『貴方、宿名を憑けられましたね…』
少し前から嫌なことが続き、最近では一歩間違えていたら死に繋がるような事が起きる俺を見て【彼女】は言った。
「はぁ…すいませんが、俺そういうの信じてなくて…」
街角で擦れ違った瞬間に【憑かれてる】なんて言われて信じる奴が居ない…とは言わないが、少なくとも俺は信じては居ない。
『あらそう…ただ、袖振り合うも多生の縁ですので一つ忠告を…もって三日の命ですからなるべく早い対処をオススメしますわ…では。』
【変な奴には関わらない】を心情とする俺はさっさとその場を離れようと人混みへと戻った。
すると周囲の会話や歩く音といった雑音だけがピタリと止み、彼女の忠告だけが俺の耳に届いた。
いきなりの余命宣告…
それが本当か嘘かは置いといて、誰だって足を止める内容を告げられた俺は彼女の方を振り向いた。
ガシャァァァァン!!
真後ろから響いた轟音、急に戻った雑音
消える前と唯一違ったのは戻った雑音は悲鳴一食だったことだ。
振り返れば駅が見える筈の俺の視界を遮ったのは飲食店の電工掲示板だった。
店名が書かれたプラスチック?アクリル部分は割れ、それを嵌め込んでいた枠部分はひしゃげていた。
俺を心配するような声もチラホラ出ているがそんなモノは俺の耳には届かなかった。
『ごめんなさいね。この調子だともって1日と数時間ってところ…【なるべく】ではなく早急に、と言うより今すぐ対処した方が良いですわ。』
何故なら電話越しに聞く自動音声アナウンスのように彼女が淡々とした声で、事務的な声で訂正した余命の日数が短くなっていたからだ。
そして彼女は俺が向かう方向、駅とは真逆に歩き始めた。
最初こそ街角でよく見かける占い師だと思ってろくに確認しなかった彼女の姿は想像とまるで違った。
水晶、机、椅子など占い師が使うような物は一つもなく、代わりにに小さなスーツケースが一つ。
服装も法衣や着物ではなく上から下まで黒一色で統一された異質なスーツ。
「まっ、待ってください!!」
『なにか?』
「お、俺を助けてくれませんか!?」
『私が、貴方を?』
「お金ならなんとかします!!」
『私のやり方には苦痛がともないますので、お金は要りません……ただ、途中で【退場】はしないでくださいね?』
「退場? とにかく分かりました!!」
人混みに消えた彼女を見つけ、なんとか追いかけて呼び止めた俺は藁にもすがる想いで頼み込んだ。
同情も憐れみも感じられない声と表情を相手にそんなやり取りを重ね、俺が知らない事情を知りたいと不思議な事を述べた彼女と俺近くの喫茶店へと入った。