天羽律火の事件簿   作:景名院こけし

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XV放送前とあって我慢できずに書き始めました。よろしくお願いします。


第一話 天羽律火の初登校

鏡の前に立って、服装に妙なところがないか確認する。異常はない。寝癖は既に直した。

一端(いっぱし)の高校生然とした赤毛の女が鏡の中からこちらを覗いている。

 

「うん、大丈夫! ……な、はず……!」

律火(りつか)、その確認何回目だ?」

 

かけられた声に振り返ると、()()()()()の女の子が苦笑しながらこちらを見ていた。私よりも髪が長い。身長差も少しあるので見下ろされる形だ。髪型や身長といった違いが無ければ、鏡がここにもあるのかと思うほど私たちは似ている。その女の子、(かなで)ちゃんは苦笑したまま続ける。

 

「そんなに緊張しっぱなしだと、余計ギクシャクするぞ?」

「それは分かってるんだけど、二課の人以外と一人で会うのって初めてで……」

「大丈夫だって。リディアンも二課の一部みたいなもんだろ? 学年は違うけど(つばさ)も一緒だし、二課の人たちが()()()()見守ってくれてるしな」

「それはそれで緊張するよ!? ていうか物陰って! ニンジャ!?」

「少なくとも緒川(おがわ)さんはそうだな」

 

緒川さんというのは奏ちゃんと、今話にあった翼ちゃんの二人が歌手として活動しているときのマネージャーさん。ただ者じゃないのは分かってたけど……

 

「流石に物陰からってのは冗談だよ。でも、あたしも含めてみんなが律火の事を見守ってるのと、緒川さんがニンジャなのは本当だ」

「そっか……え、ニンジャは本当なの」

「やっといつもの感じに戻ったな? そうやって自然体で居れば何も心配ないって」

 

にっと笑いながら私の肩をポンとたたく奏ちゃん。ここまでのやり取りは私の緊張を解くためにやってくれたみたいだ。そしてニンジャは本当。

 

「ありがとう。じゃあ、いってきます!」

「ああ、いってらっしゃい!」

 

笑顔の奏ちゃんに見送られながら鞄を持って部屋のドアから出て行く。

 

「律火、おはよう」

「あ、おはよう、翼ちゃん」

 

外へ出るとすぐに見知った顔と出会う。奏ちゃんと一緒に歌手活動をしている翼ちゃんだ。私は今日から、翼ちゃんが通ってる私立リディアン音楽院高等科に編入することになった。私がお世話になっている”二課”というところの責任者、弦十郎(げんじゅうろう)さんが手を回してくれたおかげで、身元のはっきりしない私でも普通の子たちと並んで学校に通えるようになったとのこと。私の年齢が不明、かつ学力は問題なかったので高校一年生からのスタートとなる。

 

しばらく歩いていると、翼ちゃんが穏やかな笑顔で話しかけてくる。

 

「もっと緊張してるかと思ったけど、大丈夫そうね」

「うん、奏ちゃんのおかげ」

「ああ……奏はそういうの、上手いものね。私もライブの前、よく励まされた。あなたと出会った、二年前のあの日も……」

 

懐かしそうな表情で翼ちゃんは語る。

 

「――それでね、真面目が過ぎるって奏に言われて……」

「あはは、言いそう」

「そうして、ライブが始まって、それで……」

 

そこまで言って、翼ちゃんは口を閉じる。往来でするような明るい話では無いからだ。その場にいたはずの私に記憶は無いけれど、二年前のライブで起こった惨劇は世間でも大きな事件として騒がれていた。人を炭素の塊に変えて殺す特異災害”ノイズ”が会場に出現し、集まった大勢の人々が命を落としたのだという。しかも犠牲者はノイズによる炭化よりも、むしろ人々の混乱による外傷や圧死の方が多かったというのだから、そうした被害者の遺族はやりきれない。一時期は惨劇を生き残った人々を人殺しと呼んで激しく非難、果ては物理的な攻撃を加えた、なんて話もある。

 

「あんなことがあったけど、あなたのおかげで私たちは奏を失わずに済んだ」

「私は覚えてないんだけどね……」

「それでも、してくれたことが消えるわけじゃない。改めて、ありがとう」

 

私の年齢や身元が不明である理由。それは私が二年前、記憶を失った状態で二課に保護されたことにある。覚えていたのは律火という名前だけ。他は何も覚えていなかったから、目が覚めたとき急に翼ちゃん達に感謝され、全く身に覚えがなくてただ戸惑うことしかできなかった。なんでも、ライブの惨劇の際に無茶をして死にかけた奏ちゃんの命を私が救ったらしい。しかも倒れて記憶まで失っていることから、相当なリスクを負っての行動だったのだろう、ということで、奏ちゃんと同じ顔でしかも記憶喪失だなんて怪しさ満点だったはずの私を、二課の人たちは快く受け入れてくれたのだった。多分そんないきさつなど無くても同じように接してくれただろうな。と、この二年間彼らの優しさを見ていて思うのだけれど。

 

その後気を取り直して別の話をしているとリディアンの入り口が見えてきた。

 

「それじゃあ律火、私は自分の教室に行くから。あとでクラスの話、聞かせてね?」

「うん、また後でね」

 

職員室前で翼ちゃんと別れると、職員室からすぐに先生が現れて挨拶を交わす。ある程度解けていた緊張が少しだけ戻ってくるが、何とか普通に会話できていると思う。

職員室に通され、しばらく学校でのことについて説明を受けていると、授業時間が近づいてきたため先生が立ち上がる。

 

「では教室に案内しますから、ついてきてください」

「は、はい! よろしくお願いします」

 

先生の後ろについて廊下を歩く。周りの様子を軽く見渡すと、自分の教室に行くと言っていたはずの翼ちゃんが物陰からこっちを見ているのを見つけた。まさか奏ちゃんの冗談が本当になるとは。緒川さんから修行でもつけてもらったのだろうか? ほかの生徒や先生は翼ちゃんに気づく様子は全くない。

そんな翼ちゃんと目が合った瞬間、思わずびくんと反応してしまって、先生が怪訝な顔で振り返る。

 

「……? どうかしましたか?」

「い、いえ! その、緊張しちゃって……」

「ふふっ ちょっと個性的な子も多いけど、皆いい子ばかりですよ、きっとすぐに仲良くなれます」

 

先生、個性の塊みたいな子(歌姫ニンジャ)がそこの物陰にいます。とは言えず、楽しみですと当たり障りのない答えを返しておく。あとで奏ちゃんにこのことを話せば喜々としてからかいにかかるだろうなぁ、などと思っている間に教室にたどり着いた。

 

 

天羽律火(あもうりつか)です。よろしくお願いします」

 

先生に紹介されて教室のクラスメイト達にお辞儀する。私の顔と苗字を見てざわつく子たちが数グループ。奏ちゃん達(ツヴァイウィング)の人気がうかがえる。

 

「お静かに! 天羽さんはあちらの席についてください」

 

先生が手をパンパンと鳴らしてクラスのざわつきを沈め、教室内の一席を指し示す。それに従い着席すると早速授業が始まった。

最初の授業が終わり、休憩に入ると何人かのクラスメイトが話しかけてきたがその応対もなんとか問題なくこなすことができた。

高校生活一日目、何とか問題なく乗り越えられそうでほっと胸をなでおろす。でもこの時の私は知らなかった。むしろ、この後が本番だという事を。

 

授業の合間の短い休み時間ではあまり長話もできないため周りも自重していたし、昼休みは各々の用事があるので他の休み時間と大差はない。しかしそんな事を気にしなくても良い時間がやってくる。そう、放課後である。

 

「奏さんと一緒に暮らしてるんだ!? お姉さんとしての奏さんってどんな感じなの?」

 

姉妹という訳ではないのだけれど書類上はそうなっているので何も言えない。どういう感じかと言われると、優しくて頼れるけどたまにちょっと意地悪? な感じ。

 

「今朝翼さんと一緒に歩いてるの見たよ! やっぱり仲いいの?」

 

仲はとてもいい。心配して物陰から見守ってくれるくらいには。ふと廊下の方を見ると天井に貼りついてこっちを見ていた。やはりニンジャか……よく気づかれないなぁ、あれ。

 

「ずばり、趣味は? アニメとか興味ある!?」

 

ツヴァイウィングについての事も質問されるけど、私自身の事もたくさん訊かれる。割合としてはこちらの方が多いかもしれない。主観的な記憶がたった二年の私としてはこちらの質問の方が難儀する。ちなみにアニメはよくわからない。記憶がなくなる前は見ていたかもしれないけれど。記憶云々は伏せてそのことを話すとおすすめのアニメをいくつか紹介された。次二課に行ったら弦十郎さんに聞いてみよう。彼は映像作品に詳しかったはず。メインは確かモンスターパニック映画と言っていたけれど。

 

その他にもあれやこれやと質問の嵐が吹きすさぶ。二課は機密情報の塊。うっかりそれ関係の情報を喋ってしまわないように気を張って応対することになるのでものすごく疲れる。すっかり疲弊してしまった私が最後の手段とばかりに視線で天井の翼ちゃんに助けを求めると、小さく頷いたあと誰にも見られないように素早く飛び降りて何事もなかったかのようにドアから入ってきてくれる。

 

「律火、今からちょっといい?」

「あ、はーい! みんなごめんね? これから用事があって。また明日!」

 

「先輩の呼び出しならしょうがないね。また明日」

「おっけー、行ってらっしゃい」

「おー、学園のアイドルと仲良しとは羨ましい……」

「学園のっていうか世間のアイドル?」

「たしかに」

 

みんなは特に気にした様子もなくワイワイと盛り上がりながら送り出してくれる。色々用意してあったであろう質問をかわすのは申し訳ないけど、これ以上はこっちの身が持たないので今日のところは許してもらおう。

翼ちゃんと廊下を歩きながらようやく一息つく。

 

「ありがとう、翼ちゃん」

「お疲れみたいね」

「あはは……女子高生のテンションなめてました」

「あなたも女子高生のはずなんだけどね。ああ、あとあなたへの用事は本当にあるの。丁度いま、櫻井(さくらい)女史から呼び出しがあったわ」

了子(りょうこ)さんから? ってことは……」

 

了子さん。二課において技術関係をほとんど一人で担当し、さらには医療にも精通しているとんでもない人だ。そして二課が保有するある技術に関しては世界一詳しいと言っても過言ではない。そんな人がわざわざ私を呼び出す理由は何となく察しがついた。翼ちゃんが耳元によって来る。他の誰かに聞かれたらいけないから。

 

「――ついさっき、あなたの”ギア”の調整が完了したそうよ」

「ッ! ……そっか。じゃあ、私も」

「ええ、近いうちに戦場(いくさば)に立ってもらうことになる」

 

――ギア。二課においてこの言葉が指すものは一つ。二年前のライブで大惨事を引き起こした特異災害・ノイズに対抗できる、人類を守る力……今は欠片となり果てた”遺物”を歌によって古代の伝説から呼び起こし、人の身で振るうことを可能とする力”シンフォギア”だ。

 

ただしその力を手にできる者は多くない。いや、あまりにも少なすぎる。何せ現時点で確認されているのが奏ちゃん、翼ちゃん、そして私のたった三人だけなのだから。確定ではない”候補”に限れば他にもいるらしいけれど。

このリディアンはそうした”候補”を探す目的もあるのだと弦十郎さんから聞いている。だから国家機関のはずの二課が”私立学校の地下”などと言う場所に本拠地を構えているのだ。

私は翼ちゃんと一緒に二課本部への隠しエレベーターに足を踏み入れ、了子さんの待つ研究所へ向かう。

 

この日が”天羽律火”としての私の戦いの日々の始まりであり、今までのただ穏やかで幸せな日常が”奇跡”だったんだと思い知らされる日となる。




この世界の司令はモンスターパニックをメインに観賞しているのでゾンビを撃ったり魚人を蹴ったり空飛ぶサメをチェーンソーで両断したりするのが得意。人外じみて強いのは一緒だけど本編世界とは方向性が違う感じですね。
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