東方盗妖伝ーThe New Record   作:ラヴィルズ(元タガモス)

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※この作品は東方Projectの二次創作作品です。(2020/10/08追記)


東方盗妖伝 第三話

「……なぁこころ」

「なに?お腹でも空いた?」

「いや昼食はさっき食ったろ、じゃなくて登るの辛くねぇか?」

 現在、俺たちは舞台のセットを持って絶賛登山中である。その山は妖怪の山、名前の通り妖怪の住まう山である。

 なぜこんな苦行をしているのかと言えば、それはこの山頂にある場所に用があるからである。守矢神社、幻想郷の外から移り住んだ神々を祀る神社、そこでこころが能楽を披露することになっている。そのために舞台のセットを俺とこころで分担し、この山の頂上を目指しているのだ。のだが……

「なに、我々の心配してくれてるの?」

「お前はともかく、俺が辛い。どうやら山登りは全然したことなかったみたいだ」

「ああ、そっか……さっき魔理沙ともやり合ってたし、そりゃ疲れてるよね」

 博麗神社で昼食を食べる前、荷物の分担や道具の紹介をしてくれていた時に、霧雨魔理沙は現れた。なんだかんだあって「危険な目に遭ったら記憶が目覚めないか」という考えのもと、彼女と弾幕ごっこをしたが何も記憶は呼び覚まされず、その疲労が今に影響を及ぼしている。

「あまり無理はしないでね、倒れられたら我々が困る」

「さすがに倒れる前にそういうことは言う……てか『我々』って何だよ」

 さっきの『我々』はともかく、今の『我々』は明らかにおかしい。二重人格か何か、なのだろうか。

「あー、うっかり出てた?そうか盗我にはまだ私について言ってなかったよね。そうだ、歩くの辛いって言ってたし、説明がてら休憩しようか」

「説明がいるレベルなのか?休めるなら有難いが……」

 ちょうどいい木陰に腰を降ろし一休み。その間に、こころは自分のことを話し始めた。

「私はね、昔の人が作ったお面が意識を持ったものなの。付喪神、っていうやつ」

「付喪神……」

「そ。秦河勝って人が太子からもらった六十六のお面が、長い時間を掛けて意識を持ったもの、それが秦こころ」

 ときどき『我々』って出るのは、私が六十六のお面の集合体だから、と彼女は言った。太子、というのはやはり聖徳太子のことだろうか。バカっぽいとか色々思ったが、そんな大物が作った面から生まれた付喪神だったのか、こころは。

 真剣なのか狐の面を抱え、こころは続ける。

「最初はすごい静かなものだったらしいけど、最近持ってたお面のうちの一つ『希望の面』をなくしちゃってさ、そのせいで異変起きちゃったんだ」

「お面を失くしただけで、異変を?」

「少しでもお面が欠けたら感情のバランスが崩れて、人々を混乱させてしまうの。ましてや希望を司るお面だよ?そりゃもう大混乱だった。」

 最終的に霊夢や宗教家たちのおかげでどうにか解決できたが、失くしたお面の行方はわからずじまいだったそうだ。

「そのあと色々とあって感情を学んだ方が良いって言われて、只今感情を学んでいる最中ってわけ」

「待った、お面がないと混乱が起こるんだろ?ならなんで欠けてるのに今なんともないんだ?」

「太子が新しく『希望の面』を(こしら)えたんだ。そのおかげでどうにか異変は起きてないの。でも太子のトンデモセンスのせいで見るに堪えないものになっちゃって……それも私が感情を習得したい一因なんだけどね」

「なんだよトンデモセンスって……」

「これ」

 そう言ってこころが取り出したのは、真っ金金でブッサイクな見た目のお面だった。あまりの衝撃的な絵面に、思わず吹き出してしまう。

「ぶっ……はは!なんだこれ!」

「でしょ?これを代わりにって寄越してきたんだよ、ひどくない?」

「ああ、さすがにひどい。これはない」

「だよねー。太子以外みんなそう言う」

 腹立たしいのか、般若のお面を出し彼女は嘆く。今の物言いからして、太子という人物は存命なのだろう。いったいどれくらい生きてるんだ、その太子ってのは。

「まあ、太子がお面作ってなかったら私今ここに居ないから、あまりひどいこと言えないんだけどね」

「……ああ、確かにそうだな」

 その太子って奴には感謝しないといけねぇな、と言うとこころは不思議そうな表情のお面を出した。

「どうして盗我が太子に感謝するの?」

「そいつがお面を作ってなきゃ秦こころは生まれず、昨日お前が俺を見つけてくれることもなく、そのまま野垂れ死んでたかもしれねぇからな」

「なるほど。でも他の誰かが見つけて何処かに担ぎ込んだかもしれないよ?」

「その場合お前に会えねぇことになるから、俺は嫌だな」

 むう、とこころは目から下をお面で覆った。その照れ隠しのようなその動作を見て気づく、これとんでもなく恥ずかしい発言だろ、と。

「あー、その、なんだ。記憶が全く無くて知り合いも少ない中で、誰かが元々いなかったことになるって考えると寂しいからよ、そういうのは嫌だなって……」

「今ので余計恥ずかしくなったわどうしてくれる」

「……すまん」

「いやいや、素直に言ってくれたほうが変な方向に意識飛んでいかないからいいんだけど、そうかこうストレートにそういうこと言われるのも恥ずかしいものなのか。勉強になった」

「何のだよ!?」

「感情の」

 火男のお面で横っ腹を突っついてきながら、こころはそう言った。恥ずかしいことを言われるのは、確かに感情の勉強にはなる……のか?

「それじゃあまぁこれはそういうことにしておいて、そろそろ山登りの続きといこうか」

「え、あ、そ、そうだな」

 相も変わらず表情は同じまま、それでもなんとなくさっきまでよりも柔らかな雰囲気に顔色を変えて、こころは立ち上がった。慌てて荷物を抱え、俺は彼女に続いていった。

 

「つ、着いた……」

「お疲れー」

 なんだかんだで山と階段を登りきった。もうヘトヘトだ、と思わず膝をついた先にあるのは博麗神社と同じ様相をした木造の建築物。どうやらここが守矢神社らしい。

「あら、こころさん……と、どなたですか?」

 ふらり、と声をかけてきたのは緑髪の少女。霊夢に似た服装をしている、ということは……

「ああ、早苗じゃん。こっちはお手伝い」

「博麗神社の居候の黒崎盗我だ。記憶喪失でそれしか覚えてない」

「あらら、それは大変ですね……私は東風谷早苗、ここ守矢神社の巫女をしております」

 よろしくお願いします、と彼女は礼儀よく頭を下げた。もしかしなくても、巫女に相応しいのは霊夢よりも早苗の方じゃないか?

「私のほうが霊夢さんよりと巫女に向いてる?アハハやだなぁそんなこともあるかもしれませんねぇアハハ」

 何も言ってないというのに、早苗は照れ顔でそう言った。

「……俺ってそんな分かりやすい顔してるか?」

「してるしてる、誰でも分かるくらい考えが顔に出てる」

「初対面の私でも分かります」

「あたしでもわかるよ」

「私もー」

 全員に総ツッコミされると、さすがにガックリくる。というか突然現れた二人は何者だ。

「あんたらは?」

「ああ、あたしは八坂神奈子、有り体に言ってここの祭神の一柱さ」

「私は洩矢諏訪子、ここの祭神のもう一柱だよー」

「……つまり、神様二人?」

 そうなのです!と早苗は誇らしげに語る。どうやら彼女らは信仰が薄れた幻想郷の外の世界から、神社ごと移ってきたらしい。

「……神社って、二人も神様を祀れるんだな」

「まあそこらへんは色々あるのさ、どうでもいいことだがね」

「それで貴方はー?」

「俺は黒崎盗我、記憶喪失で博麗神社に居候の身だ」

「今日は私の手伝い兼記憶復元の為の刺激に早苗と手合わせに連れてきたの。あ、手合わせは霊夢の提案ね」

「手合わせ……ですか?」

「記憶喪失の奴を危険に晒すことで刺激を与えたい、といったところか。理由はわかる」

「た、確かに理屈は通ってますが……戦えるんです?」

「魔理沙とは一応弾幕ごっこやりあったよ」

「っていうか戦うこと自体への疑問はないのか……」

「いやあ、下手に理屈考えるより身体動かす方が楽じゃないですか」

 あっはっは、と彼女は笑う。霊夢は金にがめつい女だったが、早苗は脳筋というわけか。まともな思考回路を持った巫女はこの世にいないのか?

「幻想郷では常識に囚われてはいけませんからねぇ、脳筋で何が悪い!」

「せめて良識には囚われてろ」

「んで、早苗との手合わせとこころの演舞はどっちを先にやるんだ?」

「そりゃあこころの演舞でしょー?元々の予定はそっちだけだったからさー」

「俺ももとからそのつもりだ。で、受けてくれるのか?」

「ええもちろん!面白そうですからね!」

「決まりだね。じゃあまずは舞台の準備をしようか、もう人も集まり始めてるし」

 こころが言う通り、境内には既に彼女の能楽を見に来た人々がちらほらと現れていた。聞けば開演予定時刻はものの数分後、話を切り上げて俺たちは準備に取りかかった。

 

「な、何とか予定時刻までに準備は終わりましたが……こころさんは一体どんな能楽を披露されるのでしょう?」

 簡易設置された舞台の袖に潜んだ俺に、同じく潜む早苗はこれから始まる能楽の中身について小声で疑問を挙げた。ちなみに二柱は外で観賞、こころは舞台の上で前説中だ。

「歴史に遺されたものとは異なる、新しい能楽とは聞いていますが……何か聞いていらっしゃいますか?」

「実は俺もよくは聞かされてなくてな……香霖堂?で拾った本からアイデアをもらったらしいが、まあ見てからのお楽しみだとさ」

「なるほど、香霖堂で……こころさん、そういうところにも行くんですね……」

「何か変なのか?」

「いえ、変といいますか何というか……骨董屋とかそういう場所に行くようなイメージがあんまりなかったものですから、少々意外でして……」

「香霖堂って骨董屋だったのか……てっきり本屋かと」

「あそこは本も引っ括めて、幻想郷の外から流れてきたものや使い古された物を売買する場所ですから。ちなみに、本を専門として扱っている店は人里にありますよ」

「そうなのか……」

「春画も置いてますよ」

「聞いてねぇよんなこと」

 ごそごそと話している間に前説も終わり、いよいよ能楽がスタートを切った。

 舞台に立ってもこころの表情は崩れず、ころころ変わる仮面のみでその感情を演じている。使われる仮面と語りからするに、彼女が披露しているのは恋物らしい。しかしどうもこれ、普通の男女交際じゃなさそうである。

「──などと男がいうと、女は言ったのです。『そうだ、今日は入れ換わってデートしましょう。貴方が私の身体を使って、私が貴方の身体を使って。そうすれば私が愉し……いえ、互いをより深く理解し合えるはずです』と──」

「……こころさん、一体どんな本を香霖堂で拾ったんでしょうか……こんなアブノーマルなカップルの話、中々思いつきませんよ?」

「……つまり、あれか?男女の記憶が入れ替わった状態でデートする、って話なのか?」

「はい、おそらくは。しかも女のほうがイジワルする気満々ですよこれ。明らかにこのあと春画な展開する流れですよこれ」

「変なスイッチ入ってねぇかお前」

 興奮する早苗だったが、こころの描く物語は彼女の予想を裏切り笑いとほっこりに富んだ内容が続いた。春画展開を所望していた早苗は、「そんなバカな」とガクッと肩を落として項垂れた。

「──というわけで、男は女に振り回されつつもこれを存外楽しんだのでした、めでたしめでたし。といったところで、此度の公演は締めさせていただきます。笑ってくれてありがとうね、やりがいあったよ」

『面白かったぞー!』『今日も楽しかったよ!』『こころちゃんprpr』ワーワー

「最後のやつはぶちのめされたいのか?」

「ま、真顔でキレてらっしゃる……」

「いや、多分あれ毎回恒例の定型文的なやつなんじゃねぇの?お面もおふざけのやつだし」

「あ、ほんとだ……よく気づきますね」

 そんなこんな、俺がこころに指示されていた補助も簡単だったのもあって、出張能楽守矢神社の部は成功を納めたのであった。

 

「人手が多いっていいね、何でも一人でやる必要がないからちょっと楽な状態で演技ができた。ありがとうね盗我」

「どういたしまして」

 観客・参拝者がまばらになった頃、意外と早くに舞台は片付けられた。

「お疲れ様ですお二人とも。すみません片付けの手伝いをできずに……」

「早苗は巫女の仕事あったんだし、大丈夫だよ」

「そーだよ早苗、巫女のお仕事頑張ってたんだから気負う必要はないよー」

「ま、手合わせするっていうなら片方が疲労しっぱなしってのも、私はどうかとも思うがね」

 早苗に続くようにして、諏訪子と神奈子もやってきた。そういえば手合わせもお願いしてたんだったな……

「私も忘れてましたね……」

「……ほんとすぐ考えてることが顔に出るんだな、俺は」

「何でそこまでバレバレな表情できるの?教えろー」

「お前はお前で考えてることすっごいわかりやすいだろうが」

「はは、微笑ましいもんだね。せっかくだし少し休んでからにするかい?ちょうど菓子屋が串団子を持ってきたんだ」

「十本入りだから一人二本だよー」

「お、いいのかい?」

「元々君への差し入れだし大丈夫さ、そも三人四人で分けたらキリが悪いからね」

 既にお茶も用意したとのことなので、その言葉に甘えることにした。包みから出されたのは、飴色の蜜(名称がわからん)を絡めた四つ刺しの団子───いわゆる『みたらしだんご』というやつだった。見た目でもう美味しそうである。

「いやぁ菓子屋にも見せてやりたいねぇ、その幸せそうな顔」

「まだ食べてもないのに良い顔するねー」

「言われてるよ盗我」

「……あんまりそうジロジロ見られてると恥ずかしい、やめてくれ」

「あはは、それじゃあいただきます」

 やいのやいの言われながら、手に取った団子にありつく。甘くドロッとした蜜がモッチリとした団子に絡んで大変美味であるが、視線を感じまくるおかげでその味に集中できたものではない。

「おっと、邪魔してたかい?」

「いや、邪魔というつもりは……」

「つもりはなくても顔に出てたよー」

「うっ……」

「顔といえば盗我、頬っぺたにたれがついてるよ」

 こころが指摘した通り、左頬に団子のたれがついていた。というか掛かっていたこれはたれか。

「って、それはお前もじゃねぇか」

「あ、ホントだ。拭くもの持ってる?」

「さすがに持ってるわ、それくらいの用意はある」

「……なんだろうねぇ、この幼い兄妹を見ているような感覚は。いや身体は十分大人だが」

「け、兄妹!?カップルとか夫婦ではなく兄妹ですか!?」

「早苗ー、変なところで興奮しないのー」

 ほんと諏訪子の言う通りだ、俺とこころのことで興奮しないでほしい。というか何だ兄妹って、カップルって、夫婦って。俺とこころがそう見えるってのか?

「……思ってることが顔に出てる盗我を見て、ここまで恥ずかしくなったことはない」

「むしろさっきの発言じゃ恥ずかしくなかったってのか?」

「いや恥ずかしかったけどさ、当人にそう思われたらって考えると余計恥ずかしくない?」

「……一理あるな」

 顔をお面で隠すこころを見てそう呟く。何だか、変な気分だ。

「はは、若いっていいねぇ諏訪子」

「だねー、癒されるよねー神奈子」

「なに黄昏ちゃってるんですか神奈子様諏訪子様」

「若いのを自分たちの食い物にするなー、神子に訴えるぞー」

「おっと、そうされるとあれこれ面倒だね。じゃあ君たちで楽しむのはこれくらいにして、そろそろ御前試合としたらどうかな?」

「この調子でやれってのか!?」

 

 そんなこんなもあって落ち着いた後、二柱と一人が眺める中、俺と早苗は向かい合っていた。使用するスペルカードは一枚ずつ、どちらかがギブアップするか両方がスペルカードを使ったら終了、というルールだ。

「初心者だからといって、あんまり手加減するつもりはありませんよ?」

「構わねぇ、むしろ望むところだ」

「盗我、怪我しないようにねー」

 こころが叫ぶ。危ない環境に身を置くつもりではあるが、怪我までするつもりは毛頭ない。スレスレで抑えてやる。

「気合いも充分みたいだねー」

「それじゃあ……そろそろ始めますか!」

「ああ……!」

 その掛け声と同時に、薙刀で空を斬る。軌跡に黒く輝く弓形(ゆみなり)の弾幕を発生させ、再び薙刀を振るい弾を放つ。

「そらよっ!」

「その武器で遠距離も可能ですか……ですが!」

 早苗は一歩も動くことなく、前方に星を描くように弾幕を配置する。こちらが放った弾幕は全弾防がれ、残りが返ってくる。

「その攻撃は通りません!」

 弾を左にかわし、薙刀を足場に高く飛ぶ。そうして今度は手のひらから、ナイフ型の弾幕を左右二方向に弧を描くように放つ。挟み撃ちになった早苗は後ろに下がり、星形の弾幕を返してくる。着地と同時に薙刀を手に取り、当たりそうなものだけ弾いてやる。

「なかなか動けるようですね……ではこれならどうでしょう!」

 そう言うと、彼女は懐からスペルカードを取り出した。

「来るか……!」

「秘術『グレイソーマタージ』発動!」

 早苗の周りを二重に、弾幕が星の形に隊列を作る。最後の一つが整うと、二重の星はそれぞれ五つに分裂し拡散しつつ此方に向かってきた。

「規模の大きい拡散攻撃ってとこか……だったら」

 回避をしつつ、こちらもスペルカードを用意する。

「慈符『優しき盗賊』!」

 自らの前方に弾幕を壁のように発生させる。早苗の弾幕が当たりつつも形は整い、蹴り飛ばすと同時に壁は早苗に向かって直進した。弾幕を弾きながら接近した後、壁は崩壊し拡散弾へと変わった。

「こんな大雑把に対処してくるとは……!」

 向かってくる弾をお払い棒で叩き落としたり蹴り飛ばしたりしつつ、早苗は言う。一方壁がなくなったせいで彼女の攻撃も此方に向かってくる。必要なものは薙刀で弾き、他はどうにかかわす。

「んー、二人ともそこまで。十分動いたと思うよー」

 弾幕が消滅したあたりで諏訪子が制止をかける。確かにスペルカードも使ったし、ここらで終わったほうがよさそうだ。

「けっこういい動きはしていたんじゃないか?」

「お疲れ盗我、怪我してない?」

「ああ、そこは大丈夫だ。ありがとう」

「ふふ、このムーヴやっぱり兄妹なのでは?」

「またそうやって一理もないことを……」

 タオルを持って観客三人は寄ってくる。

「で、肝心の記憶のほうはどうだい?盗我君」

「……全く、収穫なしだ」

「というか、今回ほとんど危ない状況になってないもんね」

「あ……確かに」

「まあまあ、戦闘経験を積んでおくのも無駄なことじゃないさ。たまたま今回は記憶と縁がなかったってことだろう」

「そんな就活失敗のお知らせみたいな縁起の悪いことを、神社でしかも神様が言っちゃうのってどうなんですか神奈子様……」

「んー、言霊的なのは大丈夫なんじゃない?あっても早苗がどうにか出来るし問題ナイナイ」

「簡単に言うなぁこの神様……」

 何にせよ、今日の活動はこれで終わりのようだ。片付けてあった荷物を持ち、鳥居をくぐる。

「それじゃあ、今日はありがとうな」

「ありがとうねー」

「いえいえ、こちらこそ。そういえば、次はどこに向かうかお決まりなのですか?」

 帰り際、早苗がそんなことを聞いてくる。

「あー……どうなんだこころ?」

「んー、特に次どこでやるかとかは決まってないかなぁ」

「でしたら白玉楼に行ってみてはどうでしょうか?あそこの妖夢ちゃん……庭師の子ならほどほどに危険もあっていいと思いますよ」

「なるほどな……行ってもいいか?こころ」

「私は大丈夫だよー、特に予定なんてないし。急に公演を依頼してくる馬鹿とかがいなければの話だけど」

「それはさすがに霊夢がはたき落とす案件だろ……」

「……ふふ、本当に仲がよろしいですね」

 そう笑って早苗は言う。まったく、一体何がおかしいんだが。

「それではまたお元気で。お疲れ様でした!」

「お疲れ様ー、また機会があれば話とか聞かせてねー」

「記憶が戻ったら一報寄越しな、祝儀くらいは出せるからね」

「あ、ああ。またな!」

「今度はどこかに見に来てねー」

 別れの挨拶も済ませ、俺とこころは守矢神社をあとにしたのであった。

 

 カスッ、カスッ、と箒で掃除する音が境内中に響く。しばらく前まではそれが日常だったのに、彼女(こころ)が居付き(盗我)が転がり込んでみたらどうか。少しばかり静寂を取り戻した神社は寂しいもので───

「おーい霊夢、暇してるかー?」

「──ええ、今しがた暇じゃなくなったけどね」

 嗚呼そうだ、いつもこいつは私の静寂を掻き乱す。それが嫌だというわけではないが、たまに節操もなく厄介ごとを持ち込んで来るのだけはやめてほしいのだ。

「で、あんたは何の用?」

「いや、用って訳じゃないが……あの二人はお出かけか?」

「ん、こころと盗我?守矢神社で公演&模擬戦よ」

「ほーん、じゃあそこが今面白いところってわけだな!」

「あんまり邪魔はしないほうが良いわよ、あんた私んとこの者だと思われてんだから、あんたが迷惑ごとを起こしたら博麗神社(私のところ)まで評判落ちるんだから」

「はは、それは確かにまずいな……っと。霊夢、あいつは客か?」

「客ぅ?」

 魔理沙に指摘され、居間に目を向ける。ちゃぶ台に腰掛けている地底の娘の姿が、そこにはあった。

「お?霊夢おはよー」

「おはようじゃないわよ、こいし。なんでアンタここにいるのよ、あといつの間に来てたのよ」

「んー、さっき」

「おいおい、不法侵入されてんじゃないか。ずいぶんと不用心な神社だなぁ」

 うるさい、と心の中で悪態をつきつつ、目の前の少女に質問を続ける。

「はぁ……まあ何時かはいいわ、それより何の用なの?」

「私ね、お宝失くしちゃったんだ。だから探してるの!」

「お宝ぁ?そりゃまたどんな」

「んー、忘れた!でも見つけたら分かる!」

「無茶苦茶だなぁ……そんなんで見つかるのかよ」

「借りパクしてきた本で山積みの家からありもしない自分の本を探すよりも難しいんじゃない?」

「ははは、さすがにあるわ馬鹿」

「誰もあんたのことだなんて言ってないけど?」

「お前がその話題出すときだいたい私じゃねーか、誤魔化されんぞ」

「はいはい。で、自分でも正体がわかりもしないお宝なの?そんなの、博麗神社(ここ)にはないわよ」

「えー、どうしてそんなのわかるのー」

「さあね、でも……そうね、()()()守矢神社にあるんじゃないかしら?」

「守矢神社?わかったー!行ってくるねー!」

 そうはしゃぎながら、こいしは博麗神社から姿を消していった。

「……厄介ごとを他所で起こすのは信用問題になるんじゃないのか?」

「あの子は世間一般だと博麗神社と無縁、よって無傷よ。それに……」

「それに?何だ、本当にあると思って言ったのか?」

「んー、そうね…………強いて言うなら巫女の勘、ってヤツ?」

「勘、勘なぁ……ま、お前のことだから当たってるんだろうが……ん、じゃあ『今なら』ってのは──」

「さあね、気になるなら後をつけててみたら?」

 は?と魔理沙は口にしたが、そんなことに構う暇などない。掃除を中断していたせいでまた木葉が散ってきたのだ。

 

 

 しかしまあ、ずいぶんと大きな厄介ごとを持ち込まれたものだ。

 

第三話 了

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