東方盗妖伝ーThe New Record 作:ラヴィルズ(元タガモス)
「……こんな竹林の中に病院なんてあるのか?」
「ありますよ、そんな『迷ってるんじゃねーの』って表情しないでください」
先頭を歩く射命丸はそう言うが、どう見ても辺りには竹しか見えない。騙しはしてないだろうが、本当にこの道で合ってるのか。
「ふふ、そんなに疑わなくてもいいのよ盗我くん。仮に迷ってても案内人が出てくるし、気楽にしましょう」
「そうは言っても、こいつ文屋だよ幽々子さん。どーせネタ探しに変なこと企んでるに違いない」
「ほんと私に対しての信頼ないですよねこころさん。今日以外私なんかしましたっけ?」
「普段新聞見ないから知らないけど文屋が信用できないのは知ってる」
「あらあら辛辣ね、こころちゃん。情報誌としてはともかく暇潰しと焚き火の薪には丁度良いのよ」
「その評価もなかなかだと思うんだが……」
あらそうかしら、と妖夢を背負う幽々子さんは言う。なんというか、すごく偉い人な雰囲気があるのに優しい人という印象だ。
実際射命丸の話では、彼女は閻魔により冥界に住まう幽霊の管理を命じられた人物であり、死を操る程度の能力を持つのだという。そんな大役を担う人が自分と共に歩いていると考えると、少し畏れ多い気がする。
「そんなに畏れられてるとちょっと寂しいわ、盗我くん。私そんな怖い人じゃないわよ?」
「あ、いや、そういうつもりじゃ」
「ふふ、わかってるわよ。思ったより可愛い反応するのね盗我くん」
慌てて弁解するつもりが、どうやらからかわれていたようだ。意外と茶目っ気のある方、ならしい。
「わかる、盗我こう見えてみたらし団子のタレほっぺたにつけちゃうタイプで可愛いんだよ」
「やめろこころ、その話を出すな」
「へえ、それは興味深いことをお聞きしました。その話詳しく」
「文屋にくれてやる話なんてないよ」
「あらあら、ずいぶんと嫌われてるわねえ文ちゃん」
「おかしいですね……ただお二人が仲良くしてるところをパパラッチしただけだというのに」
「その言葉の中におかしいと思うところはないのか」
などと話していると、突然竹林の間から白髪リボンの少女が飛び出してきた。
「うおっ、ずいぶんと大所帯だなあんたら……って、どうしたんだその傷は」
「え、あ、ああ、ちょっと色々あって……ところであんたは?」
「ん、ああ。私は藤原妹紅、ここいらで道案内してる放浪人、ってところかしら」
「すごい勢いで駆けてましたね妹紅さん。どこか急用でもあったんです?」
「まあそうね。珍しいね文、こんなところにいるなんて。っと、よく見るとそうそうたる面子じゃない。こころに幽々子に……おぶられてるのは妖夢?んで貴方 は?」
「お、俺は黒崎盗我、博麗神社に居候してる……こころの手伝い?」
「普通に同居人でいいじゃん」
「ほー、噂に聞く霊夢んとこの新しい同居人ってのは君か。ほーん……」
まじまじと俺の顔を見つめながら、妹紅と名乗る少女は意味ありげに言う。
「んで、傷だらけでこんなところにいるってのは永遠亭に用ありってことかしら?」
「ええそうよ、訳あってみんな怪我しちゃったのよ。良ければ案内してくれないかしら?」
「貴女なら道くらい知ってるでしょうに、でもまあ良いわ。案内してあげる」
「ありがとう、助かる」
「良かったね文、案内人見つかったし永遠亭行かなくて済むんじゃない?」
「いや行きますよ?私も怪我しましたし。ほんと当たり強いですねこころさん」
ぐだぐだ言う二人も連れ、妹紅は道を歩き始めた。
「はい、ここが永遠亭」
かなりの大きさを誇る日本家屋、目の前に広がるそれを指差し妹紅はそう言った。
「ほんとにこんな立派な病院があるとは……」
「んー?んんー?急患かなー?今日は大勢連れての救急搬送なのかなー妹紅」
開かれていた玄関から姿を現し、声の主はそう尋ねた。背が低くてうさみみがあって……うさみみ?
「まあだいたいそんな感じよ、てゐ。軽傷者三人に意識不明者一人、連れ添い一人が来たわ」
「意識不明?そんな大事があったの?」
「そうなんですよ、いきなり妖夢さんが襲い掛かってきて……まあその妖夢さんが現在意識不明なので何があったかはわからないのですが」
「ふーん……とりあえず入って。何があったかは鈴仙や永琳にしてちょうだい」
そう言い残すとてゐと呼ばれた少女は中に入っていく。誰も容姿にツッコミを入れなかったあたり、幻想郷では普通のことなのだろう。
「普通だよ、吸血鬼とか三つ目女とかいるしあれくらい些細なもんでしょ」
「……魔境かここは」
「ま、少なくとも[[rb:永遠亭> ここ]]は魔境っぽいわね。かつては結界やら何やら張ってたし」
「まじか」
「さて、ここへの案内も終わったし私は用事を済ませてくるわね。中の案内は鈴仙にしてもらってね」
「そ、そうか。ありがとうな妹紅」
「はは、礼を言われるほどのことはしてないわよ。それじゃ、元気にしてたらまた会いましょう」
彼女はそう言うと塀伝いに歩いていった。後ろ姿を見送り中に入ると、奥からうさみみの女性が駆けてきた。
「ちょっと!?てゐから聞いたけど妖夢が意識不明って本当!?」
「ええ、でも
「っ……はい、師匠に話しておきます。それで、文とこころちゃんはわかるけど貴方は?」
「黒崎盗我、博麗神社の居候だ。あんたが妹紅の言ってた鈴仙ってやつか」
「妹紅の紹介なのね、そうよ。私は鈴仙・優曇華院・イナバ、鈴仙でいいわ。火傷もしてるし診察は貴方からね。ついてきて」
有無を言わさぬまま彼女は俺の腕を掴み、半ば強引に診察室まで連行した。
「お師匠様、急患黒崎盗我、秦こころ、射命丸文の三人です。あとベッドに妖夢を寝かせておくので文まで終わったら診察お願いします」
「え、ええ。わかったわ」
それだけ言うと鈴仙は部屋から出ていった。
「あー、えっと……」
「ごめんなさいね、あの子妖夢ちゃんのことになると早口になっちゃうのよ。改めまして、私は八意永琳。医師よ」
「あっ、はい。黒崎盗我です」
左右で赤と青を分けたナース服の女性はそれを聞くと紙を乗せた板を取り出し、何かを記し始めた。
「とりあえず盗我君、何があってこんな怪我を?」
「えっと、元々戦いに行くつもりで白玉楼に着いたら正気じゃなさそうな妖夢がいきなり襲い掛かってきて……付き添いのこころと案内の射命丸と一緒に応戦してこの傷を」
「あら結構野蛮な子なの?」
「ああいや、ちょっと記憶喪失、みたいな感じで……」
「記憶喪失って、それはそれで重大な病じゃない。いつからなの?」
「……博麗神社に居着く前日からで、それ以前のことが全くわからなくて」
「そのことはみんな知ってるの?」
「はい。それで、危険な目に遭ったら記憶が戻るんじゃないか、って魔理沙に言われて……」
「それで戦いに行った、と。なるほど……」
そこまで聞くと、八意先生は鉛筆を机に置いた。そしてこちらに向き直って口を開いた。
「先ず第一に、危険に身を置いたからといって記憶が戻る訳じゃないわ。かえってトラウマが増えて記憶を取り戻せなくなってしまう可能性もあるの」
「え、そうだったんですか?」
「そうよ。全く……魔理沙には次会ったときお灸を据えるとして、他の子たちも止めなかったの?」
「……はい」
「はぁ……こういうのって集会でも開いて講義するべきなのかしら。まあそれは良いとして、記憶を取り戻したい気持ちはあるの?」
「まあ、それはもちろん」
「なら……そうね、地底は危険だし人里の方にいる上白沢慧音を頼りなさい。彼女なら間接的にだけど貴方の記憶を取り戻してくれるはずよ」
「そうなんですか?」
「ええ、後で紹介状を書いておくわ。連絡は……文がいたわね、彼女に任せましょう。さて、それじゃあ怪我の診察をしましょうか」
ぶっちゃけ忘れてたって顔しないの、と八意先生は言って聴診器を取り出した。
「まさか幽々子さんが診察代を出してくれるとは」
「ふふ。正気じゃなかったとはいえ、元は妖夢が貴方たちに襲い掛かったことが原因だもの。これくらいしなきゃね」
扇子で口元を隠し笑みを浮かべる幽々子さん。やっぱり偉い人ってすごいんだな。
「ふふ、感謝が顔に出てるわよ。ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「幽々子さんが止めてくれなかったらもっとひどい怪我負ってたかもしれないから、ほんとありがとう」
「私からも礼を。ありがとうございます」
「あらあらみんな揃って……いい子たちね。今度はゆっくりしに来てね盗我くんこころちゃん」
「あれ、私は?」
「貴方は明日も新聞配達に来るでしょう?」
ニッコリと笑って幽々子さんは笑う。妖夢の容態を確認するために残るとのことで、香霖堂に向かう俺とこころ、慧音という人物に連絡しに行く射命丸とはここでお別れだ。
「それじゃあ俺たちはここで」
「ええ、また今度ね」
そう言って手を振り、幽々子さんは永遠亭の中に戻っていった。
「それでは行きましょうか。ひとまず竹林を出ないことにはどこにも行けませんしそこまではご一緒しましょう」
「わざわざありがとうな、慧音さんに連絡しに行ってくれるなんて」
「まあ診察代の代わりですから、これくらい安いものですよ。ちなみに香霖堂への道はわかるんですかこころさん」
「さすがにわかるよ、いろいろ買うし」
さすがにここからぐちぐち言うのもアレかと思ったのか、こころから射命丸を煽るようなことは言わなかった。
「しかし今日は酷い目に遭いました……好奇心は天狗をも傷つける、私覚えました」
「でも危険なところには首突っ込むんでしょ?」
「当然!記者たるものネタの為なら自分が危険にならない範囲で手出しするものです!」
「クソみたいな理論だな……」
「でも実際そうしなければ伝えられない事実は沢山あります。特に異変が起こった際、一般人はどうすることもできないまま解決を待つしかないわけで。そういう時こそ私が現場取材をしてですね」
射命丸がそう言った瞬間、永遠亭の方角から爆発音と共に熱風が吹き荒れた。
「うわっ!?な、なんだ!?」
「ほら文屋、取材しに行ったら?」
「嫌ですよ!?分かりきってる地雷を踏みに行くほど命知らずじゃありません!それに何が起きたかなんてだいたいわかりますし……ああこれだから永遠亭の御世話になるのは気が引けるんですよ」
「あー……何が起きたか説明頼む」
状況を理解している二人についていけない。疑問符を沢山浮かべる俺に、射命丸はそうだったと頭に手を当てた。
「簡単に説明すると、不老不死である蓬莱人二人が殺し合いを始めたって感じですかね……」
「不老不死?殺し合い?」
「殺しても死なず老いない身体を持つ人、言っても現実味がありませんがそういう存在がいるのです」
「一人は月のお姫様、もう一人はさっき案内してくれた妹紅だよ」
「え、妹紅が?」
「そう。理由は知らないけどね」
あと永琳も蓬莱人だよ、とこころは付け加えた。改めて思う、永遠亭は魔境だ。
その後射命丸とも別れ、俺とこころは魔法の森と呼ばれている森の手前に来ていた。目的としては、ボロボロになった俺の服の代わりを探しに来たというところだ。
「確かこの辺りに……あ、あったあった。あそこが香霖堂だよ」
こころが指差した先には、瓦屋根の目立つ和風の一軒家が建っていた。横に倉庫もあるらしく、思ったよりも大きな店らしい。
「へえ、結構立派な建物なんだな」
「はは、初見さんにそう言ってもらえると僕も嬉しいよ」
森から荷物を背負った男が現れ、そう言った。おそらくはこの男が香霖堂の店主なのだろう。
「初めまして、僕は森近霖之助。ここの店主をしている者さ」
「初めまして、黒崎盗我だ」
「盗我君だね、よろしく」
「私はこころだよー」
「はいはい、君は最近よく来てくれてるからわかってるよ。ところで盗我君、ずいぶんとボロボロのようだけどもしかして今日は服を買いに来たのかい?」
「ああ。前々からこころからここには何でもあるって聞いてたから、この際来てみるかって」
「なるほど……確かに商品の中には外の世界の服とかもある、とりあえず店の中に入るといいよ」
そう言って彼は店のドアを開いた。中に入ると、そこは外観とは一転して物が散乱する物屋敷になっていた。
「……さすがに店としてこれはどうなんだ?」
「いろいろ散らかっていて申し訳ない、でも片付けるのも億劫でね」
「そんな乱雑に物を置くからじゃないの?」
「失敬な、これでも取りやすいように配置してあるんだ。まあたまに場所がわからなくなるけど」
「駄目じゃねーか」
「でも服は別で保管してあるよ。ほらこの通り」
霖之助はそう言って、服を干してある物体を店の奥から引っ張り出してきた。確かに別にしてあるようだが、それとこれとでは話が違うのでは。
「……君はずいぶんと考えてることがはっきりと顔に出るんだね」
「……よく言われるんだが、そんなにか?」
「ああ。ある意味お面で感情丸わかりなこころ君と似た者同士だ」
「よく言われるよね、兄妹みたいだって」
「それ言われたの守谷神社行ったときだけだろ」
「……ん、そういえば得物も同じなのかい?」
「そうだよー、何かお揃いなんだよねー」
「…………へえ」
「?何かおかしいことでもあったか?」
「いや、何もおかしなところはないさ。それより、買う服はどうするんだい?」
言われてみれば、用事はそれだった。お出しされた服をパラパラと漁ってみると、色とりどりの洋服が沢山見つかった。でもあんまりカラフルなのは好みではないんだがなぁ……
「うーん、この白いシャツと黒パーカーとか良いんじゃない?今の服装に似てるし」
「決めるのが早いな……でも確かにそうだな、サイズも合ってるみたいだし」
「ついでだしズボンも見てくかい?安くしておくよ」
「いいのか?」
「こころ君の知り合いなら霊夢の知り合いだろうし構わないよ。それに生活には困ってないからね」
「うわ感じ悪い」
「事実なんだから仕方ないだろう。さ、選ぶといいよ」
霖之助はダンボールを持ってきてそれを開く。それほど掛からないうちに、好みのズボンは見つかった。
「……これにしとくか」
「黒いズボン……あれだね、今の服と全然変わってない感じがすごい」
「しょうがないだろ、服のこととかあんまりよくわからねぇんだから」
「決まったかい?なら精算だ。あまり需要がないことを踏まえ適正価格はこうだから……だいたいこんな感じだね」
霖之助はなにやら数字の書かれたボタンのある機械を操作すると、それをこちらに向けてきた。そこに記された値段は、服について無知な俺でも安いと思うほどのものであった。
「これでいいのか?」
「初回だし霊夢の知り合いだろうし、これくらいは融通するさ」
「そ、そうか……ならこれで」
「まいどあり。日も暮れてきたし、気をつけて帰りなよ」
「ありがとねー、それじゃまた」
また来るよ、と言って俺とこころは香霖堂を後にした。残すは帰宅するだけだ。
「ただいまー霊夢」
「あら、遅かったわね二人とも……って、なにその姿」
神社に戻ってこれたのは、ちょうど夕飯の時刻。出迎えた霊夢は、俺とこころの有り様を見て驚きの表情を浮かべていた。
「ああ、白玉楼まで行ったんだけどちょっとあってな……」
「いやちょっとどころじゃないでしょ。どうしてこんな大怪我して帰ってきたのよ」
「安心して、治療費は幽々子さんが出してくれたから」
「治療費……てことは永遠亭の世話にもなったのね……はぁ」
霊夢がため息をつく。借りができるのが嫌、という感じだ。
「……で、どうしてそんなことになったの。説明してちょうだい」
「何かに憑かれた妖夢に襲われて怪我して永遠亭で治療受けた後に服買いに香霖堂に行った」
「待って、要素が多すぎる。食事のときに一つひとつ詳しく言って。とりあえず今夕食もできたから運んでちょうだい」
「わかったよ、何持ってくればいい?」
「盗我はご飯と味噌汁、こころは秋刀魚の塩焼きをお願い。私はお茶出すから」
「はいはーい」
今日は本当に色んなことがあったが、こうして神社でみんなとご飯を食べられると安心できる。ちゃぶ台に夕食を並べながら、今この瞬間を共にする二人に感謝する。
「……ありがとう」
「なによいきなり。褒めたって何も出ないわよ?」
「今の俺に大切な記憶はできる」
「……口が達者なことで。でもまあ、そういうことならいいわ」
「盗我が嬉しいと私も嬉しいから、これからも大切な記憶ができるようにしようね」
「ならそのお面で顔を隠さずに話しなさいな」
「面と向かって言えるほど心は強くないの」
「はは……さ、冷めないうちに食べようぜ」
「む、それもそうね。食べましょうか」
「……うん」
「いただきます」
夕陽が綺麗な頃、博麗神社に三人の談笑が響いた。
「全く……輝夜ったらまた外で暴れてるのね」
「ふふ、良いんじゃない?彼女たちにとってはたまの気分転換なのでしょう?」
蓬莱山輝夜と藤原妹紅が竹林で殺し合いを始めた頃、永遠亭では永琳と幽々子が病室で話をしていた。患者は魂魄妖夢、何者かに取り憑かれ盗我たちに襲い掛かった庭師である。
「さて……診察したところ特に身体に異常があるわけでも無し、意識がないのは精神的な影響と見て間違いないでしょう。おそらく、貴女が殺したという
「やっぱりそうなのね……どういうことか説明して頂戴、名も知らぬ不届き者さん」
幽々子が手を翳すと、そこにぼおっと蒼白い人魂が現れた。西行寺幽々子の死を操る程度の能力、それによって殺された者は彼女の支配下に置かれる。つまり、妖夢に取り憑いた何者かは現在幽々子の手の中にあるということである。
「不気味なものね……人魂というのは」
「貴女たち蓬莱人には縁の無い在り方でしょうね。なんせ死を超越した存在ですもの」
「…………」
「あら、ごめんなさい。侮辱するつもりはなかったの。本当よ?」
「それくらいはわかってます。この在り方は、私が選んだものですから。それより、その人魂は何か言っているの?」
「……残念ながら何も。というか生物かも怪しいわ、生きてた感じが全くしないもの」
「……というと?」
「普通人魂になっても、その者の意識っていうのは残るものなの。むしろ喜怒哀楽が明確になって憎悪や後悔、悲壮といった負の感情が大きくなるの。でも
「誰かが妖夢ちゃんに無理やり憑依させた非生物のナニカ、といったところかしら」
そうね、と幽々子は返答した。
「『完全憑依』を悪用した事件である可能性も考えられるし、八雲紫に相談する必要があるわね」
「そうねぇ……加えて文ちゃんの話によると、何故か盗我くんばかりを狙っていたらしいわ」
「盗我君を?それまたきな臭い話ね」
「ところで盗我くんを診察した感じ、何か変なところはなかった?」
「……変なところ、ね。まあ強いて言えば、人間の作りはしてないって感じはしたわね。どちらかと言えば妖怪、それも───」
ズドン、と轟音が鳴り響く。原因は火花が散っていることからも明白、件の二人の殺し合いであった。
「…………輝夜と妹紅には後できつく言っておかなければいけないわね」
「ふふ、まるで母親みたいだわ。それじゃあ私もこれで。妖夢には元気になったら戻ってくるように伝えておいてくれない?」
「え、ええ。当分は鈴仙が面倒見るでしょうから彼女に伝えさせておくわ」
そう一言交わすと、幽々子は永遠亭を後にした。
第五話 了