例えば、の話   作:鈴鹿

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操り人形と奏者の関係は、糸。
国王と国民の関係は、権力。
では、虚像の王と愚かな民の関係は?


国王の話

今日、私たちは、学校に来るなり先生達の指示によって講堂に集められた。

私たち、というのは、全校生徒だ。

集められた理由はまだわからない。

生徒総会や朝礼なんて行事はないし、何かのイベントにしても全生徒を集めてまでやるようなものなら誰かしらが聞いているはずだが、それもない。

予定なんて当然知らないし、周りを見回してもみんな不思議そうな顔をしているだけだ。

情報にうるさい同級生ですら不思議そうにしているのだから、生徒は誰も知らないだろう。

ならばと思って先生の方を窺うと、アサインメンツ先生はいかにも面倒臭そうに椅子に座っているだけで、いつもと変わりない。

それを見て、先生ならどんな状況でも似たようなものだから参考にはならない、というのを思い出し、早々に視線をアサインメンツ先生から隣の先生に移した。

その先生の名前は………なんだったか思い出せないが、それなりに年配の先生なのだが、遠目に見てもガチガチに緊張しているのが見て取れる。

他の先生をざっと見回してみても、アサインメンツ先生以外の全ての先生の顔が多かれ少なかれ強張っていた。

その中には、普段は偉そうにふんぞり返っている蛙のような校長や、鈍い光沢を放っていて若干眩しい教頭も含まれていて驚いた。

 

どうやら先生方がガチガチになってしまうほど、偉い人か何かが来るらしい。

しかし、この学校は国営の特別機関に属するはず。

先生にしても、生徒にしても、厳しい試験や格を問われてようやく入学なり就職が出来る。

それ故にこの学校に属しているというだけで、下手な地方役人などよりもよほど権限があったり、言い方を悪くすれば好き勝手できるのだ。

しかもこの学校よりも権限が上に来るのは、魔法研究所と国王のみ。

なんで学校にそんな権限が必要なのかと問えば、万が一にも魔法使いを減らさないため、そしてより優秀な者には官僚の道が用意されているからだろうか。

要するに、「魔法こそ至高」ということだ。

 

そうなると、今から来る可能性があるのは、研究所の人間か、それとも国王かの二択。

研究所の人間が来るなら講義の一環だろう。

研究者とは、得てして小難しい話を嬉々として語りたがっているものだから。

そして国王が来るのなら………何の用だろう。

国王陛下は御多忙のはずだし、よほど重要なことでもない限りわざわざお越しになられることはないはず。

何らかの行事など予定はないから、多分国王陛下ではないだろう。

 

そんな風にぼんやりと勝手な予想を立てていると、出入り口から、いかにも騎士然とした鎧を着込んだ筋肉質な男が大股で入ってきた。

男はキビキビとした格式ばった動きで壇の右側まで進むと、くるりと正面、私たちに向き直った。

 

「全員っ! 起立っ!」

 

瞬間、ぐわんと耳元で鐘がなったような大声量で、男が怒鳴った。

空気がびりびりと振動し、講堂の窓ガラスも割れそうなくらいに軋んだ。

気のせいか、床も震えているかもしれない。

あれを至近距離で聞いたら間違いなく耳が逝かれる。

最前列に座っていた生徒は気の毒なことになっているだろう。

 

しかしその怒鳴り声に怯んでいる暇はない。

私たちは振動が収まるよりも前に、男に従って即座に立ち上がった。

 

そこへ男からさらなる怒号が響く。

 

「国王陛下のご入来であるっ! 全員っ! 敬礼っ!」

 

怒号に合わせて、一糸乱れぬ動きで全員が同時に腰を折って頭を下げる。

軍人ではない私たちが、唯一これだけはと教え込まれている敬礼は、ただただ深く頭を下げることだ。

 

余談だが、敬礼と一言に言っても、その種類は多岐に渡る。

誰もが浮かべる軍の敬礼を初め、お辞儀や座礼、果ては握手までもが敬礼と呼ばれることがある。

そしてその中でも、お辞儀には相手によって角度が変わる。

私たちが国王陛下に向けて行うそれは、もっとも敬うべき相手にするそれだ。

この角度を覚えるまで散々怒られたのは、今でも嫌な思い出だ。

たかが1度の差が何だというのか。

 

私達が頭を下げる中、扉が開き、必要以上に重々しい足音が響く。

それは教卓の前まで行くと、マントを翻す風の音がした。

 

「面を上げよ」

 

厳かで尊大な、老人と言っても差し支えない男性の声がする。

それに従って顔を上げると、正面の教壇に国王陛下が御立ちになられていた。

立派な髭に年季を感じさせる顔、赤く染められた外套とその下から覗く衣服は高級品で、頭上には小さめの王冠が輝いている。

まさにイメージするところの王様を体現している我らが陛下だった。

 

正直、一体いつまであの古臭いスタイルを貫くつもりなのかと疑問に思う。

あれが国王陛下の正装なのだし、仕方がないとは言え、今時あれは恥ずかしくはないだろうか。

伝統を守るのもほどほどがいい。

 

ありのまま話したら不敬罪で打ち首確定な感想を抱いていると、国王陛下がゆっくりと、言葉を確かめるように語り始めた。

 

「諸君、魔法使い養成学校に籍を置くこの国でもっとも優秀な諸君。諸君は今日、何故余がここにいるのか、疑問に思っているだろう。日々を政務に勤しむ余がここにいるのが不思議だろう。こうして諸君の勉学の時間を割いてまでここにいることを問いかけたいだろう。だが、それを話す前に、伝えなくてはならないことがあるのだ。

聡明な諸君らならば知っていると思うが、わが国は古来より、魔法を研究することによって世界の滅亡を阻止し、人類の未来のために尽力している。そのために多くの魔法使いを必要としていることも、周知の事実であろう。優秀な諸君らは将来、その研究に協力することになるかもしれない。あるいはもう関わっている者もいるだろう―――」

 

あぁ、そういえば、今日の一時限目は先生の歴史の授業だった。

課題はもう出してあったから問題ないのだが、今日やるはずだった聖女マリエの生涯について、先生の考察を聞きたかった。

英雄譚は歴史家や書き手によって捏造や誇張表現をされることがほとんどだが、それでも有名なエピソードやおおまかな生涯はあっているし、私は好んでよく読む。

そして色々と読んだ後で、先生の話を聞くと、興味深い話を聞けたりするのだ。

 

例えば、この前の授業で名前が出ていた魔法騎士カムラン。

彼は記述によれば、水の属性と治癒の特性を持つ非常に穏やかな人物だったらしいが、先生曰く、戦場で彼が戦うと、鬼神の如く暴れまわり、敵味方両軍に被害をもたらしてしまったこともあったらしい。

また温厚な人柄の裏側では、常に何かを殺さなければ気がすまない衝動に駆られていたとも。

 

それらが明確に書かれた書物は一定の権限を持っていないと閲覧できないらしく、私が知らないのは当然だと言われた。

そんなものを教えても良いのかと思うが、まぁ、先生だから仕方ない。

 

「―――であるために、研究には大きな意味があるのだ。

そして昨日、その研究に携わる者からあることを依頼されたのだ。何でも、ここ数年間に渡って行っている大規模な実験の影響で、研究に協力してくれる魔法使いの人手が足りなくなっていると。これは多岐に渡る分野の研究に多大な影響を及ぼす由々しき事態である。……今日、余がここにきた理由は、もう分かったであろう。可及的速やかに、研究のために協力してくれる魔法使いを探し出さねばならないのだ。そこで白羽の矢が立ったのが、この優秀な諸君が所属する魔法使い養成学校である。優秀な諸君らの中から我こそはと名乗り出る者がいるのならば、我らの悲願成就にさらなる一歩を踏み出すことができよう」

 

そういえば、カムランといえば、先生が言うのは彼の骨格が人間のそれとは大きく逸脱していたといっていた。

まるで生体兵器さながらに物騒な骨格だったらしいが、果たしてそんなものが存在しえるものだろうか、と疑問に思う。

必要に駆られて体が急激に変化する、なんてことが起こるのなら、昔の兵隊達は皆が人間とはかけ離れた化け物になってしまうだろう。

そうなっていないという事は、もしかしたら、カムランは本物の化け物だった?

……救国の英雄を化け物呼ばわりするなど、失礼な話か。

魔法にはまだ解明されていない部分も多い。

おそらくは、今はもう失われたか、カムランだけが使うことが出来た魔法の影響と考えるのが妥当だろう。

この辺りの考察は、また先生に聞いてみよう。

 

「さぁ、今こそ人類のために尽くすときである! 我こそはと思う者は拳を立てよ!」

 

『おぉぉぉぉぉおお!!』

 

物思いに耽っていた意識が、周囲の雄叫びによって現実に引き戻される。

気付けば周りは何故か興奮状態になっていて、複数の生徒が拳を上に向かって突き出していた。

その数は、ざっと数えても数十人。

陛下が何かを言っていたようだが、それと関係しているのだろうか。

 

状況が飲み込めずおろおろと周りを見回していると、視界の端に、呆れたような先生が映りこんだ。

あまり参考にはならないが、どうやら慌てるようなことでもないらしい。

 

雄叫びに答えるように、陛下が片手を上げた。

途端に生徒達は静まり返り、陛下の次の言葉を待つ。

 

「その意気や良し。では今拳を上げた者は、この後校門に集合するように」

 

どうも何かの立候補を募っていたようだ。

まぁ、私には恐らく関係の無いものだろう。

 

その後、陛下とその護衛の騎士が退出し、全校生徒が約三割減ることとなった。




手を上げた輩の仲にブレイブ君がいるのは当然。
つまり、彼はもう出てこない。

さよならブレイブ君。
君の事は忘れていた。
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