どちらも真実で、どちらも妄想。
「クローゼル。お前は碌な死に方をしないぞ」
アサインメンツ先生の授業が終わって、先生の研究室にお邪魔しているとき、唐突にそう言われた。
言われた私は口に運ぼうとしていた紅茶を止め、は? と疑問符を頭に浮かべて首を傾げる。
先生の口が悪いのはいつものことだが、何故いきなり私の死に方について言われなくてはならないのか分からない。
また偉い人から何か言われたのだろうか。
それとも月の日なのかな?
「突然どうしたんですか?」
「お前もそのうち、国から直々に何らかの接触がある。
その時は諦めて遺書でも書いておけ」
ますますもって訳がわからない。
国から接触? 遺書を書け?
というか諦めろってどういうことだろう。
いくらこの国でも、独裁的で横暴なことは出来ないはずなのに。
「授業でも散々教えているだろう。魔法使いに人権などないと。
我々にあるのは膨大な魔力と稀有な特性、そしてモルモットへの道だけだとな。
魔法使いに比べれば、犬畜生のほうがよほど幸せだ」
「え、でも、この国は魔法至上主義ですよ?」
「それがどうした。そんなものは魔法使いという便利で不可思議な労働力兼研究対象を逃がさないための方便だ。
賢しい奴なら誰もが魔法使いに侮蔑と同情を寄せてくるだろうさ。
この国が、私たちの様な魔法使いの自由を保障するはずがなかろう」
それはつまり、なんだ。
まさかとは思うが、本当に魔法使いは道具、なのか?
先生の言っていた皮肉は本当なのか?
………あれ?
「能天気で気楽なお前に良いことを教えてやろう。
この国が建国されてから今の今まで、他国からなんと呼ばれているか、知っているか?」
「……いえ、知りません」
正直に質問に答えた私に、先生はとてもいい笑顔を向けてきた。
授業では淡々と進めるだけでほとんど抑揚もない先生の笑顔は、綺麗と言うより不気味だった。
「『箱庭帝国』だ。権力者の、研究者による、魔法研究のための箱庭。
国民は研究費用を、魔法使いはサンプルに、権力者は国民の意識操作を。
それらは全て研究のためだ。これこそまさに究極の箱庭国家と呼ぶに相応しい。
私達が学校で最初に習うことはなんだった? 『アンバルに繫栄あれ』だ。
子どもの頃から徹底的に国家に服従するように教育されるのさ。
長年に渡って刷り込まれるその洗脳の効果は、今のこの国を見れば一目瞭然。
分かりやすく体感したいなら日曜に教会に行くと良い。あそこはいつでも狂喜とお友達だからな。
きっと洗礼と称して妄想の演説を一日語ってくれる。
そうして手間をかけて国家を形作り、国家の中心に研究を据える。
すると出来上がるのは、『研究のためなら何でもする狂った国家』。
作られた箱の中で生まれた我々がモルモットなのは当然の帰結だろうさ。
どうだ。いいことだっただろう?」
先生の何時になく上機嫌なお話は、しかし私にはそれこそ信じようがない内容にしか思えなかった。
今までの授業で私が答えていた内容は、半ば冗談の様なもので、先生の皮肉に同調していただけの軽いものだった。なにせ先生の話はいつも確証のない突飛なものばかりで現実味がなく、魔法の研究とやらも人道的で、私達魔法使いは皆から尊敬される存在だと漠然と思っていたのだから。仮に魔法使いに負の感情を持つ人がいてもそれはただの僻みだと、そう信じていたのだから。
まさかその裏に同情や哀れみがあるなんて考えられるはずがない。
でも、私の根底にあるその感情すら操作されたものであるなら? ………それは分からない。
馬鹿にするには大きすぎ、信じるには確信のない話を聞いて黙ってしまった私に、先生は上機嫌な様子から一変していつもの覇気のない態度に戻ってしまった。
「まぁ、お前はそのうち嫌でも知ることになる。
その時に精神が逝かれない様に構えておけ」
最後にそれだけを告げ、先生は机の上に置かれた資料に向かい合った。
私も手元の紅茶を飲み干し、先生の背中に一礼して逃げるように研究室を後にした。
次はテンプレ主人公でも出すかな