例えば、の話   作:鈴鹿

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魔法使いって要はものすごい便利屋さんだろ、と思って書いた


例えば、の話

もしもこの世界において魔法、魔術、あるいは陰陽術や呪術といった不思議で不気味で物騒で、しかし個人差があって何もエネルギーを必要としない奇跡のような現象が、跡形もなく消えてしまったら。

もし、この世界では廃れ、蔑まれ、過去に偉大な成果を残してきた偉人達の足跡、努力の結晶、誰にでも使える便利な科学という学問が、今まさに出現したら。

 

それは実に夢のある話だと、私は思う。

こんな事を言ってもまったく馬鹿馬鹿しい話だと笑うだろう。

しかし私は、それでも実に愉快だと、実に可能性が広がる話だと思う。

なぜなら、科学が発達する事で、今の世界のバランスが一気に書き換えられるのだから。

 

今のこの世界において、魔法とは奇跡の力。

個人によってその力量には天と地ほどの差ができてしまい、それが結果的に格差社会を生み出す要因となってしまっている。

それこそ蝋燭に火を灯すのがやっとの者がいれば、見渡す限りの森を一瞬で焼き尽くせる者もいる。

かと思えば森を再生できる者や、水の恵みをもたらす者もだ。

魔法とは何処までも優秀で万能な、まさに奇跡の様なものなのだ。

そしてそれらは当然のように優秀かそうでないかで区別される。

優秀な者は国の中枢で飼い殺され、そうでない者は市民に紛れて泥臭い仕事に駆り出される。

 

この世界において魔法使いとは誉れ高き称号であると同時に、忌むべき国家の犬と落ち零れの証でもあるのだ。

 

魔法の素養に恵まれた者は幸運だろう。

なぜなら死ぬまで国家に使われ、墓の心配すらしなくて済むのだから。

魔法の素養に乏しい者はさらに幸運だ。

なぜなら人並みの幸せを掴むことが出来るのだから。

 

 

 

 

「もっとも、こんな話をしている私自身も、国家の犬という称号を与えられた道化の一人だがね」

 

全く忌々しいことに、と壇上で教鞭を振るうまだ若い女性教師が皮肉げに笑った。

 

私―――クローゼル・レイラインは今、魔法国家アンバルの魔法使い養成学校の講義室で魔法使いの歴史についての講義に参加していた。

この講義はあまり人気がなく、参加している生徒は十人にも満たない。

それはこの講義の担当教師がこうした皮肉を口にしては、生徒から反発を受けた結果だ。

 

歴史の講師であるこの女性、名をハンニバル・アサインメンツという。

アンバルでも有数の魔法の使い手と称され、事実彼女は赴任早々にここの講師全員を叩きのめすという事件があった。

実力は高いが、性格は悪い。

アサインメンツ先生の評価は、その一言がもっとも適切だろう。

事実、先生は自尊心の高い―――所謂クソ餓鬼―――生徒には本当に容赦のない制裁を、やる気のない生徒には最低評価を贈っている。

苛烈な罰に加えて、この魔法を批判するような授業とくれば、生徒から畏怖と嫌悪を向けられて当然と言えよう。

 

―――これは私がたまたま聞いてしまっただけだが、生徒が減ったことを知った先生は「これで楽が出来るな」と呟いていた。

 

「君達がこれからどんな魔法使いになるのかなど興味はないが、国民から支持されるなどとは考えないことだ。魔法使いとは、都合の良い道具でしかないのだからな。過去にいた偉大なる魔法使い、例えば魔法使いでありながら騎士として名高い魔法騎士カムランは隣国との大戦を終結させた英雄として奉られているが、彼の大戦の後の明確な足取りや人生を知っているものはいるか?」

 

話を区切り、少ない生徒の―――私達の顔を一通り見回して、教鞭の先をふっと一人の生徒に向けた。

先生は生徒の指名をする時に名前を呼ばない。どころか声すらかけない。

生徒は指名されたことに自分で気付かないといけないからなかなかに気が抜けない。

 

その生徒はすっくと立ち上がり、しかし困ったような顔で首を傾げていた。

 

「いえ、僕が知る限りではそういった記述がされている歴史書はなかったと思います」

 

「だろうな。私も見た事がない。では、何故ないと思う?」

 

「えっと……」

 

まさか国が記述を消しているなどとは答えられない。

そんなことを言おうものなら、そしてそれを誰かに聞かれたら最悪斬首だ。

良くても独房行きは確定する。

例外もあるが……それは本当に特殊だ。

 

口ごもった生徒に、答えられないと判断したらしい先生は生徒から目を離すと、流れた視線の先にいた私を捕らえた。

目があったら立たなくてはならない。

私は立ち上がると、戸惑うこともなく答えた。

 

「適当な理由をでっち上げて研究材料にでもしたのでしょう」

 

「ご名答。あの骨格標本には驚かされたものだ」

 

私と先生の受け答えに、他の生徒が息を呑む。

先ほど説明した通り、こんなことを言ったら最悪斬首である。

国家侮辱罪、とでも言うのか、国家に歯向かう思想と思われたらそれだけで処刑台に直行される。

過去にそれでどれだけの人間が首を落とされたか知らないが、結構な人数だったと記憶している。

もっとも、そんなことは私と先生には関係のない話だ。

 

魔法使いには一人一人に特性や属性といったものがある。

圧縮、拡散、増幅といった特性と、火、水、風といった属性だ。

一般的には特性を持つ者はそれだけで優秀なんだとか。

そして属性にも特別なものがある。

それが光と闇。

光の属性を持つ者は、確認されただけで今までに十人といない。闇はさらに少ない。

 

そのうちの光を持つのが私で、先生は闇を持つ。

さらに言うなら、私は吸収という、他の魔法使いが放つ魔力を吸い取る特性を、先生は消滅という、魔法を消し去る特性を持っている。

 

つまり、私と先生は国家にとって手放せない人材というわけだ。

故にどんな不敬な言動をしようと黙認される。

が、死後は研究材料確定という、墓にも入れない末路が待っている。

嫌な話だ。

 

「カムランの他に錬金術師トラントや業火灰塵と呼ばれたベアル、聖女マリエなども歴史から突然に姿を消している。どの歴史書にも御伽噺のように末永く幸せに暮らしました、で切られている。こんなもの、多少の見識を持つ者なら誰が見ても分かる。だがそれを誰も指摘しないのは、死にたくないからさ。まぁ、強引に公表したところで誰も信じないだろうしね」

 

所詮は国家の盤上の出来事に過ぎないのさ、と先生はまた皮肉げに笑った。

 

「さて、では優秀な君達に一つ課題を出して終わろう。この国家……いや、我々魔法使いの祖である賢者ヤクシャ・ガラジンについてだ。彼の生涯とその末路についての考察は前にしたな? ではそれを踏まえ、君達がもし彼の立場にあったらどうしたかをレポートにして提出しろ。なお、単なる妄想の類を書いたものは例外なく最低評価を送ってやるから感謝して励めよ」

 

では、ここまで。

先生の号令に合わせたようにチャイムが鳴り、先生は教材を持ってさっさと教室から出て行った。




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