冷たい人はいつも温かい。
八方美人はみんなに冷たい。
そんなもの。
「魔法とは、我々選ばれた者達の証である!」
という話を何処かで聞いた事がある。
それは学校か、道端か、それとも何かのチラシだったかも知れない。
知人から聞いたかもしれないし、まったくの他人からだったかもしれない。
そこまで曖昧な記憶ではあるが、私は確かにそんな話を聞いた事がある。
その話によると、私たち魔法使いは世界に選ばれたまったく新しい人類であり、古い世界から新たな一歩を踏み出すことを許された特別な存在なんだとか。
自然と言う超常のものを操ることの出来る私たちこそが古い人類を導き、守り、支配する事が許された存在だと。
当時の私はそれを聞いたとき、漠然とその話に共感するものがあった。
別に私は世界を支配するだとか、そんなことはどうでもいいのだが、世界に選ばれたというところには頷いていた。
魔法使いはただの人間には出来ないことが出来る。
それこそ自然を操り災害を起こすことも、また防ぐことも出来る人を超えたモノ。
それに魔法使いはそうであるだけで国から援助が出る。
つまり、国からも認められる特異なモノなのだ。
これだけでも十分に、魔法使いが選ばれた者と言って良いだろう。
それに私の属性は、前例の少ない光。
多少なりともそれで選民思考に陥る土台があった。
そして入学した魔法学校でもその意識は多かれ少なかれ誰もが持つもので、それが当たり前なんだと思っていた。
もっとも、それも先生に出会ったことで見事に打ち砕かれたけれど。
「先生は、自分が特別だー、とか思ったことはないんですか?」
何時だったか、そんな質問をしたことがある。
その時は先生がちょうど論文を書いていたところで、私に見向きもしないでこんな回答をもらった。
「私とお前はこれ以上ない特別だ。代えのきかない貴重品」
手元が忙しいらしく、皮肉を交えることもなくそういった。
それ以上のことはその時は聞くことができなかった。
それでも、先生はいつものように自虐的に、現実を悲観的に見ていると分かる。
私もそのうち先生のようになれるんだろうか。
現実を知ることが、それを受け入れることが出来る様になるだろうか。
実に滑稽な自問だが、それもまた、いい暇つぶしになるだろう。
「ちょっといい?」
学校の無駄に広い屋上でぼうっとしていると、不意に誰かに声をかけられた。
はっとしてそちらを見ると、そこに知らない顔の女の子が、私の顔を覗き込んでいた。
長い金髪と銀色の大きな瞳が特徴的な、身長の低い女の子。
その子がニコニコしながら、私を見ていた。
「あ、えっと、何か用?」
「もちろん。用もない奴に声をかけるほど暇じゃない」
子どもみたいな高めの声で楽しそうにそういいながら、女の子は自然な動作で私の隣に腰掛ける。
見た目の割りに性格がきつそうな子だ。
でも、こんな性格のほうが、今の私は好感が持てる。
何となく先生みたいだからかな。
まぁ、それよりもまず、何でこの子はこんな男らしい口調なんだろう。
「オレはルス。お前は?」
「私は、クローゼル。よろしく?」
「短い付き合いになるから、よろしくしなくていい」
声と口調があまりにミスマッチすぎて気になる。
想像してみて欲しい。
まだ小学生くらいの見た目の女の子が男らしく話している光景を。
ちょっとどころじゃなく気になるはずだ。
こんな外見で生意気を言われても微笑ましく見える。
「では、クローゼル。今から二、三ほど質問する。
嘘を交えず、正直に答えろ」
「うん、分かった」
「一つ、お前にとって魔法とは?」
最初の質問にしては随分と難しい質問だ。
私にとっての魔法、と聞かれても、答えるのは難しい。
そもそも魔法とは、素養のある者のみが使える不可思議な力のこと。
その素養が何故あるのか、また何故ない者がいるのかなどまるでわからない。
使用する際に失われる精神力とやらも詳細は不明という、よくわからない代物なのだ。
そう答えてもいいのだが、きっとそれはこの子が聞きたい答えじゃない。
なら。
「私にとっての魔法は、私たちを幸せにしてくれる誰かからの贈り物。
それが世界か、カミサマかは分からないけど、きっと私たちの幸せを手助けしてくれるものだと思う」
夢見がちな少女のような回答になってしまったが、これはきっと間違ってないと思う。
魔法は使う人によって色んなことをさせてくれる。
壊すことも出来るけど、それ以上に創り出してくれる。
だから魔法は、誰かからの幸せな贈り物。
ルスは相変わらずニコニコと笑いながら、それをメモ帳に書き込んでいった。
あぁ、きっとレポートか何かに使うんだろうな、と今更ながらに納得した。
「では次。お前にとって、魔法使いでない者たちとは?」
……これもまた難しい質問だ。
魔法使いではない人たち、つまり魔力を持たない一般人については、きっと魔法使いの間では意見が二分するだろう。
一般人は魔法使いに劣るからと格下に見る人と、一般人は魔法使いが守り導くものだという人。
まぁ、どちらにしても一般人を下に見ていることに変わりはないが。
でも多分、私はそのどちらでもない。
「そうだね……。私にとってあの人たちは―――どうでもいい存在、かな。
だって、会ったこともない人たちなんて興味を持つほうが難しいでしょ?
私は身内なんて会ったこともないし、私に関係がないならどうでもいいよ」
冷たいかもしれない。非情かもしれない。
でもこれは間違いなく私の考えだ。
会ったこともない人を貶めるのも、その他大勢を率いるのも、私はしない。
だって私は私とその周りだけで満足してるから。
見ず知らずの人なんてかまっていられない。
「なるほど」
ルスはただ書き留めていく。
私としては、もう少し何かしら反応してほしいところだが……。
私が誰かにこの話をすると、みんな決まって意外そうな顔をするのに。
私の事は本当に気にもせずにカリカリと一生懸命にペンを動かしていたルスが、数分後にようやく顔を上げた。
その顔はやっぱり笑顔で、さっきからまったく、眉一つ動かない。
………今更だが、この子は、何なんだろう。まるで人形みたいな……。
「では最後。もし魔法がつかなくなったら、お前はどうする?」
疑問に思ったことを本人に確認する間もなく、最後の質問を投げかけられる。
そしてその内容がまた、とんでもない設定の質問だった。
もし魔法が使えなくなったら、きっと世界中が混乱するだろう。
今ある魔法使いの特権が崩れ、無駄にプライドの高い魔法使いと一般人の間には軋みが出来る。
この国が推進している研究も無駄になるだろうし、この国は崩壊してしまうかもしれない。
そんな状況になった時、私ならどうするだろう。
頑張って想像しようとして、そんな仮定を思い浮かべて、悩むこと数十秒。
「んー………特に何も、しないと思う」
悩んで、出した答えはなんとも締まらないものになってしまった。
でもそもそも、魔法が使えない世界を想像するのが難しい。
それにもし魔法がなくなっても、きっとまた別のものが生まれるはずだ。
それこそ今は廃れた科学や、もっと別の何かかもしれないが、きっと何かが出来る。
なら、別に私が騒いだりしなくてもいい。
私はそう思った。
ルスは私のその間抜けな答えをせっせと書き込み、少しばかり考えるように頭をこてんと倒した。
その動作が小動物にも、得体の知れない何かにも見えて、とても不思議な気分になる。
見た目はただの女の子、でも何かおかしい。何がおかしいのかまでは分からないけど、何となく、違和感を覚えるのは何でだろう。
でも、やっぱり可愛い女の子には変わりない。
私の混乱する内心に気付かないルスが、何かをはたと思い出したようにぽん、と手を打ち、そしてベンチから飛び降りた。
「ではな」
礼もなく、振り向くこともなく、短い別れの挨拶を告げて、そのままルスは足早に去っていった。
その背中を呆然と見送りながら、私は今頃になって、彼女が白衣を纏っていることに気付いたのだった。
毎度、前書きが意味不明だね。
次はナンパされる先生でも書こうかな。
脂ギトギトのおっさんとかは出したくないけど。