩の癖。
「君ぃ、将来は軍に入るのぉ?」
「コロニー守護隊に入るか、もしくは
「ムーンライトってぇ選択肢はないのかぁ?」
「僕はあそこは嫌いですよ。14年前に火星を攻撃したでしょ」
「なんだぁ、お前ぇ、火星に家族でもいたのぉ?」
「そういう訳じゃあありませんけど、なんか、こう……」
「おい、イオあれなんとかしろ! ケルチもだ!」
部長が割ってはいってきた。部長の視線の先には半壊したプチモビ。
「じゃ、また明日なぁ」
クレーンで機体をのけるケルチを尻目に、イオは補修を始めた。
機動戦士ガンダムΘ
イオ・サイレル
サイド9出身の少年。16歳。プチモビ部に入っており、何度かサイド9大会での優勝経験もある。
性格は明るいほうだが、問題を自分の中に抱え込んでしまう傾向がある。褐色肌に、黒髪黒目。身長175㎝、体重は60㎏。