東方盗妖伝ーThe New Record   作:ラヴィルズ(元タガモス)

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※この作品は東方Projectの二次創作作品です。(2020/10/08追記)


東方盗妖伝 第二話

 神社の朝は早いらしく、誰かが境内を箒で掃除する音で目が覚めた。おそらくは霊夢だろう、昨日の様子からしてこころが自発的に掃除するとは思えないからだ。

 実際、お腹に何がのし掛かった衝撃で上半身を起こすと、彼女の身体がそこにはあった。

「あ、おはよう盗我。寝起きがいいね」

「……おはよう、ところで人の身体の上で何してんだ?」

「実はさっきここでこけて、起き上がろうとしたところなのだー」

 相変わらず無表情のまま、しかし火男(ひょっとこ)のお面をしてこころは答えた。人の身体に倒れ込んでそんなに愉快か。

「とりあえず、起き上がりたいから退いてくれ」

「はいはーい」

 下手にもがかれることもなく、こころはすぐに退いてくれた。

「昨日はよく寝れた?」

「それなりにな。夢とかを見て、何かを思い出すとかもなかったけどな」

「そっかぁ。そんじゃあ、本格的に昨日生まれたばかりの何かなのかもね」

「いや、1日だけでそう断言はできねぇだろ……つっても、反論できる要素はないけどよぉ」

 たった1日で記憶が───自己のアイデンティティが得られたなら、なにも苦労することなどないだろう。現に意識を獲得して1日を経過しても、俺は今もって『黒崎盗我』という名前しか、自己のアイデンティティとして挙げられるものがない。自分に忘れている過去はあるのか、はたまた今こころの言ったとおり過去なんてない生まれたての何かなのか。たったそれだけのことも不明瞭だ。

「……自分が分からないって、不安?」

「……不安といえば不安だが、不安がってたってしょうがない、とも思うな。何かしねぇと記憶も、アイデンティティも分かるわけねぇんだからな」

「……そっかぁ。ちなみに私のアイデンティティはこの穴空きスカートだから注視しておくがいい」

「誰もそんなこと訊いてねぇよ、てか何だよ穴空きスカートって」

 そんなことをだらだらと話していると、境内の掃除を終えた霊夢の声が響いた。

「こころー、盗我ー、朝ごはん用意したから居間に来なさーい」

 

 

「おはようこころ、それに盗我」

「おはよう、霊夢」

「おはよー」

 ささっと着替えて居間に向かうと、ちゃぶ台に朝食を並べる霊夢の姿があった。ご飯に味噌汁、それからきゅうりの漬け物だろうか。どれも美味しそうだ。

「冷めないうちに食べなさい、漬け物は冷めてるけど」

「それぐらいはわかる、何も知識がないってわけじゃない」

「そういうことで煽るんじゃないぞー霊夢ー」

「煽ってないわよ!とにかく食べるわよ、いただきます」

「「いただきます」」

 そうして朝食に手をつける。やはり美味しい。決して量があるわけではないが、それでも満足だ。

「ところで昨日は確認しそびれたけど、ここが()()()()()()()かわかる?」

「……()()()、合ってるか?」

 [()()()()()()()という霊夢の問いに対して、その言葉は容易に飛び出した。幻想郷───今は忘れ去られたモノたちが流れ着く、妖怪たちの楽園。何故かその事実は知識としてあった。

「おお、当たりじゃん」

「ふむ……それがわかるってことは、幻想郷で生まれた可能性が高いわね。まあ、紫あたりが記憶を弄ってるんなら参考にならないけど」

「……紫?」

「幻想郷の賢者、別名『スキマ妖怪』。幻想郷の結界を護っている、厄介な女よ。たまに外から人間を拐ってくるから、アンタもその内って可能性もあるわけ」

 それでも記憶を弄ってることは少ないから、よっぽどでない限りそういうことはないだろう、と霊夢は続けた。

「つまり盗我の記憶の手掛かりは皆無、ってこと?」

「まあそうなるわねぇ。本人としては、何か手掛かりあるの?」

「……残念ながら、何の手掛かりもない。正直どうすればいいか見当もつかない」

「うーん……これは記憶探しは難航するかもねぇ、手掛かりがないんじゃ探しようがないもの」

「そうか……まぁ、それならそれで地道に探すさ。何かやってる間に思い出すかもしれないからな」

「そう?ならそれで良いけど」

 深入りはしない、と言わんばかりに霊夢は詮索を切り上げた。かわりに今度はこころがある提案をしてきた。

「あ、じゃあ能楽の手伝いしてくれない?」

「能楽……」

「簡単に言えば、舞台の上で演劇するようなものよ。昔は猿楽なんて言ってたらしいわね」

「そ、正解。感情研修も兼ねて博麗神社の広告塔として色々回ってるんだけど、その都度舞台準備から何から全部1人でやってるから大変なんだよねー」

 猿のお面を左右に振りながら、彼女は言う。かなり困っているようだし、それに幻想郷の各地を回るとなれば、何かしら記憶を呼び覚ますこともあるかもしれない。

「やることも思い付かねぇし、そうさせてくれ」

「よっしゃ、これで少し楽できる」

「……まあ、そっちの人手が足りないのはわかるし、肉体労働者がどこに就くかは個人の勝手よね。うんうん、手伝ってあげなさい盗我」

「お前俺に何かさせる気だったのか?」

「朝昼夕の掃除と食事と風呂沸かしと参拝者の案内」

「ほとんど全部の仕事じゃねぇかそれ!?」

「それを私は毎日やってます」

「たまに私も手伝ってることも言ってよねー、ぷんぷん」

 表情筋一つ動かさず、こころは般若のお面を持ち出し抗議する。怒ってるつもりだろうがやってることはとても子どもっぽく、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 

 

「一応今日も回るんだけど、早速手伝ってくれない?」

「ああ、構わないぞ」

「おーい、昨日の黒い奴起きたかー?」

 こころの手伝いをするとなって色々説明されていると、頭上から声が降ってきた。何事かと二人して見上げると、白黒のドレスにつばの広い三角帽を被り、箒に跨がった少女が空を飛んでいた。

「あいつは……」

「霧雨魔理沙、よくここに面見せに来る魔法使いよ」

 朝っぱらから来るのは珍しいわね、と霊夢はやや面倒くさそうに紹介した。ゆっくりと地面に降りつつ、魔理沙はそれに答えた。

「昨日運んでやった奴が無事にしてるか気になったからな。お、もうしっかりお目覚めじゃないか。元気してるか?」

「まあ、ここの二人のおかげでどうにかな。昨日俺のこと運んでくれたんだってな、ありがとう」

「はは、良いってこった。ところで名前はなんつーんだ?」

「俺は黒崎盗我、って名前らしい。それ以外は何も覚えてない」

「ほーん、記憶喪失ってやつか。あいにくその名前には何も思い付かないから、少なくとも私の知り合いではないな」

「そうか……」

「でもまぁ、ちゃんと生きてるようで良かったな。こころのやつ無表情のくせに珍しく明確に焦ってたからな」

「あ!?なんでそのこと言うんだ!」

 疲れて箒に乗せさせただけでなく、俺が倒れたことにあたふたしてたのか。それに関しては仕方ないにしたって、昨日茶碗割ってたし……今も般若のお面振り回して魔理沙に抗議を始めたし……

 もしや秦こころ、いままで思ってたよりポンコツなのではないか?

「はぁ……で、あんた今日は朝っぱらから盗我の様子を見に来ただけ?」

「ハッハッハ、まさか。ちょっとばかし勝負でもしに来たつもりだぜ?昨日得物持ってたからな」

「目覚めて記憶のない相手に弾幕ごっこ仕掛けるの?野蛮じゃない?」

「野蛮とか言うな、一応の考えはある。記憶喪失なんだろ?なら少々危ない目に遭ったら案外すぐ記憶が戻るかもしれないぜ?」

「短絡的ねぇ……そもそも本人が承諾するかどうか……」

「俺は別に構わねぇけど……」

「いいの!?」

 なんだかんだ言って、記憶を取り戻す手段は今まで何もなかったわけだから、こうして方法を提案してくれるのは有難い。

「でも盗我、弾幕ごっこって何かわかるの?」

「なんとなくわかる……気がするだけだな」

「はぁ……簡単に説明すると、技を撃ち合って先に相手をダウンさせるか相手の技を全て攻略した方の勝ちの決闘よ」

「雑すぎないかその説明?」

「なるほど、だいたいわかった」

「わかんのかよ!?」

「まあ、実際にやってみるほうがいいんじゃない?習うより慣れろ、みたいな」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんでしょ」

 悪びれもなく、霊夢は説明を放棄した。

 

 

 とはいえ、何の見本もなく闘わせるのも悪いと思いはするらしく、霊夢から光弾の発射について簡単なレクチャーは受けた。これならある程度やれそうだ。

「そうそう、これがスペルカードね」

「スペルカード?」

 準備を終えて魔理沙と向き合った時、霊夢は真っ白な紙と小筆を渡してきた。

「相手に強力な弾幕を張る攻撃の、宣言の手段だよー」

「攻撃の技名をそこに書くの。で、その技を使う時にそれを宣言するの。ちなみに声を上げる必要はなくて、相手にそれが伝わる方法なら何でもいいわ」

「なるほど……」

 一種の契約書みたいなものだ、と霊夢は付け加えた。

「初めての試合だし、スペルカードはお互い一枚で良いわよね二人とも」

「おうさ!どんと来やがれ!」

「怪我しねぇ程度にはしてくれよ?」

「……善処する!」

「おい今なんで黙った!?」

「まあ気にすんな、加減はしてやるから!」

 笑って魔理沙は誤魔化す。いやあまり笑い事ではないはずなのだが。

「そんじゃ、始めるとすっか!」

 横にした箒に足を掛け、彼女は飛び上がる。虚空から星形の光弾が撃ち出され、いよいよ戦いは始まった。

「ッ……!」

 手加減をするというのは本心なのか、放たれた弾幕は薄い。無理せずかわせるものはかわし、明らかに本体を狙った攻撃は薙刀で捌く。

「はっ!なかなか動けるんじゃねぇの!」

「そりゃどうもッ!」

 回避に余裕が出てきたところで、こちらも光弾を放ってみる。出た。小型のナイフみたいな黒い光弾に、薙刀を振るった跡のような(実際振るったところから発射されてる)[[rb:弓形> ゆみなり]]のもの。それが乱雑に織り混ざって魔理沙へと向かっていく。

「うぉっ、あぶねぇ!」

「おー、手加減有りとはいえけっこういい勝負してない?」

「そうねぇ、基本的に弾幕ごっこで男女差種族差は関係ないから、わりと才能アリなんじゃないかしら」

 縁側からぼそぼそと評価が飛んでくるが、そんなことを気にしている場合ではない。余裕ができたと言ってもあくまで光弾を撃つ暇が少しあるだけで、決定的な攻撃を撃つ余裕はない。

「くっ……」

 弾き逃した光弾が顔を掠める。痛みはそれほどないが、かなり肝が冷える。ごっこと付いても、戦いには変わりないということか。

「そろそろ馴れてきたもんだろ?ならこいつで決めるとしようか!」

 そう呟いて、魔理沙は懐からカードを取り出す。それに応じて弾幕は打ち止めとなり、代わりに七つの魔方陣が彼女の背後に現れた。

「スペルカード……!」

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 宣言と同時に、魔方陣から先ほどのものよりも多くの星形の弾幕が、渦を巻いてばら蒔かれた。

 ───綺麗、そんな感想が思わず漏れる。これが、美しい弾幕を以て相手を制すことが、ごっこ遊びと称される所以なのかは知らない。ただこの攻撃(弾幕)はとても美しいものであると、輝かしいものだと心が叫ぶ。

「喰らっちまいな!」

「───生憎と、俺は負けず嫌いらしい」

 そんな綺麗な攻撃であろうと、自分は負けるつもりはない。いやどうしてか()()()()()()()()、どうしてかそんな確信がある。ならばその確信を現実に証明しよう、自らもこの輝かしいものを描き出そう。作りたてのスペルカードを手に、薙刀を構えて宣言する。

「洞符『盗賊の財宝洞』!」

 背後にサークルを召喚し、宝石の形をした光弾を円を描かせ回転させながら放つ。攻撃を喰らうのはまずいから、今回はひとまず魔理沙の弾幕と対消滅するように発射する。星と宝石が衝突し、キラキラと輝きを放つ。我ながらうまくやってるんじゃなかろうか。

「嗚呼!宝石が!勿体ない!」

「霊夢、あれ弾幕だからね?」

 あれ売ったら相当儲けられそうなのに!と魂から霊夢は叫ぶ。そんなに宝石が好きか霊夢、こころが止めに入ってるレベルじゃねぇか。

「おお!なかなかやるじゃんかよ盗我!」

「そ、そうか?人に言われると恥ずかしいな……」

「いいからさっきの宝石出しなさいな盗我!そして香霖堂とかで売ってきなさい!」

「だからあれは弾幕でしょう?いい加減現実見たら?」

 ちょうどスペルカードの使用時間が切れたのもあって、試合は終了になった。縁側で眺めていた二人も降りてきて、今にも飛び掛かってきそうな霊夢を押さえてこころが話し始めた。

「それで盗我、何か思い出した?」

「……すっかり忘れてた、何も思い出してない」

「あー、そういや危ない目に遭わせたら盗我の記憶が戻るんじゃないか的な考えあっての試合だったなこれは」

「二人とも忘れてたの!?魔理沙はともかく盗我もなのはびっくり」

 おいこらどういう意味だ、と魔理沙は大飛出(おおとびで)のお面をしたこころに突っ掛かるが、どう考えても試合に夢中だった彼女がそれを始めた理由を覚えてるとは思えまい。まあ、俺も覚えてなかったから何も言えないのだが。

「しかし、こうして何もわからないとなると記憶はどうしたものか……」

「それならこころの手伝いがてら、色んな奴とやり合ってみたら?さすがに全員ってわけにもいかないでしょうけど、ある程度は付き合ってくれるでしょ」

「あ、正気に戻った」

「そりゃああんな宝石の大群を見せつけられたら興奮するに決まってるでしょ!?あ、盗我はさっきの忘れなさい」

「お前は記憶喪失の奴が手に入れた貴重な記憶を忘れろと、そう言ってるのかぁ?」

「うわー、ひどーい」

「ぐ……その言い方をされると忘れろと言いにくい……卑怯な!」

「いや、霊夢がバカな姿晒さなきゃいいだけだろ……」

 試合の前とはまるで真逆、ボケ倒す霊夢に魔理沙が(ついでにこころも)冷静に突っ込みを入れている。なんというか、意外と馬鹿ばかりなのかここは……?

「あ、「こいつらバカばっか?」って顔してるー」

「やめろ指摘すんな、てか何でわかる」

「私、自分の表情はあまりないけど他人の表情には聡いぞー、えへん」

 勉強してきた成果だぞー、と何気なくこころはそう言ってのけるが、それってすごいことじゃないか?人の表情見ただけで何考えてるかわかるのって。

「『感情を操る程度の能力』の応用で、こころはそういうの得手にしてきてるの」

「能力……」

「『空を飛ぶ程度の能力』や『魔法を使う程度の能力』とは段違いにヤバい能力だけど、まああれぐらいなら能力無くとも誰だってわかるわな」

「え、そうなのか?」

「だってお前、考えてることがめちゃくちゃ顔に出るタイプみたいだからな」

 明らかに貼り付けた笑顔で、魔理沙と霊夢が向かってくる。そんなわかりやすい表情だったのか

俺、というのはともかく二人とも絶対怒ってるぞこれ。

「アンタ今ので私のことバカって思ったのね、お仕置きが必要かしら?」

「霊夢はともかく私がバカとは、言ってくれるじゃんか盗我」

「言ってはないだろ!?」

「まーまー、二人とも事実なんだから」

 どこが事実だ!と二人は叫ぶ。そこにとどめの一矢が突き刺さる。

「こないだの宴会で二人して二日酔いになって、永遠亭に運ばれたのはバカの所業じゃないの?」

「そ、それは……アハハ……」

「め、珍しいお酒を紫が持ってきてたからつい……」

「ほらー、やっぱりバカじゃん」

「……なんか、こころが一番賢いように見えてきたんだが気のせいか?」

「それは気のせい」

「さすがにない」

「ひどくない!?」

 般若面をもって全力抗議(物理)にこころは出るが、二人に軽くあしらわれる。こういうことするから、やっぱりこころが賢いとは思えない───

「あー、私のこと賢くないって思ってるー!」

「なんでお前はすぐそうやって俺の表情を読み取るんだ!?」

 ───ああでも、こういうバカなことしてる記憶というのも悪くない。色鮮やかだし、何より面白い。

 

 

 ふんふふーん♪『宝物』はここかなー?どこかなー?探していたら地底を抜けちゃったー♪

 なんか人間のいっぱいいるところだけど、こんなところに落としたのかなー?

「ねーねーおにーさん、私の『宝物』知らない?」

「──ん、僕は見てないね」

「そっかー、ありがとねー♪」

「いやいや───あれ、僕は今何を……?」

 ここにはないのかなー?どうなのかなー?

「ねーねーおねーさん、私の『宝物』知らない?」

「──あ、宝物じゃないけど黒服の誰かは居たわ」

「黒服の誰か?そっかー、ありがとねー♪」

「ううん、気にしな───え、私今何を……?」

 そっかー、ここにはないんだねー。別のところに行かないと♪

 どこかなー、どこかなー?

 私の『宝物』はどこかなー?

 

 

第2話 了

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