例えば、の話   作:鈴鹿

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食物連鎖は世界の理。
しかし文明は別だ。
文明とは、いつか崩壊するからこそ、文明と呼ばれるものなのだ。


軌跡の話

金属の蓋が開くと、その下には真っ暗な空間へと階段が続いていた。

そこからはひんやりと冷めた空気が漏れ出し、少し離れたところにいる私のところにまで流れてくる。

それと同時に、酷く生臭い腐肉のような臭いが鼻を突く。

 

これは、何だろう。

 

「先生、これ、何の臭いですか?」

 

魔法の行使を終えた先生の近くによると、不快な臭いもさらに濃くなり、たまらず鼻を手で塞いだ。

出来れば早くこの臭いから離れたい。

腐った肉とかの臭いはあまり長く嗅いでいると吐きそうになるから嫌いだ。

 

そんな私とは対照的に、先生はそんな臭いの中でも普段と変わらず平然としている。

 

「腐った肉の臭いだ」

 

「なんでそんな臭いが……」

 

「ここは実験体(モルモット)の処理場だ。もっとも、元々は何かの保管庫だったようだが。奴ら、ここを碌に調べもしないで廃棄場にしてしまってな。歴史的な価値があるものが未だに中に転がっていることがよくある」

 

説明もそこそこに、先生はすたすたとその悪臭の発生源であろう穴に入っていく。

私も少しばかりの躊躇を噛み殺して、慌てて先生に続いていった。

 

 

 

 

穴に入った瞬間にまず目についたのは、蛆と鼠が湧いた半分腐った肉塊達と、白骨だった。

肉塊からはグチグチというかグジュグジュというか、なんとも言い難い音がしきりにしているし、それを避けながらちょっと足を踏み出せばペキペキと散乱した白骨を踏み抜いてしまう。

しかも床だけでなく至る所に形容しがたい生き物が蠢いているのが分かって、私は先生について来た事を少し後悔した。

これはあの先生が珍しく渋るわけだ。

 

「吐き出すなら地上に戻れ」

 

立ちすくんで口を抑えながら呻く私を心配して―――というよりも煩わしそうに見やり、いつものようにきつい言葉をくれる先生がありがたい。

耳と鼻と口を同時に塞いでしまう方法はないのかと本気で考えながら、吐き気を無理やり飲み込む。

 

「だ、大丈夫です………うっ」

 

呼吸するだけで吐き気がまたこみ上げてきた。

だが、ここで吐いたりしたら死体となった人に悪いだとか、先生の迷惑になるとかいう割りとどうでもいいことが頭を過ぎり、必死に持ちこたえる。

 

「……そうか。くれぐれも、吐き出すなよ」

 

先生は最後にそれだけを言って、奥に向かって歩き出す。

気持ち早歩きな先生に感謝し、先生なりに心配してくれたのかなぁ、と嬉しくなる私であった。

 

 

何でもないようにその中を進んでいく先生についていく事しばし。

銀色の門のようなものを潜ると、不意に強烈な腐臭が途切れた。

何が―――と思い見回すうち、ふと、そういえば灯りも何もつけていないのに、妙に明るいなと今更ながらに気付いた。

入ってすぐに肉と骨に歓迎されて気付かなかったが、よく考えなくとも地下なら灯りなくしてまともに歩けるわけがない。

そもそもあんなにはっきりと死骸が見えた時点で気付くべきことだった。

先生も立ち止まっているし、ともう一度、今度は注意深く周囲を見回してみるが、やはり灯りの類はないのに視界は明るく、そしてここが大きな広場のような場所だと分かった。

広場といっても何もなく、本当にただ広いだけのガランとした場所だ。

しかし壁や床に何かが書き込まれていることから、もしかしたらここは何かの儀式を行うための場所なのかもしれない。

書かれているのは見たこともない文字や何かを象った記号などで、意味などはもちろん判らないが、規則的に並んでいることから何らかの法則性はあるのだろう。

一体どんな意味があるのか、好奇心が擽られる。

腐臭から開放された途端に頭の回転も良くなったらしい。我ながら単純なものだ。

 

「先生、ここは?」

 

「だだっ広い広場だ。何のためにあるのかまでは分からんが、もう少し奥に各部屋に通じる扉がある」

 

「何か書かれてますけど、これは?」

 

「知らん。が、少なくとも害はない」

 

意外なことに先生もこの部屋の意味が分からないらしい。

先生は確か、古代の言語も多少なら読めたはずだが、それでも尚分からなかったという事か。

なら、私があれこれと悩んでも分かるものではない。

 

「この奥には部屋があるだけだから、迷うこともないだろう。好きにしていろ。

あぁ、下手に魔法を使うなよ。何が起こるか分からないからな」

 

「はい。分かりました」

 

と返事をしつつ、すぐに先生の後についていく。

私一人では何が貴重なものかも分からないし、先生についていけばなんだかんだで説明してくれることも多いから勉強になるのだ。

つまり、離れる理由がない。

 

先生は変わらずついていく私を呆れるように一度ため息を吐いたが、何も言わずに遺跡に集中した。




もう一話続けるか、それとも次に行くか。
それが問題だ。
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