とある魔術の仮想世界[4]   作:小仏トンネル

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第9話 悪魔の樹

 

「どぉりゃあっ!!」

 

 

上条は斧の柄を両手で握りしめると、野球の打者のように斧を肩の高さまで振りかぶり、どっしりと腰を落として両腕にありったけの力を込め、ギガスシダーに刻まれた溝めがけて斧を振り下ろした。すると……

 

 

「ぎゃす!?」

 

 

ガギン!とどこか金属質な鈍い音が響き渡った。まるで鉄でも打ったかのような衝撃に、上条は思わず斧を手放して尻餅を突き、痺れが残る両手の痛みに顔を顰めながら、少しでも痛みを和らげようと懸命に手の平を擦り合わせていた

 

 

「い、いててて…こんな感覚までリアルそっくりかよクソ…。最初に頬つねった時といい、ペインアブソーバーの数値見直した方がいいんじゃねぇのかこのゲーム…」

 

 

痺れた両手もさることながら、今の一振りがどれだけの効果をもたらしたのかと巨樹の溝を確認してみた。ところが上条の振った斧がつけた跡は刻み目の中心から五センチは離れており、まるで意味のない一振りだったことは明白だった

 

 

「ふふっ、あははは……」

 

「そ、そんなに無様でしたかそうですか…」

 

「ははは…ごめんごめん。肩にも腰にも、全体的にカミやんは力みすぎだよ。もっと力を抜いて…こう、なんて言えばいいかな…」

 

 

そう言って笑いながらもどかしそうに斧を振る動作を繰り返すユージオを見た上条は、何かに気づいたようにハッとして腰を持ち上げた

 

 

「なるほどなるほど、そういうことかね」

 

「え?今ので何か分かったのカミやん?」

 

「まぁ見てろって」

 

(そうだったそうだった、ここは仮想世界だもんな。多分このゲームはSAOとかALOほど厳密に筋肉の使い方とか設計してないんだろ。この仮想世界で大事なのはむしろイメージの方だったんだ)

 

 

頭の中で自分の憶測をまとめ上げると、両手をパン!と一つ叩いて斧の柄を握り直した。そしてそっと目を閉じると、全身の力をゆっくりと抜いていくように深呼吸した

 

 

(さて…VRMMO数あれど、斧なんて使ったことねぇからな。イメージは…『ホリゾンタル』でどうだ?約二年前のことだしほとんど体に残ってねぇかもしれねぇけど、まぁイメージ元がないよりいいだろ)

 

 

上条が頭に具体的なイメージとして思い浮かべたのは、SAO時代に第一層で使った片手剣のソードスキル『ホリゾンタル』だった。自分の体が覚えているだけのイメージを体でなぞっていき、流れるような体重移動のままに斧を振り下ろした

 

 

「せいっ!!」

 

 

しかし健闘も虚しく、今度は刻み目から遠く離れた樹皮を叩いただけだった。先ほどと似たような音を立てながら、上条の振った斧はあっさりと巨樹に弾き返されてしまい、上条はまたも痺れた両手に唸った

 

 

「かぁ〜〜〜っ……こりゃユージオの言う通り簡単じゃあねぇなぁ……」

 

「いや、そうでもないよカミやん。今のは結構良かったと思う」

 

「おろ?」

 

 

むしろさっきより悪い成績だと思っていた上条は、真顔で頷きながら感心しているユージオからの意外な好感触に驚いていた

 

 

「でも、途中から斧を見ていないのがよくなかったかな。視線は基本的に切り込みの真ん中から動かさない方がいいよ。さ、忘れないうちにもう一回!」

 

「お、おう!」

 

 

その後も上条はユージオの手ほどきを受けながらギガスシダーを刻み続けた。そのうち数回は上手く切り込みに当たったのだが、大半はスカもいいところだった。50回を機にユージオと交替しながら打ち続け、それを延々と繰り返していると気づけば日が暮れていた

 

 

「ふんっ!!」

 

「よし、今ので500回。これで終わりにしようカミやん」

 

 

上条が絞り出すような声を出しながら斧を振り下ろすと、ユージオは自前の水筒を差し出しながら上条に声をかけた

 

 

「あ?もうそんなやったのか?」

 

「うん。僕が500回、カミやんが500回、合わせて1000回。午前と午後合わせて1日につき2000回ギガスシダーを刻む。これが僕の天職なんだ」

 

「に、2000回……」

 

 

上条はその回数を再認識しながら暗闇を覗かせる切り込みを眺めた。どうにも変わり映えしているようには見えないそれに、上条は呆れたように首を振った

 

 

「やぁ、悪いな。ユージオ1人でやればもっと早く終わったろうに。手伝うつもりが、これじゃかえってユージオの足手まといだ」

 

「いやいや、カミやんはかなり筋がいいよ。50回のうち2回はいい音してたしね。それに、この樹は僕が一生かけても切り倒せないって言ったでしょ。どうせこいつは、1日がかりで刻んだ深さの半分を夜の間に埋め戻しちゃうんだ」

 

「・・・本当に切り倒すのいつになるんだこれ?」

 

「う〜んと…そうだ、お礼にいいもの見せてあげるよ。本当はむやみやたらに開いちゃいけないんだけど」

 

 

そう言いながらユージオは巨樹に近づくと、その樹皮の上に二本の指でS字をなぞってステイシアの窓を開いた。するとそこには、先ほどのパンと同じく耐久値の表示と、それを示す数値が書かれていた

 

 

「に、23万と2316ぅ!?」

 

「うーん、先月から見ても50くらいしか減ってないね」

 

「理不尽にもほどがあるとカミやんさんは思うのですが…」

 

「つまりはそういうことだよ。僕が丸一年休みもなしに斧を振ったとしても、ギガスシダーの天命は600くらいしか減らないんだ。僕が引退するまでに20万を切れるかどうか、ってとこだね。だからたった半日、少し仕事が捗らなくても大したことじゃないんだ。なにせ相手は『巨神の大杉』なんだから」

 

「はぁ〜〜〜っ。そこまで苦労するんなら、いっそのことクリスマスツリーにでもすればいいんじゃないですかねぇ…いやクリスマスツリーは杉じゃなくて樅か…?」

 

 

上条はそんな皮肉を言いながら、水筒に残っていた残りの水を喉に流し込んだ。それと同時にユージオも帰り支度を終えたのか、斧と小さめのバッグを担いで上条に声をかけた

 

 

「さ、お待たせカミやん。村に帰ろう」

 

 

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