天羽律火の事件簿   作:景名院こけし

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ようやっとまとも(?)な戦闘回だ!


第三話 天羽律火の初陣

「……あれ? ここどこ?」

 

私は二課のシミュレータールームで調整の済んだ聖遺物”ブリーシンガメン”のシンフォギア起動実験を行っていたはず。その証拠に自分の体を見下ろせば、星空のように銀の粒子がちりばめられた紫色の鎧と炎をそのまま羽織ったようなマント……見間違えることは無い。調整前の起動実験でも纏ったことのあるブリーシンガメンのシンフォギアを身にまとっている。調整前と少しデザインが違うような気がするけど。

しかし周りを見ればその景色は明らかに街中。おまけに警報が鳴り響いている。ノイズが出現したことを知らせるものだ。

 

「了子さんがサプラーイズとか何とか言って戦闘シミュレーターを起動した? いやいや、いくらあの人でも流石にそんなことは……」

 

絶対にないとは言い切れないけど……

そんなことを考えていると近くで悲鳴が聞こえる。

 

「っ! いや、シミュレーターの訓練でもなんでも、警報が鳴ってるってことはノイズが居るんだ! だったら全力で戦う!」

 

私は悲鳴の聞こえた方へ駆け出す。たとえシミュレーターでも、ノイズが人を襲おうとしているなら止める。それがシンフォギア装者の役目だから。

 

「居た! あれだ!」

 

ノイズはなんというか、目に眩しいカラフルな見た目をしているので視界の端にでも映ればすぐにわかる。オレンジ色の人型ノイズ数体に追いかけられている人達を発見した。

 

「やらせない!」

 

―DWARF=FURNACE―

 

私はその場で跳躍して手の中に炎の球を発生させ、ノイズに向かって投げつけた。炎の球はノイズ達の中心に着弾したとともに膨れ上がり、灼熱の炉を形成する。炉の中のノイズ達は跡形もなく燃え尽きて消滅した。

これがブリーシンガメン……北欧神話の女神フレイヤが身に着けていたとされる首飾りの力。”炎の(ブリーシンガ・)装飾品(メン)”の名が表す通り、このシンフォギアは歌と共に炎を身にまとって自在に操ることができる……()()()操れるかどうかは私次第だけど。

 

迫っていたノイズが居なくなったことで、もしくは私が放った火球の衝撃のせいか。走っていた三人組は力尽きたように倒れ込む。火球のせいだったらごめんなさい。

ノイズに気を取られていてよく見ていなかったけど、三人ともリディアンの制服を着ていた。というか顔にも見覚えがある。今日知り合った子たちだ。確か安藤さん、寺島さん、板場さん……だったっけ?

いよいよシミュレーター説は苦しくなってきた。ということは起動実験中に何らかの原因で私が外に放りだされたのだろう。おかげで現場に即駆けつけられたので良かったかもしれない。もしこうなっていなかったらこの三人は……いや、間に合ったんだし、今は余計なことは考えないようにしよう。

 

さてこの三人、話しかけようものなら確実に正体がバレることになるけど……まだノイズは居るし、放っておくわけにもいかない。せめてもの抵抗とばかりに三人を庇うように背を向けながらちょっと声の調子を変えて話しかける。顔が見えないように角度を工夫することも忘れない。

 

「大丈夫ですか? 近くにシェルターがありますのでそこまで……」

「あら? 天羽さん?」

 

一瞬でバレた。まあそれはそうだ。一、二時間くらい前に会話してたんだし。

 

「ヨク分カリマセン 誰デスカソレハ?」

「ほんとだ! モーリーじゃん!」

「も、毛利? それは本当に誰?」

「あ、顔が見えた! やっぱ天羽さんだ! 何そのアニメみたいな恰好!」

「しまった!」

 

よくわからない呼び方をされて思わず振り返ってしまった。もう言い訳は効かない。

 

「えっと……一応、国家機密なので今見たことは誰にも……っと、そんなこと言ってる場合じゃなさそう。この話は後でゆっくり!」

 

気づけばノイズが大量にここまで集まってきており、私達四人を取り囲むように迫ってきている。ノイズは積極的に人を狙う習性があるのだしそれは当然か。逆に言えばほかの人はもう避難できたという事か、そうでなければ……ふと、風に吹かれて黒い粒子が舞っていることに気づく。ただの塵か何かだと信じたい。こんな物がかつて人だったモノだなんて思いたくない。しかし今舞っているのが何であれ、私が何とかしなければ、この三人は今度こそ()()()()。そう思うと途端に締め付けられるような寒気が胸から広がっていき、意思と無関係に手が震える。

 

「来るなら、来いッ! 炭になるのはお前らだけだッ!」

 

自分を奮い立たせようと声を上げたら予想より言葉が荒くなった。奏ちゃんに似てきたのだろうか?

私の意思に反応してシンフォギアは両手に火球を作り出し、それを私が頭上に掲げると同時に無数に分裂し、迫ってくるノイズに向かって飛んでいき、次々に貫いていく。

 

―ELF=FIREARROW―

 

「ほ、本当にアニメみたい……」

 

板場さんがポツリとつぶやく。確かアニメを勧めてきた子だったか。確かに、今日までの日々と今この瞬間はまるで違う。まるで急に現実からフィクションに飛び込んだくらいのギャップだ。今まで何度かあった訓練とはまるで違う。一体でも討ち漏らせばその時点でこちらの負け。せっかく仲良くなれそうだったこの三人とは二度と話せなくなる。そう思うと焦りから集中力が削がれていく。それで撃ち漏らしが出そうになってさらに焦るという悪循環に陥っているのが自分でもわかる。でも一旦落ち着く暇すらない。ノイズは次々と突撃してくる。

シンフォギアは確かに規格外の兵装ではある。けれど初めての実戦で、一人で誰かを守っていつまでも戦い続けられるような、そんな都合のいい力ではない。私にはそれを使いこなす経験が圧倒的に足りていなかった。だから、限界はすぐに来た。

 

「あっ―――――」

 

思わず、そんな声が口から洩れた。炎の矢をかいくぐって一体のノイズが接近してきたのが見えたから。一瞬後には後ろの三人のところへ突っ込んでいってしまうほどの速度で。炎の攻撃をもう一度撃つのも、手を伸ばして止めるのも、駆け寄って盾になるのも、逃げてと叫ぶことすらも、もう間に合わない。ノイズが迫っていることに気づいた三人がきつく目を閉じる。

 

 

 

 

そしてそのノイズが、上から飛来した刀に貫かれて消滅した。

 

「っ!?」

「よく、持ちこたえた!」

「翼ちゃん!」

「あたしも居るぞッ! とぉりゃあああああ!」

「参るッ! はあああああッ!」

 

―STARDUST∞FOTON―

 

―千ノ落涙―

 

二人の叫びを合図に剣と槍の豪雨が降り注ぐ。その一つ一つが正確にノイズを撃ち貫いていく。わずか数秒で雨は降りやんだが、それだけでその場にいたノイズは一体残らず消え去っていた。戦いが始まってからこれまでで私が倒した数よりも遥かに多いノイズが、数秒で。これが経験の差。私もいつかこんな風に戦える日が来るのだろうか? 今の私に、そんなビジョンは浮かばない。

 

「ふぅー、間に合った。大丈夫だったか? 律火」

「奏ちゃん……うん。大丈夫」

 

奏ちゃんの顔を見ると、一気に緊張が解けて私はその場に座り込んでしまった。それと一緒にギアの展開も解除される。

 

「おいおい、本当に大丈夫か? どこか怪我したのか?」

「原因は調査中だけれど、大した慣らしもせずいきなり放り出されて実戦だもの。無理もない」

 

二人が駆け寄ってきて支えてくれる。それにクラスメイトの三人も。

 

「三人とも、ごめんなさい。私じゃ守り切れなかった。二人が来てくれなかったら、今頃……」

 

本当に怖い思いをさせてしまった。私がもう少しうまくできていればあんなギリギリの体験をさせずに済んだのに……今はただ、二人の登場に安堵するとともに、この日の力及ばない自分が口惜しかった。

だけど、私の言葉を聞いた三人は一瞬キョトンとしたような顔になって、そのあと笑いかけてきて……

 

「えっと、なんでノイズと戦えるの? とか、あの格好なに? とか、いろいろ分からないことだらけだけどさ、これだけは分かるよ。モーリーはちゃんと私たちを守り切ってくれた」

「そうですよ。天羽さんが戦ってくれたからこのお二人が間に合ったんです」

「うん! だから私たちがお礼を言うことはあっても、律火ちゃんが謝ることなんて何もないよ! それにアニメみたいですっごくかっこよかった!」

 

そんなことを、私の眼をまっすぐ見て言ってくれる。三人の言葉を聞いているうちに、なんだか目元が熱くなってくる。

 

「律火、この子達クラスメイトだろ? いい友達が出来たじゃないか」

「そうね。こんな子たちがいるなら、今後の学生生活も心配なさそう」

 

奏ちゃんと翼ちゃんが優しく笑ってくれる。私も気づいたら笑顔になってて……

 

「……そうだね。すごく嬉しくて、とても安心できる。翼ちゃん、もう天井に張りついてまで見守らなくていいからね」

「ちょ、ちょっと! 律火!」

「ぶはっ! 翼、そんなことしてたのか!? あっははははは! 緒川さんかよ!」

 

思わず言ってしまった私の言葉に、案の定お腹を抱えて大笑いする奏ちゃん。まるで緒川さんがそんなことしたような口ぶりはどうかと思う……流石にしてないよね?

……まあ、それはさておき。私は三人の方に向き直る。

 

「その、今日の事で、守秘義務とか、いろいろ面倒かけちゃうことになると思うけど……いやそれもあるけど、言いたいのはそういうことじゃなくて、えっと……」

 

こういう時の良い言葉が見つからない。なにせ友達なんて出来たことがないんだから。翼ちゃんは奏ちゃんと同じく姉妹みたいな感じだし。

 

「律火、こういう時は変に考えず、想ったままを伝えればいいんだぞ」

 

あたふたしていると、奏ちゃんが苦笑しながら助言をくれる。

 

「あ、うん……そ、その! これからも仲良くしてください!」

 

立ち上がって思いっきりお辞儀する。三人からの回答は

 

「「「もちろん」」です」

 

だった。

 

この日から、私は正式に二課のシンフォギア装者として戦うことになった。たくさんの苦難、忘れられない思い出、恐ろしい敵、心から守りたいと思える人々、そして信頼できる仲間。いろんなものに出会っていく。

でもそれはこの時の私にはまだわからないことで、この時はただ、ノイズに触れられれば一瞬で崩れ去ってしまうと思い知ったかけがえのない日常を、仲間と共に絶対に守り通そうと心に誓うのだった。




今回はやけに早く書けました。
律火の使う技の名前は武器や道具の名前が=の後、それに関係ある種族とかの名前が=の前に来ます。今回の
ドワーフ=炉
エルフ=火矢
みたいな。

そして今回は例の三人組登場。板場ちゃんは一話にも出てましたが。この三人好きです。電光刑事バンの歌のところとか。特にカマキリの格好させられた安藤ちゃん。

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