例えば、の話   作:鈴鹿

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魔法と科学が混同された世界なんて出来るはずがない。
なぜなら魔法がある限り、科学に発展の芽は出ないのだから。


科学と謎の話

「建国からこの国が研究に全てを注いできたことは知っているな? 知らぬというならお前たちは幼子以下だ。この国の研究している魔法とは、それこそ多岐に亘っている。お前たちが使う系統魔法やその身に宿る特性、特定個人にしか使えない個人技能、さらには魔力で構成されているとされる精霊でさえな。……では、それらを何故、どうして研究しているのか、答えられる者はいるか?」

 

「はいっ!」

 

先生が指名するよりも早く、元気のいい声で挙手する人物がいた。

赤い短髪にしっかりした体つき、端整というにはまだ幼さが残る青年。

確か彼は…………ブレイブ・ルイスだったかな。火の属性と増幅の特性を持つ生徒。その属性が表すとおり暑苦しく一本気で、何処までも気合で何とかしてしまいそうな性格をしていたはずだ。

ただし、授業を頻繁にサボる。そして礼儀を知らない。さらに問題行動を頻繁に起こす。要するにどこまでも悪餓鬼なのだ。プライドだけが取り得の生徒と比べれば幾分かましだが、そのプライドだけの生徒との間でも喧嘩を頻発させているとか何とか。

そんな彼は、意外な事にこの不人気な歴史の講義を取っている。他の授業は頻繁にサボるくせにこの授業だけは基本的にサボらない。そしていつもいつも、とある生徒の隣に座る。何が目的かは……まぁ、言うまでもないだろう。

 

「いいだろう。ルイス、答えてみろ」

 

「うっす! 魔法の研究をすることで国を豊かにするためっす!」

 

「はずれだ」

 

威勢のいい回答をばっさりと切り捨てる先生。それに他の生徒の失笑と呆れ気味なため息が加わる。かく言う私も、それらに混じってため息をついた。

先生はあぁしたもったいぶった質問の仕方をしたが、実際の所、その答えは歴史の初歩を学んでいれば誰でも分かることだ。正直改まって聞くことですらない。歴史を選択している生徒が答えられないことは、普通ならば、有り得ないのだが。どころか魔法使いなら常識とも言える。

これが、不良生徒の実態である。

よほど自信のあったらしい回答を切り捨てられて固まるブレイブ・ルイスを放置して、先生はその隣に座っている生徒に目を向けた。

その生徒は即座に立ち上がり、至って普通に答える。

 

「魔法を研究することで、ヤクシャ・ガラジンの予言にある人類の滅亡を回避するためです」

 

「そうだ。そして生活水準が上がるのは副次的なものに過ぎない。これは魔法使いにとっての常識だな。まさか知らぬ者がいるとは思わなかった」

 

答えた生徒を座らせ、先生は一度だけブレイブ・ルイスに目を向けて再び授業に戻る。

当然ブレイブ・ルイスは立ったままだ。常識すら知らない生徒を座らせてくれるような先生は早々いないだろう。

 

「ヤクシャ・ガラジンは生前は始祖と呼ばれた魔法使いであり、また優れた予知という特性を持っていたらしい。その特性によって彼、あるいは彼女は幾多の危機から人々を守り、導いてきた。そして、後世に向けた予言も幾つか存在している。その内容は極秘扱いだが、唯一の例外が『人類は富み、血肉は栄え、星が満ちる。大地が嘆く先に光と闇が住まうとき、空が墜ちる』という予言だ。この意味不明な予言は、この国では一般的にこう訳される。『人類が文明を進め栄華を極めたとき、光と闇を持つ者が人類を滅ぼす』。つまり、いずれ光と闇の属性を持つ二人が世界を滅亡させるのだと。細かい訳は省略するぞ。他国がこの予言をどう解釈したのかまでは分からないが、その予言を回避すべくこの国は日夜研究に励んでいる。

その研究の現第一人者は、知っているな?」

 

ついっとブレイブ・ルイスの後ろに座る生徒に教鞭を向ける。

こちらもまた、魔法使いの常識だ。

今の第一人者はその役職以外でも色んな意味で有名なのだから。

私個人としては、とてつもなく好かない奴でもある。

 

「グラッドン・レイラインです」

 

「そうだ。あれは生粋の研究狂いらしいな。私も一度だけ遠目に見たことがあるが、それだけでも大体どんな人物か理解できた。痩せこけた頬に汚い服、洗っていない髪に濃すぎる目下の隈。一体どうすればああなるのか、知りたくも無い。……あぁ、そういえばクローゼルの父親だったな」

 

「あれを父親と思ったことはありません」

 

まったく持って忌々しいことだが、あんな奴の血が私の体に流れているのは事実だ。

しかしまともに会って話したことも、そもそも面と向かってあったことすらない。

会おうとも思わないし、会ったところで話すこともない。

そんな縁のないあいつが、私は心底嫌だった。

 

嫌悪感を隠す事無く言い切った私に、先生は然したる興味も示さず、そうかとだけ言った。

 

「そのグラッドンは第百一代目の代表者だ。一代目についての記録はほとんど残っておらず、かろうじて、デウス・エクス・マキナという名が残っているだけ。一説にはこの人物が建国の功労者だという説もあるが、真偽は定かではない。ただの研究者だったのか、それとも国を裏から動かす策謀家だったのか……。そもそもこの名前自体、偽名という説もある。何せ、デウス・エクス・マキナ―――『機械仕掛けの神』などと言われてはな。果たして、彼ないし彼女は作り上げた自前の舞台でどんな喜劇を謳い上げていたのか。私では想像すら出来ないな。

しかしそんな居たかどうかも疑わしい人物の研究資料のお陰で、この国は廃れた科学と言う代物までも持ち出して研究に明け暮れることが出来ているというわけだ。その忌々しい恩恵には感謝と敬意が絶えないな」

 

「―――なぁ、なぁ」

 

先生がいつもの皮肉を言い出すと同時に、隣に座る誰かが小声で私に話しかけてきた。

正直無視したい。でも無視すればこの誰かさんはしつこく話しかけてくるだろう。それは今までの経験でよく知っている。

鬱陶しいが、仕方ない。

私はそちらに顔を向けずに返事を返すことにした。

 

「……何」

 

「科学って、そんなに廃れてんのか?」

 

……こいつは本当にこの国の住人なのだろうか。

いや、そもそもこいつは本当に歴史を学んでいるのだろうか。

一度その中に詰まっている脳みそをぶちまけて取り替えたほうがいいのではないか。

 

咄嗟に口をついて出かけた言葉の数々を何とか飲み込み、しかし零れたため息までは止めることはできなかった。

そんな私の様子に、誰かさんはうっ、と決まりの悪そうな声を上げる。

 

その下らない質問に答える気はない。

しかし、そのお陰で気になることが出来た。

それだけは感謝しておこう。

 

私は先生の話に区切りがつくのを待ってから、すっと手を上げた。

 

「どうかしたか」

 

「いえ、先ほど先生は廃れた科学、と仰っていましたよね? そこでふと思ったのですが、何故科学が廃れてしまったのでしょうか?」

 

素朴な疑問だ。

科学は誰にでも扱える技術である、と先生は以前言っていた。

ならばどうしてそんな便利なものではなく、魔法が発展しているのか。

格差を生まない科学ではなく、個人差のある魔法なのか。

唐突な私の質問に、先生は詰まる事無く答えた。

 

「さてな。私の知る限りでは、ある日を境に過去の文明が消えたということしか知らん。

何があったのかを記した文献は一つもないし、発見された遺跡にあった住居には人以外の全てが何事もなく残されていた。それこそ干された洗濯物や置かれた朝食、つけられたままの機械に、繋がれたまま息絶えた犬の死骸もあった。日常から人だけが消え去っているという奇妙な状態、といえばいいのか。何故そうなったのか、原因はまったく分からない。……あぁ、余談だが、その遺跡には、不思議な事に草木一本生えていなかったよ。これこそ、まさしく歴史のミステリーだな」

 

「つまり、ある日突然人だけが消えたと?」

 

「そう言っている。そして残された過去の遺物こそが、この国で研究に使われていると科学、というわけだ。しかし何分過去のもの故に、完全に使いこなすには至っていない。それに科学でなくとも魔法があるのだ。過去の遺物を普及させる必要もない。魔法では困難なことの補助として機能できればそれでいいのだから。……納得したか?」

 

まだ、聞きたいことはある。

魔法がありながら何故、研究に科学を使っているのか。

魔法で困難なこととは何か。

その消えた人々は何処に行ったのか。

 

だがこれは、また個人的な講義をお願いしよう。

私は先生に頷き、再び授業が再会された。

 

 

そういえば、何か忘れているような………。

気のせいか。




ものすごくちょい役な主人公っぽい男の子登場。
これから先に彼が出てくるなんて思えない。
まぁ、トラブルメーカーとして出てもらうかもしれない。
いや、案外誰かさんとラブラブとかしないかもしれない。
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