二課本部へと続くエレベーターが落下と言って差し支えない速度で下降していく。少しこわばった顔で手すりにしがみつく
二年前のあの日の事を思い出す。
私たちツヴァイウィングのライブ、それと並行して行われた、とある完全聖遺物の起動実験。そこへ現れた無数のノイズ。私たちは剣を持つ者の務めを果たすべくノイズと戦い、そして……
「Gatrandis babel ziggurat edenal--」
「いけない、奏! 歌っては駄目えぇ!」
奏の歌声が会場に鳴り渡る。奏は、人々を救うべく自分の命を燃やす選択をしてしまった。ライブのため、シンフォギアに適合するための薬を断った状態で無理にギアを展開して、多数のノイズとの長時間戦闘。とっくに限界を超えてボロボロになっていたところに、負担の大きい”絶唱”を放てばどうなるか、奏に分からないはずはない。でも奏はそれをしてしまった。止めに入ろうにもノイズの数があまりにも多く、近づく事すらできない。
「――Emustolronzen fine el zizzl」
絶唱の最後の一節が歌い上げられる。次の瞬間、会場が光に包まれた。
思わず閉じた目を開くと、無数にいたノイズは消え去っており、あとには
「……え?」
あれほど間の抜けた声が出たのは人生で初めてだった。それだけ目の前の光景は予想外で、私は思わずその場に立ち尽くしてしまった。
「……あなたが死んだら、なにもかも、全部終わりだ。わからない。死ぬと分かっていてこんなことをしたの?」
立っている方の奏が、倒れている奏を見下ろしながら独り言のように呟く。
「ははっ……”お迎え”ってやつか? 私が目の前にいる……」
「違う。あなたは
「……間に合う? 何を」
「Ia dr eas ilv mlan erkey――」
「……歌?」
倒れている奏の問いを無視して、立っている奏が聞いたこともない旋律を口にする。おおよそ人が発音することを考えていないような、でたらめな音の羅列のような、不気味な歌。その歌に合わせるように、歌う奏の胸のところから光を放つ何かが飛び出してくる。
「……銀色の、鍵?」
その鍵を見た瞬間、不気味な歌の旋律も相まって異様な悪寒を感じた私はその場に駆け寄ろうとする。
「ッ!? 動けない……!?」
しかしまるで足が地面に縫い付けられたように、その場から1ミリたりとも前に進むことができない。
「くっ 奏! かなでええええええ!」
必死でその場から手を伸ばす。届かないと分かっていても、あの時私にできるのはそれだけだった。
そして奏が絶唱を使った時のように、その場が光で包まれる。
今度は目を閉じなかった。必死で奏に手を伸ばし続ける。
そうして、私の意識はそこで途切れた。
次に目を覚ましたのは二課のメディカルルームの中だった。
「あら、起きたわね?」
「櫻井女史……ッ! 奏は!?」
「大丈夫……と言っていいのかしら? とりあえず、
困ったような顔でそういう櫻井女史に連れられ、別の部屋を訪ねるとそこには――
「おらっ! 吐け! お前は何者だ!? なんであたしと同じ顔してやがるッ!?」
「な、何度も言った通り、名前は律火って言います! その他の事は全然わかりません!」
「まだとぼける気か、こいつ!」
「おちついて! はなちて! だれかたしゅけて!」
奏にヘッドロックをかけられて涙目になっている奏がいた――自分でも何を言っているのかよくわからない。困惑で軽く頭痛がするが何とか抑えて声をかける。
「えっと……奏?」
「翼! 目が覚めたんだな!」
「おふっ 急に離されるとそれはそれで危ない……」
私に気づいた奏が手を放して駆け寄って来た。絶唱の負荷で死にかけていたのが嘘のようだ。
「奏、怪我は? 動いて大丈夫なの?」
「それが見ての通り。気味が悪いくらい、全然どこも悪くなくてさ。間違いなくあいつが何かしたからだと思うんだけど、聞いても名前以外何も覚えてないとかぬかして何も答えないんだよ」
「名前……律火と、今も言っていたわね。それにしても何も覚えてないなんて、記憶喪失だとでも言うの?」
「怪しいだろ? 顔の事も含めてな。さて、OHANASHI再開といこうか……?」
「ヒエッ」
確かに、律火と名乗る目の前の少女は、ありえないくらい奏に似ている。似ているどころか、顔だけを見たら全く同じだ。奏より少し小柄なので二人が並んでいれば見分けはつくだろうけれど。
「はーい、そこまで。その辺の事も含めて話をするからいったん移動しましょ? 弦十郎君がお呼びよ」
律火の正体について、奏は私以上に気になるのだろう、再びにじり寄ろうとしたところを櫻井女史に止められる。そのまま私と一緒に引っ張られて二課の司令室に向かうことになった。律火の方はこれから医療スタッフを始めとした職員が数名ついて監視も兼ねた問診や思い出せる範囲での事情聴取が始まるらしい。
「来たか」
司令室には当然、叔父様……風鳴弦十郎司令が待ち構えていた。
「まずは、よく無事に帰ってきてくれた……目が覚めて早々すまないが、会場にあったカメラ等の機材はほとんどダメになってしまってな。あの時あの場にいたのはお前たち二人だけだ。詳しい話を聞かせてほしい」
「分かりました」
私達はライブでのことを語る。絶唱を使って倒れたことを話すと奏はひどく叱られていた。結果的に助かったからいいもの、私としても本気で心配したのでこちらからも小言を言っておく。全方位からの説教を受けた奏がぐったりしてきた辺りで、話は律火の事に移る。そこで櫻井女史から語られたことは二年経った今でもその驚きを鮮明に思い出せる。
「あの子については検査のついでにちょっと調べさせてもらったわ。結論としては、奏ちゃんに似てるとかそういう次元じゃない……あの子は、奏ちゃんの
「なっ!?」
「クローン……だとぉ!?」
流石にこれにはその場の全員が驚愕した。特に奏は完全に言葉を失っていた。
「クローン技術自体は昔から存在していたし、元となる奏ちゃんの体細胞のサンプルも入手しようと思えば、難しいけど不可能じゃない。二課に潜り込むとか……そうでなくても、二課だって外出時に抜け落ちる髪の毛一本まですべて処分して回れるわけじゃないし、実際そんなことはしていない。問題は誰が何の目的で
「”天羽奏”という人間をもう一人作る目的……秘密を知る何者かが、シンフォギア装者を人工的に増やそうとした? ならば翼のクローンも作られている可能性があるか?」
「それは目の前に現れてくれないと、何とも言えないわね。ただ、装者を増やそうとした、というのは可能性がありそうね。これを見て」
そう言って櫻井女史が一枚の書類を取り出す。見ればどうやら律火に関する現時点での検査結果のようだ。それを見た叔父様が何かに気づいてその表情を険しくさせる。
「”心臓に未知の物質が融合している”か……翼の報告にあった、銀色の鍵のような物が関係しているのか?」
「そうでしょうね。おそらくこれは何らかの聖遺物。流石にこの状態では欠片なのか、それとも完全聖遺物なのかまでは分からないけど」
「クローンを使った、人間と聖遺物の融合実験……だとでも言うのか」
「本人が何も覚えてないと主張している以上、それも分からないわね。それで、あの子は今後どうするの?」
「むぅ……
こうして律火は二課で保護されることとなった。
名前を”天羽律火”とし、監視されながら書類上は奏の妹として過ごし、その中で聖遺物の一つに適合できることが判明し現在に至る。
奏の命を助けてくれたことや、この二年間一緒に過ごしたことでこの子自身への信頼というか、仲間意識のような物はある。だが……否、だからこそあの時見た、今は律火の心臓に融合しているという銀の鍵の事が……あの禍々しい、怖気すら覚える歌と共に現れたあの聖遺物の事が頭をよぎる。シンフォギアを纏わせて
今日も、新しい環境に放り込まれた律火に何か異変が起きやしないだろうかと気が気ではなくなり、いったん別れた後も結局隠れてついて行ってしまった。そして律火本人に気づかれて変な顔をされた。自分でも変だった自覚はあるけれど。
「ふぅ、止まった……何回乗っても慣れないなぁ、これ」
声に顔を上げれば律火が手すりを放して一息ついている。
思わず苦笑すると、少し顔を赤くして歩き出す律火をそのまま櫻井女史の待つシミュレータールームまで連れていく。
「いらっしゃい律火ちゃん。初めての学生生活はどうだったかしら? はい、私からの入学祝よ」
「へ? あ、ありがとうございます?」
現れた櫻井女史はそう言って律火に調整が済んだというギアのペンダントを渡す。律火が見るからに緊張しているので、リラックスさせるために冗談めかしているのは分かるが、入学祝に聖遺物の破片は物騒すぎる。
そこから律火が櫻井女史に訊かれ、リディアンでのことを話しはじめる。そしてしばらくたったところで十分に律火がリラックスしたと判断したのか、聖遺物”ブリーシンガメン”のシンフォギアとしての起動実験が始まった。
結果として、シンフォギアの展開は無事成功し、律火は正式に二課の装者となった。だが起動実験そのものは想定外の結果に終わったと言える。しかし――
「っ! ノイズ警報!?」
突如として街に出現したノイズ。そしてそれと同時にシミュレータールーム内にも異変が起こる。
中にいたはずの律火の姿が、どこにもなくなっていた。
現在水着イベント中なシンフォギアXDのタイトル画面でキャロル居なくて遠い目をしている私です。まあ奏さん居たからいいんですけどね?
それはそうと筆が全く進まない時ってどうすればいいんでしょうね? 永遠の課題よ