『まずは貴方に憑けられた【宿名】についてご説明しなくてはなりませんね…
【宿名】とは宿の名と書いて【宿名】と読み、本来であれば憑く者が無くなった憑き物…
遥か昔の武将の怨霊と言う者、名のある者に封じられたモノノケの類いなど、正体は語る人によってマチマチ…
まぁ、それだけ曖昧に伝えなければならないほど当時は危険なモノだったと言うことでしょう。
一先ずは【忌味】についてお話しますね?』
アイスコーヒーを飲みながら【宿名】と呼ばれる幽霊?お化け的な何かについて語る彼女は紙ナプキンを手に取り、忌日の【忌】と【味】と言う文字を書いて見せてきた。
「…意味ではなく【忌味】ですか?…」
彼女はコクリと頷くと煙草に火を着けた。
正直、上手くは言えないが彼女の雰囲気になんとも似合わない気がした。
『これですか?
少し前知り合いに煙草の煙に祓う力があると聞いたことがありましたので…
貴方が知って意味はありませんが、【知ってる】ことが此方の伝になるので、お伝えしておきます……
昔の文字や言葉が持つ意味の中で次代に伝えることを禁止された意味、呼び方、力を【忌味】と言い、現代ではほとんどの方が忘れた【意味】の事です。
今回の宿名の【宿】には【覚え】という意味がありました』
「覚え…ですか?」
当然ながら全く聞いたことがないし、彼女の言うこともほとんど意味が分からない
『はい…敵を覚えるから【宿敵】、自身の運命を魂が覚えているから【宿命】……まぁ、今から見ればとって憑けたようなひねくれた言葉遊びに近いですね。』
「は、はぁ…」
『【宿名】の場合は宿敵の【覚え】に近い【忌味】です。
遥か昔の不条理と戦の果てに死んだ武将か民草か……本来であれば【宿名】は協力者でも子孫でも無く、【敵として覚えた者】以外には全くの無害の憑き物なんです。』
【無害】その一言にどうしようも無い憤りが込み上げてくる
さっき、十数分前にその【宿名】やらなんやらに殺されかけた俺によりにもよって【無害】って……
「無害?ふざけないで下さい!俺に貴女が言う【宿名】ってのが付いてたとして、俺はさっき死にかけたんですよ!?
なのに無害って冗談止めてください!!」
『ですから私は先程「本来は」と言いましたよね?』
「本来も何も俺は現に!!!」
『【宿名】は対象にだけは絶対的脅威…しかし、宿名は江戸時代以降産まれてません……それ以降に産まれた人に【宿名】は憑けないんです。さらに言うなら現代で【宿名】が生まれる事はありません…』
「な、なら俺は…なんで俺が…」
『今風に言うなら呪いの力をかなり弱める代わりに【宿名】を憑ける方法があるにはありますが、力の有るもので半年、無い者なら早くて一年は掛かります。』
「お、俺は死ぬんですか?」
『相手が素人じゃなければとっくに死んでいます…』
「た、助けて下さい!まだ、まだ死にたくない!!」
『では最低でも1年から半年遡って貴方自信が怨まれてると認識出来る程貴方を好ましく思ってない相手を数名思い出してみてください……』
「そんな急に!!」
「幸いまだ側に居るので【宿名】を追います…そこに頭蓋が有ればなお良いのですが……」
そ、側に……恐る恐る辺りを見回した俺は酷く後悔した
磨りガラス越しでハッキリは見えないが、彼女の後ろに位置するガラスに人とは似ても似つかない黒いモヤ?影が見えたからだ…
「ひっ!? ちょっ、ちょっと待ってください!!」
『明日の同じ時間にこの喫茶店で……あぁ、お代は私が出します。お釣りは明日頂きますので持っていて下さい。』
必死に引き止めようとしたが彼女は俺に千円渡すと、俺の恐怖や不安などお構い無しに喫茶店から出ていってしまった…
いつの間にか黒いナニカは消えていた…