例えば、の話   作:鈴鹿

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続けちゃったお話。
先生は元からやさぐれてます。



先生の話

チャイムと同時に面倒な授業を切り上げ、足早に餓鬼臭い教室から脱出する。

授業外で私に話しかける生徒などいないし、そもそもまともに授業を受けている生徒自体少ないのにわざわざ教室に残ってもすることはない。

ブラブラと小奇麗な廊下を気だるく歩きながら、なんとなく、何故私がこんなことをしているのかと思い返してみた。

 

 

 

私は生まれたときから既に国家に目を付けられていたらしい。

両親は監視の目に晒されていつもピリピリしていたし、後から生まれた妹は魔力無しの一般人で平凡そのものだった。

私が闇を抱えて生まれたことに血筋は関係ないだの、先祖返りがどうのと話を聞いた事があるが、それはどうでもいいか。

とかく、私には生まれてこの方精神的自由というものとは無縁の生活をしていた。

それが異常だと薄々は気付いていたが、それをどうこうするのも面倒で、そもそもどうにかしたいわけでもなかったしで、癇癪起こして暴れもしなかった。

そんな子どもらしからぬ子ども時代から抜け出した頃、色々と諦観癖のついた私に国が声をかけてきた。

その時の言葉は今思い出しても笑えるものだ。

「国家の為にその才能を使う気は無いか」。そう言ってきたのだ。今までずっと監視しておきながら、逃がす気など毛頭ない癖に、あたかも逃げ道が用意されているような言い方をする。

それなら有無を言わせず来いとだけ言うほうが幾分かマシだろうに。

ありもしない希望を持たせるあの言い方は、時に何よりも残酷だ。

 

そうして私は研究機関に見習いと言う名のモルモットとして放り込まれ、研修と称した実験の日々が始まった。

内容は簡易的な診断テストから何かの拷問かと思えるような耐久テストまで様々だ。

ある日は一日中どこぞの部屋に監禁され、またある日は機材が乱立する薄暗い部屋で魔法を打ち続けるだけ。そういえば、訳のわからない機械に繋がれたこともあったな。

もっとも、国は私が壊れてしまっては困るらしく、そう過激な実験は行われなかったのは唯一の救いか。

そんな毎日で出会う人間は全て研究者ばかりだった。

どいつもこいつも私をモノとしてみているのが易々と分かる目で私を見て、まさしく機械の様に淡々とデータを取るだけ。会話なんて成り立ったこともない。

中には人間らしい研究者もいたが、それらは私に同情してくるだけで鬱陶しいことこの上なかった。

同情する暇があるなら、私に話しかける暇があるならさっさと研究を終わらせて欲しい。

 

そんな日々の中で、私はたまたまあるものを目にした。

パッと見はただの骨格標本。なかなかに大きく、生前は結構な体格の男性だったのだろう。

しかしその骨格は、ところどころおかしな点があった。

例えば頭蓋骨。額の部分に、人間にはあるはずのない突起が二つあった。

そして指。こちらも人間には有り得ないほど鋭く尖り、まるで凶器のようだった。

他にも肋骨の数が合わなかったり、足に刃物のような突起がついていたりと、まるで生体兵器のような骨格をしていたのだ。

そして貼り付けられたラベルは『魔法騎士カムラン』。

 

私は笑ったよ。かの高名な英雄が墓にも入れずこんなところで晒されていることが笑えたんだ。

まさかここでこんなものが見れるなんて思ってもいなかった。

カムランを見つけてからよくよく研究所の中を探してみれば、他の英雄や賢者、聖女と謳われた人物のサンプルまで見つけてしまった。

そこまでして、ようやく私は悟った。

あぁ、私は墓に入れないんだな、とね。

まったく、我ながら鈍かったものだ。そしてあの状況でまだ私は希望なんていうものを持っていた。

それを粉々に砕かれてからは、本当に全てが他人事に思えだした。

 

あれから言われるままに実験を繰り返し、勉学を重ね、何を間違ったのか魔法学校の教師。

国からのお達しがあったときは耳を疑った。

また何かの実験か、それとも建前だけの詐称かとも思った。

しかし実際に私は教師として学校に赴任し、こうして慣れない教鞭を振るっている。

本当に、国は何を考えているのか分からない。

 

 

 

ふと気付けば、もうすでに私の研究室の前に来ていた。

アレコレと懐かしくもない思い出に浸るうちに着いていたらしい。

ぼうっとしていてはダメだな。

 

扉の鍵を開錠して扉を引く。

そこで、唐突に背後から声をかけられた。

 

「あの、アサインメンツ先生」

 

聞き覚えのある女生徒の声だ。

ため息混じりに振り向けば、そこに立っていたのはクローゼル・レイライン。

手に持っているのは、なんらかのレポートらしきもの。

それを持ったまま、どこか自信と期待に満ちた瞳を私に向けている。

 

「………まさか、もう出来た訳ではあるまいな?」

 

「はい。出来ました」

 

私の問いかけに素早く答えながら差し出されたレポートを渋々受け取って、流し読み程度に目を落とす。

ざっと読んだ限り、まぁ及第点だろう。

何故ヤクシャが魔法を広めたのか、何故ヤクシャは消えてしまったのか、そしてそれに対する自身の意見と己ならどうするか、何故そうするのかをしっかりとまとめられている。

これならまぁ、いいだろう。

 

「……よかろう。確かに受け取った」

 

顔を上げてそう言っても、クローゼルは動かない。

むしろまだ用は済んでいないというように私を見る。

 

……これだから、優秀な生徒は面倒なのだ。

大方、私の考察でも聞きにきたのだろう。

 

私はまたため息を吐きながら、クローゼルを研究室に招き入れた。




続く?
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