ジャパリパーク アンインエリア
多くの森が存在するアンインエリア、外につながる海に面した森の中に、小さな駅があった。
線路が二つでホームも二つ、海側には駅舎もあった。
その駅舎の中にある、小さな部屋では、ここを縄張りとしているエミューが暮らしていた。
「・・・これでよし」
エミューはマフラーを整えていたブラシを置く、神も櫛を通して整えていた。
駅のホームへ机をもって出る、適当な場所に置いたら紅茶とジャパリまんで朝食。
「今日も、いい天気ですわね」
小鳥が鳴き、風がそよぐ、セルリアンもいない、平和な朝。
ゆったりとした時間の中で朝食を済ませると、次は読書の時間。
「閉塞は、列車の衝突を防ぐ仕組みで・・・」
読んでいるのは『けものでもわかる鉄道』という名前の本、パークに人がいたころに書かれたもので、フレンズにもわかるように書かれていた。
わかるといっても当時のフレンズに、今のフレンズは文字が読めない子の方が多く、エミューも勉強の末読めるようになった。
「閉塞と言いましても、ダイアウルフさんの機関車とボスさん達の列車は昼と夜ですみ分けできてますし」
小さくため息をついてしおりを挟んでから本をたたむエミュー。
今のパークでは線路を走るのはダイアウルフ達が走らせる蒸気機関車か、ボスが走らせる列車しかない。
それも昼と夜で別れているので閉塞なんてなくても困ったことなんてなかった。
することもなく、深く考えずにホームの掃除をしていると、誰かが近づいてくるのが見えた。
「あの子たちは、にぎやかなお昼になりそうですわね」
エミューは昼食の準備に取り掛かる、ためておいたジャパリまんを出して、海で取れた魚の干物をオーブンに入れて温める。
届けてもらった野菜を切ってジャパリまんにはさみ、紅茶も入れる。
全部出来上がるころ、駅にお客さんがやってきた。
「エミューさん、お邪魔しまーす」
「お、お邪魔しましゅ」
「お邪魔します、くんくん、いい匂い」
「レッサーパンダちゃん、リムガゼルちゃん、ホワイトライオンちゃん、いらっしゃい」
赤い髪をポニーテールで束ね、黒に薄い縞模様が入った服を着るレッサーパンダ、槍を持ち、少しおどおどしているリムガゼル、白いコートを身につけたホワイトライオン。
エミゥーは三人を沢山の料理が並ぶテーブルへと案内した。
「わー、美味しそう、食べていい?」
「ホワイトライオンさん、ご飯は」
「で、でも、美味しそうだよ」
「あたたかいうちに、召し上がってもらえた方が」
「そ、そういうことなら」
「やったー!」
「はい、いただきます」
席に着くと、昼食が始まる。
エミューも一緒に食べるが、三人も食べる、特にホワイトライオンがよく食べる。
「おいしー、こっちもおいしー」
「いつ見ても、気持ちい食べっぷりですね」
「目立つってのは大変ですからね」
「そうですね」
ホワイトライオンはその色から目立って仮に失敗することが多いらしい、それがフレンズになってからのいっぱい食べる、はらぺこにつながってるらしい。
とはいえ、おいしそうに食べるので作る側としてはなんだか笑顔になってくる。
「ごちそまー、ふぁあ」
「ごちそうさま、ホワイトライオンちゃん、寝るのはもう少し待って」
「えー?」
「ほ、ほら、今日はあれを見せてもらう約束でしょ」
「あー、そうだったー」
「なら、約束の方は」
「はい」
そういって自信満々にレッサーパンダが懐から取り出したのは、『こども機関士認定書』と書かれたカード、リムガゼル、ホワイトライオンも同じカードを取り出した。
「マンドリル駅長のもとで運転ルールをみっちりと学び、ジャガランディ先輩火夫のもとでしごかれながら、やっと手にした運転免許です!」
「つ、辛く厳しい道のりでした」
「でも、毎日ご飯が食べれて、幸せでしたー」
「おめでとう、あとは機関車があれば、3人も晴れて新米機関士ね」
マンドリルはエミューと同じく駅を管理しているフレンズで、彼女はこの駅よりもさらに大きな駅を管理維持し、ルールも完璧に記憶している。
ジャガランディは今、現状でパーク唯一の機関車の先代火夫で、今は当時仲の良かった相手とともに、別の場所で過ごしている。
その二人の下でしごかれた3人は、座学、実技ともに一定の技術を身に着け、機関車を運転してもよいと認められたのである。
「ふふふ、これで人が戻ってきたときに、人気者になるのはジャイアントではなく私、なにせ機関車は人気だから、それを運転する私も人気者に!」
「あー、えーっと」
「ご、ごめんなしゃい」
「レッサーちゃん、おさえてー」
「小さいお友達に大人気の蒸気機関車、そこに美人機関士が加われば大きなお友達の人気も加わり最強!」
このレッサーパンダ、ジャイアントパンダに対抗心を燃やしている。
機関士を目指した理由もそれなので、一念岩をも通すということばもあるが、思いの力というのはすごいのである。
「わかりました、それでは、約束通りお見せします」
「い、いよいよですね」
「そうですねー」
「ふふふ、私達は、次のステージへ」
エミューが三人を案内したのは、食事をとった部屋のさらに奥、鍵を開けて中に入るとそこは、壁いっぱいにかけられた機関車の写真や絵、そしてたくさんの本。
「ここが」
「伝説の」
「資料室」
「はい、こちらには開園前の最後、そしてパーク開園後の初代駅長が集めた、この辺り一帯、それどころかアンインエリア一帯の鉄道資料を保管しています」
資料室の中には、パークになる前の、鉄道が敷設された当初の貴重な写真や絵画、列車の運行記録や図面、さらには当時の食堂車で出されていたレシピを集めた本まで、幅広くそろっていた。
そして、三人が見たがっていた資料も。
「そしてこちらが、記録に残る限り最後の、蒸気機関車の所在が記された資料です」
「これが」
「す、すごくおっきでしゅ」
「アンインエリアの全景ですねー」
エミューが持ってきたのはパークにおいて解体を免れ保管されることになっていた、もしくは免れるべく隠された蒸気機関車が、あの異変の直前、どこにあったのかが書かれた資料。
それはアンインエリアの地図に、手書きで書きこまれていた。
「ここが、ダイアウルフさん達の『C58 204』が保管されている鉄道公園、いまのボーダー港機関区です」
「ここがエミューさんの駅で、バビルサ博士のいる方向に延びているのが『ホワイトテールライン』だから」
「こっちのお社の近くを走ってるのがルプさん達のいる路線で」
「ふぁー、細かくて眠たくなっちゃいます―」
眠気眼のホワイトライオンをよそに、レッサーパンダとリムガゼルは使える機関車の目星をつけるべく資料を見続ける。
エミューはこっそりと出て、紅茶を用意する。
「あの子たちも、頑張ってたものね」
理由は何であれ、レッサーパンダは機関士になるためにリムガゼル、ホワイトライオンを誘い、文字を覚え、火を克服して、勉強して機関士になった。
新しい機関士の誕生と機関車の復活に、鉄道が好きになったからここにいるエミューはうれしかった。
もどってくると、そこには床に突っ伏した二人、そしてホワイトライオンが寝ていた。
「ど、どうしました!?」
「うぅ、ここに書いてる機関車、ほとんど巡っちゃいましたよー」
「さびてたり、線路から遠かったり、リム達じゃはこべませんー」
「あらぁ、それは困ったわね」
パークに人がいなくなって何年もたち、鉄道好きなフレンズも少なく、展示物である機関車の整備は優先度が低い。
そのため、動くように直すというのは容易ではない、手入れが不十分な機関車を線路の上に載せるだけでも大変なのだ。
設置されてる場所と線路が遠ければ、それだけであきらめなければいけない、それが現実だった。
「ヒトはどうやって運んだんだろうって場所に置いてるもん、私達だけじゃ」
「も、もう、ジャイアントパンダさんにも手伝ってもらって」
「それだけはだめ!」
「ご、ごめんなしゃい」
「ジャイアントパンダちゃんは、機関車を破壊しかねない!」
かつて人がいたころ、ジャイアントパンダは『パークのリーサルウェポン』という異名がスタッフの間に浸透していた。
彼女はかくれんぼの鬼となれば、隠れる場所を壊して見つける、竹をへし折りながら探索する、そのパワフルな姿を見たとあるスタッフが名付けた。
そんなジャイアントパンダに機関車の運び出しを手伝わせたら、少し曲がるなりへこむならいいが、修復不可能な破壊につながる可能性が少なからず存在していた。
「うぅ、私の野望が~」
「レッサーちゃん、しっかりして」
「これは、困ったわ」
すっかり落ち込むレッサーパンダ、だが、機関車が手に入る見込みがほとんどないのも事実。
そんな諦めかけていた時、寝ていたホワイトライオンがむくりと起き上がった。
「ホワイトライオンちゃん?」
「ねぇ、この写真、見たことある場所だけど、見たことない感じですよ」
「あ、ほ、ほんとでしゅ」
ホワイトライオンが見つけた写真に写ってるのは扉が少し空いたトンネルの入り口、その隙間に、わずかにだが赤い板が見えていた。
「間違いない、機関車のナンバープレート!」
「線路も繋がってましゅ」
「出せれば鉱山後に送ればいいですねー」
「よかったわね」
盛り上がる3人を微笑みながら見守るエミュー、ようやく見えた希望、ある意味で当たり前であった。
「エミューさん、見つけたら、持ってきますからね」
「ぜひお願いしますね」
「そうと決まれば早速出発!」
「お、お邪魔しました」
「また、ご飯食べさせてくださいね~」
「またきてくださいね」
元気に手を振りながら、レッサーパンダ達は駅を後にして、機関車があるかもしれない場所へと走っていった。
エミューは伸びを一つすると、駅舎の中に入りソファーで横になった。
「んん・・・あれ?」
エミューが次に目を覚ましたのは完全に日が暮れてから、窓の外を見れば月も高くにいた。
寝ぼけた目をこすりつつも、エミューは寝直す前にすることがあった。
「ふぁ~あ、今日はこれをかけておかないと」
エミューはホームに出ると端へと向かう、手には四角い灯を出す機械、カンテラを持っていた。
ホームの端には木の棒があり、エミューはカンテラの青いスイッチを入れる。
カンテラから青い光が出ることを確認すると、彼女はそれを棒に吊り下げた。
「これで、保線列車が走ってくれますね」
現在、パークの鉄道の保安システムはそのほとんどが停止している、それでもボスたちが線路を修理、維持するための列車が走っている。
青い光のカンテラは、それを手助けするためのもので、これを出しておかないと線路の補修が行われないのである。
本日最後の仕事を終えて、エミューはあくびをしながら、駅舎へと戻っていった。